Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
Thrombocytopenia due to severe malnutrition
Wataru Shiraishi
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2022 Volume 4 Issue 1 Pages 30-34

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Abstract

要旨:症例は53歳,女性.脳血管障害の後遺症で全盲と精神症状が後遺し,施設で長期療養していた.経口摂取量が徐々に減少し,るい痩が悪化していた.意識レベルが徐々に低下し,血液検査では血小板数が減少しており,播種性血管内凝固の疑いで当院に救急搬送された.血液検査で総タンパク5.0g/dL,アルブミン2.6g/dLの低栄養に加え,血小板数3.2万/µLの血小板減少症を認めた.血小板減少症の原因として,血小板減少性紫斑病や膠原病,薬剤性,肝不全,播種性血管内凝固,血栓性血小板減少性紫斑病などの検索を行ったがいずれも陰性だった.リフィーディング症候群に留意しながら経腸栄養,次いで経口摂取を開始したところ,栄養状態の改善とともに血小板数も回復し,最終的に低栄養状態による血小板減少症と診断した.極度の低栄養状態では骨髄に膠様脂肪萎縮が出現し,造血能が低下,血小板減少症に至ることがあり,注意を要する.

はじめに

経口摂取不良による低栄養状態は貧血の他,白血球減少や血小板減少などの血球減少を呈すると報告されており 1,骨髄の栄養障害が関与していると考えられている.また,重度の低栄養状態からの回復の際には,糖質を中心としたエネルギーを急速に摂取することが原因となり水・電解質分布の異常や心合併症を引き起こす,いわゆるリフィーディング症候群に注意を要する 2.今回我々は,経口摂取量の減少に伴い,極度の低栄養状態から,徐脈,低体温,反応性の低下に加えて,血液検査にて血小板減少症を呈し,慎重な栄養管理により,全身状態の改善にともなって血小板数が回復した 1 例を経験した.

症例

症例:53 歳女性.

現病歴:来院 1 年前に脳血管障害を発症,後遺症のため,てんかん,全盲と精神症状が後遺しており,療養施設で長期療養していた.来院 2 カ月前は体重 34.4 kg で body mass index(以下,BMIと略)は 13.8 kg/m2,血清アルブミン値は 3.4 g/ dL,血小板数は 12.3 万 /µL だった.来院 1 カ月前から経口摂取量が徐々に減少し,体重減少も進行していた.来院の 5 日前からは活気が低下していた.その際の血液検査では肝機能障害があり,血小板数が減少していた.その後も反応性が低下し,意識状態が悪化,来院当日の血液検査で白血球 2,500/µL,血小板 3.3 万/µL の血球減少を認め,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;以下,DIC と略)の疑いで当院に紹介となった.

生活歴:飲酒喫煙なし,脳血管障害発症前の ADL は自立.

既往歴と家族歴に特記すべき事項なし.

入院時内服薬:レベチラセタム,カルバマゼピン,アルファカルシドール,ラメルテオン.最近のヘパリン使用歴なし.

入院時現症:身長 158 cm,体重 28 kg で,BMIは 11.2 kg/m2 と高度に痩せていた.血圧は 110/64 mmHg,脈拍は 44 拍 / 分の整で徐脈を認めた.体温は 34.4℃と低体温だった.経皮的酸素飽和度は室内気で 97%と保たれていた.頭頸部,胸腹部では,るい痩の他には特記すべき異常はなかった.四肢では,前胸部と手背に皮下血腫を認めた.皮膚は乾燥し,ツルゴールは低下していた.神経学的所見では,意識は JCS II-30 で,痛み刺激にて開眼する程度だった.指示動作は不能だったが,疼痛に対する逃避反応では,四肢の明らかな麻痺は認めなかった.

検査所見:血液検査の結果を表1 に示す.血算では血小板 3.2 万 /µL の血小板減少を認めた.生化学では,低タンパク,低アルブミン血症と,肝逸脱酵素の上昇を認めた.尿素窒素 / クレアチニン比は 46.1 と 20 を超えており,脱水が示唆された.その他,低リン血症,低カルシウム血症,低マグネシウム血症を認めた.ピロリ菌の血清 IgG抗体は陽性だが,便中ピロリ菌抗原は陰性で,既感染パターンだった.その他の血小板減少をきたす疾患に関しても,血液検査では異常はなかった.骨髄穿刺はるい痩が強く,また,入院後に血小板数が回復傾向であったため,施行しなかった.体幹部 CT 検査を施行したが,悪性腫瘍や感染源などの異常を認めず,肝硬変や脾腫もなかった.

表1 入院時血液検査所見
項目 測定値 正常範囲
WBC 2,900 /µL 3,000-8,000 /µL
Hb 12.3 g/dL 11.5-15.9 g/dL
Plt 3.2 万/µL 12.0-39.0 万/µL
Retic 1.18 % 0.5-1.5 %
PT-INR 1.02 0.9-1.1
D-dimer 0.5 µg/mL <1 µg/mL
BS 68 mg/dL 70-109 mg/dL
HbA1c 5.1% % 4.6-6.2 %
TP 5 g/dL 6.5-8.5 g/dL
Alb 2.6 g/dL 4.1-5.1 g/dL
AST 67 IU/L 0-35 IU/L
ALT 116 IU/L 0-35 IU/L
γ-GTP 60 IU/L 0-50 IU/L
BUN 16.6 mg/dL 8.0-20.0 mg/dL
Cre 0.36 mg/dL 0.00-1.20 mg/dL
eGFR 140 mL/min/1.73m2 >90 mL/min/1.73m2
Na 130 mEq/L 137-146 mEq/L
K 3.8 mEq/L 3.6-4.9 mEq/L
Cl 94 mEq/L 100-108 mEq/L
Ca 7.6 mg/dL 9.0-11.0 mg/dL
P 2.5 mg/dL 2.4-4.5 mg/dL
Mg 1.5 mg/dL 1.8-2.4 mg/dL
CRP 0.8 mg/dL 0.0-0.5 mg/dL
Cu 149 µg/dL 68-128 µg/dL
Zn 155 µg/mL 80-130 µg/mL
VitB1 2,290 ng/mL 24-66 ng/mL
VitB12 51,300 pg/mL 233-914 pg/mL
Pylori IgG (+) (-)
ANA <40 titer <40 titer
CH50 47 U/mL 30-42 U/mL
T-SPOT® (-) (-)
ACE 9.8 U/L 8.3-21.4 U/L
ADAMTS-13 activity 0.76 IU/mL >0.10 IU/mL
ADAMTS-13 inhibitor <0.5 BU/mL <0.5 BU/mL

WBC;white blood cell(白血球数),Neu;neutrophil ratio(好中球数比率),Lym;lymphocyte ratio(リンパ球数比率),Hb;hemoglobin(血色素量),Plt;platelet(血小板数),Retic;reticulocytes(網状赤血球),PT-INR;prothrombin time international normalized ratio(プロトロンビン時間国際標準比),BS;blood sugar concentration(血糖値),HbA1c;hemoglobin A1c(ヘモグロビンA1c),TP;total protein(総タンパク),Alb;albumin(アルブミン),AST;aspartate aminotransferase(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ),ALT;alanine aminotransferase(アラニンアミノトランスフェラーゼ),γ-GTP;γ-aminobutyric acid(γ-アミノ酪酸),BUN;blood urea nitrogen(血清尿素窒素),Cre;creatinine(クレアチニン),eGFR;estimated glomerular filtration rate(推算糸球体濾過量),Na;sodium(ナトリウム),K;potassium(カリウム),Cl;chlorine(クロール),Ca;calcium(カルシウム),P;phosphorus(血清リン),Mg;magnesium(マグネシウム),CRP;C-reactive protein(C反応性タンパク),Cu;copper(血清銅),Zn;zinc(血清亜鉛),Vit B1;vitamin B1(ビタミンB1),Vit B12;vitamin B12(ビタミンB12),ANA;antinuclear antibody(抗核抗体),CH50;complement(血清補体価),T-SPOT;tuberclosis specific IFN γ(結核菌特異的IFN γ),ACE;angiotensin converting enzyme(アンジオテンシン変換酵素),ADAMTS-13;a disintegrin-like and metalloprotease with thrombospondin type 1 motifs-13

入院後経過:身体所見より,徐脈ではあるものの,皮膚の乾燥とツルゴールの低下から,脱水をともなっていると判断した.入院後,静脈点滴と経鼻胃管による脱水の補正と栄養投与を 600 kcal/ 日(20 kcal/kg/ 日) から開始した.National Institute for Health and Care Excellence(NICE)のガイドラインによるリスク評価 3では, BMI が 16kg/m2 未満,低カリウム血症,低マグネシウム血症を有し,ハイリスク群に分類された.

経腸栄養の投与開始後,入院 6 日目の血液検査で血清リン値が 1.3 mg/dL まで低下したため,経口で 600 mg/ 日のリン補充を行った.血清中のタンパク・アルブミンは希釈によりいったん低下したものの,その後は回復傾向を認めた.意識状態は徐々に改善し,会話による意思疎通が可能となり,入院 4 日目に経鼻胃管は抜去,介助にて経口での食事摂取が可能となった.患者が食事摂取を渇望したため,栄養摂取量を,入院 4 日目からは 900 kcal/ 日(30 kcal/kg/ 日),7 日目からは 1,200 kcal/ 日(40 kcal/kg/ 日)と徐々に増量した.強いるい痩があり,体重増加を目標に,一時的に栄養摂取量を多くする方針とし,最終的に入院 11 日目から 1,600 kcal/ 日(53 kcal/kg/ 日)まで増量し,点滴治療は終了した(図1).補充により,血清リン値は入院 9 日目に 1.5 mg/dL, 14 日目に 1.9 mg/dL と徐々に回復し,リフィーディング症候群は認めなかった.血小板減少症に関しては,栄養状態の改善の他には無治療だったが,血小板数は経時的に回復し,2 週間後に 15.4万 /µL まで回復を認めた.一過性血小板減少症の原因として,薬剤性,ヘパリン起因性血小板減少症,全身性エリテマトーデスなどの膠原病,特発性血小板減少性紫斑病などを検索したが,薬剤の変更なく回復し,ヘパリンも使用しておらず,各種自己抗体も陰性で,いずれも否定的だった.全身状態が回復したため,入院 20 日後に転院となった.

図1.

投与カロリーとアルブミン,リン,血小板数の推移

入院後から,600kcal/日の栄養を開始し,漸増した.経過中にリンの低下を認めたため,補充を行った.血小板は経時的に改善し,アルブミン,リンも改善を認めた.

Plt:血小板,Alb:アルブミン,P:リン

考察

低栄養状態により生じたと考えられた血小板減少症の症例を経験した.低栄養状態によって生じる血小板減少症に関してはいくつかの既報告がある.De Filippo らは,神経性やせ症患者の 16.7%に貧血を,7.9%に好中球減少を,そして 8.9%に血小板減少を伴い,その重症度は罹病期間と BMI に相関することを報告している 1. また, Walsh らは,神経性やせ症患者の 7.4%に血小板減少を認めることを報告しており,その割合は過食嘔吐型の 5.2%,むちゃ食い型の 1.7%と比較して有意に高いことを報告している 4.さらに,特に BMI が 15 kg/m2 以下の重度の神経性やせ症の場合には,好中球減少が 64%に,貧血が 47%に,血小板減少は 20%と効率に生じることが報告されている 5.低栄養の際に血球減少が生じる原因として,長期経過の低栄養状態を呈した症例においては,骨髄に膠様脂肪萎縮を認めることが知られており 6,このことがビタミンや葉酸などの欠乏によらない血球減少をきたすとされる 7.また,この膠様脂肪変性は,栄養状態の改善とともにすみやかに回復することも報告されている 8.本症例においては,骨髄生検を施行していないが,骨髄の膠様脂肪萎縮が血小板減少と白血球減少を生じ,栄養状態の回復とともにこれらも回復したものと推測された.

次に,本症例の血小板減少症の鑑別について考察する.一般的に血小板減少症の原因は,①再生不良性貧血や巨赤芽球性貧血などの血小板産生障害,②特発性血小板減少性紫斑病やヘパリン起因性血小板減少症,DIC などの血小板の破壊亢進,

③肝硬変や脾腫などの血小板分布異常,④その他,の 4 つに大きく分類される 9.本症例は,骨髄穿刺は施行していないものの,栄養投与開始後に血小板数が回復しており,低栄養状態による骨髄での造血障害に起因する血小板産生障害が原因と考えられた.全身性エリテマトーデスや特発性血小板減少性紫斑病等の自己免疫性疾患の合併や, DIC を疑う所見はなく,ヘパリンの使用もなく,免疫学的機序や薬剤性の血小板破壊亢進による血小板減少症は否定的と考えた.同様に,肝硬変や脾腫も認めなかった.以上より,本症例の血小板減少症の原因は,低栄養による血小板産生障害と考えられた.

最後に,リフィーディング症候群について考察する.慢性の低栄養状態では,エネルギー源としてのグルコースが枯渇し,ケトン体が燃料の主体に変化,全身の代謝が停滞する 10.この状態で急激なエネルギー投与を行うと,燃料の主体がグルコースへと戻り,タンパク合成,脂肪合成が再開される.このため,細胞質量が増加し,血清中のリン酸,カリウム,マグネシウムなどが細胞内へ移動して,低リン血症,低カリウム血症,低マグネシウム血症が生じ,リフィーディング症候群を生じる 11.本症例では,入院時より,経静脈的栄養と経鼻胃管からの栄養を開始したが,一時的にリンの低下を生じ,リンの補充を行った.より早期からの適切な電解質の補正,より緩徐なエネルギー投与量の増量が,リフィーディング症候群の予防に肝要であったと考えられた.

結語

低栄養により血小板減少症を生じ,栄養状態の改善に伴い血小板数が回復した症例を経験した.重度の低栄養状態は血小板減少をはじめとする血球減少を生じることがある.血小板減少を生じるほどの重度の低栄養の際には,リフィーディング症候群にも留意しつつ,適切かつ慎重な栄養介入が必要である.

本論文では,「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」に基づきプライバシー保護に配慮し,患者が特定されないように留意した.

本論文に関する著者の利益相反なし

謝辞

本患者の栄養管理に関しまして,貴重なご指導を頂きました小倉記念病院摂食・嚥下障害認定看護師の隈本伸生様に深謝申し上げます.

引用文献
 
© 2022 Japanese Society for Clinical Nutrition and Metabolism
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