Journal of The Medical Assoc. South Hokkaido
Online ISSN : 2433-667X
[title in Japanese]
[in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese][in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 8 Issue 1 Pages 48-51

Details
Abstract

【背景】3Ⅾプリンタはリハビリテーション(リハ)の現場にも導入されはじめ、医療者 が患者個人に合わせた自助具を作製する取り組みなども行われてきている。一方、印刷には3Ⅾデータの作成が必要であるが、これを行うソフト(3DCAD)は工学を専門としない人にとって操作が難しく、臨床で3DCADを学ぶ機会も存在しない。これに対し筆者らは、リハ養成校の学生を対象に3DCADを扱う講義を行ったので、具体的な内容と理解度調査の結果について報告する。【対象と方法】対象は本学院の2年生74名であり、2年前期開講科目の「リハビリテーション工学演習」で3DCADに関する講義を行った。用いたソフトはTinkercadであり、講義では立体の配置・結合・くり抜きなどの基本操作、オリジナルの自助具の考案・デザインの2点を行った。3DCADの講義終了後、アンケートにて、①3DCADの理解度に関する質問(2項目):「Q1.立体の配置・結合・くり抜きができたか」「Q2.極端に難しいものでなければ自分の作りたいものがデザインできる」、②医療者が3Dプリンタを使うことの意義に関する質問(2項目):「Q3.3Dプリンタで医療現場で役立つものが作れると思う」「Q4.医療者が3Dプリンタを学ぶことは意義のあることだと思う」の2点を調査した。回答はすべて5件法のリッカート尺度(1:全くそう思わない,2:そう思わない,3:どちらでもない,4:そう思う,5:とてもそう思う)とし、得点の分布を中央値と四分位範囲で要約した。【結果】各質問の得点の分布は、Q1:4.0(4.0―5.0),Q2:4.0(4.0―5.0),Q3:4.0(4.0―5.0),Q4:5.0(5.0-5.0)であった。【結論】医療を専門とする学生に対し3DCADの使い方の理解を促せた。今後は、3DCADの応用操作を扱い、その理解度を明らかにしていく。

第15回道南医学会医学研究奨励賞(メディカルスタッフ部門)

【要旨】

リハビリテーション領域における3Dプリンタの活用事例が散見されはじめ、理学療法士・作業療法士(セラピスト)にとって、3Dプリンタを利活用する機会が徐々に増えてきている。しかし3Dプリンタの使用には、3Dモデルを作成するソフト(3DCAD)の習熟が必須だが、セラピストがこの使い方を体系的に学ぶ機会は非常に少ない。この問題に対し筆者らは、卒前教育として3DCADの使い方を学ぶ講義(3DCAD演習)を展開している。この講義は演習形式であり、Tinkercadと呼ばれる3DCADを用いて、①立体の配置・結合・くりぬきなどの基本操作、②オリジナル自助具のデザインの2つを行っている。これに対し、3DCAD演習を受講した学生を対象に理解度調査を行ったところ、高い理解度を示したことが明らかとなった。今後は、本講義を受けた学生の卒後を追跡し、現場のニーズに合わせて3DCAD演習をより改良していきたいと考える。

【はじめに】

医療現場における3Dプリンタの進出は目覚ましく、リハビリテーション(リハ)領域では、理学療法士・作業療法士(セラピスト)が3Dプリンタで製品を開発・導入する報告が散見される1,2)。この取り組みは、①既製品の導入に関わる諸問題(例.高コスト,費用対効果)を解決し、②対象者に合った製品を提供できるとともに、③日常業務を効率化できる可能性を秘めている。

3Dプリンタの利用には、3Dモデルを作成するソフト(3DCAD)の習熟が必要である。しかし、3DCADの扱いは非専門家にとって難しいものが多く、セラピストがこの使い方を体系的に学ぶ機会は、現時点では非常に限られている。一方、卒前教育として3Dプリンタの学習を取り入れたリハ養成校も存在するが3,4)、web上に存在するモデルの印刷にとどまり、3DCADの使い方までは教えていない。このため、セラピストは日常業務の傍らで、3DCADの使い方を独学で習得する必要があるのが現状である。

以上より筆者は、所属する養成校(以下,本学院)において、3DCADを用いた演習を取り入れた講義(3Dモデリング演習)を展開している。この講義は、卒後の学生が現場で3Dプリンタを円滑に活用できることを最終目標としている。

本稿では、3Dモデリング演習の内容を紹介するとともに、その講義後の対象者の3DCADに対する理解度を調査したので報告する。

【3Dモデリング演習の紹介】

3Dモデリング演習は、本学院の2年次前期科目「リハビリテーション工学演習(1回90分,全15回)」内で、後半8回を使って実施している。本科目は、本学院が独自に展開する、リハ学生のための医療ICT教育に属する科目であり、残りの回ではセンサのプログラミング・電気回路の設計などを行っている5,6)

3Dモデリング演習の具体的な内容として、3DCADソフトの一つであるTinkercadと呼ばれるweb上のソフトを用いて(図1) 、①3DCADの基本操作演習、②オリジナル自助具のデザイン演習の2つを展開している。①3DCADの基本操作演習では、立体の配置・立体の結合・くり抜きなどの操作を学ぶ内容としており、また②オリジナル自助具のデザイン演習では、既存の自助具を調査・問題提起をした上で、その改善案の3Dモデルを作成する演習としている(図2)。

【3Dモデリング演習の理解度調査】

3Dモデリング演習を通して,どの程度3DCADの使い方に習熟できたかを明らかにするためのアンケート調査を行った。

対象は、リハビリテーション工学演習を履修した76名とし、講義の最終回(第15回)で調査を行った。調査項目は、①3DCADの理解度調査、②3Dプリンタの意義に関する調査の2つとした。①3DCADの理解度調査では「Q1-1. Tinkercadを使って図形の配置・結合・穴を空ける方法が理解できたか」「Q1-2.課題のように作るべきパーツと寸法が与えられて、その通りの物体を作成できたか」「Q1-3.Tinkercadを用いて、極端に難しいものでなければ、自分の好きなものを作ろうと思えば作れると思うか」の3つを質問した。②3Dプリンタの意義に関する調査では「Q2-1.3Dプリンタを使うことで、医療現場で役立つものが作れると思うか」「Q2-2.3Dプリンタを使うことで、患者1人1人に合わせた製品が作れると思うか」「Q2-3.医療者が3Dプリンタの使い方を学ぶことは意義のあることだと思うか」の3つを質問した。すべての回答は、5件法のリッカート尺度で答えるものとし、「1:全くそう思わない」「2:そう思わない」「3:どちらでもない」「4:そう思う」「5:とてもそう思う」の中から答えるものとし、中央値と四分位範囲で要約した。

【結果】

有効回答数は67(回収率88%)であった。図3に質問の回答の分布を示す。①3DCADの理解度調査では、すべての質問にわたって、5.0 (4.0-5.0)であった。また、②3Dプリンタの意義に関する調査においても、すべての質問にわたって、5.0 (4.0-5.0)であった。

【考察】

本研究では、リハ学生における3DCADの習熟を目的とした3Dモデリング演習を展開し、その理解度調査を行った。調査の結果、学生は3DCADの使い方に対して高い理解度を示し、また3Dプリンタの有用性も強く感じられたことが明らかになった。

セラピストがセミナーなどを通じて、自主的に3Dプリンタの使い方を学ぶ機会は増加している。このような状況から、3Dプリンタを利活用できるセラピストの増加が期待されるが、体系的に学ぶ機会は依然として限られており、3Dプリンタの価値や有用性が十分に広まらないという課題も残されている。一方、本稿での取り組みは、卒前教育として3DCAD・3Dプリンタの使い方を学ぶものであり、医療ICT教育を標榜する当学院ならではの特色と言える。今後、3Dプリンタの使い方に習熟した多くのセラピストを輩出できれば、対象者により適合した安価な自助具等の提供や日常業務の効率化につながるのではないかと考える。

最後に、本研究の限界について2点述べる。1点目は、現状の3Dモデリング演習は、3DCADの使い方の習熟に注力しており、3Dプリンタによる印刷の機会が少なかった点である。完成した3Dモデルを3Dプリンタで印刷するためには、固有のファイルに変換したり、別のソフトウェアを使うなどの手続きが必要となるが、今回はそれらを取り扱うことができなかった。2点目は、3DCAD演習が卒後の学生に及ぼす影響を評価できていない点である。これは、3DCAD演習を受けた学生がまだ卒業していないためである。今後は卒後の影響についても調査する必要がある。また、3Dプリンタについて習熟したセラピストが輩出できても、各施設の3Dプリンタ導入状況にも大きな影響を受けるため、各施設の導入状況などについても把握が必要と考える。

【結論】

本稿では、リハ学生を対象として、3DCAD演習を取り入れた講義内容とその理解度調査の結果について述べた。調査の結果、学生は3DCADの使い方のみならず、3Dプリンタの有用性に対しても高い理解度を示した。

今後、3DCAD演習を受けた学生の卒後を追跡し、現場の3Dプリンタの導入事例などを調査することで、現場のニーズに合わせて3DCAD演習をより改良していきたい。また、3DCAD演習がリハ学生の教育に標準的に組み込まれることで、臨床現場で3Dプリンタを利活用できるセラピストが増えることを期待したい。

【利益相反】

本論文内容に関連する著者の利益相反なし

図1  Tinkercadの基本操作の説明

左上:Tinkercadの外観図.方眼紙の見た目をした作業平面上で3Dモデルを作成する

左下:図形の配置の様子.Tinkercadには立方体や球などの標準的な図形が用意されている

右上:図形の結合の様子.標準的な図形を結合することで、複雑な形を作成できる

右下:図形のくり抜きの様子.標準的な図形を穴に設定することで、図形のくり抜きができる

図1 Tinkercadの基本操作の説明

左上:Tinkercadの外観図.方眼紙の見た目をした作業平面上で3Dモデルを作成する

左下:図形の配置の様子.Tinkercadには立方体や球などの標準的な図形が用意されている

右上:図形の結合の様子.標準的な図形を結合することで、複雑な形を作成できる

右下:図形のくり抜きの様子.標準的な図形を穴に設定することで、図形のくり抜きができる

図2 オリジナル自助具のデザイン演習における学生の成果物の例

左図:350mlの缶飲料にはめるケースであり、取っ手をつけることで飲みやすく改良した自助具

右図:持ち運びでき、片手でYシャツのボタンを取り外しできるように工夫された自助具

図2 オリジナル自助具のデザイン演習における学生の成果物の例

左図:350mlの缶飲料にはめるケースであり、取っ手をつけることで飲みやすく改良した自助具

右図:持ち運びでき、片手でYシャツのボタンを取り外しできるように工夫された自助具

図3 アンケート調査における回答の分布

図3 アンケート調査における回答の分布

【参考文献】
 
© The Medical Assoc. South Hokkaido
feedback
Top