Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
A case of preoperative enteral feeding with a W-ED tube was effective in a very elderly patient with transit and nutritional disorders due to pyloric stenosis gastric cancer complicated with mixed type esophageal hiatal hernia
Kenji MimatsuNobutada FukinoYusuke KamitakiYoko SainoYusuke Ito
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2022 Volume 4 Issue 1 Pages 23-29

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Abstract

要旨:症例は94歳女性.食欲不振と嘔吐を主訴に受診し,誤嚥性肺炎の診断で入院した.上部消化管内視鏡検査で,混合型食道裂孔ヘルニアと幽門狭窄胃がんの診断となった.幽門狭窄による通過障害とCONUTスコア7点と中等度栄養障害を認めたため,胃内減圧と経腸栄養を目的としてW-EDチューブを挿入した.W-EDチューブによる栄養管理によりCONUTスコアは5点に改善した.患者,家族と医療者でShared decision makingを行い,患者の希望により手術の方針となった.開腹所見で腹膜播種を認めたが,緩和手術として胃全摘術と経空腸栄養カテーテル挿入術を施行した.術後経腸栄養を併用し,経口摂取も可能となったが,術後40日目に永眠した.W-EDチューブは,超高齢者の混合型食道裂孔ヘルニアに併発した幽門狭窄胃がんに対して,胃内減圧と経腸栄養が同時に施行できる有用なデバイスであった.

緒言

Double elementary diet tube(W-ED チューブ:以下,W-EDT と略)は,1 本のカテーテルで口側腸管の減圧治療と肛門側腸管からの経腸栄養が可能なデバイスである.主に,胃がん術後縫合不全時 1)~3やがんによる消化管狭窄時の緩和ケア 4として,消化管内の減圧と経腸栄養投与を目的に使用されているが,術前栄養管理として使用された報告は少ない 5.幽門狭窄胃がんは,栄養障害が起こりやすい典型的な病態であるため,術前に栄養管理を行う必要性が高い.また,食道裂孔ヘルニアは胃食道逆流を認め,幽門狭窄が併発すると逆流症状の増悪から嘔吐や誤嚥の危険性が高くなる.超高齢者の混合型食道裂孔ヘルニアに併発した幽門狭窄胃がんに対する胃内の減圧治療と経腸栄養剤の投与に W-EDT が有用であった症例を報告する.

症例

症例:94 歳,女性

主訴:食欲不振,嘔吐

既往歴:高血圧,食道裂孔ヘルニア

現病歴:食欲不振と嘔吐を主訴に内科入院し,誤嚥性肺炎の診断で抗菌治療が施行された.入院後も嘔吐を繰り返すために上部内視鏡検査が施行され,混合型食道裂孔ヘルニアと 3 型腫瘍による幽門狭窄を認めた.病理組織検査で腫瘍は腺がんと診断された.患者と家族が手術を希望されたため外科転科となった.

入院時身体所見:身長 146cm,体重 38kg,Body mass index 17.8

外科転科時の血液検査所見(表1):Controlling nutritional status(以下,CONUT と略)スコア 7 点と中等度栄養障害と判断された.

表1 血液検査結果
外科転科時(第36病日) 術前(第83病日)
WBC(/µL) 6,950 7,280
Hb(g/dL) 12.6 10.8
TLC(/µL) 710 1,540
CRP(mg/dL) 0.31 0.08
TP(g/dL) 5.3 5.4
Alb(g/dL) 2.5 2.6
PreAlb(mg/dL) 7.8 13.1
Tcho(g/dL) 182 180
AST(U/L) 24 26
ALT(U/L) 25 11
BUN(mg/dL) 21.2 22.9
Cre(mg/dL) 0.42 0.34
CEA(ng/mL) 3.5 (-)
CA19-9(U/mL) 4 (-)
PNI 28.6 33.7
CONUT(点) 7 5

内視鏡検査所見(図1a,b):胃内に胃液の貯留があり,幽門前庭部に全周性の腫瘍による幽門狭窄を認めた.

図1.

内視鏡検査所見 a)胃噴門部から胃体上部は縦郭内に嵌入し,胃内に胃液が貯留していた.b)幽門前庭部の全周性の腫瘍による幽門狭窄を認めた.

CT 検査所見(図2a,b,c):胃噴門部から体部は縦郭内に嵌入し,胃壁の肥厚を認めた.胃周囲領域リンパ節は軽度腫大していた.

図2.

腹部造影CT検査所見 a)横断像:縦郭内に嵌入した胃内に胃液が貯留していた.b)横断像:幽門前庭部に胃壁の肥厚を認めた.c)冠状断像:胃噴門部から胃体上部は縦郭内に嵌入し,幽門狭窄を認めた.

上部消化管造影検査所見(図3a):胃噴門部から胃体中部にかけて縦郭内に嵌入し,腫瘍による幽門狭窄を認めた.

図3.

a)消化管造影検査所見:胃噴門部から胃体中部は縦郭内に嵌入し,幽門狭窄を認めた.b)W-EDT挿入:先端は上部空腸に,減圧開口部は胃内に留置した.

W-EDT 挿入(図3b):チューブ先端は上部空腸に,減圧開口部は胃内になるように 16Fr,150cm の KangarooTM W-ED チューブ(カーディナルヘルスグループ,日本コヴィディエン社)を透視下で留置した.

入院・栄養管理経過(図4):入院から 26 病日までは嘔吐を繰り返していたため,胃管挿入による減圧と電解質輸液の投与のみ施行されていた.27病日から中心静脈栄養(total parenteral nutrition;以下,TPN と略)が開始されていた.36病日に外科転科し,胃内減圧と経腸栄養(enteral nutrition;以下,EN と略)を目的に W-EDT を挿入した.投与エネルギー量は,実測体重 38kgを用いて Harris-Benedict の式から基礎エネルギー量を算出し,活動係数 1.2 とストレス係数 1.3を乗じて,必要エネルギーは 1,312kcal/ 日と算出した(表2).腸管栄養が長期間施行されていなかったため,腸管絨毛上皮増殖と腸管免疫能賦活化を目的に,36 から 40 病日まで GFO®3袋/日 を投与した.41 病日からは,長期間の絶食で機能低下した腸管でも吸収が良好で下痢を抑えられること,タンパク質が窒素源であるためカード化によるチューブ閉塞を予防することを目的として,消化態栄養剤のぺプタメン®スタンダードを 400 kcal/ 日で投与を開始した.必要エネルギーは徐々に増量した.歩行訓練などのリハビリテーションが可能になったため必要エネルギー量を再計算し,標準体重 46.8kg で算出した基礎エネルギー量に,活動係数 1.3 とストレス係数 1.3 を乗じた必要エネルギー量は 1,563kcal/ 日と算出されたので(表2),55 病日から投与エネルギーは 1,600kcal/ 日とした.W-EDT 挿入翌日の夜間に嘔吐を認めたが,誤嚥性肺炎は認めなかった.45病日に W-EDT の事故抜去があったが,同日に透視下で再挿入を行なった.W-EDT の減圧ルーメンからは平均 239mL/ 日の胃液の排液を認めた. 60 病日に発熱があり,カテーテル血流感染症が疑われたため,中心静脈カテーテルを抜去し,翌日には解熱した.78 病日に患者,家族と医療者で Shared decision making( 以下,SDM と略)を行い,患者の希望で手術方針となった.83 病日の栄養状態は,CONUT スコア 5 点に回復した(表1).末梢静脈ルートが確保困難であったため,末梢挿入式中心静脈カテーテルを挿入した.84病日に開腹胃全摘術を施行し,経空腸栄養カテーテルを留置した.病理組織検査結果は,T4,N2, P1,CY1,stage IV であった.術後 1 日目よりぺプタメン AF® を 300kcal/ 日で投与開始した.術後 5 日目からぺプタメン ® スタンダード 400kcal/ 日に変更し,嚥下機能評価の食物テストで 5 点のため,嚥下開始食としてゼリー(日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(以下,学会分類 2013)コード 0j)の経口摂取を開始した.術後 7 日目から嚥下調整食 I(780kcal/ 日)(学会分類 2013 コード 2 - 1)を開始し,7 割程度摂取可能となった.しかし,術後 20 日目頃から経口摂取量は低下し,全身浮腫,がん性胸腹水が出現し,術後 40 日目(124 病日)に永眠した.

図4.

入院栄養管理経過

中心静脈カテーテル(Central venous catheter:CVC),

末梢挿入式中心静脈カテーテル(Peripheral inserted intravenous catheter:PICC)

表2

必要エネルギー量と栄養素量の算出

必要エネルギー
36病日 55病日
年齢(歳) 94 94
身長(cm) 146 146
実測体重(kg) 38 不測
標準体重(kg) 46.8 46.8
基礎エネルギー量(kcal) 841 925
活動係数 1.2 1.3
ストレス係数 1.3 1.3
必要エネルギー量(kcal/日) 1,312 1,563
栄養素
36病日 55病日
非タンパクエネルギー/窒素比 150 150
脂質エネルギー(%) 25 30
たんぱく質(g) 47 56
脂質(g) 36 52
糖質(g) 199 218

考察

W-EDT は,2 重管構造で,管腔の一つはチューブの先端が栄養用に開孔し,もう一つは減圧用で先端から 40cm 口側に開孔している 1.このため,消化管内の減圧治療と経腸栄養剤の投与が 1本のチューブで可能である.消化管内の減圧と経腸栄養を同時に行える利点から,これまでに,上部消化管がん手術後の縫合不全の治療 1)~3や悪性消化管閉塞の緩和治療の報告 4がある.しかし,術前栄養管理として W-EDT を使用した報告は少ない.医学中央雑誌でキーワード「W-ED」,「術前」,「栄養」で検索した結果,10 例の報告を認めたが,論文報告は 1 症例報告のみ 6であった.本田ら 7は,14 例の幽門狭窄胃がんに W-EDT による栄養介入を行い,16 日間の経腸栄養期間中にチューブに伴う合併症はなく,アルブミン値が増加したことを学会で報告している.本症例は,超高齢者の混合型食道裂孔ヘルニアに併発した幽門狭窄胃がんで,嘔吐や誤嚥のリスクがあり,中等度栄養障害を認めた.このため,胃内減圧と経腸栄養を同時に行える W-EDT を挿入して経腸栄養管理を行った.その結果,栄養状態は改善し,合併症の発生なく手術が可能であった.

術前の中等度から高度の栄養不良は,創傷治癒遅延や免疫能の低下を来し,手術侵襲が加わると感染性合併症が発生しやすくなる 89.特に ADLの低下した高齢者では術後肺炎の発生の危険性が高くなる 9.術前栄養管理により栄養状態を改善して手術を行うことで,術後合併症の低下,創傷治癒の促進,在院日数の短縮などが示されている1011.日本静脈経腸栄養学会のガイドライン 12では,術前に中等度ないし高度の栄養障害に陥っている患者が術前栄養療法の適応であり,経腸栄養を第 1 選択とすることを強く推奨している.また,進行がん患者に対する術前栄養療法期間は 2週間程度を目安とすることが,任意でよいに推奨されている.ESPEN ガイドラインでは 13,術前に高度の栄養障害を認めた患者では,手術を 10日から 14 日間延期してでも栄養管理を行うことを推奨している.

幽門狭窄胃がんでは,通過障害のために経口摂取のみで必要エネルギー量をまかなうことは困難である.従来は,TPN が多く行われていたが 14,カテーテル感染のリスクや腸管免疫の重要性の認識により,近年では,経腸栄養が主流となっている 5.しかし,幽門狭窄の状態で狭窄部を超えて栄養チューブを上部空腸に留置し経腸栄養を行った場合には,腸-胃膵胆臓器相関により胃液などの消化液の分泌が亢進するため 15,胃内貯留液が増加すると考えられる.W-EDT は狭窄部の口側の消化管に貯留した消化液の排液が可能であり,幽門狭窄では胃内の減圧が可能となり,同時に経腸栄養を行うことができる有用なデバイスである.

食道裂孔ヘルニアは,加齢に伴う横隔膜括約筋の低下,円背による裂孔の開大,肥満による腹圧の上昇などが原因で発生する 16とされており,主な症状は胃食道逆流による胸やけである.高齢女性に多く,高齢になるほどその頻度は増加する17.食道裂孔ヘルニアでは,下部食道括約筋の弛緩や His 角が消失するため胃食道逆流の危険性が高くなる.食道裂孔ヘルニアに併発した胃がんは比較的珍しく 18,混合型食道裂孔ヘルニアに併発した進行胃がんでは,胃が縦郭内に嵌入し変形するため逆流症状が増悪する.幽門狭窄を併発した場合には,通過障害と胃食道逆流によって,嘔吐や誤嚥の危険性はさらに高まることが考えられる.本症例の W-EDT からの排液量は平均 239mL/ 日であった.混合型食道裂孔ヘルニアで縦郭内に滑脱した胃は,拡張不良と蠕動制限により,その貯留能と排出能は低下している.このため,少量の胃液が胃内に残存しても容易に嘔吐の原因になることが考えられ,排液量は少なかったとしても,胃内の減圧としては効果があったと考えられた.

経鼻経管栄養施行時の注意すべき合併症として,鼻腔潰瘍,胃食道逆流,不顕性誤嚥,事故抜去などがある 3.また,チューブによる鼻咽頭の違和感は患者の Quality of life(以下,QOL と略)を低下させる.W-EDT も経鼻経腸チューブのため,これらの合併症には注意が必要である.本症例では,W-EDT を挿入した翌日に嘔吐を認め,挿入 9 日目には事故抜去により再挿入が必要となった.嘔吐はチューブの違和感による咽頭反射と考えられ,事故抜去は鼻咽頭の違和感により無意識に抜去された可能性が高かった.また,経鼻経腸チューブの長期留置により咽頭反射機能が低下することで誤嚥のリスクが上昇する危険性がある.経鼻経管栄養は患者にとって苦痛を伴う治療である.特に,W-EDT は 2 重管構造のため 16Frと通常の EN チューブより太いため,通常の ENチューブより違和感は増してしまうのが欠点である.長期間の留置を要する場合は,患者の肉体的,精神的ストレスについて十分に留意する必要がある.

経鼻経管栄養チューブを長期間留置する場合には,カテーテルの材質にも注意が必要である.栄養カテーテルの材質には,シリコーン,ポリウレタン,塩化ビニルが使用されている.塩化ビニル製カテーテルは,胃内に 7 日から 10 日間留置すると可塑剤であるフタル酸ジ -2- エチルヘキシル(以下,DEHP と略)の溶出が起こり,カテーテルが変性,硬化することが報告されている 19)~21.製品によって添付文書に留置期間を 7 日から 10日間とすることが記載されている.シリコーン製も 7 日間程度であり,ポリウレタン製は,4 週間以内や 30 日以内の使用と記載されている.このため,材質を確認して,カテーテル交換を行う必要がある.最近では DEHP を添加していない塩化ビニル製カテーテルが一般的になっているが,注意を要する点である.今回使用したW-EDT は, DEHP フリーの塩化ビニル製で,48 日間の使用中にチューブの変性や硬化は認めなかった.

本症例は,超高齢者の根治切除不能進行胃がんであったため,侵襲を与える手術を行わず,化学療法や緩和治療を行う選択もあった.しかし,胃切除を行うことで得られる,減圧チューブからの解放,嘔吐による誤嚥性肺炎の危険性の軽減,患者が強く希望した経口摂取の再開を目的として手術を施行した.術後の総リンパ球数の低下,CRPの増加は,手術侵襲に伴う免疫力低下と,がんの進行に伴う悪液質の進行によるものと考えられたが,術後縫合不全などの感染性合併症は認めず,経口摂取も一時的に可能となった.超高齢者の根治切除不能進行がんに対する治療では,手術,化学療法などの治療によって得られる利益と不利益を考慮し,生命予後と QOL について,患者,家族の希望を十分に配慮して SDM によって決定することが大切であると考えられた.

結語

混合型食道裂孔ヘルニアに併発した幽門狭窄胃がんの超高齢者の 1 手術例を経験した.W-EDTは,胃内減圧により胃内容液の逆流による誤嚥のリスクを減らし,経腸栄養を同時に施行することができる有用なデバイスと考えられた.

本症例報告は「医学研究における倫理的問題に関する見解および勧告」,「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」に遵守している.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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