Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
RESERCH REPORT
Relationship between the number of puncture times and selection of catheter inserted vessels in echo-guided peripherally inserted central catheterization
Masayoshi KunishimaAkiko TakedaYasumasa Iwasaki
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 6 Issue 2 Pages 103-106

Details
Abstract

【目的】末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally Inserted Central Catheters:以下,PICCと略)挿入手技であるエコーガイド下での血管穿刺において,血管穿刺回数とPICC挿入血管の関係を明らかにすることを目的とした.

【方法】血管穿刺回数では,血管穿刺が1回だった症例を単回穿刺とし,2回以上の症例を複数回穿刺とした.血管穿刺の関連要因は性別,穿刺血管,血管径,血管の深さとし,t検定,χ2検定およびロジステック回帰分析を用いて解析した.

【結果】対象507症例中,単回穿刺425症例,複数回穿刺82症例であった.単変量解析では穿刺血管と血管径で有意差を認め,ロジステック回帰分析において,上腕静脈より尺側皮静脈の方が単回穿刺であった.また,血管径では6 mm以上が単回穿刺であった.

【結論】PICC挿入におけるエコーガイド下血管穿刺では,血管径が太い血管を第一選択とし,尺側皮静脈と上腕静脈が同程度の血管径であれば尺側皮静脈を選択すると単回穿刺で行いやすい.

緒言

末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally Inserted Central Catheters;以下,PICCと略)は腕の静脈から挿入されるため,致死的な合併症は起こらないとされている1).また,2017年に報告された日本医療安全調査機構の中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析では,中心静脈穿刺は致死的合併症が起こりうる手技であり,致死的合併症が起こらないPICCへの代替えが提言されている.PICC挿入は,指定研修を修了した看護師が看護師特定行為として行えるようになり,医師の業務負担軽減に繋がる手技の一つである.

PICC挿入は上腕から挿入され,穿刺血管は尺側皮静脈,上腕静脈および橈骨皮静脈が選択される.解剖学的に尺側皮静脈と上腕静脈は,末梢血管の中では比較的深い位置に存在し,肉眼的に血管を確認することが難しいため,エコーガイド下での血管穿刺となる.血管穿刺回数が3回以上になると機械的合併症の発生率は6倍になると報告されている2).そのため,血管穿刺は可能な限り低侵襲で行うべき手技であり,エコーガイド下での血管穿刺技術の習得や適切な血管の選択が重要となる.

当院では,診療看護師2名がPICC挿入を行っている.PICC挿入手技におけるエコーガイド下での血管穿刺方法に関するガイドラインはなく,医療機器メーカー主導による血管穿刺方法を実践し,術者の技量に依存しているのが現状であると思われる.そのため,今回エコーガイド下でのPICC挿入における血管穿刺回数と,PICC挿入血管の関係を明らかにすることを目的とした.

方法

2017年5月から2018年12月末までに診療看護師がエコーガイド下でPICCを挿入した患者を対象とした.エコーの走査方法は全例短軸像にて行い,PICCの血管穿刺で用いる穿刺針は,22Gか20Gの静脈留置針を用いた.

調査期間中にPICC挿入を行った症例は682症例であった.その中で,診療看護師がPICC挿入を行った症例は574症例で,医師(初期研修医を含む)が行ったのは108症例であった.診療看護師がPICC挿入を行った574症例において,血管穿刺回数を集計した症例507件を対象とした.

血管穿刺に関連する因子として,性別,穿刺血管の種類,駆血時の血管径および皮膚表面から垂直に血管壁までの距離(以下,血管の深さ)とした.血管穿刺に関して,1度目の血管穿刺でPICC留置が可能であった症例を単回穿刺とし,PICC留置までに血管穿刺を2回以上必要とした症例を複数回穿刺とした.血管径では3 mm未満,3 mm~6 mm未満,6 mm以上に分類し,血管の深さでは4 mm未満,4 mm以上に分類した.穿刺血管は上腕静脈,尺側皮静脈であった.血管穿刺に関連する因子の内訳と複数回穿刺の頻度についてを表1に示す.

表1.患者背景と複数回穿刺の頻度

症例数 複数回穿刺(%)
性別 男性 316 15.8
女性 191 16.8
穿刺血管 上腕静脈 259 22.0
尺側皮静脈 248 10.1
血管径 3 mm未満  15 40.0
3~6 mm 422 16.4
6 mm以上 70 10.0
血管の深さ 4 mm未満  94 17.0
4 mm以上 413 16.0

n = 507

各検討において,2群間の平均の比較ではt検定を用い,割合の比較にはχ2検定を用いて単変量解析を行い,次いでロジステック回帰分析による多変量解析を行い,オッズ比を算出した.統計ソフトはJMP12.2.0を使用し,有意水準はp < 0.05とした.

本研究は,医学的研究における倫理的問題に関する見解および勧告に遵守し,呉医療センター倫理審査委員会の承認(承認番号2022-25)を受けて実施している.

結果

血管穿刺において,507症例中425症例(83.8%)が単回穿刺であり,82症例(16.2%)が複数回穿刺であった.PICC挿入症例の中で,PICCが挿入できなかった症例はなかった.

単変量解析にて,単回穿刺と複数回穿刺の2群間で,性別では有意差を認めなかった.穿刺血管では,上腕静脈と比較して有意(p ≤ 0.01)に尺側皮静脈の方が単回穿刺が多かった.また,血管径では有意(p = 0.01)に血管径が太いほうが単回穿刺が多かった.穿刺血管と皮膚表面からの深さとの関係においては有意差を認めなかった(表2).

表2.血管穿刺と関連要因の単変量解析

単回穿刺 複数回穿刺 p
対象数 頻度(%) 対象数 頻度(%)
性別*  男性 316 266(84.1) 316 50(15.8) 0.78
   女性 191 159(83.2) 191 32(16.8)
穿刺血管*  上腕静脈 259 202(78.0) 259 57(22.0) <0.01
     尺側皮静脈 248 223(88.9) 248 25(10.1)
対象数 平均 ± 標準偏差 対象数 平均 ± 標準偏差 p
血管径** 425 4.71 ± 3.30 82 4.37 ± 3.30 0.01
血管の深さ** 425 6.84 ± 3.30 82 6.55 ± 3.30 0.47

*:χ2検定 **:t検定

ロジステック回帰分析の結果より,穿刺血管では上腕静脈より尺側皮静脈の方が優位に単回穿刺であった.血管径においては血管径3 mm未満より6 mm以上の方が優位に単回穿刺であった(表3).

表3.血管穿刺と関連要因の多変量解析

調整オッズ比 95%信頼区間 p
性別 男性 1.24 0.75–2.07 0.4
女性 1
穿刺血管 上腕静脈 0.37 0.22–0.62 <0.01
尺側皮静脈 1
血管径 3 mm未満 0.14 0.04–0.51 <0.01
3~6 mm未満 0.55 0.24–1.26 0.13
6 mm以上 1
血管の深さ 4 mm未満 0.82 0.44–1.52 0.53
4 mm以上 1

n = 507

考察

PICC挿入で選択される血管は尺側皮静脈および上腕静脈が多く,共に上腕の内側に位置し,比較的皮膚表面から深い部分を走行している.解剖学的に上腕静脈は上腕動脈と正中神経と並走しているため,動脈の誤穿刺および神経損傷に関して,エコーガイド下で穿刺を行うことで回避可能である.また,静脈炎および上肢深部静脈血栓症は,血管径に対して太いカテーテルの挿入,PICC挿入部位の操作や血管の損傷,関節の屈曲部位に近い位置での挿入で起こるとされている36).これらの合併症を考慮し,可能な限り血管径が太い血管を選択し,PICC挿入時に低侵襲な操作を行う必要がある.これらのことから,PICC挿入においてエコーガイド下での血管穿刺は重要な手技である.

本研究で行ったエコーガイド下での血管穿刺方法において,スキャン方法は短軸像で血管穿刺を行っている.血管穿刺における短軸像と長軸像の比較では,短軸像の方が成功率が良いとの報告がある7).短軸像は,目標とする血管の描出だけではなく,周囲の構造も描出できるため,動脈や神経を避けて血管穿刺できるという利点がある.次に,穿刺針の穿刺角度について,皮膚を貫く際,まずは一気に血管壁を穿通しないよう浅い角度で皮膚を穿刺したのち,角度を調整して血管まで誘導するようにしている.このように,血管穿刺方法を工夫しながら,症例経験を積む中でエコーガイド下での血管穿刺技術が向上したことで,83.8%(507症例中425症例)が単回穿刺と良い結果が得られている.

穿刺血管について,上腕静脈より尺側皮静脈の方で単回穿刺が多かったという結果であった.尺側皮静脈は上腕静脈より内側を走行しているため,血管穿刺時の上肢のポジションによっては,術者から見て,垂直方向からではなく,斜めから穿刺しなくてはならないことがある.通常,術者から見て血管直上の皮膚から垂直に血管穿刺を行う方が,エコー画面と穿刺針の操作がわかりやすいと思われる.この問題に対して,当院では,穿刺肢の肘関節を屈曲し,上肢を外旋させ,さらに上腕の下にタオルを敷き,可能な限り上腕内側面が上を向くような肢位を取るようポジショニングを行っている.そうすることで,術者から見て垂直方向へ穿刺が可能となり,尺側皮静脈の方が単回穿刺であったという結果に繋がったのではないか.また,尺側皮静脈は,上腕動脈や正中神経と離れており,上腕静脈と比べると動脈や神経を避けるという動作がないため単回穿刺しやすいのではないか.

血管径においては,血管径6 mm以上が最も単回穿刺が多く,3 mm未満が最も単回穿刺が少ないという結果であった.当院ではPICCの血管穿刺で用いる穿刺針は,22Gか20Gの静脈留置針を用いている.それぞれの静脈留置針の外径は0.9 mmおよび1.1 mmである.本調査で検討した3 mm未満血管に対して,これらの静脈留置針の外径は約1/3である.血管径に対して,静脈留置針が太い点や,血管が細ければ細いほど血管内腔が狭いため,穿刺針が血管後壁を穿通しやすくなることが,単回穿刺の難易度が上がる要因である.

血管の深さについて有意差は認めなかったが,皮膚表面から4 mm以上深い方が単回穿刺が多いという結果であった.これは,血管が深ければ,筋層内に血管が走行し,周囲の筋肉に血管が固定されるため,血管が逃げにくくなるからである.逆に,血管が浅い場合,皮下に血管が位置するため,筋肉によって血管は固定されない.そのため,血管が逃げやすくなり,血管穿刺が困難となる.また,血管が浅い場合,非エコーガイド下であれば,穿刺針持つ反対の手で皮膚を引っ張ることで血管を固定することが可能である.しかし,エコーガイド下の場合では,穿刺針持つ反対の手でエコーを操作するため,皮膚に張力をかけることによる血管固定ができないことも,血管穿刺が難しくなる要因の一つである.

PICC挿入において,エコーガイド下での血管穿刺の技術を習得し,適切な血管を選択することは,侵襲を軽減し,かつ合併症リスクも低下させることができる.本調査結果から,単回穿刺でPICC挿入を成功させるためには,血管径が太い血管を第一選択とし,尺側皮静脈と上腕静脈が同程度の血管径であれば尺側皮静脈を選択するのが良い.

結論

PICC挿入におけるエコーガイド下血管穿刺では,単回穿刺でPICC挿入を成功させるためには,血管径が太い血管を第一選択とし,尺側皮静脈と上腕静脈が同程度の血管径であれば尺側皮静脈を選択する.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2024 Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy
feedback
Top