2024 Volume 6 Issue 2 Pages 125-126
神奈川県立こども医療センター
2. 研修期間2024年1月15日~1月19日
2024年1月15日~19日の5日間,神奈川県立こども医療センター(以下,こども医療センターと略)にて研修をさせていただきました.現在小児科病棟,Neonatal Intensive Care Unit(以下,NICUと略)病棟を担当しており,未熟児,短腸症候群,胆汁鬱滞等の児に対しての栄養療法で難渋した症例をいくつか経験しました.今回国内施設研修という貴重な機会で小児に対する栄養療法について学びたく,小児専門病院の研修を希望しました.
研修では,こども医療センター栄養サポートチーム座長,地域保健推進部長の高増哲也先生に担当していただきました.研修初日から全国の栄養に携わる薬剤師の先生方と高増先生と,それぞれの施設でのNST活動に関する情報交換が活発に行われ,とても刺激を受けました.
こども医療センターでは,テーマごとに栄養プロジェクトチーム(Nutrition Project Team;以下,NPTと略)があり,①ミキサー食注入 ②小児がん ③重症心身障害 ④循環器 ⑤摂食嚥下 ⑥側弯周術期 ⑦ICU早期栄養 ⑧栄養塾 の8つのチームでそれぞれ独立した活動がされていました.ミキサー食や小児がんは栄養に関するパンフレットが作成されており,パンフレットには,疾患ごとに病院で取り組んでいる栄養療法の工夫や注意点,自宅でも再現できるよう疾患ごとのレシピが記載されていました.実際に患者さんのご家族からよくされる質問やアンケートに対し,医師は病態や治療,看護師は食事摂取時のケア方法,薬剤師は薬の副作用,管理栄養士は栄養バランス,歯科医師は口腔ケア,理学療法士は運動療法等それぞれの専門分野からのアドバイスも記載されており,患者さんやご家族にとって栄養摂取の手助けとなる資料となっておりました.高増先生よりパンフレット作成のきっかけから完成までのエピソードを伺い,それぞれの専門分野の異なる医療スタッフが意見を出し合い,1つのパンフレットを作成することでチームにも一体感が生まれ,このような連携が最終的に患者さんに最善の医療サービスを提供できることへ繋がるのだなと感じました.
研修では,医師,歯科医師,看護師,薬剤師,栄養士,保健師の先生方から講義をしていただき,患者さんやご家族への多面的な関わり方を知り,今回の研修目的であったNICU病棟での栄養療法についても学ぶことができました.
こども医療センターでは,栄養スクリーニングツールとして,主にWaterlow分類のWeight for Height(以下,W/Hと略)が用いられていました.W/Hは同身長の児の標準体重に対する体重実測値の比(%)を示す方法であり,短期間の低栄養状態を反映すると考えられています.我が国では2010年の乳幼児身体発育調査値(厚生労働省)の性別年齢別の平均身長および平均体重をもとに,身長別体重の仮の計算値を求め基準としているものです.こども医療センターでは,必要栄養量の推定には重症心身障害児用等,疾患別で設定されており,患児それぞれの各種疾患・病態で評価されておりました.
極低出生体重児のミルクに関しては,壊死性腸炎などの合併症を引き起こすリスクが高いため,人工乳は選択せず,自施設でも使用しているドナーミルクを使用しているとのことでした.ドナーミルクとは,「母乳バンク」と呼ばれる施設に,ドナーの母親から寄付された母乳であり,極低出生体重児の母親は産後母乳が出ないことも少なくないため,代用品として人工乳ではなく,免疫力を高める働きのあるドナーミルクを使用しており,自施設と共通の取り組みがなされていました.
また,短腸症候群についても学びました.短腸症候群は,下痢,体重減少,脱水,栄養障害がみられ,さまざまな栄養素の欠乏症を起こし,発症の経過時間により蠕動亢進期,回復順応期,安定期の3病期に分けられます.下痢のコントロールに難渋し,栄養剤の濃度を高くするだけでも下痢症状が増悪するため,栄養剤の濃度を7%,10%,13%,17%と徐々に濃くする工夫をしているとのことでした.自施設でも下痢のコントロールに難渋しており,濃度上昇方法等参考にさせていただきたいと思いました.
今研修を通して,積極性やコミュニケーションの重要さを改めて感じました.
高増先生には研修中,大変興味深い体験談を交えた講義をたくさんしていただき,その都度新しい視点に出会い,毎日「目から鱗が落ちる」感覚で研修に取り組むことができました.
患者1人の問題点を解決するためにも,常に疑問を持つ習慣を付けることが大事であり,その疑問を追及するためには,さまざまな視点からの情報が必要であり,その情報を得るためには積極的に多職種とのコミュニケーションが重要であることを痛感しました.また,こども医療センター研修に共に参加された他施設の薬剤師の先生方からもそれぞれの施設での活動内容についての情報交換も活発にしていただき,とても充実した研修となりました.今回の研修で得た知識や意識を活かし,今後NICU病棟での栄養治療,栄養サポートチームおよびJSPENへ貢献していきたいと思います.
最後に,このような貴重な機会を与えて下さった,高増哲也先生,神奈川県立こども医療センターのスタッフの皆様,JSPENの先生方に深く感謝申し上げます.