2026 Volume 8 Issue 1 Pages 3-10
【目的】水疱性類天疱瘡(Bullous pemphigoid;以下,BPと略)は高齢者に好発し低栄養状態をきたしやすい.BP患者における早期栄養サポートチーム(Nutrition support team;以下,NSTと略)介入の影響を検討する.
【対象および方法】2017年4月から2024年1月にBPと診断され,NSTに紹介された7例を対象に後ろ向き観察研究を実施し,NST介入時期と転帰の関係を主要評価項目とした.重篤な合併症発症にも着目した.
【結果】NST介入までの期間は,自宅退院群(n = 3)で5(5–17)日,転院・死亡群(n = 4)で22.5(18–37.5)日と有意差を認めた(p = 0.048).必要栄養量充足率は,自宅退院群では全例で80%以上であるのに対し,転院・死亡群では72.5(33–85.75)%であった.自宅退院群では介入後の新規合併症の発生は認めなかった.
【結論】重症BP患者において早期NST介入が必要栄養量充足と良好な転帰に寄与する可能性が示唆された.血清アルブミン値単独での評価には限界があり,Global leadership initiative on malnutrition(GLIM)基準などによる包括的栄養評価の重要性が再確認された.
Objective: The goal of the study was to investigate the impact of early Nutrition Support Team (NST) intervention in patients with bullous pemphigoid (BP). BP is a common autoimmune disease in elderly people. Patients are susceptible to malnutrition due to protein loss from skin lesions and increased catabolism caused by steroid therapy.
Subjects and Methods: A retrospective observational study was performed for 7 patients who were diagnosed with BP at our hospital and referred to the NST between April 2017 and January 2024. The primary endpoint was the relationship between the timing of NST intervention and outcomes, with a focus on avoidance of severe complications in the early intervention group.
Results: The average period until NST intervention was significantly shorter in the home discharge group (n = 3) compared to the transfer/death group (n = 4) (5 (5–17) vs. 22.5 (18–37.5) days, p = 0.048). The nutritional intake rate was ≥80% for all patients in the home discharge group, but only 72.5 (33–85.75) % in the transfer/death group. There were no new complications in early intervention cases after intervention.
Conclusion: Early NST intervention may contribute to meeting required nutritional intake and favorable outcomes in patients with severe BP. Evaluation of serum albumin alone is limited. Our results reaffirm the importance of comprehensive nutritional assessment, such as with use of the GLIM criteria.
水疱性類天疱瘡(Bullous pemphigoid;以下,BPと略)は,表皮下水疱を特徴とする高齢者好発の自己免疫性疾患である1,2).本疾患では,病変部からの蛋白漏出,ステロイド治療による異化亢進,および併存疾患の存在により低栄養状態をきたしやすい3,4).Rzanyらの報告では,入院時の血清アルブミン値が3.6 g/dL以下のBP患者において1年以内の死亡リスクが有意に上昇すること(相対リスク2.6,95%信頼区間1.5–4.4)が報告されており5),低アルブミン血症は予後不良の重要な予測因子として認識されている.特に高齢者に多い本疾患では,糖尿病等の基礎疾患の合併頻度が高く3),粘膜類天疱瘡などの亜型では口腔内病変による経口摂取困難があり,また持続的な蛋白漏出により栄養状態が悪化しやすい4,6).さらに,近年ではBP患者の死亡リスク因子として虚血性心疾患,心不全,脳卒中が報告されているが7),栄養評価との関連を検討した研究は乏しい.また,BP患者においてビタミンD欠乏が生じやすく8,9),これに伴う免疫能低下やサルコペニアの進展を引き起こし,予後に影響を与える可能性が指摘されている3)ものの,具体的な栄養学的影響に関する研究データは不足している.さらに,ステロイド治療は血糖値や脂質代謝だけでなく筋肉量減少にも影響をおよぼすため,包括的な栄養管理が不可欠である3,4,10).しかしながら,栄養サポートチーム(Nutrition support team;以下,NSTと略)の早期介入による有用性については十分な検討がなされていない.そこで本研究では,BP患者における早期NST介入の有用性を明らかにすることを目的として,当院でNST介入を実施したBP患者の臨床経過を後ろ向きに解析した.
2017年4月1日から2024年1月31日に当院でBPと診断され,栄養管理を目的としてNSTに紹介された連続7例(男性5例,女性2例)を対象とした単施設後ろ向き観察研究を実施した.
診療録より,患者背景(年齢,性別,Body mass index[以下,BMIと略],既往歴,糖尿病の有無),血液検査所見(血清アルブミン値,C反応性蛋白[CRP],抗BP180NC16a抗体価),蛋白質摂取量,栄養摂取状況(食種,食事形態,経腸栄養剤使用状況,食事摂取量,必要栄養量充足率),BP重症度(Bullous pemphigoid disease area index;以下,BPDAIと略)11),BPに対する治療内容,NST介入までの期間の情報を収集した.
必要栄養量充足率は,実際の摂取エネルギー量を必要エネルギー量で除し100を乗じて算出した(必要栄養量充足率(%) = 実際の摂取エネルギー量/必要エネルギー量 × 100).必要エネルギー量はHarris-Benedict式で算出した基礎エネルギー消費量に活動係数1.2,ストレス係数1.3を乗じて求めた.蛋白質必要量は,皮膚病変からの蛋白漏出とステロイド投与による蛋白異化亢進を考慮し,1.2–1.5 g/kg/日を目標とした4,6).非蛋白熱量窒素比(NPC/N比)は120–150を目標範囲とし4,18),ステロイド治療による蛋白異化を最小限に抑え,適切な蛋白合成を促すよう設定した.必要栄養量充足率の評価はNST介入終了時点(退院時または転院時)で行った.
転帰は自宅退院と転院または死亡の2群に分類した.主要評価項目としてNST介入までの期間と転帰の関係(自宅退院群vs転院・死亡群)を検討した.副次評価項目として,必要栄養量充足率の群間比較,入院時血清アルブミン値の群間比較,およびNST介入までの日数と必要栄養量充足率との相関関係,および入院時と入院1カ月後の抗BP180NC16a抗体価の変化を評価した.
統計解析にはJMP Pro version 18.0.2(SAS Institute Inc.)を使用した.連続変数は中央値(四分位範囲)で示し,群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.相関分析にはSpearmanの順位相関係数を使用した.p < 0.05を統計学的に有意とした.
本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会の承認(管理番号4096)を得て実施した.
対象患者7例の年齢中央値は73(67–80)歳,BMIは21.9(21.1–23.6)kg/m2であった.全例がBPDAIスコアの重症基準を満たしており,診断時の抗BP180NC16a抗体価中央値は9,370(3,760–26,720)U/mLであった.治療として,全例で経口ステロイド療法(プレドニゾロン換算0.5–1.0 mg/kg/日)が実施され,それぞれ7例中6例(85.7%)で血漿交換療法と免疫グロブリン静注療法が併用された.入院時の血清アルブミン値中央値は2.6(2.5–3.1)g/dL,CRP中央値は5.3(5.2–10.1)mg/dLであった(表1,2).
| 項目 | 全体(n = 7) | 自宅退院群(n = 3) | 転院/死亡群(n = 4) | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 患者背景 | ||||
| 年齢(歳)† | 73(67–80) | 73(67–79) | 75.5(66.5–81.5) | 0.86a |
| 性別(男/女) | 5/2 | 2/1 | 3/1 | 1.00b |
| BMI(kg/m2)† | 21.9(21.1–23.6) | 23.6(21.1–23.6) | 21.8(20.2–24.4) | 0.86a |
| 疾患重症度 | ||||
| BPDAIスコア‡ | ||||
| 皮膚びらん/水疱 | 93(45–110) | 45(39–110) | 99(64.5–108.75) | 0.46a |
| 皮膚:膨疹・紅斑 | 45(9–74) | 9(7–100) | 50(34.5–69.25) | 0.63a |
| 粘膜びらん/水疱 | 4(0–6) | 4(1–6) | 3(0–8.25) | 1.00a |
| 抗BP180NC16a抗体価(U/mL)† | 9,370(3,760–26,720) | 10,090(3,760–30,950) | 7,775(4,005–22,382.5) | 0.63a |
| 併存疾患 | ||||
| 糖尿病 | 5(71%) | 3(100%) | 2(50%) | 0.43b |
| DPP-4阻害薬使用歴 | 2(29%) | 1(33%) | 1(25%) | 1.00b |
| 悪性腫瘍 | 2(29%) | 1(33%) | 1(25%) | 1.00b |
| 経過 | ||||
| 在院日数† | 57(47–61) | 47(39–57) | 59(54.75–76) | 0.14a |
| 入院時血清Alb値(g/dL)† | 2.6(2.5–3.1) | 2.7(1.4–3.7) | 2.55(2.5–2.975) | 0.80a |
| 入院時血清CRP値(mg/dL)† | 5.3(5.2–10.1) | 10.1(0.3–17.9) | 5.3(5.2–5.4) | 0.59a |
| NST介入までの日数† | 18(5–27) | 5(5–17) | 22.5(18–37.5) | 0.048a* |
| 必要栄養量充足率(%)§† | 85.0(60–107) | 107.0(82–119) | 72.5(33–103.75) | 0.40a |
対象患者7例を転帰により自宅退院群(n = 3)と転院・死亡群(n = 4)に分類し,患者背景と臨床的特徴を示した.NST介入までの期間は自宅退院群で有意に短かった(p = 0.048).
BMI:Body mass index(体格指数),BPDAI:Bullous pemphigoid disease area index(水疱性類天疱瘡重症度指数),DPP-4:Dipeptidyl peptidase-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4),NST:Nutrition support team(栄養サポートチーム),Alb:Albumin(アルブミン).
† 値は中央値(四分位範囲)で示す
‡ BPDAIスコアは各項目0–120点で評価
§ 必要栄養量充足率(%) = 実際の摂取エネルギー量/必要エネルギー量 × 100
(必要エネルギー量はHarris-Benedict式による基礎エネルギー消費量に活動係数1.2,ストレス係数1.3を乗じて算出)
a:Mann-WhitneyのU検定,b:Fisherの正確確率検定
*p < 0.05を統計学的有意とした
| 項目 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 症例No. | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
| 患者背景 | |||||||
| 年齢/性別 | 67/M | 79/M | 73/F | 82/F | 65/M | 71/M | 80/M |
| BMI(kg/m2) | 21.1 | 23.6 | 23.6 | 21.8 | 19.6 | 25.2 | 21.9 |
| NST介入と転帰 | |||||||
| 介入までの日数 | 5 | 5 | 17 | 18 | 18 | 27 | 41 |
| 入院時血清Alb値(g/dL) | 1.4 | 2.7 | 3.7 | 2.6 | 2.5 | 3.1 | 2.5 |
| 入院時血清CRP値(mg/dL) | 17.9 | 10.1 | 0.3 | 5.3 | 5.4 | 5.2 | 5.3 |
| 必要栄養量充足率(%) | 107 | 119 | 82 | 85 | 60 | 86 | 24 |
| 蛋白充足率(%) | 112 | 104 | 91 | 82 | 66 | 108 | 20 |
| NPC/N | 145 | 122 | 130 | 140 | 164 | 128 | 109 |
| 転帰 | 自宅 | 自宅 | 自宅 | 転院 | 死亡 | 転院 | 転院 |
| 治療内容 | |||||||
| 経口ステロイド療法 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| ステロイドパルス療法 | ○ | ― | ○ | ― | ― | ― | ― |
| 血漿交換 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ― | ○ |
| IVIg療法 | ○ | ○ | ○ | ― | ○ | ○ | ○ |
| アルブミン製剤 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| NST介入内容 | |||||||
| 食形態/食事内容変更 | ○ | ○ | ― | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 静脈栄養メニュー提案 | ○ | ― | ○ | ― | ○ | ― | ○ |
| BPDAI | |||||||
| 皮膚:びらん・水疱(/120) | 110 | 45 | 39 | 93 | 55 | 105 | 110 |
| 皮膚:膨疹・紅斑(/120) | 100 | 9 | 7 | 74 | 55 | 45 | 31 |
| 粘膜:びらん・水疱(/120) | 1 | 4 | 6 | 9 | 0 | 0 | 6 |
| 抗BP180NC16a抗体価(入院時) | 30,950 | 3,760 | 10,090 | 26,720 | 6,180 | 3,280 | 9,370 |
| 抗BP180NC16a抗体価(入院時から1カ月後) | 1,750 | 2,090 | 282 | 4,370 | 9,460 | 2,550 | 260 |
| 抗BP180NC16a抗体価低下率(%)† | 94.3% | 44.4% | 97.2% | 83.6% | –53.1% | 22.3% | 97.2% |
| 合併症 | |||||||
| 介入時の合併症 | 褥瘡 糖尿病 肺炎 |
肺がん(既知) 糖尿病 |
胸椎圧迫骨折 糖尿病 |
糖尿病 高血圧 狭心症 |
慢性腎不全(維持血液透析) 創部感染 |
創部感染 肺炎 |
糖尿病 MRSA菌血症 CMV感染症 誤嚥性肺炎 |
| 介入後の新規合併症 | ― | ― | ― | CMV感染症 | 肺炎 DIC CMV感染症 消化管穿孔 |
胃がん(治療中に発見) 急性腎不全 |
急性胆嚢炎 カテーテル関連 血流感染症 |
7症例の背景情報(年齢,性別,BMI,既往歴),疾患重症度(BPDAI,BP180NC16a値),NST介入(内容,介入時期,必要栄養量充足率),合併症発症状況,および転帰を示した.早期NST介入例(症例1–3)では必要栄養量充足率が高く,介入後の新規合併症発症が少なかった.
Alb:Albumin(アルブミン),BMI:Body mass index(体格指数),BPDAI:Bullous pemphigoid disease area index(水疱性類天疱瘡重症度指数),CMV:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス),DIC:Disseminated intravascular coagulation(播種性血管内凝固症候群),IVIg:Intravenous immunoglobulin(静注用免疫グロブリン),MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌).
1.必要栄養量充足率(%)は介入終了時の値を示す
2.合併症は診療録に記載された主要なものを記載
3.BPDAI各項目のスコアは0–120点で評価
NST介入までの期間は,自宅退院群(n = 3)で5(5–17)日,転院・死亡群(n = 4)で22.5(18–37.5)日と有意な差を認めた(p = 0.048)(表1,図1a).両群間で,年齢,性別,BMI,悪性腫瘍の合併率,糖尿病合併率,DPP4阻害薬の使用歴に明らかな差を認めなかった.また,重症度スコアのBPDAIや,BPの病勢を反映する抗BP180NC16a抗体価においても両群間で明らかな差を認めなかった.また,入院時血清アルブミン値は両群に差を認めなかった(p = 0.80)(図1b).入院時CRP値についても,自宅退院群で10.1(0.3–17.9)mg/dL,転院・死亡群で5.3(5.2–5.4)mg/dLと両群間で有意差を認めなかった(p = 0.59)(表1).

NST介入終了時点での必要栄養量充足率は,自宅退院群では全例で80%以上が達成された一方,転院・死亡群では72.5(33–103.75)%であった(p = 0.40).NST介入までの日数と必要栄養量充足率との関係については,介入までの日数が少ないほど充足率が高い傾向がみられた(ρ = –0.70,p = 0.07)(図2).

蛋白質充足率は,自宅退院群で104(91–112)%,転院・死亡群で74(31.5–101.5)%であり,自宅退院群でより高い充足率を示す傾向が認められたが,統計学的有意差は認めなかった(p = 0.23).NPC/N比は,自宅退院群で130.3(121.5–145.4),転院・死亡群で134.3(113.9–158.1)と両群間で差を認めなかった(p = 1.00)(図3).

抗BP180NC16a抗体価は,全体として入院時の中央値9,370(3,760–26,720)U/mLから入院1カ月後には2,090(282–4,370)U/mLへと有意に低下した(p = 0.018).抗体価の低下率は,自宅退院群で94.3%(44.4–97.2%),転院・死亡群で53.0%(–34.25–93.8%)であり,自宅退院群でより高い低下率を示す傾向が認められたが,統計学的有意差は認めなかった(p = 0.48).なお,症例5では抗体価の上昇を認めた(表2).
NST介入の内容として,7例中6例(85.7%)で食形態および食事内容の変更が実施され,3例(42.9%)で静脈栄養メニューの提案が行われた.
表2には7症例の詳細な臨床的特徴と経過を示した.各症例の年齢,性別,BMI,既往歴,BPDAI,抗BP180NC16a抗体価に加え,NST介入の具体的内容,介入までの期間,NST介入終了時点での必要栄養量充足率,合併症,転帰を記載している.特に注目すべき代表症例として,症例2(79歳,男性)は2型糖尿病を合併しており,入院時の炎症反応としてCRPは10.1 mg/dLと高値であったが,発症5日目での早期NST介入により,適切な食形態調整(ソフト食から常食へ段階的移行)を実施した結果,介入直後から必要栄養量の充足が達成され,NST介入終了時には必要栄養量の119%に達した.新規合併症の発症なく自宅退院が可能であった.
一方,症例7(80歳,男性)では介入が41日目と遅延し,急性胆嚢炎およびカテーテル関連血流感染症を合併,必要栄養量充足率は24%に留まり転院となった.表2から,比較的早期からの介入例(症例1,2)では必要栄養量充足率が高く,介入後の新規合併症の発生は認めていない.症例3はやや介入が遅れたものの入院時のアルブミン値が高値であり,重症度も,重症ではあるが,BPDAIスコアが7症例中で最も低いことなどが比較的良好な経過(介入後の新規合併症なし,自宅退院)に寄与したものと考えられた.一方,NST介入が遅れた症例(症例4,5,6,7)では,表2に示すような種々の合併症をきたした.
本研究では,重症BP患者におけるNST介入時期と臨床転帰の関連を後ろ向きに検討した.その結果,自宅退院群では転院・死亡群と比較してNST介入までの期間が短いことが明らかになった.さらに,転院/死亡の転帰をとった症例は全てNST介入が遅く,18日以降であったことより,予後改善には,できるだけ早期のNST介入が望まれる.少数例での検討で有意ではないものの,図2に示すようにNST介入までの日数が短いほど必要栄養充足率は高い傾向を示している.100%の充足率を目指す場合はNST介入までの日数は図2より約10日前後となり,このことより我々は少なくとも10日以内のNST介入による早期の栄養サポートが予後改善に必要と考えている.
自宅退院群の特徴として,全症例がBPDAIで重症基準を満たしていたにもかかわらず,経口摂取のみで必要栄養量の80%以上が充足可能であった点が挙げられる.これは,早期から口腔内病変による疼痛に配慮した刺激の少ない食形態の工夫や栄養補助食品の活用により,適切な食事形態の選択と段階的な調整が可能となり,必要栄養量の充足につながったためと考えられる.高齢者に多いBPでは,併存疾患の有無,入院前のActivity of daily living(ADL),食事摂取状況,介護度などを含めた包括的な栄養アセスメントに基づく,個別化された介入が重要である1,6).
BPの治療に関して,全例で経口ステロイド療法が実施され,85.7%で血漿交換療法やIVIg療法が併用されていた.このような強力な免疫抑制療法下において,比較的早期に介入し得た自宅退院群では重篤な感染症や臓器障害の発症が少なく,早期からの適切な栄養管理が感染防御能の維持に寄与した可能性が示唆される.
BPにおける栄養管理では,エネルギー補給のみならず蛋白質・アミノ酸の適切な投与が極めて重要である.本疾患では,広範な皮膚病変からの持続的な蛋白漏出に加え,ステロイド治療による筋蛋白分解の亢進により著明な蛋白異化状態となる4,6).高用量ステロイド投与下では必須アミノ酸の酸化が増大し6,13),ユビキチン-プロテアソーム系を介した筋蛋白分解が促進されることが報告されている14).このため,1.2–1.5 g/kg/日程度の蛋白質投与を目標とし4,6),NPC/N比を120–150程度に維持することが,窒素収支の均衡と筋肉量維持に不可欠である4,12,13).本研究では,早期NST介入により,個々の病態に応じた蛋白質強化食品やアミノ酸輸液の適切な使用が可能となり,これが良好な転帰に寄与した可能性が考えられる.
NST介入後の新規合併症の発生に関しては,自宅退院群(症例1,2,3)では認めず,転院・死亡群(症例4,5,6,7)とは対照的であった.新規合併症発症予防の観点からも早期の介入が極めて重要と考えられる.また,本研究では副次的に抗BP180NC16a抗体価の経時的変化を評価した結果,全体として入院1カ月後に有意な抗体価の低下を認めた.これは免疫抑制療法の効果を反映していると考えられるが,自宅退院群では抗体価の減少率がより大きい傾向がみられた.適切な栄養管理により免疫能が維持され,ステロイドを含む免疫抑制療法の効果が十分に発揮された可能性が示唆される.ただし,症例5のように抗体価が上昇した例も認められ,個々の症例における病勢や治療反応性の評価には注意が必要である.
栄養評価指標に関して,従来より血清アルブミンが広く用いられてきたが,近年では,血清アルブミン値は栄養状態の直接的な指標としては適切でないと認識されている.Evans DCらは,血清アルブミンを含む内臓蛋白質は栄養状態よりも炎症の程度を反映し,炎症反応の存在下では栄養状態とは無関係に低下することを指摘している.特にBPのような重度の炎症,皮膚からの蛋白漏出,異化亢進を伴う疾患では,血清アルブミン値単独での栄養評価は限界があり,誤った臨床判断につながる可能性がある15).本研究でも,入院時血清アルブミン値のみでは転帰予測が困難であったことが,この知見を支持している.
このような背景から,現在の栄養評価では2019年に提唱されたGlobal Leadership Initiative on Malnutrition criteria(以下,GLIMと略)基準による包括的評価が重要視されている.GLIM基準は,体重減少や低BMI,筋肉量減少などの表現型基準と,摂食量減少や疾患負荷・炎症などの病因基準を組み合わせた多角的な評価を採用している.血清アルブミン値に依存せず,臨床的評価と客観的指標を統合している点が特徴であり,その国際的な普及と臨床現場での実装が重要である16).
BPのような自己免疫性水疱症においては,皮膚バリア機能の破綻による蛋白漏出,炎症性サイトカインの上昇,ステロイド治療による異化亢進,亜型や病型によっては口腔内病変による摂食障害など,複合的な要因が栄養状態に影響を及ぼす.Stojらは,自己免疫性水疱症患者の65.2%が食物不耐性を示し,特定の食品を避けることを報告している17).また,BP患者ではビタミンD欠乏が認められ,免疫能低下やサルコペニアの進展に関与する可能性が指摘されている8,9).
今後,BP患者に特化した栄養評価指標の開発が望まれる.具体的には,疾患活動性(BPDAI),皮膚面積と蛋白漏出量の相関,ステロイド投与量と筋肉量減少の関連,および炎症マーカーと併せた総合的スコアリングシステムの構築が考えられる.また,早期から実施すべき栄養介入プロトコルの標準化も重要な課題である.例えば,口腔内病変の重症度に応じた食形態の選択アルゴリズム,必要栄養量充足までの段階的アプローチ,免疫抑制療法下における適切な栄養素などの指針が確立されれば,より効果的な栄養管理が可能になると考えられる.
本研究には以下の限界がある.第一に,単施設後ろ向き研究であり症例数が7例と限られていることである.第二に,介入時期以外の交絡因子(併存疾患の重症度,ステロイド投与量など)の影響評価が十分でない点,またBPDAIスコアやGLIM基準による栄養評価,蛋白質摂取量やNPC/N比の経時的推移など,より詳細な評価が実施できなかった点である.第三に,BPでは薬剤,特にDPP-4阻害薬が発症に関与する可能性や悪性腫瘍との関連が指摘されているが18),本研究では症例数が限られており十分な評価には至っていない.
今後は,GLIM基準を用いた栄養評価と介入時期の関連を明らかにするための多施設前向き研究が求められる.特に,最適な介入時期や標準的な介入プロトコルの確立が重要である.
本研究により,重症BP患者においては早期のNST介入が必要栄養量の充足と良好な転帰に寄与する可能性が示唆された.特に,早期からの介入例では経口摂取のみで必要栄養量が充足され,自宅退院が可能であった.また,血清アルブミン値単独での評価には限界があり,GLIM基準などによる包括的評価の重要性が再確認された.今後は,BP患者に特化した栄養評価指標と標準的介入プロトコルの確立に向けた大規模な前向き研究が求められる.
本論文に関する著者の利益相反なし