Journal of The Medical Assoc. South Hokkaido
Online ISSN : 2433-667X
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2025 Volume 8 Issue 1 Pages 80-84

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Abstract

はじめに 上腕骨遠位部骨折はギプス固定などの保存的治療が困難であり骨癒合率は極めて低いことが知られている。近年高齢化の進行に伴い脆弱性骨折が増加しており高齢者上腕骨遠位部骨折も増加傾向である。当院では転位の少ない上腕骨遠位部骨折に対して経皮的スクリュー固定法を行っており、肘関節外側から3本挿入することで強固な内固定が可能であり術後早期の可動域訓練が可能である。本法の治療成績について報告する。 対象と方法 2021年4月から2024年6月までに手術治療を行った6例を対象とした。平均年齢72歳(57-93)、男性1例、女性5例であった。骨折型は関節外骨折、転位の少ないものであり、一例は他院で保存的に加療されたが骨癒合が得られていない遷延治癒であった。手術治療は全身麻酔下に仰臥位、骨折部外側に小皮切を加えて経皮的に直径5mmのスクリュー3本にて内固定を行った。術後後療法は術翌日より疼痛範囲内で可動域訓練開始した。日常生活では装具着用4週間行った。 結果 手術時間は全例30分以内、出血量は微量であり術後感染、偽関節など合併症は認めなかった。術後早期に疼痛は改善しており超高齢者であっても早期に施設にもどることが可能であった。 考察 一般的には上腕骨遠位部骨折の手術治療はプレート固定であるが肘関節を大きく切開する必要がある。また体位と手術アプローチの問題で肩関節拘縮のある場合はプレート固定は難しい。本法では肩関節拘縮があっても外側よりスクリューを挿入するためプレート固定の難しい例であっても容易に治療が可能である。比較的侵襲が少ないため合併症のある高齢者でも比較的早期に疼痛が改善して日常生活に復帰ができるため有用な方法であると思われる。欠点としては転位が大きく徒手整復不能例、関節内骨折などに対しては適応とならないことである。

第77回道南医学会大会道南医学会ジャーナル推薦演題

【要旨】

高齢者上腕骨遠位部骨折は比較的軽微な外傷で発生するが保存的治療では骨癒合が得られにくい難治性骨折である。今回我々は従来法とは異なりスクリューを肘関節外側から経皮的に挿入する手術方法を行った。本法は尺骨神経障害を予防、肩関節拘縮があっても手術が可能であり術後早期より可動域訓練が可能であった。本法の手術方法および治療成績について報告する。

【緒言】

上腕骨遠位部骨折は比較的若い年齢層での高エネルギー外傷と骨粗鬆症を有する高齢者の低エネルギー外傷に大別される。本骨折は骨癒合が得られにくい難治性の骨折であり、ギプス固定などの保存的治療では骨癒合率は極めて低いことが知られている1) 。本骨折の治療のゴールドスタンダードはロッキングプレートであり治療成績が報告されている2) 。強固な固定性から治療成績は良好であるが決して容易な手術ではないこと、侵襲が大きいことが欠点である。近年高齢化の進行に伴い脆弱性骨折が増加しており、高齢者の上腕骨遠位部骨折も増加傾向である。当院では転位の少ない上腕骨遠位部骨折に対して経皮的スクリュー固定法を行っており、肘関節外側から3本挿入することで強固な内固定が可能であり術後早期の可動域訓練が可能である。本法の治療成績について報告する。

【対象と方法】

2021年4月から2024年6月までに手術治療を行った6例を対象とした。平均年齢72歳(57-93)、男性1例、女性5例であった。手術適応は骨折型は関節外骨折、転位の少ないものとした。5例は転位の少ない関節外骨折、1例は他院で保存的に加療されたが骨癒合が得られていない遷延治癒例であった。手術は全身麻酔下に仰臥位、タニケットは使用しなかった。骨折部外側に小皮切を加えて術中イメージを用いて経皮的にガイドワイヤー3本を挿入した。1本目は上腕骨外顆から上腕骨骨幹部近位内側、2本目は上腕骨骨幹部遠位外側から上腕骨内顆、3本目は上腕骨骨幹部遠位外側から肘頭窩へ2本目のガイドワイヤーと平行になるように挿入した。ドリリングを行った後に5.0mmCannulated screw(Stryker ASNIS5.0)3本にて内固定を行った(図1)。術後後療法は術翌日より疼痛範囲内で可動域訓練開始した。日常生活では着脱可能な肘関節保護用装具の着用を4週間行った。

【結果】

手術時間は全例30分以内で終了した。術中出血量は微量であり術後感染、偽関節などの合併症は認めなかった。術後3ヶ月での可動域は肘関節伸展角度平均-29度(−10〜−60)、屈曲角度平均125度(100〜145)であった。伸展制限60度の症例は関節リウマチのため可動域制限がある症例であった。術後早期に疼痛は改善しており、超高齢者であっても早期に施設にもどり日常生活復帰することが可能であった。

【代表症例】

症例1 75歳女性、転倒受傷。前医で保存治療を行ったが骨癒合が得られず疼痛が強く日常生活に支障があった。上腕骨遠位部遷延治癒で転位が少ないため経皮的スクリュー固定を行った翌日より疼痛消失した。術後2ヶ月で骨癒合が得られた(図2,3)。

症例2 79歳女性、自転車で転倒受傷。転位はほとんど無い。経皮的スクリュー固定を行い術翌日より疼痛消失した。(図4,5)。

【考察】

骨粗鬆症が基盤にある高齢者は、転倒やベッドから転落など比較的軽微な外力で上腕骨遠位部骨折が発生する。解剖学的特徴から上腕骨遠位部骨片は骨片間の接触面積が少なく、肘関節を支点、手を力点、骨折部を作用点と考えると、てこの原理から骨折部には大きな力が作用するため不安定性が大きいと考えられる。そのため保存治療では偽関節率、遷延癒合の可能性が高いと報告されている1) 。保存治療は上腕近位から手関節までのギプス固定であるが肩関節、肘関節、手関節の動きが制限されるため特に高齢者では食事、着替え、入浴など日常生活動作での障害の困難が伴う。骨癒合が得られにくいため固定期間は長期間にわたるため関節拘縮のリスクも高くなる1)

早期の可動域訓練、ADL改善のために従来より行われているスクリュー固定法は外側、内側より挿入する方法であり良好な成績が報告されている2)3) 。手術適応は今回の報告と同様に転位の少ない関節外骨折でありその利点は侵襲が小さいことである。今回の報告の本法を行ったきっかけは、高齢者で肩関節拘縮があるために肩関節外転ができないため脇が開かず一般的なプレート固定や従来のスクリュー固定が困難な症例を経験したことがきっかけである。肩関節外転不能であるため肘関節内側からのスクリュー挿入やプレート固定が困難であったため外側からスクリューを3本交差するよう挿入する内固定を行った。尺骨神経を避ける必要がなく、手術操作が簡単で固定力も良好であった。本法の特徴は尺骨神経保護が不要であること、肩関節拘縮例でも手術可能であること、低侵襲であることである。従来法では内側からのスクリュー挿入時には尺骨神経損傷を避けるために切開を加えて神経を保護しながら行う必要があり、また肩関節を十分に外転できないとスクリュー挿入操作ができないなどの欠点がある。

従来法は内顆、外顆から近位骨皮質を貫通するため比較的強固な固定力がある2)3)4)。本法は内顆に向かうスクリューは骨皮質を貫通しないが内顆は高齢者であっても比較的骨密度が高いこと、軟骨下骨ギリギリまで挿入することで十分な固定力が得られていると思われる。肘頭窩に挿入するスクリューは肘頭窩骨皮質を貫通するため強固な固定力があると思われるが、肘関節伸展時に肘頭とインピンジする懸念がある。しかし術中に確認した伸展可動域は問題ないこと、インピンジ症状を訴える症例は無かったこと、術後伸展可動域は他の報告とほぼ同様であったこと、骨折後の伸展制限は多くの症例で発生していることから肘頭窩にスクリュー先端が突出することは特に問題にはならないと思われる。

本法の適応は転位の少ない関節外骨折症例であり、適応は従来法のスクリュー固定法と同様である。従来法と本法は適応、手術成績はほぼ同等であるが尺骨神経損傷の可能性が低いこと、肩関節拘縮を合併した症例でも手術操作が容易であることから当院では本法を採用している。転位が大きい症例は徒手整復や整復位の保持が困難であるため経皮的スクリュー固定の適応は無くプレート固定の適応である5) 。遷延治癒の一例は固定性が得られたことで手術翌日より疼痛が消失しており、すみやかに骨癒合が得られたことから遷延治癒は良い適応であると思われるが、経過の長い偽関節例については本法の適応外と考える。

【結語】

1.転位の少ない高齢者上腕骨遠位部骨折、遷延治癒例に対して上腕骨外側からスクリュー固定を行い良好な成績であった

2.術中尺骨神経の保護が不要であり、肩関節拘縮例でも手術が可能であった

3.転位の大きい症例は適応外である

【利益相反】

本論文に関し、申告すべき利益相反はありません

図1

図1

図2  

図2

図3

図3

図4

図4

図5

図5

【文献】
  • 1)  George S.  Athwal , et al.Rockwood and Green’s Fractures in Adults ; Distal humerus fracture. Seventh Edition. 945-998. 2012, Lippincott Williams & Wilkins.
  • 2)    池上 博泰、他.高齢者上腕骨通顆骨折に対する経皮的スクリュー固定法、骨折1998;20(2), 464-467.
  • 3)    大高 遼太郎、他.高齢者の上腕骨通顆骨折に対する経皮的スクリュー固定法の治療成績.骨折2003;45(1),25-29.
  • 4)    寺元 秀文、他.高齢者の上腕骨遠位部骨折に対する観血的治療経験.中四整会誌,1999;11(1):163-167.
  • 5)  佐藤攻.上腕骨遠位部骨折AO分類Type Cの治療.北海道整形外科外傷研究会会誌,2012;28, 57-65.
 
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