Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
EXPERT REVIEW
Importance of nutritional management in gastric cancer treatment
Daisuke IchikawaKatsutoshi ShodaHidenori AkaikeYoshihiko Kawaguchi
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2022 Volume 4 Issue 4-5 Pages 155-159

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Abstract

近年の胃がん患者の高齢化に加えて,進行胃がん患者では,胃がんに伴う栄養摂取困難や担がん状態による身体への影響も合わさって,術前に栄養状態が不良である胃がん患者を治療することが少なくない.サルコペニアに代表されるこれら術前栄養状態の不良が,術後短期成績を不良にし,がんの長期予後も低下させる可能性が報告されている.また,外科治療後には胃切除に伴う食事摂取量の減少や,消化・吸収障害から様々な栄養状態の不良をきたすことが知られており,これら術後体重減少や筋肉量の減少が予後に悪影響をおよぼすことも知られている.これらへの対策として,周術期の栄養介入が臨床試験として行われ,一定の効果は報告されているが,さらなる治療成績の向上を目指して,栄養剤の服薬アドヒアランスを上げる工夫や,運動療法併用の有用性等も報告されている.本稿では,これら近年の胃がん診療における栄養管理の重要性に関する報告を紹介する.

はじめに

以前より,がん診療における栄養管理の重要性が知られていたが,がん患者の短期成績のみならず,長期成績にも患者栄養状態が強く影響をおよぼすことが判明し,がん患者のさらなる治療成績の向上に向けた様々な試みが注目されている.また,本年の保険診療改訂において,病棟における入院栄養管理体制の新設に加えて,周術期栄養管理実施加算ならびに外来化学療法実施中の患者への栄養管理の充実等が組み込まれ,がん治療における栄養管理の重要性が認められた結果であると思われる.胃がん患者に対する診療では,がん進行に伴う悪液質等のがん誘発性体重減少のみならず,腫瘍による消化管の通過障害や,各種抗がん剤治療時の副作用による摂食障害,また,胃切除後の摂食障害や消化・吸収障害等,様々な要因が絡み合って栄養障害をきたすことも多い.がん誘発性体重減少は,通常の栄養管理のみによる改善は困難であるが,摂食障害や消化・吸収障害に対しては,適切な栄養管理で栄養状態の改善も期待できるため,各施設で様々な試みが行われている.

本稿では,胃がん診療における栄養管理の重要性について,術前・術後の栄養状態と短期・長期成績との関連や,胃切除後に注意すべき栄養障害について概説する.また,非外科的治療時における栄養状態の重要性も報告されており,幾つかの知見を紹介した後,近年,盛んに行われている栄養状態不良患者に対する栄養療法の介入の成果についても概説する.

術前栄養状態と術後短期成績

胃がん患者の術前の低栄養状態が術後短期成績に影響をおよぼすことが知られている.様々な定性的・定量的評価法が報告されているが,日常診療で測定する機会の多い血清アルブミン値でも,ある程度の低栄養状態の判別が可能である.半減期が長く炎症等の影響を受けやすいという短所を理解しながら判断することが重要である.また,アルブミン値,総コレステロール値,リンパ球数をスコア化するControlling Nutritional Status(以下,CONUTと略)値1)による栄養評価法も報告されており,これら指標により栄養状態不良と判定される患者では,術後肺炎の頻度が高く,入院期間が延長する傾向にあることなども報告されている.Kamarajahらは,胃がん患者の体組成やサルコペニアに関してシステマティックレビューによるメタアナリシスを行い,CT検査や生体電気インピーダンス法等を用いてサルコペニアと診断される患者では,術後全合併症や在院死亡も有意に多いことを報告している2).術後合併症をきたすことで,医療費の増加や入院期間の延長等のデメリット以外に,胃がん術後の予後も悪化させることが本邦だけでなく欧米からも報告されており,注意が必要である.我々の施設では,入院前に栄養状態不良と判定された患者には,積極的な栄養管理を実施するが,出来る限り経口(経腸)での栄養管理を検討し,消化管閉塞を認める場合には,内視鏡的経腸栄養チューブ留置等も行っている.栄養管理実施後のリアルタイムの栄養状態は,レチノール結合蛋白,トランスサイレチン(プレアルブミン),トランスフェリン等の半減期の短い蛋白を用いて判定し,手術時期の決定等に利用する.サルコペニアについては,endoscopic submucosal dissection(以下,ESDと略)等の非外科的治療後の成績にも影響する可能性も報告されており,腹部CT検査で骨格筋指数ならびに筋肉内脂肪率からサルコペニア群と非サルコペニア群を分けて比較検討したところ,サルコペニア群で出血等のESD後合併症率が有意に高く,全生存率は有意に低い結果であり,サルコペニアが非外科的治療の治療成績にも影響をおよぼす可能性が示唆されている3)

術前栄養状態と術後長期成績

患者の栄養状態ががんの長期予後にも関連するとの報告も多く認められる.術前Body mass index(以下,BMIと略)が低い胃がん患者の予後が不良であるとの報告が多く,これら患者における周術期補助化学療法の施行率の低さとの関連も示唆されている.Kubotaらは,簡便な術前栄養状態の評価法として古くから知られているGlasgow prognostic score(以下,GPSと略)と胃がん患者予後との関連を解析し,GPSが独立予後規程因子であると報告している4).Kurodaらは,前述のCONUT値のスコア4をカットオフ値として胃がん患者の臨床病理学的因子を解析し,CONUT高値群で高齢者,低BMI,進行T因子等との相関を認め,予後解析では術後全生存率のみならず疾患特異的生存率にも差を認めた.また,術後全生存率について,CONUT値が単変量解析のみならず多変量解析でも独立予後規程因子として選択され,Neutrophil lymphocyte ratio(以下,NLRと略)やmodified GPS等,他の栄養状態評価指標に比較してもより良い予後予測因子であったと報告している5).また近年では,術前CT検査で容易に測定できる骨格筋量に加えて骨格筋内脂肪率の予後因子としての可能性も報告されており,興味深い.

胃切除後の栄養障害

胃がんに対する胃切除後には様々な栄養障害が起こることも知られている.胃の広範囲切除による貯留能の低下や,胃酸分泌の低下ならびに消化液との混合不良等も影響し,様々な栄養素の吸収障害が起こり体重減少をきたす.鉄や葉酸,ビタミンB12欠乏による術後貧血の進行や,カルシウムやビタミンD吸収障害による骨障害等のフォローアップも重要である.貯留能低下による通過速度の上昇により,様々なダンピング症状をきたすこともあり,術後患者のQuality of life(QOL)を著しく損なう可能性があるため,注意が必要である.また近年,胃から分泌され食欲増進に関わるグレリンの経口グレリン作用薬ががん悪液質に対して保険適応となり注目されている.これら様々な要因によって種々の栄養障害をきたすため,消化器がんに対する外科手術の中でも胃切除後は特に術後栄養管理や体重管理が重要である.術後体重減少については,胃全摘術はより高度であり,日常臨床では,がんの根治性を担保しながら,上部胃がんに対する噴門側胃切除や幽門側胃亜全摘術等,出来る限り胃を温存する試みが行われている.体重減少についての詳細な解析も行われており,術直後は筋肉量が主として減少し,その後,脂肪量の減少が術後半年程度まで続くことが報告されている6).近年,低侵襲手術として行われている腹腔鏡下胃切除では,この体重減少が抑制されるとの報告もあるが,開腹手術との差は認めないとの報告が多い7).また,術後合併症をきたすことでこうした体重減少や筋肉減少が顕著になるとの報告もあり,栄養学の観点からも合併症を回避することが極めて重要である.また,Tanakaらは,胃切除後の患者の退院後の術後栄養状態について,通常の退院前の栄養指導群と,術前・術後に加えて退院後1,3,6,12カ月時に栄養指導を加える継続群との比較検討で,継続群で有意に体重減少や骨格筋量減少の抑制が認められ,1年後の総コレステロール値の変化も少なかったと報告している8).一方で,胃全摘術後は前述のように高度の栄養障害に陥る症例も多い.Komatsuらは,胃全摘症例に術中経腸栄養チューブを留置し,退院後も自宅で夜間経腸栄養を利用することで,術後の体重減少や各種栄養関連指標が改善し,補助化学療法の服薬コンプライアンスが良好であったと報告している9)

胃切除後では各種再建方法による栄養状態の差異も報告されている.幽門側胃切除のBillroth-I法再建とRoux-en Y再建についての臨床試験が幾つか報告されているが,食事摂取量や体重減少など両群間で栄養学的な有意な差を認めないとの報告が多い10).一方で,胃切除後貧血について,食物が十二指腸や上部小腸を通過しないBillroth-II法やRoux-en Y法に比較して,生理的経路を通過するBillroth-I法で軽度であるとの報告もあり11),術後の長期フォローアップでは再建方法の違いによる栄養障害の特徴についても熟知した上で栄養管理を行うことが重要である.

術後栄養状態と予後

術後体重減少や除脂肪体重の減少と予後の関連も報告されており,術後体重減少が著しい症例では予後が不良であることが知られている.Aoyamaらの解析では,術後体重減少が15%以上の症例は,15%未満の症例に比較して術後補助化学療法の継続率に有意な差を認め,除脂肪体重減少が5%以上の症例も同様に抗がん剤継続率が不良であり,体重減少や除脂肪体重減少と予後との関連の一因であるとされている12).一方で,韓国の術後補助化学療法の有用性を検討したCLASSIC試験への登録症例における術前・術後のCT検査による各種体組成評価と予後との関連も報告されている.CT検査による骨格筋量,内臓脂肪,皮下脂肪の3因子について各々評価し,一つでも顕著に低下した症例では予後は極めて不良であり,外科手術のみの症例比較でも顕著な予後の差を認めるが,補助化学療法施行群での比較では,予後の差がさらに顕著になっており,補助化学療法の継続率や効果への関与も示唆される結果である13)

周術期栄養介入の意義

前述のように胃切除後の栄養管理は極めて重要であり,術後体重減少や術後早期の筋肉量減少を適切な栄養管理の介入で抑制しようとする試みが行われている.Imamuraらは,胃切除後患者の術後体重減少に対する成分栄養剤1包(300 kcal)/日投与(術後6~8週間)の意義についての多施設共同無作為臨床試験を実施し,栄養剤投与群で有意な体重減少抑制効果を報告している.術式別の検討では,幽門側胃切除術症例では体重減少の差を認めなかったが,胃全摘術症例において栄養剤投与群で顕著な体重減少の抑制を認め,栄養剤投与の意義が確認された14).Kobayashiらも胃切除後の術後3カ月間の経腸栄養剤400 kcal/日の投与意義についての多施設共同前向き試験を実施し,栄養剤の服薬アドヒアランスと体重減少抑制効果に相関を認め報告している15).Miyazakiらは経口栄養補助食品投与(以下,ONSと略)の多施設共同ランダム化比較試験を実施し,体重減少について比較したところ,術後3カ月の体重減少がONS群で有意に少なかったが,1年後には差を認めない結果であった.しかしながら,ONS摂取200 kcal/日群で体重減少の改善は1年後にも認められ16),患者教育や管理栄養士の積極的な関与等,服薬アドヒアランスを上げる努力の重要性を示唆する結果であると考える.これら栄養剤投与が実際に抗がん剤服用率を上げるかの第II相臨床試験も実施され,栄養剤投与による高い抗がん剤服用率も確認されている17).一方で,Aoyamaらは,経口栄養補助剤の術前・術後投与に関する多施設ランダム化比較試験の長期予後についての結果を報告しているが,有意な予後改善効果は認めなかった.しかしながら,術前化学療法実施症例やリンパ節転移陽性症例等では,ハザード比が低い傾向にあり,今後のさらなる検討が待たれるところである18)

最近の話題

近年,携帯型持続血糖モニタリング装置が普及し,簡便に術後患者の血糖モニタリングが可能になってきた.Kubotaらは,70例の胃切除後患者の持続血糖モニタリングを行い,想定以上の日内血糖変動や長い夜間低血糖時間を認めたことを報告している.また,幽門側胃切除術後の52.6%,胃全摘術後の38.5%に食後低血糖を認めるが,これら血糖変動と患者の訴えるダンピング症状との間に相関を認めないことも報告している19).Shodaらは,幽門側胃切除後の再建法別の持続血糖モニタリング結果を報告しており,Roux-en Y法再建で血糖変動が大きく夜間低血糖時間も長いことを報告している20).これら低血糖状態が,ダンピング症状のみならず,近年増加している高齢者胃がん患者における心疾患や認知機能にも影響をおよぼす可能性が示唆されており,これらの知見も考慮した胃がん外科治療を行っていく必要性があると考える.

おわりに

術前・術後の積極的な栄養管理など様々な介入によって,体重減少抑制等の一定の効果は認められるものの,栄養剤の服薬アドヒアランスと体重減少抑制効果の相関が報告されており,医師とメディカルスタッフが協同して患者の服薬アドヒアランスを上げる工夫が重要である.また,さらに細やかな成分栄養剤投与や運動療法の併用の重要性も認識されており21),各施設で様々な試みが行われているのが現状である.これらのチーム医療による栄養管理によって,胃がん患者の長期予後がさらに改善されることが期待される.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2022 Japanese Society for Clinical Nutrition and Metabolism
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