Online Journal of JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
REPORT OF CONFERENCE
Report of the ESPEN 2024
Yoichiro Uchida
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2025 Volume 7 Issue 1 Pages 39-42

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 フェローシップ賞受賞

この度,日本栄養治療学会(JSPEN)の第38回学術集会(2023年5月9日から10日開催)において,名誉あるフェローシップ賞を頂きました.「短鎖脂肪酸の新たな可能性―基礎研究が示す肝障害の保護効果from bench to bedside―」についての発表での受賞であり,これからの外科周術期管理における腸内環境コントロールの重要性を改めて認識致しました.

 Academic Surgeonを目指した臨床と研究の両立

私は肝胆膵外科・肝移植を専門とする臨床医として,臨床と研究の両立を図るAcademic Surgeonを目指して取り組んでいます.外科手術において周術期管理は極めて重要であり,コメディカルとのチーム医療の充実を重要視しています.2012年,前任地の医学研究所北野病院(大阪)に赴任致しました時よりNutrition Support Team(以下,NSTと略)活動に力を注ぎ,2019年京都大学へ異動後も当科での単科型NSTを立ち上げ,積極的な周術期管理を継続しています.

基礎研究では,肝臓外科代謝免疫研究グループ(内田グループ)リーダーとして,肝臓外科・肝移植手術において不可避な事象である虚血再灌流障害(Ischemia Reperfusion Injury;以下,IRIと略)の克服をテーマとし,現在は肝IRIの有効な予防・制御法の確立と,術後急性期にグラフト不全に至る可能性が高い脂肪肝グラフト移植の機序解明に取り組んでいます.大別すると,①マウス肝IRIモデルにおいて,術前12時間の短時間絶食“fasting”が極めて有効な肝障害の抑制法であることを発見し1)[今回のThe 46th ESPEN Congress on Clinical Nutrition and Metabolism(以下,ESPENと略)で川本浩史先生が発表],この絶食状態をmimicするために絶食時におけるmetabolitesを同定し,その有効性を検証しています.②マウス脂肪肝グラフト移植モデルを世界に先駆け新規に確立し,脂肪肝移植時に起きるIRIの詳細な機序を探索しています.③腸内環境に着目し,食物繊維イヌリンの摂取(プレバイオティクス)により産生されるプロピオン酸(短鎖脂肪酸)が肝IRIを有意に軽減することを発見しました.この成果発表でフェローシップ賞を受賞致しました.今後も引き続き,短鎖脂肪酸の作用機序の解明,腸内細菌叢の改善に向けた基礎研究および臨床研究(シンバイオティクスを併用した肝移植周術期における短期予後に関する観察研究:jRCT1050240166)を継続して,肝臓外科手術成績の向上に寄与してまいります.

 ESPEN2024参加発表記

今年のESPENは2024年9月7日から10日までイタリアのミラノで,CLINICAL NUTRITION: “THE” TRANSVERSAL SCIENCEをテーマに開催されました.COVID-19によるパンデミックにより国際学会への現地参加は5年ぶりとなり,今回は当研究グループ(肝臓外科代謝免疫研究)メンバーの川本浩史先生(研究生)と伊藤聖顕先生(大学院生)と共に参加しました(写真1).128カ国から4,820名以上が参加し,抄録数は1,280演題と過去最高であり,日本からは53演題の発表があり(昨年の約2倍),大変盛況な会でありました.

写真1. 会場入口にて(筆者:中央)

内田グループ(肝臓外科代謝免疫研究)メンバーの川本浩史先生(研究生)(右)と伊藤聖顕先生(大学院生)(左)と共に参加

メインセッションとスペシャルセッションが特徴であり,前者は2つの記念講演(Sir David Cuthbertson Lecture: Exercise as medicine in a translational perspective: Focus on myokinesおよびArvid Wretlind Lecture: Optimal nutrition in critically ill children: Could less be more?),後者はGlobal Leadership Initiative on Malnutrition基準およびガイドライン関連でありました.IL-6は肝臓においては馴染みのある炎症性サイトカインの代表ですが,運動療法exerciseによるマイオカインとしてのIL-6が担う抗炎症作用について大変興味深く拝聴しました.また,大会長Luca Gianotti先生からは,膵頭十二指腸切除術患者に対するERASプロトコールにおけるsupplemental parenteral nutrition(SPN)(術後5日間)の意義に関する発表があり,予想に反してSPNの有用性(術後90日合併症発生率)は見出すことができませんでした.私も,膵頭十二指腸切除術などの周術期管理において,SPNを踏まえた「Intermediate Parenteral Nutrition(IPN)」管理という新概念を提唱していますので2)(今回のESPENで伊藤聖顕先生が発表),今後につながる大変有意義なご発表を勉強させて頂きました.

私の発表は,腸内細菌叢およびその代謝産物である短鎖脂肪酸(SCFA:酢酸・酪酸・プロピオン酸)に着目した研究でした.腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)は多くの疾患との関連が報告されています.肝胆膵外科領域においても術後感染性合併症との関連が指摘され,当科より肝移植後患者における腸内SCFA産生低下について報告していますが,肝IRIとの関係については十分に検討されていません.そこで,今回私達の研究で明らかとなった成果を発表致しました(図1).マウスにプレバイオティクスとして食物繊維イヌリン含有食を術前14日間摂餌後に肝IRIモデルを作成すると,肝IRIは有意に抑制され,その抑制効果は特定の腸内細菌(Bacteroides acidifaciens)が産生するSCFAに起因し,門脈血中のSCFA濃度は有意に増加しました.特にプロピオン酸で顕著であり,プロピオン酸を術前に腹腔内投与すると同様に肝IRIは有意に抑制され,肝IRIの増悪因子である核内蛋白HMGB-1放出量の減少,抗酸化物質(Acetylated histone-3,FOXO1,HO-1)の増加を促進しました.さらに,腹腔内マクロファージ(HMGB-1刺激)を用いた検討では,NF-κBおよびMAPKシグナルの発現が低下し,SCFAの有用性に関する機序が明らかになりました3).同セッションからはイヌリンおよびSCFAに関する発表があり,質疑応答では大変盛り上がりました(写真2).

図1. Poster Tour発表内容
写真2. POSTER TOUR発表(採択総数59演題)でのdiscussionの様子

座長Alastair Forbes先生(左),筆者(中央),イヌリン・短鎖脂肪酸の臨床研究を行っているBenjamin Seethaler先生(右)

 終わりに

国際学会で発表することは,国内発表では得られない考え方や新発見,思いがけない久しぶりの再会や新たな出会いの絶好のチャンスとなり,また自分を振り返る良い機会にもなります.今回は宿泊代の高騰に伴い,若手研究者と3名でシェアハウスを利用しました.現地のスーパーマーケットで食品を調達し,ワイン専門店でワインや文化の会話を楽しみながらワインを購入しました.そして滞在先で若手と一緒に食事を準備し,楽しみ,後片付けをするなど,共同作業を通じてお互いをより理解し合えるようになり,一生の思い出となる忘れられない学会参加となりました.

 謝辞

ESPENでの発表の機会を与えて頂きましたJSPEN理事長の比企直樹先生,フェローシップ委員会の先生方,そして学会関係者の皆様方に深く感謝申し上げます.研究の遂行にあたり,波多野悦朗教授をはじめ京都大学肝胆膵・移植外科の皆様,寺嶋宏明副院長(京都大学連携大学院講座兼任)をはじめ医学研究所北野病院の皆様,当研究グループの研究指導者である渡邊武名誉教授(免疫学)にご指導頂き,この場をお借りして御礼を申し上げます.今後も臨床に還元できる,臨床応用を意識した研究を継続していきたいと思っています.

引用文献
 
© 2025 Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition Therapy
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