Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
Tea catechin
Akihide Sugiyama
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2022 Volume 4 Issue 1 Pages 44-48

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1. はじめに

わが国で日常的に飲用されている茶は,ツバキ科に属する常緑の低木である茶樹(学名:Camellia sinensis (L.) O. Kuntze)の葉を加工したものである1.茶は様々な生理活性物質を含み,その中でもカテキンは表1 に示すような多くの生理作用を有していることが知られている 1)~4

表1 カテキンの生理作用
・抗菌・抗ウイルス作用
・抗アレルギー作用
・肝障害抑制作用
・抗酸化作用
・がん抑制作用
・血中コレステロール低下作用
・血圧降下作用
・骨粗しょう症予防効果
・動脈硬化予防効果
・糖尿病予防効果
・免疫増強作用など

近年,酸化ストレスが各種疾病,各種病態の進行に関与することが注目されている.それに対して,疫学調査では抗酸化物質の摂取が各種疾患のリスクを軽減することが報告されている.特に食品に含まれる天然抗酸化物質は摂取のしやすさと安全性から疾病予防の点で注目されている.

今回,天然抗酸化物質であるカテキンの概要を解説するとともに,今後の展望と問題点について述べたい.

2. 酸化ストレスとは

好気性生物は生命維持に必要なエネルギーを得るため,ミトコンドリアで絶えず酸素を消費し,その際の副産物として活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)を産生する 5

1 分子の酸素が還元されて水になるために 4 個の電子が必要である.酸素分子に電子がひとつ入ると,スーパーオキシド(O2-)が生成される. O2- はスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H2O2)に変換される. H2O2 はカタラーゼ(CAT)および還元型グルタチオン(GSH)を基質とするグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)によって水に代謝される 6.生成された一部の H2O2 は,遷移金属イオン(Fe2+, Cu+ など) による Fenton 反応や,O2- による Harber-Weiss 反応によりヒドロキシラジカル(HO・)を生成する 6

安定した分子の最外殻電子は 2 つずつ対になっている.対にならず単独の電子(不対電子)をもつ独立した種がフリーラジカルである 7.フリーラジカルの寿命は短いが,他から電子を奪って反応性の高い対電子になることで安定するため,酸化作用を有している 6.O2- と HO・はフリーラジカルで,HO・は特に反応性が高い 6(図1).

図1.

生体における活性酸素種の発生と代謝

ROS は体内に侵入した病原菌の殺菌や細胞刺激時のシグナル伝達物質として作用するほかに,ホルモン合成,幹細胞分化などに重要な役割を果たしている 8.一方で,過剰に生成された ROSは核酸,タンパク,脂質を酸化し,生体成分に損傷を与える 8

生体には抗酸化系システムがあり,活性酸素などの蓄積による酸化促進系と体内の抗酸化酵素や抗酸化物質などの抗酸化防御系とが酸化と抗酸化のバランスを保っている 9.その均衡が崩れ,酸化系が抗酸化系を上回った状態が酸化ストレスである.

酸化ストレスが高くなる原因として紫外線や放射線,大気汚染,薬剤,金属,酸化された食物などの環境因子や,感染,虚血,慢性炎症などの病態などがある.また,喫煙や過度な運動などの生活習慣も,酸化ストレスを高める要因の一つとなる 10

生体内には内因性の抗酸化システムが備わっており,前述のように O2- の消去系に SOD,H2O2の消去系に CAT や GPx といった抗酸素酵素が ROS を無害化する.また,生体内に存在する抗酸化物質としてグルタチオン,ビリルビン,チオレドキシン,尿酸などがある 10(表2).その他に体外から摂取できる様々な外因性抗酸化物質がある.

表2 抗酸化物質
抗酸化酵素 スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)
カタラーゼ(CAT)
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx
抗酸化物質 グルタチオン,チオレドキシン
ペルオキシレドキシン
アルブミン,尿酸,ビリルビン
遷移金属をキレートするタンパク(トランスフェリン,メタロチオネイン,
ハプトグロブリン,セルロプラスミンなど)
メラトニン,L-カルニチン
外因性 アスコルビン酸(ビタミンC)
抗酸化物質 α-トコフェロール(ビタミンE)
カロテノイド,α-リポ酸
ユビキノール(コエンザイムQ)
微量元素(Zn,Se)
ポリフェノール類(フラボノイド,カテキン,
タンニン,アントシアニン,イソフラボン,
ケルセチンなど)

3. 天然抗酸化物質

2 に示すように,様々な外因性抗酸化物質が知られているが,近年,カテキンを含むポリフェノール類が抗酸化物質として注目を集めている.これらは植物由来の天然抗酸化物質で,ビタミン E や C の数十倍の抗酸化力があることが報告されている 3

植物はビタミンやミネラルなどの供給源のみならず,様々な生体調節機能成分を含む機能性食品成分の宝庫で,約 2 万年前に絶滅したといわれるネアンデルタール人も植物を食べていたとされている.動物は熱帯の高温や強力な紫外線などのストレスにさらされた場合,移動することでストレスを軽減することができるが,植物は移動できない.それらのストレスから植物が自らを保護するために,ポリフェノール類などの抗酸化成分を活発に生合成している 11.そのため,植物には抗酸化作用をもつ物質が普遍的に分布している 11.近年,これらの植物由来の天然抗酸化物質の摂取によるがんや生活習慣病などの疾病予防が注目されている.

4. 茶カテキン

中国では紀元前 2700 年頃に茶葉を食べていたとされ,紀元前 1 世紀の漢の医学書に薬としての茶の作用に関する記述がみられている 1.わが国では奈良・平安時代に留学僧が唐よりお茶の種子を持ち帰り,鎌倉時代に栄西禅師が茶の飲用を広め,「喫茶養生記」でお茶の効能を述べている 1.現代においても茶は日本をはじめとするアジア 圏で飲料として日常的に摂取され,様々な生理活性物質が含まれていることがわかってきた 1.とくに多機能生理活性物質とされるものがカテキンである.カテキンはフラバノール(フラバン -3-オール)構造を有する水溶性の多価ポリフェノールで,緑茶には茶葉の乾燥重量で 10~20%のカテキンが含まれている 1.エピカテキン(EC),エピガロカテキン(EGC),エピカテキンガレート(ECG),エピガロカテキンガレート(EGCG)の 4 種類が大半を占め(図2),なかでも EGCGが半量を占める 1.EGCG は最も抗酸化作用が強いとされ,茶樹以外の植物では見出されていない112

図2.

茶カテキンの構造式

5. カテキンの抗酸化作用

ポリフェノールは電子あるいは水素ラジカル供与性のフェノール水酸基をもち,スーパーオキシドアニオンラジカルや脂質ペルオキシラジカルなどのラジカル種と反応することで抗酸化を行うとされる13.カテキンのラジカル補捉能については, B 環のカテコール構造(o- ジヒドロキシル構造)とそれに 1 個の水酸基が結合したピロガロール構造が重要な役割を担っているとされている 13

ヒトを含む動物での天然抗酸化物質の吸収効率は極めて低く 14,吸収されたわずかな抗酸化物質も,小腸や肝臓においてメチル化やグルクロン酸抱合を受け,速やかに体外に排泄されると考えられている 14.ガレート型カテキンである EGCGは消化管から吸収された後に抱合を受けにくく,血液中に遊離型として高濃度で存在する 4.カテキン経口摂取後の EGCG 血液濃度はラット,ヒトでも 1~2 時間後にピークを示すことが報告されている 21516

カテキンの抗酸化作用には単なるラジカル消去作用だけでなく,何らかのメディエーターを介した機能調節も関与している可能性があると考えられているが,詳細な機序については不明である14

6. カテキンの今後の展望と問題点

各種疾病の発生予防にカテキンが有用なことは動物実験や臨床研究で多く報告されている 13.今後は各種病態下での臨床応用が期待される.胆道閉鎖症術後患児の肝線維化予防や 3,動物実験モデルであるが,精巣虚血再灌流後の精巣組織障害予防 12といった,周術期の病態への有用性が報告されている.その他にもがん抑制効果や鼻炎における抗アレルギー作用なども報告されており14,酸化ストレスが病態の進行に関与する各種疾患への臨床応用が期待される.しかしながら,解決すべき課題も残されている.

カテキンの抗酸化メカニズムについては十分に解析されているとはいえず,今後も解明が必要である.そのためには,より詳細な酸化ストレスの評価法の確立が必要である.酸化ストレスの開始因子はフリーラジカルであるため,フリーラジカルを直接検出することができれば,障害部位の詳細な同定が可能となる.しかし,フリーラジカルは反応性に富み,生体内の様々な分子と瞬時に反応するため,検出が難しい.そのため,血液や尿中に蓄積する生体内分子との反応生成物,いわゆる酸化ストレスバイオマーカーが「生成系」の酸化ストレスの指標として使用されている 17

現在まで様々な酸化ストレスマーカーが開発されているが,それらは障害部位を特定するものではなく,個体全体の状態を反映する場合が多い.また,生体内の様々な物質に対する酸化・還元状態だけでなく,代謝系の影響を受ける場合も少なくない 17.よって,あるマーカーの上昇が原因疾患によるものなのか,合併した疾患によるものなのかを同定することは困難である 17.今後,それらを特定できる特異的なマーカーの開発が期待される 16

茶は古くから飲用されていることから,その安全性は高いと考えられるが,動物にとっては異物であり,過剰摂取による副作用なども考慮する必要がある.

ヒトでの最適なカテキン摂取量は明らかになっていないが,純度 90%以上の EGCG 製剤 180mgをヒトに投与した結果,血漿中 SOD 消去活性は投与前と比較し,16%上昇したとの報告がある 2.緑茶 100mL に含まれる EGCG 量は 83mg 程度であり,EGCG 180mg は緑茶 217mL に相当する 2. 270mg,540mg の投与では,血漿中 SOD 消去活性は,それぞれ 19%,49%上昇し,用量依存性に抗酸化活性が増加していた 2.国内の疫学的調査では緑茶を 1 日平均 10 杯以 上(1 杯 80~ 120mL 程度)飲用している女性の平均がん罹患年齢が 74.3 歳であったのに対し,3 杯以上の女性は 67.0 歳であったという報告や,1 日 10 杯以上に相当するカテキン量を摂取した群はコントロール群に対して有意に大腸ポリープ切除後の再発が少なかったという報告がある 18.日本人 8,766 名(10~59 歳)を対象にした調査では飲料からのポリフェノール摂取量は 1 日当たり 853 ± 512mgであった 19.以上から,疾病予防に必要なカテキン量は日常的に日本人が飲料として摂取することが可能と考えられるが,治療として投与する場合,より高用量のカテキンが必要である可能性がある.高用量のカテキンを飲料としての茶のみで摂取するのは困難であり,カテキン濃度を増強させた食品やサプリメントでの摂取が考慮されるが,欧米では緑茶サプリメントの服用による肝障害が報告されている 12021.カテキンとの因果関係は明らかにはなっていないが,劇症肝炎で肝移植を要した症例もあり 21,カテキンを抽出したサプリメントの安全性については今後も十分な検討が必要である.

また,医薬品との相互作用にも注意が必要である.EGCG の相互作用として,β遮断薬であるナドロールの血中濃度低下,脂質異常症用薬であるスタチン系医薬品,シルデナフィル,タクロリムス,ワルファリンの血中濃度増加が報告されている 22.また,緑茶としてカテキンを摂取する場合,カフェインの作用による頭痛,神経興奮作用,利尿作用,血圧上昇などの可能性がある 23.さらに,テアニンやビタミン K などの生理活性物質を含んでいるため,それらが相互作用する可能性もある 22

前述のように酸化ストレスとは,均衡のくずれであるが,一方で過剰な抗酸化は生体にとって有害となる可能性も指摘されており 24,適切な投与量を含む投与法の確立にはさらなる検討が必要である.

7. おわりに

太古の昔から人類が摂取し,疫学的調査で有効性が認められている茶カテキンは,様々な病態の改善に活用が期待される.しかしながら,抗酸化作用の機序には未知な部分も多く,今後もさらなる検討が必要である.

謝辞

本論文は日本臨床栄養代謝学会 2019~2020 年用語委員会および 2021~2022 年編集委員会各委員の確認を経ている.ここに記し,深く感謝の意を表します.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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