Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
REPORT OF CONFERENCE
Overseas conference participation supported by the 2023 JSPEN future research project
Yoji Kokura
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2024 Volume 6 Issue 2 Pages 107-108

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はじめに

私はPENSAと縁がある.私が初めて参加した国際学会が,2015年に名古屋で開催されたThe 16th PENSA Congressであった.国際学会での発表は初めてだったにも関わらずポスター賞を頂いた私は,受賞した研究で初めての英語論文を書き,アクセプトの喜びを知った.喜怒哀楽の全てが味わえる臨床研究にのめり込み臨床研究を続けた.働きながら大学院にも行った.PENSAは私を臨床研究の世界に誘い,人生を変えた学会である.そして2015年のPENSA名古屋で,ある先生に「ポスター賞を獲れたのは良かったですが,その前にオーラルセッションに応募をしましたか?」と言われた.実はオーラルセッションには応募していなかった.自分が英語で発表できるわけがないと思ったからである.今回の台北でのPENSAはオーラルセッションに応募し採択された.8年越しのチャレンジである.

台北到着から発表日まで

2023年10月19日,19時に台湾桃園国際空港に降り立った.気温24度,日本よりも蒸し暑い.台北の宿は士林夜市の近くにとった.海外での国際学会への参加が初めてで,旅の連れもいなかった私は,余裕がなく観光は最初からあきらめていた.しかし士林夜市にだけは行きたかったので,夜市の近くに宿を取った.Congressのあるワールドトレードセンターから13駅も離れていたが気にしなかった.宿に到着後早々に士林夜市を歩いた.22時を過ぎていたが非常に活気があった.おびただしい種類の食べ物と500を超える露店が夜市にはひしめき合っていた.人波に飲まれ,迷路のような屋台街や路地を歩いていると異国に来たなと感じた.発表は翌日の10時半であった.

英語での発表

私の発表内容は,「介護医療院におけるGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(以下,GLIM)基準と高齢入所者の1年全死亡率の予測」であった.介護医療院は2018年に創設された日本独自の介護保険施設である.介護医療院は要介護者に対し,「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する.日常的な医学管理と看取りやターミナルケア等の医療機能を併設する介護医療院の低栄養の割合はGLIM基準で30%と報告されている.世界のナーシングホームではGLIM基準で評価した低栄養の高齢者の有病率17%という報告がある.つまり日本の介護医療院は,世界のナーシングホーム以上に低栄養を有している可能性がある.そして,介護医療院におけるGLIM基準での低栄養が高齢入所者の1年全死亡率を予測するかについては明らかになっていない為,今回研究結果を発表した.

発表前に自分が発表をする会場の下見をした.200席ほどの小さめの部屋であった.私がその会場の最初の発表者だったので,私の名札だけが発表者席に張り出されていた.うれしくて写真を撮った.発表時間は10分で質疑応答5分であった.オーラルセッションの聴衆は約100名で日本人はいなかった.わたしの発表時間となった.発表のリハーサルはそれなりに重ねていたので落ち着いていつも通り発表しようと思った.しかし発表途中でポインターが急に動かなくなり,スライド運びのリズムが崩れた.アクシデントで動揺し,声が上ずるのが自分でもわかった.なんとか発表を終え,質疑応答の時間となった.座長からの「先生の施設ではいつからGLIM基準での低栄養診断を行っているのか」という質問にはすんなり答えられた.しかし座長の2つめの質問が聞き取れなかった.何度か聞き返して理解しようと努めたが,的確な回答が出来ず悔やまれる結果となった.英語での発表の為に,Podcast,Google翻訳,ELSA Speakなどを活用して勉強した.SNSグループに発表動画を投稿し,海外発表の熟練者に意見を頂いたりもした.その成果を出したかったが,アクシデントが起きた時のタフさが足りなかった.

発表後は他会場の発表を聴講した.特に発表者のプレゼンテーションの仕方を注視した.スライドの作り方,見せ方,英語の話し方についてなどである.アジアの多くの人たちにとって英語は第一言語ではない.そのような人たちがどのように英語で発表をするかを勉強した.全体的に介護分野の発表は少なかった.日本の介護の栄養ケアの課題,重要性をもっと発信していく必要があると感じた.また栄養とリハビリテーションの発表も少なかった.そういうことを体感できたのは国際学会への参加を通して世界各地からの報告を目に出来たからである.

会場の雰囲気

今回のPENSA Congressは29カ国から1,143名が参加し,そのうちスピーカーは99名であった.開会式には台湾の副大統領も出席しセレモニーは華やかであった.スピーカーも豪華でASPENのプレジデントとESPENのチェアマンの講演を続きで聞けるのはPENSAくらいのものだろう.企業展示場内にはスナックが置かれており,休憩を取ると,自然に企業展示を見る流れになる動線で工夫が為されていた.2日目の夜はガラディナーに参加した.オーラルの発表者は無料で招待された.ガラディナー会場のGrand Hyatt Taipeiは建物も料理も素晴らしかった.華やかな会場で,とても美味しい食事に舌鼓を打った.同じテーブルでは,今回のPENSA congressでYoung Investigator’s Awardを受賞したマレーシアの薬剤師と,台湾で1,200床の病院に勤務する管理栄養士4名と同席であった.彼女らと,研究や臨床の話に花を咲かせた.海外学会に参加しないと経験できない非常に貴重で楽しい時間であった.

写真1.士林夜市の入口

非常に活気があった

写真2.オーラル発表の会場

発表前に壇上に上がらせてもらった

謝辞

海外発表の機会を与えて頂いた,日本栄養治療学会(旧:日本臨床栄養代謝学会)理事長の比企直樹先生,未来研究プロジェクト海外学会参加費助成委員会の先生方にお礼を申し上げます.さらにいつもご指導を頂いている大村健二先生,前田圭介先生にも感謝致します.そして,2015年のPENSA名古屋で「オーラルセッションに応募をしましたか?」と私に言ってくださった若林秀隆先生に心から感謝を申し上げます.8年前に若林先生にそう問われなかったら今回ひとりで台湾まで来て発表をしようとは思わなかった.最後に,助成制度は非常にありがたい制度である.今後も多くの管理栄養士にこの制度を活用して海外での発表に挑戦して頂きたい.管理栄養士が臨床でベストプラクティスを実践するには臨床研究が必要なのだから.

 
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