2023 Volume 5 Issue 5 Pages 161-165
我々はnutrition support team(以下,NSTと略)に関する知識を多職種で学び,共に高め合うことを目標にオンラインでのNST勉強会を実施してきた.今回参加者へアンケートを実施し,有効性と課題点について検証をした.まずオンライン開催のメリットとして,プライベートを優先しつつ現地に赴かず気軽に参加できる点があげられた.デメリットでは,Webシステムの操作や電波環境などの機器的なトラブル,対面形式と比較したコミュニケーションのとりづらさが指摘された.また勉強会の難易度として,時に専門性が高く難しいとの意見があったが,実務経験年数の異なる多職種を対象にしていることからも,参加者の多様性に配慮した運営体制の整備が重要と考えられた.またアンケートではアーカイブ配信の要望が非常に多く,現在はセキュリティの問題に注意し,希望者に限定し事後配信している.今後も参加者の声を取り入れながら,規模を拡大し地域NSTのレベル向上に努めていきたい.
患者に良質な医療を提供するためには多職種の連携が不可欠であり,近年interprofessional education(以下,IPEと略)の重要性が報告されている1).IPEは「複数の領域の専門職が連携しケアの質を向上させるために,同じ場所で共に学び,互いに学び合い,そして互いを高め合うこと」と定義されるが2),国内では歴史が浅くその認知度の低さや,多職種間のスケジュール調整の煩雑さなどを理由に十分な普及に至っていない.加えて昨今の新型コロナウイルスの流行により,医療現場でも「三密(密閉・密集・密接)」の回避,ソーシャルディスタンスの保持が唱えられ,従来の対面でのカンファレンス,勉強会などの頻度は激減した.それらの問題に対応すべく我々はZoomを用いたオンライン勉強会を開催し,多職種がコミュニケーションをとり,共に学び合うことでnutrition support team(以下,NSTと略)に関する知識レベルの向上を図っている.コロナ禍より実施してきた当院NSTのオンライン勉強会の概要を紹介すると共に,勉強会の参加者を対象にアンケート調査を実施しオンライン勉強会の有用性,課題点について検討したため,今後の展望を加え報告する.
1. オンライン多職種勉強会の概要当院NSTにおける多職種合同のオンライン勉強会は,日本臨床栄養代謝学会の認定するNST認定医1名,NST専門療法士1名,臨床業務に従事する実務経験5~6年目の管理栄養士2名が主体となり運営している.2022年7月に第1回を開催し,隔週の頻度で開催している.開催時間は平日の業務終了後,夕方より1時間程度とし,オンライン勉強会の数日前にメールでその概要を告知すると共に参加用URLを送付している.当日は運営側の1名が司会を担当し,発表者が30分程度スライドを用いて講義を行う.その後,質疑応答を行い,テーマに関し多職種で討論をする.最後にテーマに関する重要項目をまとめた追加スライドを解説し終了となる.なお個人情報保護の対策としては,発表予定スライドを3日前までに事務局が受け取り,内容を確認・修正することで,患者個人情報の匿名化を徹底している(表1).発表者は挙手制でこれまで医師,薬剤師,臨床検査技師,管理栄養士が担当している.テーマに関する制限はなく,経験症例の報告,治療上の問題点・改善策などをガイドラインや文献的な考察を踏まえ発表,討論する場とした.時に抄読会の形式を取ることもあった.勉強会のテーマ,発表者,参加人数の推移を表2に示す.第1回は,医師2名,薬剤師2名,臨床検査技師1名,管理栄養士2名の少人数で試験的に開催したが,その後勉強会の評判が広がり,他のスタッフから参加を希望する声が強く上がった.第2回より正式にZoom配信を導入し,院内の多職種も参加した.第12回からは,当院主催のNST専門療法士資格取得のための臨床実地修練を受講した外部施設の実習生も参加している.
アンケート調査は,2023年6月9日~6月13日にGoogleフォームを取り入れたwebアンケートを用い実施した.対象は2022年7月から2023年4月までにオンライン勉強会に参加した51名(院内47名,院外4名)とした.回答者には集計結果を学会発表や論文執筆に利用することを説明し,アンケートの回答を通して同意を得たものとした.本調査は,竹田綜合病院倫理審査委員会の承認を受けて行った.
アンケートは調査期間内に全員(回収率:100%)から回答が得られた.そのうち1名の回答に記入不備があったため,有効回答は50名(有効回答率:98.0%)とした.性比は男性13名,女性37名と女性の割合が高く,20代の参加者が最も多かった(図1).参加した専門職種は,全8職種で管理栄養士が28名(56.0%)と半数を占めていた(図2).参加者の実務経験年数は1~34年と幅があり,そのうち1~5年目が21名(42.0%)と多かった(図3).オンライン勉強会の満足度は5段階評価で「満足」,「やや満足」が9割以上を占めていた(図4).勉強会の内容に関しては「一つのテーマを多職種の視点で学べる」,「内容が難しかった」等の意見がみられた(表3).オンラインシステム(Zoom)で勉強会に参加経験のあるものは50名中38名(76.0%)で,そのうち7名(18.4%)は視聴中に何らかの不具合を経験していた.勉強会をオンライン開催するメリットとしては,自宅から容易に視聴可能であるという意見が多く,デメリットには機器操作の不慣れ・通信環境の問題でスムーズに視聴できない,コミュニケーションが取りづらいといった意見が挙げられた(表4).また今後の運営に関する要望として,アーカイブ配信の実施や過去発表を担当していない職種(看護師など)の発表者への採用を希望する声があった(表5).
(満足,やや満足,どちらでもない,やや不満足,不満足の5段階で評価した.)
肯定的な意見 |
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興味のある内容が多い |
講義内容が分かりやすい |
最新の情報を得られる |
実臨床に応用できる内容が多い |
多職種の視点で討論し学ぶことができる |
否定的な意見 |
内容が難しい時がある |
開始時間に間に合わず全てを視聴できない時がある |
メリット |
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シフト勤務(休日)でも自宅から参加できる |
自宅で気軽に視聴できる(家事,育児をしながら) |
デメリット |
機器の操作が難しい |
通信環境が不安定でスムーズに視聴できない場合がある |
コミュニケーションが取りづらい |
モバイル端末で視聴したため,スライドが小さく見えづらかった |
要望 |
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アーカイブ配信の実施 |
他職種の発表者への採用 |
外部施設からの症例提示 |
2020年1月から始まった新型コロナウイルスの感染拡大により医療現場においても様々な制限が課せられ,中でも従来の対面形式での学術集会,勉強会の多くは中止を余儀なくされた.その影響はNST領域でも同様で,コロナ禍において国内の約80%の施設でNST勉強会が実施されなかったとの調査報告もある3).我々はコロナ禍において多職種を対象にZoomを利用したNST勉強会を実施してきたが,今回のアンケート調査からはオンライン開催特有のメリット,デメリットが明らかとなった.
まずメリットに関しては,家事や育児中のスタッフが自宅から参加できる,アクセスの容易さが挙げられる.実際の参加者には家庭を持つ女性スタッフも多く,場所を選ばない参加形式は非常に好評であった.この利点は伊藤ら4)も指摘しており,対面式と比較しオンライン形式の勉強会では女性の参加割合が増加したと報告している.また看護師など,シフト体制の職種からは,休日でも現地に赴かず参加できるその気軽さが好評であった.
次にデメリットに関しては,Webシステムの操作方法や電波環境といった機器的なトラブルが多く挙げられた.これらの問題は参加者のシステムへの習熟や通信環境の整備により改善が見込まれるが,視聴場所に関しては,周囲の目線にも配慮し情報漏洩が起きないよう十分注意する必要がある4).その他のデメリットとして,勉強会中のコミュニケーションのとりづらさが指摘されたが,これは参加者間のコミュニケーションに加え,発表者-参加者間の視点からも問題があると想定される.事実,多くの参加者はオンライン勉強会に「顔出しなし」の状態で参加しており,発表者は参加者の理解度や視聴状況を判断できない.参加者の顔が見えず交流がもてない状況は,発表者のモチベーションを低下させると報告されており5),実際に我々が主催する勉強会でも開催当初,質疑応答時には「顔出しあり」の状態で討論を希望する声が発表者より挙げられた.現在は質疑応答や討論の時間を長く確保し,参加者全員に発言の機会を設けるとともに,質疑応答時には司会者が声かけし顔出し参加を促している.
また勉強会の内容に関しては「専門性が高く,理解が難しい時があった」と難易度に関する意見が挙げられた.これは専門性の異なる多職種が参加していること,実務経験年数の違いなどが要因と考えられる.勉強会内容のレベル設定に関してはこれまでも問題視されており4),参加者全員にとって有益な会とすることは容易ではない.この点については現在オンライン勉強会の運営チームを設立し,発表予定のスライドを4名のメンバーで事前に確認,補足・追加スライドを作成することで,初学者や専門外の内容であっても理解が容易となるように工夫している.
最後に今後の展望であるが,アンケートの自由記載欄にはアーカイブ配信を希望する声が非常に多かった.他にも,仕事(残業含む)のため勉強会の開始時間に間に合わないという指摘があることからも,アーカイブ配信の整備は参加者のさらなる満足度増加につながると考えられた.勉強会のアーカイブ配信を実施している施設では,セキュリティの懸念から視聴対象者を院内限定とする報告もあるが6),Zoomの場合パスコードを用いることで視聴者を管理,制限することができるため,我々は施設を限定せず希望者に対し個別対応し,2023年6月よりアーカイブ配信を実施している.またアンケートへの記載はなかったが,他施設の参加者からはNST活動の疑問点,問題点を持ち寄るQ & A形式の座談会開催を希望する声も見られる.各施設で抱える悩みを,複数施設の多職種の視点で議論し解決策を模索する試みはIPEの理念にも通じ,勉強会の新しいコンテンツとして現在実施を検討している.今後も参加者の多様性に配慮し,意見を取り入れながらオンライン勉強会を継続開催していきたい.
当院で実施しているNSTオンライン勉強会について報告した.アンケート調査からオンライン開催特有の利点,欠点が明らかとなったが,参加者の満足度は高く,有用な取り組みと考えられた.また運営チームを設立し,参加者の多様性に配慮する工夫も満足度の増加につながったと思われる.今後もさらに勉強会の規模を拡大し地域のNST教育,質の向上に努めていきたい.
本論文の一部は第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会(2023年)で発表した.
本研究に際しアンケート調査にご協力いただいた福島県内医療関係者の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます.
本論文に関する著者の利益相反なし