Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
Effect of enteral formula containing sodium alginate via enteral feeding tube for control of diarrhea during treatment of anastomotic leakage of esophagojejunostomy after proximal gastrectomy: a case report
Kakeru MachinoTakuro SaitoNobutoshi SoetaIkuro Oshibe
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2021 Volume 3 Issue 5 Pages 302-307

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Abstract

要旨:術後縫合不全に対する経腸栄養による治療中に下痢を併発した症例に対し,水溶性アルギン酸含有粘度可変型流動食(マーメッドプラス®)の空腸瘻からの投与により便性と栄養状態が改善し,縫合不全の治癒に至った症例を経験したので報告する.症例は83歳男性.2018年12月に食道胃接合部がんに対し下部食道噴門側胃切除術を行い,空腸間置法にて再建し,同時に空腸瘻も造設した.術後12病日に発熱を認め,食道空腸吻合部の縫合不全と診断し,絶食および胃管による減圧と抗菌薬の投与を行った.栄養管理は経静脈栄養に加え,空腸瘻からのペプタメン®スタンダード投与量を漸増したが,術後20病日から水様下痢となった.経腸栄養剤投与速度の調節などを試みたが下痢が持続したため,術後28病日に経腸栄養剤をマーメッドプラス®に変更した.変更後は便性が改善し,1,980kcalまで投与量を増加し得た.栄養状態の改善にともない縫合不全は治癒し,術後64病日に退院した.経空腸での経腸栄養中の下痢に対して,アルギン酸含有流動食の使用は考慮すべき選択肢の1つとなる.

緒言

アルギン酸は天然の海藻から抽出される食物繊維の一種であり,アルギン酸ナトリウムを含有させた粘度可変型流動食は,胃内への投与により pH 低下によって液体から半固形に変化する 12.粘度可変型流動食は半固形化により胃内容の食道への逆流を防止するだけでなく,血糖値の上昇抑制効果 3や,下痢や便秘などの便性を改善し,腸内環境を整える効果も報告されている 4.今回われわれは,食道胃接合部がんの術後縫合不全に対する治療中に下痢を併発した症例に対し,増粘剤としての水溶性アルギン酸を含有した粘度可変型流動食を術中に留置した空腸瘻カテーテルから投与し,便性と栄養状態の改善を認め,縫合不全の治癒に至った症例を経験した.経空腸的なアルギン酸含有粘度可変型流動食の投与による便性の改善に関する報告例は少ないため,文献的考察を含めて報告する.

症例

症例:83 歳,男性.

主訴:食事時のつかえ感,嘔吐

既往歴:急性虫垂炎,外傷性腎損傷,大動脈弁閉鎖不全症,脂質異常症,前立腺がん,白内障

現病歴:検診は毎年受けていたが異常を指摘されたことはなかった.2 カ月前から続く食事時のつかえ感と嘔吐を主訴に 2018 年 11 月,福島県立医科大学会津医療センター(以下,当施設と略)を受診した.

入院時現症:身長 163 cm,体重 47.4 kg,BMI 17.8.受診までの 3 カ月間で 6 kg の体重減少を認めた.腹部平坦・軟,腸蠕動音正常,右下腹部および下腹部正中に虫垂切除術による切開痕を認めた.

血液生化学検査所見:CEA は基準値内であったが,SCC は 2.5 ng/dL と軽度高値であった.

入院後経過:上部消化管内視鏡検査(図1a,b),上部消化管造影検査(図1c)および CT(図1d)から,食道胃接合部がん(EG,type3,cT3(SS) N1M0)と診断した.3 カ月間に 6 kg の体重減少を認め,入院時体重は 47.4 kg(BMI 17.8)と低栄養状態であった.術前栄養管理は経腸栄養で行い,輸液は主に水分電解質補給目的とした.維持輸液 1,000 mL と胃内に留置した経鼻栄養カテーテルから汎用経腸栄養剤であるアイソカル ®2Kを 500 kcal/ 日で開始し,1 週間で 2,000 kcal/ 日として経腸栄養のみとした.その後2 週間実施し,体重は 48.4 kg まで増加し,入院時と栄養療法後の血液検査の比較では,アルブミンは 3.9 g/dL から 4.1 g/dL, ヘモグロビンは 12.4 g/dL から 13.6 g/dL,総リンパ球数は 1,453/µL から 1,804/ µL へとそれぞれ増加した(図2).入院後 27 日目に下部食道噴門側胃切除術および空腸間置法による再建を行った(図3).造設した空腸瘻カテーテルを使って術後 2 病日より,腸管免疫の維持向上と侵襲期でのグルタミンの補充を目的として,亜鉛含有栄養機能食品であるグルタミン COの投与を開始した.術後 8 病日より中鎖脂肪酸の吸収を期待して消化態栄養剤ペプタメン® スタンダード(以下,ペプタメン SD と略)に変更した.術後 6 病日の透視検査で吻合不全の所見がなかったため,経口摂取を開始したが,術後 12 病日に 38 度台の発熱を認めた.術後 14 病日の CT にて食道空腸吻合部周囲に air density を認め,CRP が 16 mg/dL と高値であったことから吻合不全と診断した(図4).同日より絶食とし,胃管による縫合不全部の減圧および空腸瘻カテーテルからの経腸栄養と高カロリー輸液を併用しながら,抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリンナトリウム: PIPC/TAZ)を開始した.さらにドレーン排液の培養結果に基づき,術後 19 病日より抗真菌薬(ミカファンギンナトリウム:MCFG)を追加した.経腸栄養はペプタメン SD を術後 16 病日までに 1,200 kcal/ 日まで漸増した(図5).便性はブリストルスケールにて評価した 56.術後早期より排便回数は 2~3 行 / 日でブリストルスケール 5の半固形便であったが,術後 20 病日からブリストルスケール 7 の水様下痢 4~5 行 / 日程度となった(図6).体温は 37.0℃前後で CRP 1.9 mg/ dL まで低下したが,経腸栄養剤の投与速度を 20 mL/h まで低下させ,宮入菌(酪酸菌)製剤を併用しても下痢が改善しないため,腸管内保水性の維持と腸内細菌叢の改善,浸透圧の低下による下痢の改善を期待して,術後 28 病日にアルギン酸含有粘度可変型経腸栄養剤マーメッドプラス® に変更した.変更後,便性は翌日からブリストルスケール 6 となり,2 週間後にはブリストルスケール 5 の軟便 3~5 行 / 日へと変化した(図6).その結果,マーメッドプラス ® の投与量を 1,980 kcal/ 日まで増量し得た(図5).また,排便回数はマーメッドプラス® へ変更後 3 週間経過した段階で 3 行 / 日まで減少した.経腸栄養を継続し得たことにより栄養状態は改善し,縫合不全は治癒した.そのため,術後38 病日に経口摂取を再開し,術後 64 病日に退院した.アルブミン値は術後 13日目の 2.1 g/dL から退院時は 3.5 g/dL と改善し,体重は術後 33 病日に 45.1 kg まで低下したが,退院時には 47.8 kg まで増加した(図2).病理診断は pT4a(SE)N2M0,pStage Ⅲ A であったため,高齢ではあったが十分なインフォームドコンセントを得て,術後補助化学療法を行うこととなった.抗がん剤の副作用対策として経腸栄養を継続するために,経口摂取の補助として経腸栄養剤をエレンタール ®(600kcal/ 日)へ変更したが,下痢の再発を認めなかった.術後 8 カ月を経過した時点で体重減少ならびにがんの再発を認めず, S-1 内服による術後補助化学療法とエレンタール® の投与を継続中である.なお,エレンタール®は退院 6 カ月後から投与量を 300kcal/ 日に変更した.

図1.

術前画像検査

上部消化管内視鏡検査(図1a,b),上部消化管造影検査(図1c)およびCT(図1d)から,食道胃接合部がん(EG,type3,cT3(SS)N1M0)と診断した.

図2.

栄養指標と体重の推移横軸:手術日を0とした病日

左縦軸:ヘモグロビン値 右縦軸:総リンパ球数,アルブミン値,および体重

図3.

消化管再建図

空腸間置法で再建.間置空腸を挙上して食道空腸吻合,残胃空腸吻合を行った.

図4.

術後14病日のCT前額断

食道空腸吻合部の壁外にair density(白矢印)を認め,縫合不全と診断した.

図5.

栄養投与方法と量の推移横軸:手術日を0とした病日

左縦軸:エネルギー摂取量 右縦軸:たんぱく質摂取量

総エネルギー必要量:1,860 kcal/日総たんぱく質必要量:53 g/日

図6.

排便回数と便性状の推移横軸:手術日を0とした病日

縦軸:ブリストルスケールおよび排便回数

考察

静脈経腸栄養ガイドライン(静脈経腸栄養学会[現日本臨床栄養代謝学会]編集)にも示されている栄養療法選択の大原則は,“If the gut works, use it.”(腸が機能している場合は腸を使う)の通り,腸管が使用可能であるならば腸管を栄養経路として選択することである 7.しかし,経腸栄養では胃食道逆流に起因する誤嚥や下痢などがしばしば問題となる.

経腸栄養中の下痢は,経腸栄養剤が関連する要因による下痢とそれ以外の要因による下痢に分けられる.経腸栄養剤が関連する要因としては,不適切な投与速度,経腸栄養剤に含まれる乳酸や長鎖脂肪酸の組成による影響,浸透圧,投与経路の汚染などがあげられる.それ以外の要因としては,抗菌薬の腸内細菌叢への影響,低アルブミン血症による腸管の浮腫,腸管粘膜の萎縮などが報告されている 48.本症例では,経腸栄養剤が関連する要因としてペプタメン SD の増量,経腸栄養剤以外の要因として抗菌薬の投与や低アルブミン血症が該当した.そのため抗菌薬を中止して,経腸栄養剤の投与速度を調整し,整腸剤を投与したが効果を認めなかった.そこで経腸栄養剤をペプタメンSD からマーメッドプラス® に変更した結果,便性が改善し,排便回数が減少した.

浸透圧が低い経腸栄養剤への変更は下痢に対して有効であるとされている 8.ペプタメン SD の浸透圧は 520 mOsm/L であるのに対し,マーメッドプラス ® は 283 mOsm/L であり,投与栄養剤の浸透圧の低下が便性の改善に寄与した可能性がある.

また,マーメッドプラス ® に含まれるアルギン酸は,その腸管内への作用により下痢に対して有効であることが報告されている.アルギン酸含有経腸流動食の便性の改善効果に関して,布施らは胃瘻からの投与によりブリストルスケールが有意に低下し,便性が改善したと報告している910

アルギン酸による便性の改善機序について, Nishitani らはその保水性について報告している.経腸栄養剤に配合されている食物繊維の物理学的性質としてアルギン酸ナトリウムとデキストリン,グァーガム,低メトキシルペクチン,大豆の各種食物繊維などを比較した際に,アルギン酸ナトリウムは最も粘度が高く,さらに低発酵性のために大腸内で高分子を保ち,これにより保水性が維持されて便性改善に寄与するとしている 11.一方,アルギン酸は酸性環境で不溶化する性質を有し,pH4.0 以下で半固形状(20,000mPa・s)となる 2.アルギン酸含有粘度可変型流動食はこの性質を利用し,細径の経鼻胃管カテーテルで投与可能な液体でありながら胃内で半固形状へと変化し,胃食道逆流を防止しうることを特徴としている.しかし本症例では,空腸瘻カテーテルからの投与自体は可能であったが,胃酸にふれないため,酸性環境での粘度可変効果は,経空腸的投与では限定的と考えられた.

また,本症例では下痢の改善にともなう腸内細菌叢の動態については検討していないが,アルギン酸による便性改善には腸内細菌に対する効果も考えられる.Terada らは,腸内細菌叢の改善効果について,アルギン酸投与 1~2 週間後に便中のビフィズス菌の増加とクロストリジウムが減少したことを報告した 4.Mizuno らは,アルギン酸含有液体栄養剤の投与により,腸内細菌叢に Clostridium cluster XI の増加などの変化を認め,便 pH の低下,血中短鎖脂肪酸濃度の上昇,便性の変化を認めたことを報告している 12

結語

今回,われわれは術後縫合不全に対する経腸栄養治療中に併発した下痢に対し,アルギン酸ナトリウムを含有したマーメッドプラス® を経空腸的に投与して,下痢が改善して適切な栄養管理が行えた症例を経験した.術後などの経胃投与が困難な場合でも,アルギン酸による便自体の保水性の維持と腸内細菌の変化により,経腸栄養中の下痢対策の選択肢の 1 つとなる可能性がある.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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