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Online ISSN : 2434-4966
LATEST REPORT ON INSTITUTE
Implementation of nutritional treatment recommended by a nutrition support team: Effect of interventions to promote the implementation
Shiro YokohamaYayoi AkashiHisayoshi TajimaYosui Tamaki
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2024 Volume 6 Issue 4 Pages 207-211

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Abstract

[目的]栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;以下,NSTと略)の提案する栄養療法の中には,実施されない事例もある.当院のNSTが提案した栄養療法の実施率と未実施の理由を調査した.[対象および方法]2018年度と2022年度に当院のNSTが介入した入院患者を対象とした.両年の患者背景,介入回数,提案回数を調査し,提案した栄養療法の実施率,未実施の理由を比較した.[結果]提案した栄養療法の実施率は73.3%から97.0%へ増加した.また,ケアレスミスや主治医の否認による不適切な未実施が16.1%から0.6%へ,患者の拒絶による未実施は3.6%から0.6%へ減少した.[結論]当院のNSTが提案した栄養療法の実施率は経年的に向上しており,2020年度に始めた介入症例に対する事前の栄養相談,主治医との連携強化,食事・注射オーダーのダブルチェックが要因として考えられた.

目的

本邦では,ほとんどの栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;以下,NSTと略)が兼業兼務システム(持ち寄りパーティー方式)を採用しており,多彩な職種のメンバーが集まって栄養療法に取り組んでいる1,2).NSTは低栄養の患者を抽出した後,栄養状態のアセスメントと栄養療法の実施を繰り返すことによって栄養障害の改善を図る3).現在当院では,メンバーの管理栄養士,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,言語聴覚士,理学療法士が,NST専従者の立案した栄養療法をカンファレンスで検討し,患者の了承を得た上で主治医へ提案している.しかし,これまでNSTが提案した栄養療法が実施されず,同様の提案を繰り返した事例がカンファレンスで報告されていた.そこで今回,提案した栄養療法の実施状況を正確に把握するため,1年間に提案した栄養療法の実施率および未実施の理由について調査した.

また当院では,主任管理栄養士の発案により,2020年度から複数の介入手順を導入することでNST活動の改善を図ってきた.我々は,NSTが提案した栄養療法の実施率を導入の前後で比較し,その有用性を評価した.

対象および方法

1. 当院のNST活動

当院のNSTは2008年度に稼働し,2014年度よりNST加算を算定している4).また,2020年度より結核病棟で,2022年度より障碍者施設等入院基本料を算定する病棟でもNST加算の算定を始めた.

現在,当院では,入院時に行う栄養状態のスクリーニング,褥瘡を有する患者のスクリーニングおよび主治医あるいは病棟看護師からの依頼に基づきNSTが介入している.入院時のスクリーニング,毎週木曜日に行うカンファレンスおよび回診の概要と担当者を以下に記す.なお,当院の専従者は看護師が担当している.

a)Mini Nutritional Assessment – Shor Form5)および血清アルブミン値を用いた栄養状態のスクリーニング[入院時](看護師)

b)低栄養患者の抽出と介入の決定(専従者)

c)アセスメントシートの記入(看護師)

d)栄養療法の立案(専従者)

e)栄養療法案の検討と決定(専従者,管理栄養士,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士,言語聴覚士)

f)回診時に行う患者への提案(医師,専従者)

g)検討報告書を用いた主治医への提案と認否の確認(看護師)

h)食事オーダーの変更(看護師),注射オーダーの変更(主治医)

2. 介入手順の追加

NST活動の向上を目的として,2020年度よりコアメンバーが考案した以下の手順を加えた.

a)事前の栄養相談:NSTの介入が決定した患者に対して,初回のカンファレンス前に専従者あるいは管理栄養士が栄養相談を行い,患者の希望や嗜好を把握する.

b)主治医との連携強化:NSTが介入予定とした患者の主治医に院内メールで認否を確認し,必要に応じて専従者か主任管理栄養士が直接介入の理由を説明する.

c)食事・注射オーダーのダブルチェック:提案した栄養療法が採択された後に,専従者あるいは管理栄養士が食事・注射オーダーを確認し,未変更ならば担当看護師へ連絡する.

3. 対象と患者背景

介入手順を追加する前の2018年度と追加後に当たる2022年度に,当院のNSTが介入した全ての入院患者(加算が算定できない地域包括ケア病棟を含む)を対象とし,患者背景および介入前の栄養指標(血中ヘモグロビン濃度,血清アルブミン,総コレステロール,コリンエステラーゼ値)を比較した.

4. NSTの介入,栄養療法の提案と実施

当院のNSTが毎週行うカンファレンスおよび回診を1回の介入と定め,両年にNSTが介入した回数,栄養療法の提案および実施した回数を算出した.また,提案が実施されなかった理由を調査し,不適切な事例とやむを得ない事例に区分した.その上で,2018年度と2022年度に行った提案の実施率,不適切な理由による未実施率,理由ごとに算出した未実施率を比較した.群間検定(t検定,カイ2乗検定)はIBM SPSS version 20で行い,p < 0.05を統計学的有意差とした.なお,本研究はNHO旭川医療センター 臨床研究審査委員会および倫理委員会により承認された(研究計画番号23-21,承認日2023年11月15日).

結果

NSTが介入した症例の患者背景と介入前の栄養指標を表1に示す.2022年度の新規介入件数は2018年度に比較して減少した.2018年度は男性の割合が高く,両年とも70歳以上の高齢者が約8割を占めた.栄養指標は多くの症例で低下していたが,2022年度の血清アルブミンと総コレステロール値は,2018年度の平均よりも有意に高かった.

表1.患者背景

2018年度 2022年度 p
新規介入件数(人) 367 272
性別[男性:女性](人) 225:142 141:131 0.019
介入時の年齢[50歳未満:50代:60代:70代:80代:90歳以上](%) 1:4:17:32:34:12 3:2:11:34:37:14 0.063
介入前の栄養指標
 Body Mass Index 19.9 ± 3.2 19.6 ± 3.3 0.310
 血中ヘモグロビン濃度(g/dL) 10.6 ± 1.9 10.9 ± 2.0 0.093
 血清アルブミン(g/dL) 2.5 ± 0.4 2.7 ± 0.6 <0.0001
 血清総コレステロール(mg/dL) 149 ± 43 171 ± 47 0.001
 血清コリンエステラーゼ(IU/L) 149 ± 56 168 ± 57 0.151

平均 ± 標準偏差,

※ 2018年と2022年度の比較.性別,年齢はカイ2乗検定,栄養指標はt検定.

NSTの介入と栄養療法の提案および実施数を表2に示す.2022年度は,新規介入症例数が減少したにも関わらず,総介入回数は変わらなかった.また,2022年度には1症例当たりの介入回数と栄養療法の提案回数が有意に増加した.2022年度にNSTが提案した栄養療法の実施率は,73.3%から97.0%へと大きく向上した.

表2.NSTの介入

2018年度 2022年度 p
総介入回数 1,231 1,336
1症例当たりの介入回数 3.3 ± 2.4 4.9 ± 3.5 <0.0001
栄養療法の総提案回数 360 501
1症例当たりの提案回数 1.0 ± 0.8 1.8 ± 1.8 <0.0001
提案した栄養療法の実施率(%) 73.3 97.0 <0.0001

平均 ± 標準偏差.

※ 2018年度と2022年度の比較.介入回数,提案回数はt検定,栄養療法の実施率はカイ2乗検定.

提案した栄養療法が実施されなかった理由を図1に示す.我々は,担当看護師により食事・注射オーダーが変更されなかった43提案,明確な理由無く主治医が否認した9提案,いずれ退院することを理由に主治医が否認した7提案,高血糖あるいは便秘を懸念して主治医が否認した2提案を不適切な未実施と判定した.2018年度には,4例で2回続けて食事オーダーが変更されず,1例で3回続けて明確な理由無く主治医が提案を否認し,1例で2回続けて患者が提案を拒絶した.その一方,2022年度に,連続して未実施となった提案は無かった.

図1.NSTが提案した栄養療法が実施されなかった理由.横棒グラフの網掛け部分は不適切と判断した未実施を示す.

両年を比較すると不適切な未実施は大きく減少した(表3).また,食事・注射オーダーの変更ミス,主治医の否認だけではなく,患者の拒絶による未実施も有意に減少した.

表3.未実施率の経時的な変化

2018年度 2022年度 p
不適切な未実施(%) 16.1 0.6 <0.0001
各々の理由による未実施(%)
 担当看護師のオーダー忘れ 11.4 0.4 <0.0001
 主治医の否認 6.4 0.2 <0.0001
 患者の拒絶 3.6 0.6 0.002
 提案後の早期退院 3.1 1.2 0.079
 病状悪化 1.6 0.6 0.176
 家族の拒絶 0.3 0 0.418

百分率は総提案数に対する未実施数の割合を示す.

※ カイ2乗検定による 2018年度と2022年度の比較.

考察

栄養管理は全ての疾患治療に共通する基本的医療の一つであり,NSTは個々の患者に適切な栄養管理を行うための集団と定義される6).1998年に兼業兼務システム(持ち寄りパーティー方式)が報告されてから,本邦でもNSTが急速に普及してきた7).その一方,多様な部署の職員により構成され,比較的新しい組織であるNSTの権限は限定されることが多く,栄養療法に懐疑的な主治医が提案を拒絶することも経験する.本研究は,NSTが提案する栄養療法の実施状況を調査し,問題点を把握して実施率の向上を図るために企画した.

しかし,先ず初めに調べた2022年度の実施率は,筆者の予想を上回る結果であった.このため,2018年度の実施率,経時的な変化とその要因についても調査を進め,主任管理栄養士を中心とする栄養管理室が2020年度に発案・実行した介入を知った.つまり,チェアマンが指示すること無く,コアメンバーはNST活動の改革を独自に考案し,実際に目的を達成したことになる.これは,持ち寄りパーティー方式の長所を具現化したものと言える.

2022年度の介入患者数減少は,新型コロナウイルス感染症の流行によって入院が減り(2018年度3,951人,2022年度3,541人),接触機会の抑制を継続したことが要因と考える.その一方で2022年の総介入回数が維持されたのは,2020年度より結核病棟,2022年度より障碍者施設等入院基本料を算定する病棟の患者に対してNST加算の算定を始めたことによる.両病棟では長期間入院している患者が多く,彼らへ積極的に介入することで1人当たりの介入数と栄養療法の提案数が増加したものと思われる.2022年度に女性の割合が大きくなり,栄養状態が良く消耗の少ない症例が増えたことは,コホートの背景や病態が変化したことを示唆しており,結果を解釈する際に留意する必要がある.

2018年度に提案した栄養療法が実施されなかった理由では,栄養療法の変更が確定した後の食事・注射オーダーに関するケアレスミス(43%),主治医の否認(24%),患者の拒絶(14%)が多かった.なお,いずれ退院すること,高血糖あるいは便秘を理由とした主治医の否認は,短期間でも適切な栄養療法は患者の利益となること,疾患に対する治療と栄養療法の両立を試みていないことから不適切と判断した.6割を占める不適切な未実施や,複数回連続して採択されなかった提案は,当時のNST活動に何らかの瑕疵があったことを示唆する.

2020年度に栄養管理室が実行した改革案は,2018年度に栄養療法が実施されなかった主な3つの理由に対応していた.即ち,提案が採択された後に栄養管理室が食事・注射オーダーを確認し,未変更ならば担当看護師へ連絡することで食事・注射オーダーに関するケアレスミスが大きく減少した.また,NSTが介入予定となった患者の主治医に,確認の院内メールを送付することで否認が減少した.なお,2018年度には特定の医師が複数の提案を否認しており,NST専従看護師あるいは主任管理栄養士が,彼らに直接介入の理由を説明することで多くの同意が得られるようになった.以前から当院のNSTでは,回診の際に食事や点滴の変更点を患者へ説明し,本人の同意を得た上で主治医へ提案していた.しかし,多忙を理由にカンファレンス後の回診に参加しないメンバーの医師がおり,患者の意向を確認できないまま提案した栄養療法への拒絶がみられた.専従者あるいは管理栄養士が介入前に栄養相談を行って患者の希望や嗜好を予め把握し,立案する栄養療法へ反映させたことで,患者の拒絶は有意に減少した.

これまで,NSTから提案された栄養療法の実施に関する検討は散見されるが,実施率を向上させる方策に言及した報告は少ない811).今回我々は栄養療法の実施を促す3つの工夫を紹介した.その一方で本研究は,前述したコホートの差に加えて,単施設における後ろ向きの検討であること,限定された期間の比較であること,改善策による実施率の向上を直接証明していないことに留意する必要がある.ただ,食事・注射オーダーのダブルチェックは業務負担が比較的小さく,一定の効果が期待できることから他の医療機関にも推奨したい.

結論

2022年に当院のNSTが提案した栄養療法の実施率は,2018年に比較して向上した.医師以外のコアメンバーが立案および実行した,1)事前の栄養相談,2)主治医との連携,3)食事・注射オーダーのダブルチェックが向上の要因と考えられた.

 

本論文に関連する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2024 Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy
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