2024 Volume 6 Issue 3 Pages 163-164
2022年5月31日および6月1日に開催された本学会の第37回学術集会において,我々の研究はフェローシップ賞という大変光栄な賞をいただいた.当時発表した研究内容からさらに実験を重ね,2023年4月20日から23日まで米国ネバダ州ラスベガスで開催された,ASPEN NUTRITION SCIENCE & PRACTICE CONFERENCE(ASPEN23)でその内容を発表した.ここに,学会参加の様子を報告させていただく.
最近のASPENは本邦同様,現地参加とWebのハイブリッド方式での開催となっている.コロナ禍でせっかく国際学会に演題が採択されても,いつもWeb参加となってしまい,現地発表での経験がなかった私にとってこのASPEN23は絶好の機会であった.このため現地参加に迷う余地はなかったのだが,教授が他の学会の主宰で同行が難しいことが判明し,不安であったことを覚えている.しかし,幸い採択通知から会期まで3カ月ほどの期間があったため,その間十分に指導をいただき,それらを携えて出発の日を迎えることとなった.
ラスベガスへは直行便がないため,往復ともにロサンゼルスを経由した.往路は天候の都合でロサンゼルスからラスベガスまでの便が4時間ほど足止めとなってしまったものの,無事にホテルまで到着でき安堵した.そもそも海外に慣れていない私にとっては,すべてが新しく感じられたものではあったが,特に驚いたのが水の値段だった.円安の影響が大きく,ミネラルウォーターに関してはどこを探しても1Lで7~9ドルほどで,隣に陳列されている炭酸飲料のほうが安いのを見たときには,日本から水を持参したい気持ちでいっぱいになった.
宿泊は学会会場でもあるParis Las Vegasを利用した.パリの街並みをイメージしたホテルとなっており,フロアからの眺望は方角によって全く異なるのが印象的で,片方に繁華街やプールを見ていたと思ったら反対側には広大な砂漠が映し出され,不思議な感覚を覚えた.ラスベガスなので当然カジノもあり,学会場を行き来するだけでも必ずカジノを通る必要があったが,24時間いつでも多くの人が楽しんでいる眠らない街の存在は,ある意味私に安心感を与えてくれた.
今回の私の発表は静脈栄養に関するトピックの口演で,セッションのうち基礎研究は自分だけであった.マウスモデルにおいて,βヒドロキシ酪酸(β-Hydroxy-β-MethylButyrate;HMB)を添加した静脈栄養が,完全静脈栄養下における宿主の腸管リンパ装置(gut associated lymphoid tissue;GALT)や腸管構造の萎縮を部分的に改善すること,その機序としてmammalian target of rapamycin(mTOR)活性の増強,アポトーシスの抑制,細胞増殖能の向上が関与していることを報告した.予想質問を数十題考えていったのだが,質疑応答では自身の英語の拙さゆえ,うまく答えることができなかった.反省すると同時に,次回はしっかりと応答できるようになろうと決意を新たにした瞬間であった.ほかにも振り返ると反省点は多々あるが,栄誉なことに,当演題はInternational abstract winnersの一つに選ばれ,これからの研究の大きな励みとなった.
さて,このASPENでは,参加登録デスクの隣にカラフルなリボンがたくさん置いてあるのだが,そこには職種や学会での役割などが印字されており,参加者が各々のネームホルダーに関連するリボンをつけることで,相手に名乗る前に自己紹介ができるという魅力的な仕組みがある.「初参加者」や「ボランティア」といったリボンもあり,色々な人に話しかけやすい場づくりが施されている.また,企業展示における待ち時間にはマジックを見せてくれるところもあり,日本ではあまりお目にかからないような工夫が凝らされている.
企業展示といえば,ポシェット型のウェアラブル経腸栄養投与デバイスや,病棟看護師が担当患者分の輸液投与状況をスマートフォンやタブレットで一度にモニタリングできるシステム,また間接熱量計などが印象に残っている.またそのほかのプログラムにおいても,Round Table Sessionという円卓を囲みながら参加者がディスカッションし合うセッションや,講演では魚油由来の脂肪乳剤の話題など興味深い内容が多かった.
今度のASPENは,2024年3月にフロリダ州タンパで開催される.当グループからは今回複数の演題発表を控えており,私も発表する.嬉しいことに今回は一人ではなく,グループのメンバーが一緒だ.前回の不安を忘れそうになるほど今回は安心感に満ちているが,そこに甘えて準備不足にならないよう,しっかりと備えて臨んでいきたい.きっと,一人で演題を聴いているだけでは気が付くことのできない多くの視点が,メンバーと一緒に参加することで分かち合えるのではないかと期待している.これからも研究者として一歩ずつ成長していきたい.
この度は栄えある賞を賜り,発表ならびにご審査の機会を賜りました先生方,また研究遂行にあたりご指導ご支援を賜りました深柄和彦教授をはじめ,関連の皆様に厚く御礼申し上げます.