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Online ISSN : 2434-4966
Changes in the Physical Parameters of Patients Enrolled in a Convalescent Rehabilitation Ward, Who Consumed a Branched Chain Amino Acid (BCAA)-Enriched Oral Solution
Mai TakaseKarim HoneinHiroko AbeMasami KudoGo OsanaiYoshihisa IshizukaMichio Maruyama
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2021 Volume 3 Issue 5 Pages 297-301

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Abstract

要旨:【目的】回復期リハビリテーション(以下,リハビリと略)病棟に入院している高齢者が,分岐鎖アミノ酸(以下,BCAAと略)配合飲料を摂取した時の身体的変化を検証した.【対象および方法】対象者23名に対して,2カ月間の追跡調査を行った.BCAA配合飲料は125mLで,ロイシン,シトルリン,ビタミンDを含有する.試験群(n=14)はリハビリ後30分以内に飲料を全量摂取した.【結果】試験群で運動と認知機能,対照群で運動の自立度スコアが有意に増加した.さらに試験群でたんぱく質摂取量が有意に増加し,総骨格筋量も増加傾向にあった.唾液中テストステロン量については変化がなかった.【結論】両群ともに認められた運動機能の向上は,リハビリ効果に起因する可能性が高い.BCAA配合飲料を回復期リハビリに加えることで,総骨格筋量と認知機能が改善する可能性が示された.

Ⅰ. 目的

回復期リハビリテーション(以下,リハビリと略)病棟は,急性期病棟入院後,身体機能や認知機能の回復を目指して集中的な訓練を行う病棟であり,高齢期の医療において重要な役割を担っている.高齢期のリハビリの需要の増加にともない,リハビリプログラムの内容と効果 1および付随する栄養管理の知見が蓄積されつつある 2.例えば,ロイシンに代表される分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid;以下,BCAA と略)の重要性が明らかになっている 3.Bauer らはサルコペニアの高齢者を対象に,ロイシン含有の乳清とビタミン D を摂取させ,総骨格筋量の増加や運動パフォーマンスの改善について報告した 4.さらに,栄養摂取のタイミングについても条件検討がなされており,運動直後に栄養を補給した対象者の身体項目が,顕著に改善したとの報告がある 5

リハビリの効果を上げるための栄養管理について,上記のように学術的な示唆を与える臨床研究がなされているが,病院では食事の時間が決められており,リハビリ後直ちに栄養を補給することが難しい場合がある.そこで我々は,必要な栄養素を手軽に摂取することができる BCAA 配合飲料(リハデイズ ®,株式会社大塚製薬工場)に着目した.本研究は,BCAA 配合飲料を摂取した回復期リハ病棟に入院する患者の認知機能を含む身体項目や栄養指標の変化を追跡調査することを目的とした.

Ⅱ. 対象および方法

2018 年 1 月から 2019 年 10 月までの間に田無病院の回復期リハビリ病棟に入院した脳血管疾患の患者を対象とした.組み入れ基準と除外基準を表1 に示す.入院時に BCAA 配合飲料について説明をした後,嗜好に合わず継続的な摂取を希望しなかった患者を非摂取の対照群とした.試験群はリハビリ後 30 分以内に BCAA 配合飲料(表2)を 1 パック全量摂取した.

表1. 対象者の組み入れおよび除外基準
組み入れ基準
(ⅰ)理学療法士または作業療法士が行うリハビリテーションを連日2単位40分以上実施する予定の患者
(ⅱ)経口からの飲料の摂取が可能な患者
除外基準
(ⅰ)嚥下機能の問題などにより研究対象飲料の継続摂取が困難と研究責任者または主治医が判断した患者
(ⅱ)認知症高齢者の日常生活自立度判定基準にてレベルⅢ以上の患者
(ⅲ)立位による体組成の測定が困難な患者
(ⅳ)乳成分にアレルギーを示す患者
表2. BCAA配合飲料の組成
コーヒー風味(125mLあたり)
栄養成分 成分量
エネルギー 160kcal
たんぱく質 11.0g
脂質 2.22g
炭水化物 24.0g
食塩相当量 0.084-0.204g
カルシウム 200mg
ビタミンB1 0.65mg
ビタミンB2 0.70mg
ビタミンB6 0.90mg
ビタミンD 20.0µg
ロイシン 2,300mg
シトルリン 1,000mg

たんぱく質における量を含む

入院時とその後 1 カ月毎に体組成検査と身体測定を行った.総骨格筋量および骨格筋指数は InBody770(株式会社インボディ・ジャパン)を用いて測定し,さらに左右の下腿周囲長,機能的自立度評価法(functional independence measure;以下,FIM と略)6を計測した.FIM は運動と認知機能の点数を合算した総合得点として評価されるが,本研究ではそれぞれの点数を運動 FIMと認知機能 FIM として分けて扱った.摂取したエネルギー量,たんぱく質量,喫食率は食事摂取量より算出した.なお,試験群のエネルギー摂取量およびたんぱく質摂取量は, 食事および BCAA 配合飲料より摂取した量の合算値である.唾液中テストステロン 7は Testosterone ELISA Kit(Salimetrics, LLC.)を用いて入院時と 2 カ月後に ELISA 法により測定した.唾液は朝食前の午前 7 時にスポンジ状の Infant’s Swab(Salimetrics, LLC.) を口腔内に数分含んだ後,Swab Storage Tube(Salimetrics, LLC.)に入れ,1,500 rpm で 5 分間遠心分離を行うことにより採取した. 対応のない 2 群間比較は Mann-Whitney U検定,対応のある 2 群間比較は Wilcoxson 符号付順位検定,対応のある 3 群間比較は Friedman検定を用いて解析を行った.本研究はヘルシンキ宣言に従って行われ,事前に田無病院の院内倫理委員会による承認,さらに代諾者から口頭および書面での研究実施に関する自由意思による承諾を得て実施された.

Ⅲ. 結果

本研究で設定した 2 カ月間の追跡調査が可能であった患者は 23 例であった(表3).このうち 14名が試験群,9 名が対象群として分類された.試験群の年齢は 76.5 ± 8.5 歳,対照群は 85.7 ± 6.0歳であり,両群間に有意な差が認められた.左右の下腿周囲長にも有意な差が認められた.対して,アルブミン値,エネルギー摂取量,たんぱく質摂取量などは両群間において有意な差はなかった.体重とBMI においても,双方ともp=0.053 であり,統計学的な有意差には至らなかった.

表3. ベースライン時の対象者属性(N = 23)
項目 総合平均(N = 23) 試験群(n = 14) 対照群(n = 9) p
個人属性
 年齢 80.1 ± 8.6 76.5 ± 8.5 85.7 ± 6.0 <0.01
 性別(女性%) 65.2 55.6 71.4 -
身体項目
 体重(kg) 51.2 ± 11.3 54.9 ± 12.6 45.4 ± 5.6 0.05
 身長(cm) 154.9 ± 8.3 155.6 ± 6.9 153.7 ± 10.5 0.37
 BMI(kg/m2 20.9 ± 4.1 22.2 ± 4.4 18.8 ± 2.5 0.05
 運動FIM 51.8 ± 11.1 51.6 ± 12.0 52.1 ± 10.2 0.64
 認知機能FIM 27.0 ± 5.9 26.9 ± 7.1 27.0 ± 3.8 0.52
 総骨格筋量(kg) 18.4 ± 3.4 19.0 ± 3.9 17.6 ± 2.5 0.44
 骨格筋指数(kg/m2 6.0 ± 2.0 6.4 ± 2.5 5.5 ± 0.5 0.18
 下腿周囲長(cm) 31.1 ± 3.5 32.6 ± 3.6 28.8 ± 2.0 0.01
31.2 ± 3.8 32.7 ± 3.6 28.8 ± 1.9 0.01
栄養項目
 アルブミン値(g/dL) 3.71 ± 0.4 3.8 ± 0.4 3.6 ± 0.3 0.11
 エネルギー摂取量(kcal) 1,418.7 ± 263.0 1,489.3 ± 222.1 1,308.9 ± 296.2 0.11
 たんぱく質摂取量(g/kg) 1.1 ± 0.2 1.1 ± 0.2 1.1 ± 0.2 0.88
 NPC/N比 131.5 ± 15.6 130.2 ± 13.4 133.4 ± 19.2 0.78

* 平均±標準偏差,検定:Mann WhitneyのU検定

2 カ月間の変化を表4 に示す.試験群では運動 FIM(1 回目:51.6 ± 12.0,2 回目:62.6 ± 13.5,3 回目:65.4 ± 14.1)と認知機能 FIM(1 回目:26.9 ± 7.1,2 回目:28.6 ± 5.7,3 回目:29.5 ± 5.4)が有意に改善していた(p < 0.01).一方で対照群では運動 FIM(1 回目:52.1 ± 10.2,2 回目:58.9 ± 8.6,3 回目:64.0 ± 10.5)のみ改善した(p < 0.01).さらに試験群では体重あたりのたんぱく質摂取量が有意に増えた(1 回目:1.1 ± 0.2 g/ kg,2 回 目:1.2 ± 0.3 g/kg,3 回 目:1.3 ± 0.2 g/kg)(p < 0.05)が,エネルギー摂取量に変化はなかった.総骨格筋量については両群で統計学的に有意な経時変化はなかったが,試験群において増加傾向が示された(1 回目:19.0 ± 3.9 kg, 2 回目:19.1 ± 4.1 kg,3 回目:19.2 ± 4.0 kg)(p = 0.06).骨格筋指数は両群で介入開始前後の値に差が認められなかった.

表4. 2カ月間の変化の比較
項目 試験群(n = 14) 対照群(n = 9)
1回目 2回目 3回目 p1 1回目 2回目 3回目 p
身体項目
体重(kg) 54.9 ± 12.6 55.1 ± 12.2a 55.1 ± 12.2b 0.78 45.4 ± 5.6 45.1 ± 5.5a 44.8 ± 5.1b 0.92
BMI(kg/m2 22.2 ± 4.4 22.3 ± 4.3c 22.3 ± 4.3d 0.84 18.8 ± 2.5 18.7 ± 2.3c 18.7 ± 2.1d 0.92
運動FIM 51.6 ± 12.0 62.6 ± 13.5 65.4 ± 14.1 <0.01 52.1 ± 10.2 58.9 ± 8.6 64.0 ± 10.5 <0.01
認知機能FIM 26.9 ± 7.1 28.6 ± 5.7 29.5 ± 5.4 <0.01 27.0 ± 3.8 27.8 ± 3.7 28.0 ± 3.9 0.10
総骨格筋量(kg) 19.0 ± 3.9 19.1 ± 4.1 19.2 ± 4.0 0.06 17.6 ± 2.5 17.2 ± 2.8 17.3 ± 2.7 0.29
骨格筋指数(kg/m2 6.4 ± 2.5 6.3 ± 2.4 6.4 ± 2.5 0.26 5.5 ± 0.5 5.3 ± 0.6 5.4 ± 0.7 0.55
右下腿周囲長(cm) 32.6 ± 3.6e 32.7 ± 3.5f 32.8 ± 3.6g 0.31 28.8 ± 2.0e 29.0 ± 2.0f 29.2 ± 1.9g 0.20
左下腿周囲長(cm) 32.7 ± 3.9h 32.8 ± 3.7i 33.0 ± 3.9j 0.12 28.8 ± 1.9h 29.0 ± 1.9i 29.0 ± 2.0j 0.64
栄養項目
エネルギー摂取量(kcal) 1,489.3 ± 222.1 1,547.9 ± 195.7 1,586.4 ± 198.6 0.17 1,308.9 ± 296.2 1,440.0 ± 216.3 1,448.9 ± 288.5 0.37
たんぱく質摂取量(g/kg) 1.1 ± 0.2 1.2 ± 0.3 1.3 ± 0.2 <0.05 1.1 ± 0.2 1.3 ± 0.2 1.2 ± 0.2 0.72
NPC/N比 130.2 ± 13.4 126.0 ± 13.2 122.4 ± 10.7k 0.05 133.4 ± 19.2 133.8 ± 12.5 140.1 ± 9.6k 0.24

* 平均±標準偏差

* Mann WhitneyのU検定(対応のない2群間比較),5%水準以上の有意差の有無はアルファベットで表示検定:Friedmanの検定(対応のある3群間比較)

唾液中テストステロン量の変化を図1 に示す(n=19).1 回目の測定で試験群および対照群の唾液中テストステロン量に有意差はなかった.2 回目の測定でも 2 群間で有意な差はなく,さらに経時変化も確認することができなかった.

図1.

テストステロン量の変化(n = 19)

Ⅳ. 考察

2 カ月間の変化に注目すると,試験群および対照群の運動 FIM は双方とも同様に改善しており,リハビリの効果が明らかに示された.しかしながら,両群の変化傾向が類似しており,運動機能においては試験群における BCAA 配合飲料の有意な効果はなかったと考えられる.一方,認知機能では試験群のみで改善していた.BCAA の摂取は認知機能の改善と関連することが報告されている 8)~10.BCAA の経口摂取が慢性期脳卒中患者の認知機能に関連するとの先行研究結果があり10,本検証における認知機能の変化も BCAA配合飲料の摂取による BCAA の充足が関与する可能性が示唆される.

試験群の総骨格筋量に関しては,有意な差がなかったものの,増加傾向にあった.BCAA 配合飲料を摂取することでたんぱく質摂取量が増加し,さらにリハビリを行ったことが,総骨格筋量の増加傾向に繋がった可能性がある.先行研究に着目すると,BCAA の服用によって骨格筋量の増加を示す文献がある反面 4,本研究よりもたんぱく質含有量が多い飲料を 6 カ月間服用した研究では,試験群と対照群の骨格筋量に有意差を認めておらず 11,多様な解釈の余地が残る.しかしながら,回復期リハ病棟に入院してリハビリと栄養管理を受けている間,BCAA 配合飲料などにより,さらにアミノ酸摂取量を補足し,緩やかであっても総骨格筋量の増加を図ることは,高齢者の予後を考えた時に大切である.

最後に,唾液中テストステロンの量は,対照群および試験群で変化しなかった.テストステロンは古くからタンパク合成を促進することにより,骨格筋量を増やす機能があると報告されている7.高齢期ではテストステロンの量が若年期より減少するが,唾液中のテストステロンの量が体組成 12や骨格筋量 13に関連することが明らかになっている.地域在住の健康な高齢者に運動介入を行った事例でも,介入前後で唾液中のテストステロン量増加が確認されているが,その研究は健常者を対象としており,回復期リハ病棟で行われる運動機能を取り戻すためのリハビリとは異なり,運動強度が高いメニューを実施していた 14ことが変化に繋がったと推察する.

本研究の限界を述べる.まず,骨格筋量や運動機能の変化を追跡するために 2 カ月間の期間を設けたが,回復期リハビリ病棟に 2 カ月間入院した患者が少なく,結果として対象者数が少なくなった.今後は症例数を増やし,患者の背景因子なども加味した統計学的解析を行いたい.また,本研究は患者の BCAA 配合飲料の嗜好に合わせた群分けを行い,試験群および対照群の患者背景に差が生じため,バイアスのない適切な群間比較が困難であった.そのため,臨床経験として報告した.

Ⅴ. 結論

BCAA 配合飲料を回復期リハビリに加えることで,総骨格筋量と認知機能が改善する可能性が示された.

本論文に関する著者の利益相反なし

謝辞

伴走的な支援およびアドバイスを頂きました田無病院教育・研究担当の上坂英二様,同病院リハビリテーション科の鴨下博先生,中村岳雪先生に御礼申し上げます.

引用文献
 
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