Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
REVIEW ARTICLE
Improvement of feeding and nutrition by surgical treatment for patients with aspiration pneumonia with sarcopenia: Sharing information using a treatment image graph
Masaya UchidaSatoshi IkawaHiroko YamashitaMakiko YamaguchiKyoko HukudaTakuma KazaokaNaomi IshidaManami ObaraHiroaki NakanishiYuko Ishibashi
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2024 Volume 6 Issue 1 Pages 17-22

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Abstract

本邦では多くの患者が誤嚥性肺炎でなくなる.一般的に高齢者の誤嚥性肺炎は加齢,活動性の低下といったフレイルの状態から,徐々に介護期・終末期に移行し,終末期ともなると患者の経口摂食に対する要求を満たすことは困難となる.

本論では介護期・終末期における誤嚥性肺炎患者の摂食への要求に対して,手術を含めた栄養改善療法の意義について考察し,この時期における適切な治療の方向性を共有するため,その栄養療法の選択と予後についてのイメージグラフを作成した.

また,終末期誤嚥性肺炎に対する外科的治療の適応は未確立だが,有効例を挙げて考察を加えた.症例は77歳,男性,脳梗塞後の脳血管性パーキンソニズムで,サルコペニアによる嚥下障害にて繰り返す誤嚥性肺炎を認めた.当科への転院時,体重30 kgを下回り,Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus(MRSA)肺炎となっていたが,誤嚥防止術として声門下喉頭閉鎖術を施行し,患者の望むカレーライスの摂食が可能となった.

はじめに

人生100年時代といわれ価値観の多様化した現在,終末期の誤嚥性肺炎であっても前向きな治療への要求は少なくない.これは食に対する価値観を重視する国民性が関係しているとも考えられる.しかし終末期では,成人肺炎診療ガイドラインが示すようにQuality of Life(以下,QOLと略)を重視した看取りの医療が勧められており1),「口から食べること」を安心して楽しむことは難しいのが実情である.

一方,近年神経難病などの重症嚥下障害患者にたいする外科的治療として,各種の低侵襲な誤嚥防止術が開発され,誤嚥防止と摂食の再獲得に効果を認めているが,終末期誤嚥性肺炎患者についての適応は確立していない.

当科では看取りの医療へ移行することに納得できない患者の摂食への要求に応えるため,誤嚥性肺炎における前向きな治療プランを常に検討している.誤嚥性肺炎患者の栄養障害は嚥下機能低下と併存しており,リハビリテーション栄養療法(以下,リハ栄養療法と略)を勧める一方で,リハ栄養療法での回復が見込めない患者に,低侵襲な手術による経口摂食と栄養改善を提案している.

今回,サルコペニアの終末期誤嚥性肺炎患者の治療例を提示し,介護期・終末期誤嚥性肺炎患者治療のイメージグラフを作成,こういった患者に対する外科的治療を含めた栄養治療戦略について考察した.なお,本論文の内容に関しては,京都第二赤十字病院臨床研究審査委員会(Sp2023-04)の承認を得ている.

終末期誤嚥性肺炎への対応の現状

現在,終末期の誤嚥性肺炎の栄養療法は未確立であり,現行の肺炎ガイドライン1)においても栄養改善についての言及はない.介護期・終末期誤嚥性肺炎の治療を考えるとき,患者の背景にあるサルコペニアと嚥下障害へのアプローチがより本質的な治療につながると考えられ,誤嚥性肺炎に対する抗菌剤治療はむしろ補助的な役割にすぎないといえる.

誤嚥性肺炎におけるサルコペニアの重要性に関する報告は多く2),サルコペニアの予防が,摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎の予防につながることが報告されている3).特に,終末期の前段階である介護期やフレイルの時期であれば,早期の対応としてレジスタンス運動と栄養療法を組み合わせたリハ栄養療法を行うことが,サルコペニアを予防し,嚥下機能を維持するのに望ましいとされる4)

しかし,終末期ともなるとリハ栄養療法の効果は薄れ,経管栄養が行われても,注入量の増加に伴って消化管分泌物も増加し,逆流や誤嚥を起こすため栄養摂取量を増やせない.この状況でレジスタンス運動を加えると,異化反応により体内の蛋白質が利用されるため,筋肉量は減少し,疲労と無力感が残るのみとなる.

最終的には多職種カンファレンスにおいて終末期であることを共有し,看取りの医療を含めた多様な選択肢について検討する必要がある.終末期における治療方針の決定には,臨床倫理的な考え方が必要であるとされており,臨床倫理の4分割表の活用や5)患者とのコミュニケーションとしてShared Decision Making(以下,SDMと略)といわれる双方向性の対話方式の手法を用いて合意形成を行っていくことが推奨される6).すなわち,患者の背景,人生観や価値観といった視点から治療選択肢とその結果を照らし合わせ,患者にとって何が重要な臨床的価値(自宅退院,誤嚥の完全防止,経口摂食,音声保持,吸引処置の減少,自宅介護,チューブフリー,介護負担軽減,など)なのかを,繰り返す対話の中から見つけていく努力がSDMであり,終末期医療において望まれる方法である.

患者の希望を叶える外科的治療の選択と適応

終末期医療を担うものとしては看取りの医療のみならず,誤嚥を完全に防止できる外科的治療の存在を認識し,情報提供できることが望ましい.

誤嚥防止術は脳性麻痺や神経筋疾患などの重症嚥下障害患者において行われることが多く,嚥下障害診療ガイドライン2018による手術適応は,①誤嚥による嚥下性肺炎の反復,②嚥下機能の回復困難,③発声機能の高度障害,④発声機能喪失に対する同意,等の項目が挙げられている7).本例についてもこの適応に合致するが,サルコペニアによる誤嚥性肺炎を含め,終末期患者への適応についての結論は出ていない.現状では,医学的事項のみならず患者の意向もしくは推定意思を中心にすえ,臨床倫理的問題を含め,多職種カンファレンスにて手術の是非を含めた検討を行い,その過程をカルテに記載することが,手術適応基準として追加すべき条件であると考える.

誤嚥防止術後には誤嚥は完全に防止され,全身状態の改善と経口摂食が期待できるため,術後の患者満足度調査ではほとんどの患者・家族が高い満足度であったと報告されている8).摂食の再獲得が生きる希望となってQOLの向上につながったとされる症例報告もあり9),手術で得られる臨床的価値は少なくない.ただし,術後の摂食機能については個人の持つ疾患の状況や,術前の嚥下機能によるところが多く,また術後いったん摂食可能になっても,いずれは再度機能低下をきたす.それでも患者のQOLと満足度を考慮すると,終末期医療の最後の砦として,この外科的治療の選択肢を無視することはできない.

介護期・終末期誤嚥性肺炎患者の治療イメージグラフ

介護期・終末期誤嚥性肺炎患者に対する,各栄養療法の適切な介入時期や治療効果をイメージグラフ化すると,カンファレンス等での情報共有に利用できる.時間経過を横軸,患者の重症度やつらさが縦軸に示され,自然経過では右上がりのグラフとなる(図1A).フレイル期の嚥下障害は軽度で自覚症状に乏しいが,サルコペニアの予防として最も重要な時期であり10,11),この時期のリハ栄養療法は効果が高いと考えられている(図1B①).介護期ではリハ栄養療法は必須で,摂食・嚥下機能低下の予防や機能改善によって,摂食期間や寿命の延長を期待できると考えられる(図1B②).

図1.誤嚥性肺炎のイメージグラフ

A:自然経過,×は死亡を示す

B:リハ栄養療法 ▲は介入開始を示す ①フレイル期での介入 ②介護期での介入 ③終末期での介入

C:看取りの医療の介入

D:外科的治療の介入

誤嚥性肺炎の終末期は悪性腫瘍と異なりその判断が難しく,未だ判断基準もみあたらない.我々は,適切な対応を行っても主な摂取を経管栄養に頼らざるを得ない患者において,必要栄養量や水分量の投与が十分できずに肺炎をきたす場合,これを臨床的に誤嚥性肺炎終末期と考えている.終末期では積極的な栄養療法3)やリハ栄養療法の効果は乏しく,逆に患者のQOLを下げることになりかねない(図1B③).そのため看取りの医療が勧められる.看取り期には患者の意向と嚥下機能に見合った,楽しみ程度の摂取ができるように援助すると同時に,水分,エネルギー量ともに徐々に減らすことで,患者の苦痛は緩和されていくことが知られている12)(図1C).

終末期の新たな方針として誤嚥防止術による経口摂食の再獲得を考える場合は,術後のリフィーディング症候群や腸管免疫の低下,吸収障害などのリスクを減らすため,手術までの間は少量でも経腸栄養を維持しておくことが望ましい.術後合併症のリスクの少ない低侵襲な術式を選択して,早期に栄養療法を再開する.術後1週間目の嚥下造影検査にて誤嚥の完全防止が確認できれば,速やかに経口摂食訓練が開始され,おのおのの嚥下機能に見合った食事が可能となっていく(図1D).

誤嚥防止術が施行された終末期誤嚥性肺炎患者の経過

本例は脳梗塞発症後,後遺症期のフレイル状態からサルコペニアに移行した患者で,嚥下障害が進行し誤嚥性肺炎を繰り返していた.よく見かける終末期誤嚥性肺炎患者ではあるが,本人と家族の強い要望から当院へ紹介された.

77歳,男性

主訴:摂食困難

現病歴:X年3月から誤嚥性肺炎を繰り返し,リハビリテーション病院に入院中,るい痩(体重30.1 kg),摂食困難と栄養改善を主訴に当院へ紹介された.転院までの1カ月間は,前病院でリハ栄養療法を行ったが効果はなく,逆に体重が約3 kg減少し,リハビリテーションは不可能な状態,すなわち藤島の摂食嚥下レベル(Food Intake LEVEL Scale;以下,FILSと略)1であった.湿性嗄声が著明で,喀出困難のため頻回の吸引を要した.喀痰からはMethicillin-Resistant Staphylococcus Aureus(以下,MRSAと略)が検出されており,バンコマイシン投与中であった.胸部単純レントゲンにて右肺下葉には肺炎像(図2A)を認めた.

図2.胸部X線画像の変化

A:術前2日

B:術後3週間目

既往歴:脳梗塞 脳血管性パーキンソニズム

身体所見:身長162 cm,体重26.9 kgでBody Mass Index 10.3.上腕周囲長は17.5 cm.寝たきり,全介助の状態であった.

認知機能:軽度低下はあるが,意思確認は可能であった.

音声機能:単語レベルの発声可能で,返事程度は可能であった.

摂食・栄養状態:絶飲食で経鼻栄養と中心静脈栄養の併用,分泌物増加で誤嚥が助長されるため経鼻栄養は中止されていた.

嚥下内視鏡検査:嚥下惹起はあるものの,咳反射は極めて不良,不顕性誤嚥,咽頭クリアランス不良を認め,Hyoudo-Komaganeスコアで8点であった.

嚥下造影検査:喉頭挙上はあるが下垂が著しく,咽頭クリアランスは不良,不顕性誤嚥を認め,重症の嚥下障害であり,藤島の嚥下摂食グレード10段階のうちの藤島グレード3と判断した.

血液検査所見:WBC 5,310/μL(Lym 39%)Alb 1.8 g/dL CRP 2.56 mg/dL

家族背景:息子が看護師として急性期病院勤務

経過:多職種嚥下カンファレンスおよび患者,家族との面談を施行し,手術および保存的治療について検討した.本人は『もう一度カレーが食べたい』と摂食意欲は強く,このままでは看取りの医療に移行すること(終末期であること),一方では手術リスク(肺炎,MRSA感染状態,低栄養)や発声機能を喪失することについても理解されていた.最終的には,ご本人が声と摂食との価値を熟考されたうえで,嚥下機能改善型声門下喉頭閉鎖術13,14)(図3)を選択された.

図3.嚥下機能改善型声門下喉頭閉鎖術(文献14から改変)

A:前頸部のU字型皮膚切開線

B:嚥下機能改善のため,輪状咽頭筋,舌骨下筋群の切除を施行する

C:声門下レベルの喉頭粘膜を巾着縫合にて閉鎖

D:安定した永久気管孔を形成され,カニューレは不要になる

術後経過:術後約2週目に嚥下造影検査を行った.嚥下時,造影剤は開大した食道入口部をスムーズに通過し,誤嚥は完全に防止されていた(図4A).嚥下後は,喉頭内に貯留した造影剤も次の嚥下でクリアされ,良好な咽頭クリアランスを示した(図4B).この時点では筋力回復が不十分で,疲労による摂食困難を認めていたが,術後3週目には肺炎像も改善し(図2B),流動食の嚥下が可能となった.術後4週目の転院時には,粥食ハーフをほぼ全量摂取され,希望のカレーを食べることができた(図5).術後2カ月目では療養先病院で全粥食を全量摂取,すなわちFILS7以上に改善,チューブフリーで過ごされており,伝達は口パクや指差しなどで行われていた.

図4.術後嚥下造影検査

A:嚥下時,造影剤は開大した食道入口部をスムーズに通過し,誤嚥は完全に防止されている

B:嚥下後,喉頭内に貯留した造影剤は洗い流され,咽頭クリアランスは良好

図5.退院時所見

サルコペニアによる誤嚥性肺炎に望ましい術式

各種の誤嚥防止術があるなかで15),サルコペニアによる誤嚥性肺炎に対し選択すべき術式は,近年報告が増えている低侵襲な術式が望ましい.中でも当科で開発した嚥下機能改善型声門下喉頭閉鎖術13)は,摂食に有利な嚥下機能改善術を追加している点や,薄く脆弱な声門部ではなく,分厚い声門下部で縫合するため,縫合不全を起こしにくい点が他の誤嚥防止術との相違点であり,声帯自体を損傷しない点でも推奨できる.これまで実施した全90例以上の声門下喉頭閉鎖術では,全身状態,栄養状態など外科手術自体が厳しい状況の患者が多いなか,縫合不全による再手術など,重篤な合併症は認めていない.一方で,耳鼻咽喉科においてもこの種の手術を常時行っている施設は限られており,手術可能な病院との連携を構築して,術前からの情報共有,適応判断,術後フォローなどの質を高めていくことが重要であると考えられる.

本術式を含め,誤嚥防止術全般には音声機能を喪失するデメリットがあるため,患者の声に対する臨床的価値を見極める必要がある.この時期に患者が求める臨床的価値は人さまざまであり,手術によって『声』を引き換えにする臨床的価値がどの程度あるかが焦点になる.さらに,『声』にこだわる場合,音声機能を温存できる2つの特殊な術式16,17)が残されている.いずれの術式も手術難易度が高く,経験のある施設は少ない.当科ではその1つ,喉頭蓋管形成術16)を嚥下機能改善術と組み合わせて行い,音声機能温存と嚥下機能改善の両立を目指す場合もある.しかし,喉頭蓋管形成術は誤嚥防止については不完全な術式であり,形成された管の形状や,患者の体位によって少量の液体誤嚥が残存する.病状の進行や時間の経過とともに誤嚥量が増加し,最終的に完全な喉頭閉鎖を必要とすることがあるため適応は慎重に判断する必要がある.

結語

介護期・終末期の誤嚥性肺炎における栄養療法では,患者の状態が現在どの時期にあるかを見極めることが重要で,イメージグラフにて適切な栄養療法とその時期を理解・共有することが望ましい.また,終末期における外科的治療は,患者の価値観を中心に据えたQOLと栄養改善のための最後の砦として意義があると思われるが,その成功には多職種カンファレンス,SDMによる合意形成,適切な術式選択,さらには各種医療機関の連携が重要であると考えられた.

 

本論文の要旨は,第38回日本臨床栄養代謝学会(神戸)にて発表した.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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