2025 Volume 8 Issue 1 Pages 85-88
【背景】我々は超音波検査(US)を用いた便性状を定義、報告してきた。今回USによる便性状診断の精度を評価した。 【対象と方法】2020年2月~2024年2月に当院便秘外来でUSを施行した患者のうち、直腸に便を認め、US後3日間の便性状を自己記入式で回答した21症例を対象とした。USで直腸内の便性状を今までの報告に基づき、硬便、普通便、水様便に3分類した。US施行後当日から翌日の便性状を問診票で調査し、翌日までの初回排便とUS便性状を比較した。【結果】患者は21人(男9:女12)。翌日までに16人(76.2%)で排便がみられた。翌日までの排便時便性状は硬便6例、通便7例、水様便3例で、US便性状は硬便6例、普通便7例、水様便3例であった。一致率は硬便83.3%、普通便85.7%、水様便100%で、全体の一致率は87.5%であった。 【結語】USによる便性状診断は有用であることが示唆された。
第77回道南医学会大会一般演題
我々はこれまで超音波検査(US)を用いた便性状を定義、報告してきたが、精度については明らかではなかった。USは繰り返し評価が必要な便秘診療においては有用なツールであると考える。便秘診療では便性状の評価が重要である。そこで、本検討では、2020年2月~2024年2月に当院便秘外来でUSを施行した患者のうち、直腸に便を認め、US後3日間の便性状を自己記入式で回答した21症例を対象に、US施行後翌日までに認めた初回排便便性状とUS便性状を比較し、USによる便性状診断の精度を後方視的に検討した。初回排便便性状とUS便性状の一致率は硬便83.3%、普通便85.7%、水様便100%で、全体では87.5%であった。USによる便性状診断は有用であることが示唆された。
超音波検査(US)は非侵襲的に繰り返し検査可能で経時的、客観的評価が必要な便秘診療に有用であると考える。我々は経腹アプローチによる超音波検査で大腸内の便の有無、局在評価は可能で、便性状についても定義し報告してきた。しかしながら精度については明らかでなかった1) 。本検討では、排便便性状とUS便性状を比較し、USを用いた便性状診断の精度について検討した。
2020年2月~2024年2月に当院便秘外来でUSを施行した患者のうち、直腸に便を認め、US施行後3日間の便性状を自己記入式で回答し得た21症例について検討した。US前に食事調整や、浣腸などの特別な前処置はしなかったが、可能な範囲で排尿前に検査を施行した。検査に使用した超音波診断装置は、Aplioi700(Canon medical systems社製)を使用し、探触子はコンベックスプロ-ブ(PVI-475BX)を用いた。装置条件は、画像depth14~21cm、周波数4.0MHz・ゲイン73~80dB・ダイナミックレンジ60dBとした。直腸の同定は仰臥位、経腹アプローチで系統的走査を用いた。便性状の評価は、恥骨上縁の場所で縦走査・横走査で膀胱を音響窓にし、直腸内を観察した。便性状はブリストル便形状スケ-ル(BSFS)を用いて便を硬便、普通便、水様便に3分類した(図1) 。USで便性状を評価し、それをUS便性状とした。また、患者にはUS施行後に問診表を配布しており、US施行後3日間の排便回数と便性状を調査、記載してもらった(図2) 。患者にはあらかじめ検査前1週間の平均の排便状況を自己記入式で答えてもらっており、排便した実際の便の便性状と合わせて、US便性状と同様に、BSFS1-2は硬便、BSFS3-5は普通便、BSFS6-7は水様便と3分類した。排便した実際の便の便性状をGold standardとし、US施行後翌日までに初回に認めた排便の便性状とUS便性状を比較検討した。
患者背景 平均年齢67±18歳、性別男性9:女性12、BMI23±3.2、検査前1週間の排便BSFSは、1-2(硬便)が10例、3-5(普通便)が7例、7-8(水様便)が4例であった(表1) 。排便はUS施行後の翌日までに16例(76.2%)、3日目に1例でみられた。3日間で排便なしは4例だった(表2) 。初回排便時便性状は硬便6例、普通便7例、水様便3例で、US便性状は硬便6例、普通便7例、水様便3例であった。不一致は硬便と普通便の間で2例あった。初回排便便性状とUS便性状の一致率は硬便83.3%、普通便85.7%、水様便100%で、全体の一致率は87.5%であった(表3) 。患者検査前1週間の排便便性状別の初回排便便性状は、硬便患者10例は5例が硬便を排便、普通便患者7例は6例が普通便、1例が硬便を排便、水様便患者4例は3例が水様便、1例が普通便を排便していた。翌日までに排便がみられなかった硬便患者5例は、1例は3日目に硬便を排便、4例は3日間で排便がみられなかった。患者検査前1週間の排便便性状と初回排便便性状の一致率は、硬便患者は排便のあった5例では100%、普通便患者は85.7%、水様便患者は75.0%であった。
排便便性状とUS便性状を比較し、USを用いた便性状診断の精度について検討した。全体の一致率は87.5%であった。USでBSFS2の便を普通便、BSFS3の便を硬便と評価した2例で不一致がみられた。BSFS2とBSFS3は硬便と普通便の境界に位置する便性状である。USでは硬便と普通便の判別は主に高エコ-部分の輪郭や厚みで行うが、2例は高エコ-部分の厚みが帯状と半分の中間に位置し輪郭所見は明らかでない便の所見であった。BSFS2とBSFS3の判別が困難ではと考えたが、一致例にBSFS2、BSFS3が含まれていた。この中間付近に位置する便については症例数を重ね、さらなる検討が必要である。
患者検査前1週間の排便便性状は初回排便便性状とほとんど一致しているが、異なる場合もみられた。したがってUSで直腸内の便性状を評価することは患者から申告された便性状を客観的に評価することができ有用であると考える。慢性便秘症が疑われる患者に対してUSで直腸内の便貯留の有無や硬便の有無を評価し治療やケアを選択する試みがある2) 。すなわちUSで硬便貯留の場合は摘便を行い、硬便以外の便貯留では排便を促すためのケアや座薬等を使用する。つまりUSで直腸内の便性状を評価することでケアや治療の選択を行うことができ、便秘診療に有用であると考える。
通常健常人では、便意を感じていないときは直腸内に便は存在しない。今回の症例で直腸内に排便しやすい便性状の水様便を含め便貯留があるにも関わらず排便されていない原因に、便意の有無にもよるが、便意を生じさせるのには不十分な便量、便意の消失や排出機能の低下等が疑われると考える。
USによる便性状診断は有用であることが示唆された。
本論文内容に関連する著者の利益相反なし
表1
表2
表3
図1 便性状診断US所見
図2 ブリストル便形状スケール(BSFS)