Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
Association between dietary intake during hospitalization and lower limb muscle strength at discharge in patients with heart failure
Kazuya YoshizawaNaoya TakeichiYusuke KasaharaSato WatanabeShinji NemotoKeigo AkaoSatoshi WatanabeKohei AshikagaKeisuke KidaYoshihiro Akashi
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2022 Volume 4 Issue 1 Pages 2-9

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Abstract

要旨:【目的】入院期心不全患者における入院中の食事摂取量と退院時下肢筋力の関連を明らかにすること.【対象および方法】対象は急性心不全で入院後,心臓リハビリテーションを実施した92例である.食事摂取量は全入院期間中の平均食事摂取量(kcal/日)および,食事摂取量を食事提供量(kcal/日)で除した平均食事摂取率(%)を算出した.下肢筋力は退院時に左右の膝伸展筋力を測定し,平均値を求め体重比を算出した.【結果】下肢筋力は食事摂取率(r=0.47)および食事摂取量(r=0.56)と正の相関を認め(各々p<0.05),重回帰分析の結果,退院時下肢筋力に有意に関連する因子として食事摂取量が抽出された(R=0.703,調整済みR2=0.476,p<0.05).【結論】入院期心不全患者における入院中の食事摂取量は,退院時下肢筋力と関連している.食事摂取量が少ない患者に対しては,改善に向けて多職種による包括的アプローチが早期から必要であると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to clarify the association between dietary intake during hospitalization and lower limb muscle strength at discharge in patients with heart failure.

Subject and methods: Subjects were 92 patients hospitalized with acute decompensated heart failure who underwent phase I cardiac rehabilitation. Mean dietary intake (kcal/day) during hospitalization and mean dietary intake rate (i.e., the percentage of dietary intake out of total energy provided) were calculated. Right and left knee extensor muscle strengths (kgf) were measured at discharge as lower limb muscle strength, and the mean value was normalized by body weight.

Results: Lower limb muscle strength was positively correlated with dietary intake rate and dietary intake (r=0.47 and 0.56, respectively, both p<0.05). Multiple linear regression analysis revealed that dietary intake was significantly correlated with lower limb muscle strength at discharge (R=0.703, adjusted R2=0.476, p<0.05).

Conclusions: Dietary intake during hospitalization was related to lower limb muscle strength at discharge in patients with heart failure. This suggests that early intervention using a multidisciplinary comprehensive approach is necessary for improvement in patients with low dietary intake.

目的

我が国において心不全患者は増加傾向にあり, 2030 年には 130 万人を超えることが予想されている 1.心臓リハビリテーション(以下,心リハと略)においても,心不全患者は今後も主要な対象疾患であることは明らかであり,さらには,急加速する高齢化を背景として虚弱性を有する心不全患者への対策は急務であると言える.

心不全患者は,食事摂取量が低下することが多く,その要因として,腸管のうっ血,肝臓などの浮腫による腸管の圧迫,強心薬や抗不整脈薬の影響などが関係することが知られている 2.食事摂取量は栄養状態評価の最も基本的な評価項目の一つであり,その低下は低栄養を引き起こし,低栄養は筋力低下を助長させる可能性がある.下肢筋力は心不全患者において予後を規定すると報告されており 3,心リハにて改善しうる可逆性を持った因子である.そのため下肢筋力を評価し改善を図ることは,心リハを実施するうえで重要であり,また,下肢筋力に代表される骨格筋機能は,栄養状態と密接な関連があることが報告されている 45.しかし,食事摂取量と予後規定因子である下肢筋力との関連を検討したものは少ない.また,入院期心不全患者を対象として栄養評価指標に食事摂取量を用いて退院時下肢筋力との関連を検討したものは,我々が知る限りはない.そこで,入院期心不全患者の入院中の食事摂取量は退院時下肢筋力と関連があるのではないかと仮説を立て検討を行った.本研究の目的は,入院期心不全患者の入院中の食事摂取量と退院時下肢筋力の関連を明らかにすることである.

対象および方法

本研究の研究デザインは後ろ向き研究である.対象の症例は,2014 年4 月から2016 年8 月の間に,聖マリアンナ医科大学病院に急性心不全で入院後,心リハの依頼を受けた連続症例 471 例のうち,除外基準合致例を除いた 92 症例とした.本研究の除外基準は,(1)入院前歩行困難の症例,(2)心リハにおける運動療法禁忌の症例,(3)検査および測定に影響を及ぼす運動器疾患や脳血管疾患合併症の症例,(4)認知症の症例(検査,測定が困難な症例),(5)入院期間が 1 週間未満の症例,(6)データ欠損症例とした.

本研究は聖マリアンナ医科大学病院倫理委員会の承認を得て実施され(承認番号:第 244 号),参加に際しては,事前の本研究の趣旨・内容について説明した.また,参加の可否に関わらず治療方針やリハビリ進行に影響が出ないことを説明し同意を得た.本研究で得た情報は,個人を特定できないように匿名化した.

1,測定項目

A)患者背景因子

調査項目として,年齢,性別,在院日数,入院時左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction;以下,LVEF と略),服薬内容,血液検査所見として,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; 以下,BNP と略 ),ヘモグロビン(hemoglobin; 以下,Hb と略),推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate;以下,eGFR と略)を診療記録より調査した.

B)下肢筋力

下肢筋力として,膝関節伸展筋力を退院時に測定した.測定には筋力計(アニマ株式会社, µ-tasF1®)を用い,加藤らが報告した固定用ベルトを用いた方法に準じて行った 6.端坐位で両下腿を下垂した膝関節屈曲 90°の肢位として,下腿内外果直上にセンサーパッドを装着し,固定用ベルトで固定し測定した.息こらえによる血圧変動を防ぐよう説明し,下肢筋力測定は,最大努力による3 秒間の等尺性筋力を左右2 回ずつ測定した.測定後,左右の筋力最大値(kgf)の平均値を体重で除した体重比(% BW)を算出した.

C)栄養評価指標

栄養評価指標として,body mass index(以下, BMI と略),入院時血清 albumin 値(以下,Albと略),入院時 Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRI と略),食事開始までの日数,および食事摂取量を診療記録より調査した.GNRI は, Bouillanne らの報告に従い以下に算出した 7

GNRI = 14.89 × Alb(g/dL)+(41.7 × 入院時体重(kg)/ 標準体重)

標準体重:男性=身長 -100-(身長-150)/4.0

:女性=身長 -100-(身長-150)/2.5

*1 ≦入院時の体重/ 標準体重の場合は1 とした.食事摂取量の評価は,診療記録より全入院期間にて 10 段階表記された主菜・副菜・主食を調査し,そこに食事提供量(kcal/ 日)を乗じ,全入院期間の平均を算出した値を食事摂取量(kcal/ 日)と定義した.また,その食事摂取量(kcal/ 日)を食事提供量(kcal/ 日)で除した全入院期間の平均を食事摂取率(%)と定義した.食事摂取量の評価は病棟看護師が行った.入院中の食事提供内容は,病棟担当の管理栄養士が Harris Benedictの式から算出した基礎代謝量(basal energy expenditure;以下 BEE と略)および,身体活動レベルを乗じて算出した推定エネルギー必要量(estimated energy requirement;以下 EER と略)を考慮し,食事提供内容を決定し,医師が処方した.

2,統計解析

下肢筋力と各因子の関連には Pearson の積率相関係数を用い検討した.

また,退院時下肢筋力の関連因子の検討には重回帰分析(ステップワイズ法)を用いた.なお,重回帰分析における従属変数は退院時下肢筋力とし,独立変数に Pearson の積率相関係数にて退院時下肢筋力と有意な相関を認めた因子を投入した.統計解析には SPSS. 12.0J(SPSS. Japan, Inc, Tokyo, Japan)を使用した.結果の値は平均値(±標準偏差)で示した.ただし,BNP は正規性を得られなかったため,結果の値は中央値(四分位範囲)で示した.なお,統計学的判定の有意水準は 5%未満とした.

結果

1,患者背景因子

連続症例 471 例のうち,最終対象者は 92 例であった.除外基準に該当する症例数は,⑴入院前歩行困難例は 82 例,(2)心リハ禁忌の症例は 81例,(3)運動器疾患や脳血管疾患合併症例は 74 例,(4)認知症例は 46 例,(5)入院期間が 1 週間未満の症例は 22 例,(6)データ欠損症例は 74 例であった(図1).

図1.

最終対象者

患者属性は,年齢は 73.3 ± 12.0 歳,男性は 64例(69.6%),女性は 28 例(30.4%),在院日数は22.5 ± 14.0 日であった.入院時 LVEF は 43.9 ±17.0%であった.血液生化学検査は,入院時 BNPは 737.5(431.5‒1,217.5)(pg/mL),Hb は 11.9 ± 2.2(g/dL),eGFR は 48.4 ± 21.0(mL/min/1.73m2)であった.退院時の膝伸展筋力値は 42.1± 13.5% BW であった(表1).

表1 患者背景,血液生化学検査
平均値 ± 標準偏差,中央値(四分位範囲)
年齢 (歳) 73.3 ± 12.0
性別(男 / 女) (例) 64/28
在院日数 (日) 22.5 ± 14.0
LVEF (%) 44.0 ± 17.0
BNP (pg/dL) 737.5(431.5 - 1,217.5)
Hb (g/dL) 11.9 ± 2.2
eGFR (ml/min/1.73m2 48.4 ± 21.0
薬剤
 β blocker (%) 87.0
 ARB (%) 27.1
 ACE阻害薬 (%) 41.3
 利尿剤 (%) 73.9
 スタチン (%) 20.7
等尺性膝伸展筋力 (% BW) 42.1 ± 13.5

LVEF:left ventricular ejection fraction,BNP:brain natriuretic peptide,Hb:hemoglobin,eGFR:estimate glomerular filtration rate,ARB:angiotensin Ⅱ receptor blocker,ACE阻害薬:angiotensin converting enzyme阻害薬

2,栄養評価指標に関する情報

栄養評価指標は,BMI は 23.4 ± 4.1kg/m2,入院時 Alb は 3.7 ± 0.5g/dL, 入院時 GNRI は 92.8± 13.7, 食事開始までの日数:2.0 ± 1.9 日, 食事摂取率は 79.6 ± 16.1%,食事摂取量は 1,142.5± 304.9kcal,BEE に対する食事摂取量の割合は95.7 ± 23.7%,EER に対する食事摂取量の割合は 73.6 ± 18.2%であった(表2).

表2 栄養評価項目
平均値 ± 標準偏差
BMI (kg/m2 23.4 ± 4.1
Alb (g/dL) 3.7 ± 0.5
GNRI 92.8 ± 13.7
食事開始までの日数 (日) 2.0 ± 1.9
食事摂取率 (%) 79.6 ± 16.1
食事摂取量 (kcal) 1,142.5 ± 304.9
BEE に対する食事摂取量の割合 (%) 95.7 ± 23.7
EER に対する食事摂取量の割合 (%) 73.6 ± 18.2

BMI:body mass index,Alb:albumin,GNRI:Geriatric Nutritional Risk Index,BEE:basal energy expenditure

EER:estimated energy requirement

3,食事摂取量と下肢筋力の関連

退院時下肢筋力および食事摂取率,食事摂取量と各評価指標の相関行列を以下に示す.退院時下肢筋力に関連がある因子は,年齢(r = -0.61),在院日数(r = -0.29),LVEF(r = -0.28),Hb(r= 0.35),eGFR(r = 0.24), 食事摂取率(r = 0.47),食事摂取量(r = 0.56)であった(各々, p < 0.05)(表3).食事摂取率に関連がある因子は,年齢(r = -0.29),在院日数(r = -0.27)であった(各々,p < 0.05)(表3).食事摂取量に関連がある因子は,年齢(r = -0.45),在院日数(r= -0.31)であった(各々,p < 0.05)(表3)(図2)(図3).また,従属変数に退院時下肢筋力,独立変数に退院時下肢筋力と有意な相関を認めた因子(年齢,在院日数,LVEF,Hb,eGFR,食事摂取率,食事摂取量)を投入した重回帰分析の結果,食事摂取量(R = 0.70,調整済み R2 = 0.48)が退院時下肢筋力の関連因子として抽出された(p < 0.05)(表4).その際,独立変数間の多重共線性について variance inflation factor(以下,VIF と略)を用いて検討したが,VIF が 10を超えるような独立変数はなかった8

表3 下肢筋力および食事摂取との相関行列
年齢 在院日数 LVEF BNP Hb eGFR Alb GNRI 下肢筋力 食事摂取率 食事摂取量
下肢筋力 -‍0.61‍** -‍0.29‍** -‍0.28‍** 0.12 0.35‍** 0.24‍* -‍0.16 -‍0.08
食事摂取率 -‍0.29‍** -‍0.27‍** -‍0.05 -‍0.06 0.01 0.13 -‍0.11 -‍0.16 0.47‍**
食事摂取量 -‍0.45‍** -‍0.31‍** -‍0.07 -‍0.11 0.10 0.20 -‍0.14 -‍0.09 0.56‍** 0.87‍**

LVEF:left ventricular ejection fraction,BNP:brain natriuretic peptide,Hb:hemoglobin,eGFR:estimate glomerular filtration rate,Alb:albumin,GNRI:Geriatric Nutritional Risk Index

*:p < 0.05, **:p < 0.01

図2.

下肢筋力と食事摂取率の散布図

図3.

下肢筋力と食事摂取量の散布図

表4 退院時下肢筋力の規定因子
独立変数 偏回帰係数 標準偏回帰係数 95%信頼区間 p
年齢 -0.422 -0.377 -0.624 - -0.221 <0.001
Hb 1.172 0.189 0.167 - 2.177 0.023
食事摂取量 0.016 0.370 0.009 - 0.024 <0.001
(定数) 15.383 - 66.818 0.002

従属変数:退院時下肢筋力

独立変数:年齢,Hb,食事摂取量,性別,在院日数,LVEF,eGFR,食事摂取率 ANOVA p < 0.01 R = 0.70 R2 = 0.494 調整済み R2 = 0.476

Hb:hemoglobin,LVEF:left ventricular ejection fraction,eGFR:estimated glomerular filtration rate

考察

本研究では,入院期心不全患者における入院中の食事摂取量と退院時下肢筋力の関連を検討した.その結果,重回帰分析の結果から退院時下肢筋力の関連因子として食事摂取量が抽出された.先行研究では,心不全患者を対象に食事摂取量 と骨格筋の関連について検討したものはなく,その関連を明らかにしたことは本研究から得られた新たな知見であると考えられる.本研究における下肢筋力は,42.11 ± 3.5% BW であり, 健常男性の 70 歳台の平均値である 56.3 ± 9.4% BW や,健常女性の 70 歳台の平均値である 45.9 ± 10.1% BW と比較しても低値である 9.食事摂取量が低値であり,下肢筋力も低値であることは,栄養状態と骨格筋機能は関連し,食事摂取量が低下し低栄養につながり,骨格筋機能低下を助長する可能性を示した.このような症例においては,積極的なリハビリテーションにより更なる骨格筋機能低下を引き起こすことも予想されるため,早期からの Nutrition Support Team( 以下,NST と略)の介入や,食事摂取量改善に向けた多職種による包括的アプローチが必要であると考えられた.

入院期心不全患者の食事摂取量について,本研究の平均食事摂取量は 1,142.5 ± 304.9kcal であった.安定期心不全患者における平均食事摂取量は 1,511kcal であると報告がある 10.また,本研究と同様の 70 歳代健常人の平均食事摂取量は 1,808kcal であると報告されている 11.これらは質問紙を用いた報告であるが,本研究の入院期心不全患者の平均食事摂取量は,安定期心不全患者や健常高齢者と比較して低値である可能性が示唆された.さらに,本研究の平均食事摂取量は BEE および EER を下回っていた.食事摂取量が低下することは,不足するエネルギーを得るため,体内は異化亢進状態となりタンパク質分解が進行する 12.本研究の入院期心不全患者は,異化亢進状態であり,骨格筋の萎縮を助長した可能性があることが考えられた.一方,食事を摂取することは,単に筋タンパクを合成するための栄養素を摂取することにとどまらず,食事摂取により筋タンパク質合成(同化作用)が安静時より 2 倍に増大され 13,さらには食事摂取により骨格筋内の交感神経が活性化され,骨格筋量や筋力の増大が見込まれるとの報告がある 14.つまり,本研究の入院期間である約 3 週間であっても,食事摂取量の増減はエネルギーのインアウトバランスだけを意味するのではなく,異化亢進または同化促進につながり,骨格筋機能に影響を及ぼすと考えられた.

また,本研究では入院期の食事摂取量について調査したが,これは入院前の長期的な食事摂取量の状態も反映し,その結果が退院時の骨格筋に関連したと思われる.栄養総合評価の一つである Mini Nutritional Assessment-Short Form( 以下 MNA-SF と略)にも食事摂取量の項目が含まれており,心不全患者において MNA-SF は骨格筋量との関連や予後との報告もなされている 1516.また,食欲不振がない高齢者に比べ,食欲不振がある高齢者は,歩行速度や握力が有意に低値であることが報告されている 17.さらに,逢坂らは,食事摂取量が必要カロリー量を上回った高齢者は,必要エネルギー量を下回った高齢者より,4週間の下肢筋力トレーニング後に骨格筋量がより増大したとの報告している 18.本研究は横断研究ではあるが,約 3 週間の入院期間の食事摂取量が直接的に退院時の下肢筋力に関連しているだけではなく,もっと長期的な食事摂取量の状態が下肢筋力は関連している可能性がある.このように食事摂取量を評価し,下肢筋力と関連を検討した本研究は,上記の先行研究を支持し,臨床的な栄養状態と下肢筋力を関連づける裏付けとなる.

しかし,本研究においては入院時の Alb および GNRI は,退院時下肢筋力と関連を認めなかった.先行研究では,Cereda らは高齢入院患者において,Alb と握力,および GNRI と握力は有意な正の相関を認めたと報告し,高齢者の食事摂取量の低下から起因する体重減少および筋肉量減少をその要因として考察している 4.また,Izawaらは入院期心疾患患者を対象とした研究にて,退院時の GNRI と下肢筋力および握力は関連すると報告している 5.Alb は炎症の有無でその値が変動することが知られている 12.また,GNRI の構成因子である BMI は心不全の急性増悪期では体液貯留の影響により過大評価される可能性がある.ゆえに,Alb および BMI を計算式に含むGNRI や Alb 単独の評価は,急性心不全患者の急性期における栄養状態を正確に反映しているかは議論の余地があると考えられる.一方,食事摂取量は Alb や GNRI のような生化学検査を含まず,簡便かつ安価な評価方法であるため入院期心不全患者における急性期の栄養評価指標として有用であると考えられた.

本研究の限界として,第 1 に,総食事摂取量の調査であり,栄養素別,特にアミノ酸を含むタンパク質についての調査を行っていない点があげられる. 筋肉量や筋力増強には必須アミノ酸(branched-chain amino acid;以下,BCAA と略)が重要であることが知られているが 12,本研究ではタンパク質および BCAA 摂取状況は調査できていない.第 2 として,経口からの食事摂取量を調査しており,輸液や経鼻経管栄養については把握できていないことがあげられる.さらに,食事摂取不良などで栄養状態が悪い場合,主治医の判断によりNST の介入がなされることがあるが,本研究では NST 介入があったかどうかは調査できていない.NST 介入が下肢筋力に影響を及ぼすか否かは,今後検討を行う必要がある.第 3 として,本研究は後ろ向きの検討であったため,食事摂取量の測定が病棟看護師による主観的な評価であった点である.第 4 として,評価測定の正確性および妥当性を担保するために除外基準に該当する症例数が多く,実臨床における患者背景を反映しているとは言えない点があげられる.今後は栄養素別の検討や,点滴や経鼻経管栄養,NST介入の有無を含んだ検討を行い,入院時と退院時の栄養状態と骨格筋の関連を縦断的に追加検討していく必要がある.

結論

入院期心不全患者における入院中の食事摂取量は退院時下肢筋力と関連する.従って,食事摂取量が少ない患者に対しては,改善に向けて早期からの多職種による包括的アプローチが退院時の下肢筋力低下を防ぐために必要であると考えられた.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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