2022 Volume 4 Issue 4-5 Pages 161-165
食道がん手術は高侵襲手術であり,周術期を合併症なく安全に管理するために,多職種によるチーム医療が重要視されている.当院では,より安心・安全な周術期管理に向けて,多職種スタッフから構成される周術期管理チーム(Hamamatsu perioperative care team;以下,HOPEと略)を立ち上げた.これまでHOPE導入により,食道切除術後肺炎の予防,体重減少抑制等の効果が得られた.現在,スタッフ教育の徹底とともに治療日記やwearable fitness tracking deviceなど新たな試みを導入することでHOPEの成熟を図っている.本稿では,本邦における周術期チーム医療の変遷に触れつつ,チーム医療の有用性と今後の目標について考察する.
食道がんはがん死のうち6番目に死亡率の高い予後不良ながんである.本邦における食道がんは組織型の大部分を扁平上皮がんが占めており,食道癌診療ガイドライン2022年版において,切除可能な進行食道扁平上皮がんに対する標準治療は,術前化学療法後の食道亜全摘術である1).食道亜全摘術は頸部,胸部,腹部にまたがる手術が必要になることが多く,侵襲度が高く,術後合併症を高率に経験する.術後合併症は術後栄養障害やQuality of life(以下,QOLと略)の低下をきたすほか,長期予後との関連も示唆されており,合併症予防は未だ大きな課題である2).手術操作において,胸腔鏡手術や縦隔鏡手術,ロボット支援下手術などの低侵襲手術が普及し,術後合併症予防効果が期待されている3).一方,手術療法と化学療法,放射線療法などを組み合わせた集学的治療の有用性が報告されており,その治療過程での栄養状態維持の重要性が提唱されている4).しかしながら,進行食道がんはしばしば通過障害を伴い,著明な体重減少をきたすことがある.また食道亜全摘術後は食事摂取量改善までには期間を要するため,低栄養状態をきたしやすい.
術後迅速な回復を促進するためにEnhanced recovery after surgery(以下,ERASと略)/Fast track surgeryの概念が外科分野に導入され,定着している.ERASプロトコルは欧州臨床栄養代謝学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism;ESPEN)のERAS®グループから提案され,術後回復力を高める項目を集学的に実行することで術後合併症の予防,在院日数短縮,安全性向上を目指すものである.本邦においてもERASの概念は徐々に浸透しており,医師だけではなく歯科医師,看護師,リハビリテーション専門職など多職種のメディカルスタッフから構成される周術期管理チームの重要性が提唱されている.
食道切除術においてもERASの導入による臨床的効果が検討され,呼吸器合併症や縫合不全を減少させ,在院日数を減らすことが示されている5).食道癌診療ガイドライン2022年版において,周術期管理に関しては“周術期管理とクリニカルパス”という項目があり,「CQ29食道癌術前リハビリテーションを行うことを推奨するか?」に対して定性的・定量的システマティックレビューが行われ,「食道癌術後合併症予防のために術前リハビリテーションを弱く推奨する(エビデンスの強さB)」となっている1).このような周術期栄養療法とリハビリテーションは手技や施設の差も大きく,周術期管理チームによる介入が有用と考えられている.本稿では,本邦における周術期管理チームの変遷を交え,当院での周術期管理チームの成績と今後のチーム医療における課題について概説する.
周術期管理チームでは多職種のメディカルスタッフがそれぞれの職種の特徴や長所を活かし,組織横断的に患者情報を共有し,意見を交わしていくことでより安全な周術期管理が期待される.白川らは2008年にPerioperative management center(以下,PERiOと略)を設立し,食道がん患者を対象に術前外来の時点から多職種チーム介入を開始した6).手術が決定した患者は,術前にまず禁煙指導,身体能力と状態の評価,運動指導,歯科部門による口腔ケアなどが行われる.術後は口腔ケアの継続,摂食・嚥下リハビリテーション,呼吸器理学療法,運動療法,基本動作介助を行っている6).PERiO導入後の成績として,食道がん手術患者において,術後歩行開始までの日数が短縮し,術後在院日数も短縮したと報告している.また,術前化学療法における有害事象もPERiO導入後,有意に減少したと報告している4).一方,Watanabeらは2013年にPerioperative team in Cancer Institute Hospital(以下,PeriCanと略)を設立し,術前からの禁酒・禁煙の指導,口腔ケアを行い,術後は早期離床,リハビリテーション,嚥下機能の評価,食事指導を行っている.食道切除術を施行した患者113人を対象にPeriCan前後の短期成績を比較し,術後合併症,特に術後肺炎が顕著に減少したと報告している7).また,術後反回神経麻痺をきたした患者においてもPeriCan導入後は術後肺炎が有意に減少を認めたと報告しており,誤嚥の高リスク患者においても周術期チーム介入の有用性が示唆されている7).
当院ではより一層安全な周術期管理の実践,患者の長期予後改善,長期QOLの向上を目標に,2017年4月,Hamamatsu perioperative care team(以下,HOPEと略)を発足させた8).HOPEは医師,看護師,リハビリテーション専門職,歯科部門などから構成され,nutrition support team,infection control team,palliative care teamとも連携して活動している(図1).HOPEによる周術期介入プログラムを図2に示す.手術が決定した食道がん患者は初回外来受診時からHOPEスタッフの介入を行っている.全例1カ月以上の禁煙,禁酒を指導し,歯科部門による口腔内の評価と口腔ケアを行う8).リハビリテーション専門職により,嚥下機能と基礎体力(歩行速度,握力,膝伸展筋力など)を評価するとともに,心肺運動負荷試験を行い,適切な有酸素運動とレジスタンス運動を指導している.同時に,インセンティブスパイロメーターを用いた呼吸器理学療法を開始し,排痰指導も行っている.また,管理栄養士が患者の食事摂取状況を詳細に聴取し,さらに,上腕周囲径や上腕三頭筋下脂肪厚,上腕筋周囲長,下肢周囲長などの身体測定,Inbody(Tokyo, Japan)を用いた体組成測定を行い,術前の栄養状態の統合的評価を行う8).摂取栄養量が不足している場合には,経口的栄養補助(Oral Nutritional Supplement ;以下,ONSと略)などを使用した栄養サポートを提案している.通過障害が高度である患者に対しては,ONSを主体とした栄養摂取を指導し,経皮内視鏡的胃瘻造設術も積極的に検討するなど,極力腸を介した栄養摂取を試みている.各職種による術前評価は,HOPEカンファレンスで共有され,手術に向けて必要な介入を検討する.2019年以降は,患者により主体的に術前リハビリテーションへ取り組んでもらうため,治療日記を渡し,1日の食事摂取量や運動量・呼吸器リハビリテーションの回数,歯磨きの回数や自覚症状などを記録している.それに加え,wearable fitness tracking device(以下,WFTと略)を装着し,心拍数,歩数,身体活動量,消費カロリー,睡眠時間を記録している9).WFTは身体活動を可視化することで,周術期リハビリテーションへのモチベーション向上も期待される.
術後は疼痛コントロールを行った上で,早期離床を促している.全例で消化管瘻(胃管瘻または空腸瘻)を造設し,手術当日から早期経腸栄養を開始している.経腸栄養は,成分栄養剤の持続投与を10 kcal/hの速度から開始し,腹部症状を観察しつつ,経日的に増加させ,術後第5病日には1,200 kcal/dayの投与を目標としている.必須脂肪酸の欠乏を懸念し,術後第7病日頃からn-3系脂肪酸を豊富に含む半消化態栄養剤に変更している.経口摂取は,通常術後第7病日以降に開始としているが,開始前に全例リハビリテーション専門職により反回神経麻痺と嚥下機能の評価(嚥下造影検査,嚥下内視鏡検査)を行った後,嚥下機能に応じて食事形態を調整し,開始している.また,経口摂取開始に際し,患者の食事摂取体位も指導し,誤嚥なく食事摂取が行えるよう配慮している.経口摂取量に応じて経腸栄養量は漸減していくが,退院時のONSを含む経口摂取量が不足している場合には,退院後自宅での経腸栄養を継続している.退院後もリハビリテーション専門職と連携し,外来受診時のフォローアップを継続している.具体的には,術後1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後に体力測定を行い,身体機能を随時評価する.同時に,管理栄養士が外来栄養カウンセリングを行い,自宅での栄養摂取状況を評価し,生活様式に併せた経口摂取,ONS製剤の紹介,経腸栄養管理指導を行っている8).治療日記とWFTは介入開始時から退院1カ月後まで使用している9).
HOPE導入が術後合併症に与えた影響を評価するために,2014年から2018年に浜松医科大学医学部附属病院で胸部食道亜全摘,胃管再建術を行った食道がん,食道胃接合部がんの患者125人を対象にHOPE前群(n = 62)とHOPE群(n = 63)に分け,術後短期成績,栄養指標の変化を比較した8).術後合併症の検討では,Clavien-Dindo(以下,C-Dと略)分類Grade II以上の心房細動発生率がHOPE群で有意に少なく(HOPE前群19.0% vs. HOPE群6.0%,p = 0.027),C-D分類Grade II以上の術後肺炎の発症率もHOPE群で有意に低かった(HOPE前群29.0% vs. HOPE群14.0%,p = 0.037)(表1)8).肺炎の発症時期で分けると,食事開始前の肺炎発症率は両群で差を認めなかったが,食事開始後の肺炎発症率がHOPE群で有意に減少した(HOPE前群16.0% vs. HOPE群3.0%,p = 0.012)(表1)8).続いて,術前と手術1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の体重減少率を両群で比較したところ,HOPE群で有意に体重減少率が小さかった8).さらに,術前と手術4~6カ月後時点で撮影されたCTから腸腰筋指数を測定したところ,HOPE群で有意に減少率が小さかった8).
合併症 (Clavien-Dindo分類) |
HOPE前群 n = 62 |
HOPE群 n = 63 |
p値 |
---|---|---|---|
心房細動(≥Grade II) | 12(19.0%) | 4(6.0%) | 0.027 |
肺炎(≥Grade II) | 18(29.0%) | 9(14.0%) | 0.037 |
食事開始前発生の肺炎 | 8(13.0%) | 7(11.0%) | 0.368 |
食事開始後発生の肺炎 | 10(16.0%) | 2(3.0%) | 0.012 |
また,治療日記とWFTの装着効果を検討するために,2019年から2021年の間に食道亜全摘術を施行した患者94人から傾向スコアマッチングで共変量を調整した62人を対象に,WFT群(n = 31)とnon-WFT群(n = 31)を比較した9).WFT装着率は平均91.8%であった.C-D分類Grade II以上の術後総合併症発生率は,WFT群で有意に低く,特にC-D分類Grade II以上の術後肺炎がWFT群で有意に低かった(WFT群16.1% vs. Non-WFT群38.7%,p = 0.043)(表2)9).術後入院期間もWFT群で有意に短縮された(中央値,WFT群22日vs. Non-WFT群29日,p = 0.012).術後1カ月時点の栄養指標において,血清アルブミン値(中央値,WFT群3.9 g/dL vs. Non-WFT群3.6 g/dL,p = 0.013),血清トランスサイレチン値(中央値,WFT群24.4 g/dL vs. Non-WFT群19.4 g/dL,p = 0.001),prognostic nutritional index10)(中央値,WFT群46.2 vs. Non-WFT群42.6,p = 0.034)がWFT群で有意に高値であった(表2)9).現在,我々は当院独自の術前短期栄養運動療法プログラム(Preoperative short-term program for nutrition and exercise trial;STEP-NEXT)が食道切除術後の栄養状態,身体機能改善に与える影響を検討する無作為化非盲検比較対照試験を実施中である.
WFT群 n = 31 |
Non-WFT群 n = 31 |
p値 | |
---|---|---|---|
術後合併症全体(≥Grade II) | 5(16.1%) | 12(38.7%) | 0.043 |
肺炎(≥Grade II) | 0(0.0%) | 7(22.6%) | 0.005 |
術後在院日数,日† | 22(20–29) | 29(24–36) | 0.012 |
術後1カ月時血清アルブミン値(g/dL)* | 3.9(3.6–4.1) | 3.6(3.2–3.9) | 0.013 |
術後1カ月時血清トランスサイレチン値(g/dL)* | 24.4(21.5–26.0) | 19.4(15.0–22.9) | 0.001 |
術後1カ月時PNI† | 46.2(40.8–49.7) | 42.6(37.8–45.9) | 0.034 |
続いて,2017年のHOPE発足から2020年までの期間において,食道亜全摘術および胃管再建術を施行した患者144例を2019年5月で前期群(n = 80)と後期群(n = 64)に分け,栄養状態の推移を比較した.C-D分類Grade II以上の術後肺炎は,後期群で発生率が低下していた(HOPE前期群16.3% vs. HOPE後期群7.8%,p < 0.01)(表3).術後1カ月時点での体重減少率も,後期群でより減少率が小さかった(中央値,前期群–6.3% vs. 後期群–5.8%)(図3).このようにHOPE発足後も経時的に術後成績ならびに栄養状態が改善した背景には,他部門のメディカルスタッフとのカンファレンスを重ねていく中での,それぞれの専門性に対する相互理解の深まり,予防的整腸剤使用や経管栄養プロトコルの確立,嚥下評価に基づいた個別化食事開始プログラムによる誤嚥予防,治療日記やWFT使用による患者モチベーションの向上などが存在していると考えられる.
合併症 (Clavien-Dindo分類) |
前期群 n = 80 |
後期群 n = 64 |
p値 |
---|---|---|---|
肺炎(≥Grade II) | 13(16.3%) | 5(7.8%) | <0.01 |
今後,高齢化が進み,高齢食道がん患者が手術を受ける機会が増加することが想定される.高齢者は周術期の栄養状態やQOLの低下が大きく,術後身体機能の回復が困難であり,時間を要する.今後は術前,術中,術後退院までの安全な管理に加え,長期的なQOL回復を目指した取り組みも重要であり,回復期,さらに遠隔期の社会復帰を支える働きがチーム医療にも求められると考える.
本論文に関する著者の利益相反なし