2025 Volume 7 Issue 1 Pages 9-15
2022年の診療報酬改定において新設された入院栄養管理体制加算は,管理栄養士が病棟に常駐して医療チームの一員となって勤務することが評価推奨されたと考えられる.しかし多くの特定機能病院では体制構築の準備が不十分であり,現状のリソースで実施可能な範囲で行わざるを得ず,期待される結果を出せる状態ではない.先行した施設では執行部から体制構築による収支試算が求められ,人員の選抜や配置調整などにも大変な労力を要した.加算による部署収入増や入院期間の短縮など財務的価値と考えられる結果も得られたが,現場では他の医療者とのコミュニケーション向上やタスクシフト,患者満足度など数値化の難しい非財務的価値が得られた.こうした効果をさらに多くの施設から報告して,発足した制度を多くの施設に普及するための資料とする必要がある.
2022年の診療報酬改定により,特定機能病院に対して専従常勤の管理栄養士が1名以上配置されている病棟において入院栄養管理体制加算が新設された.このことはわが国の医療において管理栄養士がベッドサイドで従事するという医療者として当たり前の環境が初めて認められたことを意味する.これらの背景として入院する患者のうち,栄養障害があり,病態栄養管理が必要またはその両方を抱えている患者が約8割も存在しており1),管理栄養士が「必要時に病棟に赴く」といった従来の業務体制では限界がある.今後この制度を特定機能病院以外にも広げて,管理栄養士の能力をチーム医療に活かすためには,現時点で管理栄養士が常勤している病棟で見られる効果を総括して,新たにこの体制をとる施設の参考とする必要がある.これまで管理栄養士の病棟配置は現実的に困難であったが,いくつかの施設で試験的に行われており,数少ないが報告もある.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の伊藤らは病棟ではなく入院手続きの際に患者が立ち寄る栄養窓口を設置してその影響を検討した2).入院前に管理栄養士が患者に直接接することで,患者の栄養管理に関する医師への提案数が約2.5倍に増加した.また栄養ケアを強化し,患者40人に対して管理栄養士1人を配置している病院の方が,早期退院が推奨され,在院日数は短縮されていた1)ことや,管理栄養士が病棟配置されている場合,配置されていない施設と比較し,入院患者へ管理栄養士が赴く日数が早く,入院中の体重減少が抑制できたといった報告もある3).加えて,全国の実態調査4)の再解析の結果,管理栄養士を病棟に配置することによって従来の栄養管理体制と比較し,外来における栄養食事指導や在宅患者訪問栄養食事指導など外来部門や在宅部門での栄養管理の充実が図れているといった入院患者の栄養管理の充実だけではなく,シームレスな栄養管理につながっている.従来は医師が栄養管理上の問題に気付いて初めて管理栄養士が患者を訪問する形であったため,問題のある患者の発見ができなかったが,これが可能になったことで診療チームに貢献できていた.これら管理栄養士の病棟配置は栄養管理の充実だけではなく,従来医師や看護師が担っていた栄養関連業務を管理栄養士が担い,負担軽減にもつながっていた.しかしながら現状ではこうした効果を客観的なデータで示すことは困難であり,各施設で見られた効果をまとめて総説として記録することとした.
病院概要:病床数904床,給食全面委託,管理栄養士数31名,専従配置病棟数17病棟 非算定病棟数3病棟.
当院では2022年4月より全病棟に専従配置を行ったが,その効果を評価する指標を決定するにあたり,病棟の医療スタッフに対してアンケートを行い,管理栄養士に病棟でやってほしい業務を調査した.その結果,「患者に適切な食種・栄養処方を提案する」,「患者の普段の食事状況について問診して診療録に記載する」,の2つが70%以上となり,次いで患者の栄養状態を評価して診療録に記載することが求められた.この結果をまとめて,「患者の栄養状態に関する情報提供」,「栄養状態改善のための提案」,「患者に対する説明」を管理栄養士が病棟で行うべき主業務とした.そしてこれを評価する指標として,「他の医療者とコミュニケーションをする頻度」,「管理栄養士のカルテ記載」,などを考えた.配置前の2022年3月と配置一年後の2023年3月に同じ項目についてアンケート調査を行ったところ,図1に示すように一日1回以上対面コミュニケーションをとる医療者が2倍以上に増え,頻度の低いグループも半分以下となった.また図2に示すように,医療者のカンファレンス出席においても,管理栄養士の存在が明確に認識されるようになった.このほか,管理栄養士から医療職への提案数を示す診療録記載数,患者に接した時間についても増加している.数値化することは難しいが,このほか患者に対する食事の説明や具体的な指導など,医師や看護師にとってのタスクシフトとなることが現場の声として上がっており,多くの病棟において医療者が管理栄養士を病棟に配置することのメリットを享受している.一方従来医療の指標として用いられてきた在院日数や禁食時間数,生命予後などについては大きな変化はなかった.配置している病棟数が多いためもあるが,入院栄養管理体制加算算定数は毎月3,000件から3,500件(診療報酬:入院時270点,退院時270点)の間を推移している.

「管理栄養士との対面コミュニケーションの頻度(過去1カ月の平均)」病棟配置前後で頻度が上昇しているが,特に医師において「記憶にない」「月1回」が半減している.

「管理栄養士は医師の診療カンファレンス/回診(規模は問わない)に参加していますか?」病棟配置前後で管理栄養士の参加を認識している医療者が倍増しているが,「見たことがない,わからない」が医師で半減,医師以外では5分の1に減少している.
病院概要:病床数1,182床,給食直営,管理栄養士24名 専従配置病棟数1病棟,非配置病棟数23病棟[救急Intensive Care Unit(以下,ICUと略),救急病棟ICU,Stroke Care Unit(以下,SCUと略),Neonatal Intensive Care Unit,リハビリ病棟含む].
ここでは特定機能病院における入院栄養管理体制加算,早期栄養介入管理加算の導入から現在までの取り組み,見えてきた今後の課題について報告する.当院は私立医科大学附属病院で給食の経営形態は直営であり管理栄養士は調理から栄養指導まで全てを担っている.病棟は32診療科混合病棟で構成されており,管理栄養士は疾患の専門性を高めるため診療科ごとに配置を行い,栄養管理に携わることの多い13の診療科では毎週カンファレンス・回診に参加し,それ以外の診療科では嗜好調査など担当制で栄養ケアを行っている.
令和4年度診療報酬改定に伴い,入院栄養管理体制加算は7月から算定を開始,早期栄養介入管理加算は令和2年度の診療報酬改定時から特定集中治療管理料(ICU)を開始,さらに今回7月から救命救急入院料(救急ICU),脳卒中ケアユニット入院医療管理料(SCU)についても算定を開始した.
新規事業である専従配置の導入にあたり複数の課題をクリアすることが求められた.まず配置する管理栄養士の選別であるが,当院は直営のため,調理部門・栄養管理部門から専従,専任に配置できる能力のある人材を部内に偏りが起きないように検討した.次に,部署としての将来を見据えた人員の確保であるが,入院栄養管理体制加算を全病棟で目指していくためには病棟数に応じた増員が必要である.人事部門に増員を嘆願するためには病棟専従・専任配置による算定試算を行い,また病棟配置のアウトカムを出す必要がある.「患者のために」栄養管理を行うことが最重要項目ではあるが,私立医科大学附属病院で直営である当院では収益においても病院経営の視点は必要であり,栄養管理の評価を維持,拡大するには,その効果と採算性の検証を行っていくことは不可欠である.
早期栄養介入管理加算では,Nutrition Support Team(以下,NSTと略)設立より数年にわたって資格の取得や教育に力を入れてきた.また,2007年からはNST専門療法士認定教育施設にも認定されているため,NST研修の受講も行い,重症,低栄養患者の栄養管理にも従事しながら実践教育を行い後進の育成を行っている(表1).そのため,病床数に合わせて3病棟(ICU 2名,SCU 1名 救急ICU 1名),4名の配置が可能となり,2022年度の算定は1,245,740点であった.早期栄養介入管理加算の専任となるにはある程度の経験年数が求められた.しかしながら,輸液・リハビリ・看護など知識が不足している分野においては日々の多職種との情報共有により実践教育が行われスキルアップにつながったと考える.
| 【栄養管理・育成】 | |
| 1年目 | 厨房(調理・献立管理) |
| 管理事務(発注・食数管理)業務から開始 | |
| 半年後を目安に入院栄養管理開始 | |
| 2年目~ | 病棟各診療科に配置 |
| →数年かけてローテーション | |
| 3年目~ | 外来栄養指導開始 |
| NST研修 | |
| (専従・専任の指導の下,重症患者にも従事) | |
| 【栄養教育】 | |
| 新人勉強会 1~2年目 | |
| 栄養士勉強会 年4回 | |
| 栄養カンファレンス 毎月 | |
| 栄養指導付料理教室 講師 年1回・透析予防症例検討会 毎月 など | |
配置効果として早期栄養介入管理を導入することで48時間以内の経腸栄養実施率が66.7→73.5%へ上昇した.また,栄養管理の判断と対応を迅速に行うことができ,多職種(主治医,看護師,薬剤師,リハビリテーションスタッフ)との調整もタイムリーに実施することが可能になった.さらに栄養管理に関する多職種への交渉や集中治療室(ICU,救急ICU,SCU)から一般病棟への転科時にも栄養管理上解決すべき課題や今後の方針など診療科担当管理栄養士への引き継ぎがスムーズとなった.また,入室後7日を超える患者の栄養管理も毎日継続したが,算定につながらない事象も多々あり,入院栄養食事指導料や入院栄養管理体制加算は別に算定できないなど負担増も生じた.
病棟専従管理栄養士の選任にあたり,他の加算要件の資格や業務と重ならない人選を行い,該当病棟の決定には全病棟の直近(2021年4月~2022年2月)入退院の1カ月平均から年間算定料を試算し,入院栄養指導料や栄養サポートチーム加算など他の実績なども考慮しながら採算性かつ専門性が発揮できる病棟とした.該当病棟の1カ月あたり43,740点,1年換算では524,880点と試算した.同時に配置病棟拡大に向けて,過去5年の離職率,病欠・産休・育休取得率を算出し,上層部へ人員確保(採用)の上申を行った.
配置効果として,入院から退院までの一連の栄養管理を担うことで患者や他職種からの信頼を得ることにつながり平均在院日数9.48→7.44日の短縮につながった(表2).また,食事についての患者の生の声を聞き取る機会が増えたことで,給食管理部門(直営)への還元ができ,病院全体の患者給食満足度の向上につながった.
| 【2021年度との比較】 | |
|---|---|
| ➢入院日数 | 平均9.48→7.44日 |
| ➢食事調整等栄養ケア件数 | 9→301件/月 |
| ➢栄養食事指導実施件数 | 4→12件/月 |
| NST介入件数 | 5→12件/月 |
| ➢栄養情報提供書作成件数 | 0→1.5件/月 |
2022年度(9カ月間)の算定は453,060点で当初の試算を上回る結果が得られたが,入院栄養食事指導料は包括されるため,専従配置1病棟,救急ICU,ICU,SCU入室後の患者の入院栄養食事指導料が大きく減少,栄養サポートチーム加算についても専従配置病棟のNST介入患者により,実施件数は昨年同等であったが,算定率が98.1→92.4%と低下し栄養サポートチーム加算は減少した.
部署の収支の視点からは,入院栄養管理体制加算を算定できる配置病棟を拡大する上では他の加算を減らさないようにするための工夫が不可欠である.また,管理栄養士が多方面で専門的なスキルを発揮し,質の高い栄養管理を行っていくためには早期からの施設での体制づくり,人員の確保,管理栄養士個々の能力向上が求められる.
病院概要:病床数460床,地域医療支援病院,給食全面委託,管理栄養士数23名,全病棟に管理栄養士配置.
当院では2010年から全病棟に管理栄養士を配置し,各病棟で業務を行っている.令和4年度診療報酬改定にて周術期栄養管理実施加算が新設され,当院でも介入手順,対象の見直しを行い,全病棟で入院患者に管理栄養士が介入している.今回.大腿骨近位部骨折手術患者を対象とし,整形外科病棟入院患者における栄養管理上の問題点と管理栄養士の病棟配置による効果について検討した.
周術期栄養管理加算開始前の2021年では術前の栄養評価の実施率は6%,術後は81%であったのに対し,加算開始後の2023年では術前82%,術後は100%であり,特に術前の介入が増加した(図3).

2021年群:2021年3月~7月に大腿骨近位部骨折で入院し,全身麻酔の手術を行った102名
2023年群:2023年3月~7月に大腿骨近位部骨折で入院し,全身麻酔で手術を行った106名
評価項目:栄養スクリーニング,栄養アセスメント,周術期における栄養管理の計画,栄養管理の実施,モニタリング,再評価および必要に応じて直接的な指導,計画の見直し
対象患者106名のうち,退院時に推奨栄養量の摂取ができていなかった患者は53%で,術後1週間を経過しても摂取量が変化しない,もしくは低下していく患者も認めた.理由としては,認知機能低下の影響や,入院前の生活習慣の影響で食思が低下している,などが多かった(図4左).今後管理栄養士は周術期の外科治療による影響だけでなく,高齢者特有の影響についても考慮して関わることが重要である.また,摂食嚥下機能低下も大きな問題であり,対象患者の51%で何らかの機能低下を認めた.入院まで適切な嚥下機能の評価を受ける機会がなかった,または入院中にせん妄や体力低下などで誤嚥のリスクが高まったと考えられる患者が多かった(図4右).病棟に管理栄養士が常駐することで,入院前の食事の情報だけでなく実際に患者の食事場面を観察,比較して経時的に評価することなどで,入院中のさまざまな問題点に迅速に対応することが可能となっている.

2023年介入群106名を対象に管理栄養士が行った評価を元に算出した.
当院では管理栄養士が病棟配置になったことで,病棟のスタッフから対応の早さや相談のしやすさ,お互いに影響し合いスキルアップにつながったとの声があがった.それは自ら多職種と関わり,顔の見える距離で信頼関係を築いた効果である.
患者の高齢化に伴い,疾患の対応や知識だけでなく,患者には多方面からの支援が求められるようになってきている.今後の管理栄養士は,異なる専門職がそれぞれ何を目指して患者に関わっているか相互に理解し学び合う多職種連携(IPW,Inter Professional Work)を目指して患者のニーズに応えていく必要がある.そのためにも管理栄養士の病棟配置が広がり,自ら考えて動ける管理栄養士が増えていく必要がある.
2022年に発足した入院栄養管理体制加算に対する各施設の取り組みについて述べた.日本臨床栄養学会では管理栄養士の病棟配置を推進するために2014年から管理栄養士病棟配置推進委員会の活動を開始し,エビデンスとしての情報発信を目的として多施設臨床研究である「栄養学的問題を有する入院患者に対する管理栄養士の介入と予後に関する調査」を企画5)・実施6)した.しかし「管理栄養士を病棟に配置することで,患者予後が改善する」という仮説を求めて従来の医学研究と同様の手法でアウトカムの指標が患者の栄養指標としたこと,疾患や対象を絞れなかったことなどから説得力のある結果は得られなかった.また今後さらに病棟配置を広めていくためには,今回報告した施設のように導入に際して経済的な試算を行い,ある程度の収益性を示す必要がある.その意味では診療報酬加算が新設されたのは大きな追い風であるが,必ずしもこれが達成できるかどうかは不明である.本来管理栄養士が病棟で医療チームに加わる意義は,栄養に関する唯一の専門医療職としてその知識と能力を提供して,診療内容を変化させることである.医学的予後や経済的な収益はその結果として発生するかもしれないが,現場で感じやすい効果は医療チームへの貢献やチーム内のコミュニケーション構築,タスクシフト,患者満足度など,数値化しにくい効果である.とくに今後の医療機関がダイバーシティ経営を実施していくにあたっては財務的価値に捉われるのではなく,非財務的価値にも配慮していく必要がある7).わが国の管理栄養士が待ち望んできた病棟での勤務が一日も早く標準になるにはさまざまなステップが必要であるが,今回の診療報酬加算新設で経営的な支えができたことは大きな一歩である.多くの管理栄養士がこの勤務形態を経験して多くの施設に根付かせるために,今後は臨床研修制度の確立が必要と考えられるため関連団体の協力が望まれる.
本論文は第39回日本臨床栄養代謝学会学術集会(JSPEN2024 横浜 2024年2月)における栄養士・管理栄養士部会企画のパネルディスカッション「みんな集まれ!病棟専従・専任管理栄養士の実際とこれからの教育」において発表した内容を含む.発表内容に寄与した東京医科大学病院栄養管理科職員,相澤病院外科センター西田保則氏,栄養科栄養管理室矢野目英樹氏に感謝する.
本論文に関する著者の利益相反なし