Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
ORIGINAL ARTICLE
Prediction of short-term prognosis in critically ill COVID-19 patients after initial treatment
Yasuko YamaneMasashi HirotaNaoki NakamotoFuki NishinoRika KumamotoMitsue YadaMasahiro KawadaMasaaki MotooriKazuhiro Iwase
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2024 Volume 6 Issue 2 Pages 75-82

Details
Abstract

【背景】重症新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19と略)の集中治療期は入院時の栄養に関する検査項目やprognostic nutrition score(以下,PNIと略)やcontrolling nutritional status(以下,CONUTと略)などの臨床指標が予後と関連すると報告されている.後方療養期の患者においてこれらの指標と予後との関連は不明である.

【方法】2020年12月~2021年6月の間,大阪コロナ重症センター(後方療養施設)退院の132例について,栄養に関する検査項目を含む入院時の患者因子と予後との関連を多変量解析で検討した.

【結果】死亡退院は39例(29.5%)で,receiver operating characteristic(ROC)解析で死亡検出のカットオフを定めて多変量解析を行うと,総リンパ球数(total lymphocyte count;以下,TLCと略)(≤400/μL),血清アルブミン値(albumin;以下,Albと略)(≤2.1 g/dL)CONUT(≥8),PNI(≤24.5),投与熱量(≤17.7 kcal/kg/day)は有意な死亡関連因子であった.

【結語】重症COVID-19患者において,後方施設入院時のTLC,Alb,PNI,CONUT,投与熱量は予後因子であり,集中治療期からの栄養管理の重要性が示唆された.

Translated Abstract

Background: Clinical indices such as the prognostic nutrition score (PNI) and controlling nutritional status (CONUT) at admission have been associated with prognosis in the intensive care phase of severe COVID-19. However, the association between these indices and prognosis is unknown in patients in the post-intensive care period.

Methods: The subjects were 132 patients discharged from the Osaka Corona Critical Care Center (a recuperative care facility for severe COVID-19 patients in the post-intensive care period) from December 2020 to June 2021. Multivariate analysis was performed to examine the association of prognosis with patient factors at admission, including clinical indices.

Results: Death after discharge occurred in 39 patients (29.5%). Multivariate analysis using factors that defined the cutoff for mortality in receiver operating characteristic (ROC) analysis showed that total lymphocyte count (TLC) (≤400/μL), albumin (Alb) (≤2.1 g/dL) CONUT (≥8), PNI (≤24.5), and dose calories (≤17.7 kcal/kg/day) were significantly associated with mortality. The strongest mortality-related factor was TLC (≤400/μL), with an odds ratio of 5.88 (95% CI: 2.26–15.3, p = 0.00028).

Conclusion: TLC, Alb, PNI, CONUT, and calorific value on admission to a recuperative care facility were prognostic factors in patients with severe COVID-19. These findings suggest the importance of nutritional management from the intensive care phase.

背景

新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19と略)は肺炎による呼吸不全を高率に生じ,重症度分類では「ICUに入室」または「人工呼吸器が必要」な状態を「重症」と定義されている1).慢性腎疾患,肥満症,脂質異常症,高血圧症,糖尿病などの基礎疾患は重症化のリスク因子13)とされ,高齢,心血管疾患,糖尿病,肺疾患,慢性腎疾患は高い死亡率に関連するとされる1,4).2020年4月に日本栄養治療学会(旧:日本臨床栄養代謝学会)より発表された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言」5)では,栄養状態悪化に続く免疫能低下や長期人工呼吸器管理がもたらすICU acquired weaknessへの対策という観点で,COVID-19患者への早期からの栄養介入の重要性が記されている.一方,栄養介入には体力評価,質問票,生物学的バイオマーカー,体組成評価などでの「栄養状態の評価」が必要であるが,重症COVID-19患者をとりまく環境,とりわけパンデミック下における集中治療という特殊な医療環境では評価に使用できる現実的なツールは限られたものになる.このような中,重症COVID-19患者への集中治療領域においてprognostic nutrition score(以下,PNIと略)6)やcontrolling nutritional status(以下,CONUTと略)7)などの臨床指標が「死亡予測」に有用との報告が認められている4,812).これらの指標は一般的な血液生化学的検査項目から簡単に計算されるスコアで,入院時にすぐ利用が可能なツールでありCOVID-19の診療においても栄養リスクの高い患者の選別に有用13)と述べられている.

大阪コロナ重症センター(以下,重症センターと略)は,大阪府によりCOVID-19感染拡大時に臨時の医療施設(大阪急性期・総合医療センターの1部門)として設置され,三次救急施設に搬送されて一定の入院治療を経た後,さらに人工呼吸器管理が必要と判断された症例を収容する病床として運用された.このような後方病床での療養段階に入る患者にフォーカスをあてて予後因子が検討された報告は認めておらず,初期治療(集中治療)段階と同様に「併存疾患」や「PNIやCONUTなどの指標」が患者予後(死亡)に関連するのかどうかは不明である.

今回,当重症センターに入院した患者について,これらの項目が短期予後(死亡)予測に有用な因子となるか検討を行った.

対象および方法

1. 対象患者

2020年12月15日の重症センター開設から2021年6月30日までに退院した重症COVID-19患者168例のうち,入院時にPNI,CONUTの算出に必要な生化学検査結果[血清アルブミン値(albumin;以下Albと略),総リンパ球数(total lymphocyte count;以下,TLCと略),総コレステロール値(total cholesterol;以下,T-Choと略),血清 C 反応性蛋白値(C-reactive protein;以下,CRPと略)]が得られた132例を対象に後方視解析を行った.入院患者は全て他施設の救命センターで治療を受けた後,さらに継続して人工呼吸器管理を必要と判断された症例で,行政主導の入院調整機構の判断により重症センターに転院となった症例であった.なお,本報告における対象患者は第3波・第4波の際に罹患・入院した患者である.特に第4波という時期は感染力の強いアルファ株の影響により,高齢者だけでなく40~50代を含めて重症患者が急増して病床稼働率が100%を超過した時期で,大阪では重症患者数の最大数は第3波で187名,第4波では449名となり,医療現場が緊迫した時期に一致する14)

2. 患者背景

入院時の患者背景因子として年齢,性別,body mass index(以下,BMIと略),体重,基礎疾患,発症後日数,血液検査項目(CRP,Hb,Alb,TLC,T-cho),および入院時の1日エネルギー投与量(kcal/kg/day,補正体重(=現体重およびBMI25以上は標準体重)あたりで算出)についての情報を収集した.また,表1に示すCONUT,PNIおよびGlasgow prognostic score(以下,GPSと略)15)の各スコアを使用した.短期予後として退院時転帰を採用し,退院時における「生存群」(隔離解除基準16)を満たして他施設へ転院)と「死亡群」に分けて背景を比較した.

表1.各指標の定義

1)PNI

PNI = [10 × Alb (g/dL)] + [0.005 × TLC (/μL)]
2)CONUT

数値 score 数値 score 数値 score 数値 score
Alb(g/dL) ≥3.5 0 3.0~3.49 2 2.5~2.99 4 <2.5 6
TLC(/μL) ≥1600 0 1200~1599 1 800~1199 2 <800 3
T-Cho(mg/dL) ≥180 0 140~179 1 100~139 2 <100 3
合計スコア 正常 0–1 軽度 2–4 中等度 5–8 高度 9–12
3)GPS

GPS score
CRP ≤1.0 mg/dL and Alb ≥3.5 g/dL 0
CRP >1.0 mg/dL or Alb <3.5 g/dL 1
CRP >1.0 mg/dL and Alb <3.5 g/dL 2

Alb:血清アルブミン値,TLC:総リンパ球数,T-Cho:総コレステロール値,CRP:血清C反応性蛋白値

3. 退院時死亡検出のreceiver operating characteristic(以下,ROCと略)解析

患者背景因子のうち連続変数については,退院時死亡を検出する最良のカットオフ値をROC解析で決定した.

4. 退院時死亡リスクの単変量・多変量解析

患者背景因子を用いてロジスティック回帰モデルを用いて「退院時死亡」のリスク解析を行った.なお,患者背景因子のうち,連続変数についてはROC解析で得たカットオフ値にて2群化し,単変量解析で有意(p < 0.05)であった因子については多変量解析を行って死亡リスクを算出した.

5. 統計方法

統計分析は,統計解析ソフトウェア EZR17)を用いて行った.2群間比較は連続変数に対してはMann-Whitney U検定を,名義変数に対してはFisher’s exact probability 検定を用いた.各因子の死亡リスクへの関与についての多変量解析にはロジスティック回帰分析を用いた.検定に際してはp < 0.05を統計学的有意と判断した.

本研究は,地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター臨床医学倫理審査委員会の承認を受け(通知番号:2021-071),オプトアウトにて患者がこの研究に参加しない意思表示ができる機会を提供した.

結果

1. 患者背景

患者背景を表2に示す.重症センター入院患者は男性94例(71.2%),女性38例(28.8%),BMI中央値は23.8(21.1–26.8)kg/m2でBMI ≥25 kg/m2以上の患者は52名(39.4%)であった.基礎疾患は高血圧(43.2%),糖尿病(35.6%),肺疾患(31.8%)などが高い割合で併存していた.生存群は93例(70.5%),死亡群は39例(29.5%)であった.Alb(2.3 vs 1.9 g/dL)および TLC(600 vs 300/μL)は死亡群において有意に低値(いずれもp < 0.001)で,CRP(2.93 vs 7.20 mg/dL)は死亡群で有意に高かった(p = 0.036).入院時の1日エネルギー投与量については,入院後48時間以内に投与された熱量から算出された.132例中125例(94.7%)の患者で当センター入院時から48時間以内に経腸栄養を開始でき,残り7例の経腸栄養ができない症例へは経静脈栄養が選択された.1日エネルギー投与量の比較(生存群 vs 死亡群)では,死亡群で少ない傾向(18.4 vs 14.0 kcal/kg/day)にあった(p = 0.083).入院時の各スコアの中央値(25–75%,分位点)は,CONUTは生存群 9(7–10)に対し死亡群9(9–11)で死亡群において有意に高く(p = 0.003),PNIは生存群26.5(22.5–30.0)に対し死亡群21.0(19.8–24.5)で死亡群において有意に低い(p < 0.001)結果であった.一方,GPSのスコアは,「0または1」が30症例,「2」が102症例で生存群と死亡群の間で差は無かった.

表2.対象患者の背景

因子 全体 n = 132 生存群 n = 93 死亡群 n = 39 p
年齢 (歳) 71(65–78) 70(63–77) 74(68–80) 0.011*
性別 男/女 94/38 67/26 27/12 0.834
基礎疾患 高血圧 57(43.2) 36(38.7) 21(53.8) 0.126
糖尿病 47(35.6) 34(36.6) 13(33.3) 0.843
肺疾患 42(31.8) 25(26.9) 17(43.6) 0.068
心疾患 19(14.4) 10(10.8) 9(23.1) 0.100
腎疾患 9(6.8) 4(4.3) 5(12.8) 0.124
脂質代謝異常 20(15.2) 13(14.0) 7(17.9) 0.599
悪性腫瘍 11(8.3) 8(8.6) 3(7.7) 1.000
BMI (kg/m2 23.8(21.1–26.8) 23.8(21.1–27.5) 23.8(21.0–25.9) 0.865
体重 (kg) 63.8(55.2–72.8 ) 63.9(56.7–73.1) 62.1(53.1–72.0) 0.326
CRP (mg/dL) 4.09(1.11–9.69) 2.93(1.12–7.91) 7.20(1.06–11.28) 0.036*
Hb (g/dL) 11.0(9.8–12.3) 11.0(9.8–12.5) 10.5(9.5–12.1) 0.408
Alb (g/dL) 2.2(1.9–2.6) 2.3(2.1–2.7) 1.9(1.8–2.3) <0.001*
TLC (/μL) 500(300–800) 600(400–800) 300(200–500) <0.001*
T-Cho (mg/dL) 178(137–218) 184(149–218) 159(121–192) 0.108
投与熱量** (kcal/kg/day) 17.8(11.1–20.9) 18.4(12.2–20.9) 14.0(11.1–20.3) 0.083
CONUT 9(7–10) 9(7–10) 9(9–11) 0.003*
PNI 25(21–29) 26.5(22.5–30.0) 21.0(19.8–24.5) <0.001*
GPS 0,1/2 30/102 21/72 9/30 1.000

連続変数はMann-Whitney U test,名義変数はFisherの正確検定にて比較 .基礎疾患は有するnを記載,カウントは同一症例で重複あり.*:p < 0.05,**投与熱量:入院日~Day2までの間の投与熱量から算出.連続変数は中央値(25–75%タイル),名義変数は n(%;少数第2位以下を四捨五入)を記載.

2. 退院時死亡検出のROC解析

死亡リスクに関する各因子のROC解析結果を表3に示す.area under the curve(以下,AUCと略)が良好であった因子(括弧内:カットオフ値)は上位からPNI(24.5),TLC(400/μL),Alb(2.1 g/dL),CONUT(8)で,これらのAUCは0.65以上であった.

表3.死亡検出に関する各因子のROC解析

因子 カットオフ AUC 95%信頼区間
PNI 24.5 0.739* 0.647–0.832
TLC 0.40/μL 0.738* 0.638–0.839
Alb 2.1 g/dL 0.708* 0.614–0.801
CONUT 8.0 0.660* 0.566–0.755
年齢 72歳 0.640 0.538–0.742
CRP 4.03 mg/dL 0.616 0.505–0.727
投与熱量 17.7 kcal/kg/day 0.598 0.485–0.711
T-Cho 188 mg/dL 0.589 0.478–0.700
Hb 10.2 g/dL 0.546 0.431–0.661
BMI 22.6 kg/m2 0.490 0.383–0.598

*:AUC >0.65

AUC >0.6であった6因子についてはROC曲線を補足図1に示す.

3. 退院時死亡リスクの単変量・多変量解析

入院時患者因子にて死亡リスクを単変量・多変量解析で検討した結果を表4に示す.CONUT(≥8),PNI(24.5≤),TLC(≤400/μL),Alb(≤2.1 g/dL),CRP(>4.03 mg/dL),1日エネルギー投与量(≤17.7 kcal/kg/day),年齢(>72歳),T-Cho(≤188 mg/dL)は有意なリスク因子であった.併存症/合併症の有無については,慢性腎不全,心血管疾患,および肺疾患の存在が死亡リスクに関連する傾向がみられたが,いずれも有意なリスク因子ではなかった.単変量解析で有意と判断された因子を用いて,因子間の交絡を考慮して3通りの組み合わせにて多変量解析を行った.各因子からの算出指標であるCONUTおよびPNIを外した解析(表4-解析1)ではTLC(OR 5.88,2.260–15.30,p = 0.00028),Alb(OR 3.87,1.340–11.10,p = 0.0122),および1日エネルギー投与量(OR 2.69,1.040–6.950,p = 0.0405)が有意な独立危険因子であった.Alb,TLC,T-Choの代わりにCONUTを用いた解析(表4-解析2)ではCONUT(OR 3.97,1.060–14.90,p = 0.0404)および1日エネルギー投与量(OR 2.71,1.150–6.390,p = 0.0231)が有意な独立危険因子であった.Alb,TLCの代わりにPNIを用いた解析(表4-解析3)ではPNI(OR 3.39,1.290–8.860,p = 0.0129).および1日エネルギー投与量(OR 2.73,1.120–6.640,p = 0.0266)が有意な独立危険因子であった.

表4.患者背景と死亡リスク(単変量・多変量解析)

因子 カットオフ n 単変量 (解析1)多変量 (解析2)多変量 (解析3)多変量
OR 95%信頼区間 p OR 95%信頼区間 p OR 95%信頼区間 p OR 95%信頼区間 p
CONUT ≥8  95 6.92 1.980–24.20 0.0024500* 3.97 1.060–14.90 0.0404*
<8  37
PNI ≤24.5  65 5.52 2.350–13.00 0.0000892* 3.39 1.290–8.860 0.0129*
>24.5  67
TLC ≤0.40  58 5.26 2.310–12.00 0.0000760* 5.88 2.260–15.30 0.00028*
>0.40  73
Alb ≤2.1  55 4.41 1.990–9.800 0.0002620* 3.87 1.340–11.10 0.01220*
>2.1  77
CRP >4.03  66 3.11 1.406–6.896 0.0050900* 2.11 0.764–5.840 0.14900 2.18 0.897–5.320 0.0854 2.08 0.798–5.430 0.1340
≤4.03  66
投与熱量 ≤17.7  62 3.10 1.390–6.920 0.0059000* 2.69 1.040–6.950 0.04050* 2.71 1.150–6.390 0.0231* 2.73 1.120–6.640 0.0266*
>17.7  67
年齢 >72  57 2.49 1.161–5.347 0.0192000* 1.99 0.760–5.210 0.16100 1.92 0.816–4.520 0.1350 1.90 0.770–4.680 0.1640
≤72  75
T-Cho ≤188  80 2.39 1.040–5.460 0.0390000* 0.47 0.150–1.510 0.20800 0.81 0.289–2.300 0.6990
>188  52
Hb ≤10.2  48 2.10 0.975–4.510 0.0582
>10.2  84
GPS 2 102 0.97 0.399–2.370 0.9510
0–1  30
性別  94 0.87 0.386–1.980 0.7450
 38
BMI ≤22.6  52 0.87 0.395–1.920 0.7310
>22.6  74
慢性腎不全 あり   9 3.27 0.829–12.90 0.0906
123
心血管疾患 あり  19 2.49 0.923–6.720 0.0717
113
肺疾患 あり  42 2.10 0.962–4.590 0.0625
 90
高血圧 あり  57 1.85 0.868–3.930 0.1110
 75
脂質代謝異常 あり  20 1.35 0.492–3.680 0.5630
112
悪性腫瘍 あり  11 0.885 0.222–3.530 0.863
121
糖尿病 あり  47 0.868 0.394–1.910 0.724
 85

単変量解析でp < 0.05であった因子を用いて交絡を考慮し3通りの多変量解析を施行.

解析1:各因子からの算出指標であるCONUTおよびPNIを外した解析

解析2:Alb,TLC,T-Cho の代わりにCONUTを用いた解析

解析3:Alb,TLCの代わりにPNIを用いた解析

OR:Odds ratio,*:p < 0.05

考察

本研究では,初期治療後さらに呼吸器管理を要する状態の重症COVID-19患者において,後方病床である当重症センター入院時点の臨床項目(TLC,Alb,CONUT,PNI)や投与熱量が,患者の短期予後(死亡)に関連していることが明らかになった.一方,併存疾患に関しては,「慢性腎不全」,「心血管疾患」および「肺疾患」が短期予後に関連する傾向を示したが,統計学的には有意なリスク因子ではなかった.また,本コホートのBMIは中央値が23.8 kg/m2で,25 kg/m2以上は25名(39.4%)あり,一部は浮腫状態を反映している可能性もあるが,一定数の肥満患者が含まれるコホートであったと考えられる.COVID-19の重症化と肥満との関連性は数多くの報告を認めるが18),本研究の解析ではBMIは有意な死亡関連因子ではなかった.当重症センターのような後方病床での療養に入る患者では,基礎疾患よりも「栄養」に関連する臨床項目の方が,予後と強く関連している可能性が示された.死亡との関連が最も強かった因子は血清TLC(≤400/μL)で5.88倍,続いてCONUT(≥8)で3.97倍のリスクであった.また,入院時点の投与熱量(≤17.7 kcal/kg/day)は有意な予後との関連因子で2.18~2.73倍のリスクであった.これは集中治療環境で必要とされる1日投与熱量(25~35 kcal/kg/day)から比べるとかなり低い数値で,1日投与熱量の危険最低ラインととらえてよいものと考える.重症患者の栄養療法ガイドライン19)では,急性期の初期1週間は消費熱量より少ないカロリー投与が弱く推奨されているが,初期療養の間に投与熱量が17.7 kcal/kg/day以下となっているような症例では,投与カロリーを上げられない原因への対処や,栄養方法の再検討を入院後速やかに行うことが肝要と考えられる.また,入院後の栄養介入状況は予後へ大きく影響すると考えられるが,本研究対対象では入院後速やかに経腸栄養ないしは経静脈栄養での栄養介入が施され,入院7日目の投与熱量(中央値)は18.9 vs 17.4 [kcal/kg/day](p = 0.451)で両群に差は認めず(補足表1),入院時における投与熱量の差18.4 vs 14.0 [kcal/kg/day](p = 0.083)よりもむしろ差は縮まっていた.このことから入院後は両群とも可及的に適切な栄養介入が施されたものと推測され,このように「入院後,適切な栄養管理が行われる」という前提のもとでは,上述の「入院時の栄養因子」が重要な予後因子となるものと考えられる.

今回の我々の検討ではTLC(≤400/μL)が最も短期予後に関与する因子と考えられたが,重症患者の栄養療法ガイドライン19)では,炎症性疾患等の特殊病態下においては,純粋な栄養学的指標は正確な栄養状態を反映できず,短期予後予測の指標としては不適切である場合も多いとの指摘がある.TLCは1,200/μL未満になるとT細胞数が減少し,細胞性免疫能が低下し,さらに栄養不良が続くとB細胞も減少していくため液性免疫能も低下する.また,TLCは白血球数の変動する病態やステロイド投与で変動することが知られている20).TLCやこれを評価項目の一つとするPNIやCONUT法での検討では,ステロイドの影響にも考慮が必要と考えられるが,今回の対象症例は全例においてCOVID-19診療の手引きに基づいたステロイド投与が行われていた.従って,ステロイドによるTLCへの影響は少なくとも各群においてほぼ同様であったものと推測される.重症COVID-19患者ではTLC,とりわけT細胞分画の減少が強いほど死亡数が増加することが報告されており1,21),TLCおよびTLCを要素に含むCONUTやPNIが強い予後因子となった我々の結果は,既報に矛盾ない妥当な結果と考えられる.

CONUTは2005年に栄養状態評価のゴールデンスタンダードである完全栄養評価(full nutritional assessment;FNA)の使いやすい代用ツールとして開発され,スコア(0~12の範囲)により患者の栄養状態を4段階に分類しスクリーニングツールとして臨床で広く用いられている7).その後,CONUTスコアは心不全患者における短期予後22,23)やせん妄発症24),また,高齢大腸がん手術における短期予後25)の予測因子としての有用性が報告され,COVID-19に関しても初診時や初期療養時に短期予後(死亡)を予測できる指標で,CONUTスコア>5.59)や>7.58)がカットオフとして有用だとの報告がある.また,PNI6)は当初,胃がん患者において栄養状態から手術リスクを予測する目的で開発されたindexであるが,やはり心不全患者26)や様々な悪性腫瘍27)で予後予測への有用性が示され,また,COVID-19治療においては重症度28)やICU治療における予後予測に有用との報告があり,PNI ≤288),≤33.410),≤4212),など死亡予測に対する様々なカットオフ値の報告を認める.我々の検討で得た死亡予測のカットオフはCONUT ≥8,PNI ≤24.5で,いずれも既報に比べてより栄養状態が不良なラインとなっている.これは,既報の解析集団は「より栄養状態が良い患者でも死亡リスクが高い」のに対し,我々の解析集団は「より栄養状態が悪くならないと死亡リスクにならない」と解釈できる.このギャップは主には研究が行われたの国・地域の違い,つまりは人種の違いや医療環境の違いに原因があると推測する.一方,既報の多くがCOVID-19の「初療現場」からの報告であることを考えると,既報はより強毒性のCOVID-19症例割合が多い集団から得たカットオフ値であった可能性も考えられる.このような点を考慮すると,COVID-19診療において栄養指標を予後予測に使用する場合,療養のphaseに応じて栄養指標のカットオフが変わる可能性に留意が必要と思われる.

GPSはCRP値およびAlb値から判断される3段階(0,1,2)スコアで全身性炎症反応と蛋白代謝の二点から簡便に分類可能な栄養指標とされる.「GPS」は胃がんや食道がんにおける手術や化学放射線療法後の予後予測29,30)のほか,多くのがん種で予後マーカーとしての有用性が示されている31).今回のわれわれの検討では予後因子にならなかったが,これはスコアが3段階しかなくほとんどの症例が「2」にカテゴリーされたためと考えられる.高度な炎症を惹起するCOVID-19において,判定要素であるCRPのカットオフ1.0 mg/dLが適切なラインでないことは想像に易く,我々のROC解析で死亡検出の検討で得たカットオフ値(CRP:4.03 mg/dL,Alb:2.1g/dL)で新たなスコアを作成すれば,より鋭敏な予後判定スコアが得られるかもしれない.このように既存の臨床指標にはその開発過程で独自の特性が盛り込まれるため,COVID-19へ応用する際には適切な修飾やカットオフの設定が必要と思われる.

本研究は,限られた小規模人数における後方視解析であり,比較した群間に様々なバイアスの存在が考えられる.また,後方療養施設におけるデータの特性として,初期治療の影響,つまり初期治療で投与されたCOVID-19治療薬や受けた栄養介入の影響,パンデミック下における医療ケア密度の時間的・空間的な不均衡,などの影響が避けられない点は本研究の限界である.疾患の特性上容易ではないが,本施設のような後方療養現場でのCOVID-19患者の予後予測にどの栄養指標を用いていかなる栄養介入を行うべきか,前向きな検討が望まれる.

結語

重症新型コロナウイルス感染患者の後方病床での療養において,入床時点のTLC,Alb,CONUT,PNIといった臨床項目は,死亡のリスクに関連する因子と考えられ,短期予後予測において有用と考えられる.入床時点の1日投与熱量も予後に関連しており,初療時点からの適切な栄養管理が必要と考えられた.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

 

以下の資料はJ-STAGEにおいては電子付録として掲載している.

補足図1.死亡検出に関するROC解析結果(AUC >0.6について)

補足表1.投与熱量の比較

引用文献
 
© 2024 Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy
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