FISH GENETICS AND BREEDING SCIENCE
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Differences of Methylation Patterns among Guppy Strains
Hideyuki NANJOMayuko AWAJIMasamichi NAKAJIMA
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2022 Volume 51 Issue 1-2 Pages 11-15

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Abstract

AFLP法を応用した手法でグッピー3系統(S、SC、G)間のメチル化パターンの差異を検出した。合計126のメチル化変異領域が検出された。何らかのメチル化が生じている頻度は、S 系統で高く、G 系統で低かった。また、メチル化の有無で系統間の類縁関係を調べたところ、S と SC 系統が近く、G 系統が離れていた。この系統間の関係はアイソザイムなどで得られている系統間の関係と同様であった。このことは、系統育成の過程が DNA メチル化パターンにも反映している可能性が考えられた。

Translated Abstract

DNA methylation has been known as the gene expression system without sequence substitution in not only experimental animals but also livestock animals. Differentiation of methylation patterns among three guppy strains was examined. Modified AFLP method was used for the identification of methylation pattern of the guppy. Total of 126 regions which indicated different methylation patterns among three strains were observed. S and SC strain indicated similar metylation pattern, and G strain indicated apart from these two strains. There were several regions which affect to strain differentiations. It was assumed that differentiations of methylation patterns were caused by different breeding process. For the application for fish breeding, more information about the methylation patterns on the genome is necessary.

生物の表現型変異は遺伝要因と環境要因から成っている。この遺伝要因には、先天的な配列変異の他に、後天的な配列に対する修飾が知られている。このような後天的な影響はエピジェネティクスと呼ばれている。エピジェネティクスとは塩基配列の変化を伴わず遺伝子発現を調節する遺伝子修飾のことであり、DNA メチル化やヒストン修飾、Non-coding RNA などが知られている。中でも、最初に発見された DNA メチル化は多くの真核生物における遺伝子修飾の主要な形態である1)

哺乳類では、DNA メチル化は主に CpG ジヌクレオチド(5’-CG-3’)で発生し、両方の鎖で対称的なパターンを形成する。マウスやヒトゲノムでは、CpG ジヌクレオチドの大部分(約60~80%)がメチル化されている。非 CpG(CpA、CpT、または CpC)部位でのメチル化は、胚性幹細胞(ESC)、卵母細胞、ニューロンなどの特殊な細胞タイプを除いてほとんど存在しない 2)。一般に、高度に発現する遺伝子の遺伝子本体はメチル化されている。遺伝子本体のメチル化は遺伝子発現と正の相関があることが報告されているが、その機能は不明である 3)。一方、CpG アイランド、つまりプロモーター領域に頻繁に存在する500~2000 bp の GC リッチ配列は低メチル化状態となっている3)。プロモーター領域のメチル化は遺伝子をサイレンシングすることで知られている。

現在、家畜育種の分野ではエピジェネティクスに関連した様々な研究が行われている。乳牛においては、乳生産特性と強く関連する遺伝子である EEFD1 と RPL8 のプロモーター領域の CpG アイランドのメチル化が、転写調節に重要な役割を果たしている可能性が示されている 4)。また、成長の早いブロイラーと遅いブロイラーの間で、筋肉の発達を調節する可能性のある、異なるメチル化パターンを有する既知の成長遺伝子である IGF1R、FGF12、FGF14、 FGF18、FGFR2、FGFR3 を含む候補遺伝子が明らかにされている 5)。これらのことから、魚類においてもエピジェネティックな違いが表現型と関連している可能性がある。

メチル化状態の変化にはエサやストレス等の環境要因が指摘されており、魚類育種において重要な問題と考えられている。エサがエピジェネティックな変化を引き起こす例として、アグーチマウスでの実験が挙げられる。妊娠中の母親が摂取するエサによって、子のメチル化パターンに変化が生じ、体毛色が変化することが報告されている 6,7)。 ゼブラフィッシュをモデル生物とした実験では、魚粉を用いた飼料から植物ベースの飼料に移行することで腸での DNA メチル化パターンが変化することが報告されている 8)

DNA メチル化の解析法として、メチル化感受性制限酵素を用いる方法とバイサルファイト処理を利用した方法が知られている。メチル化感受性制限酵素を用いる方法の一つとして、AFLP 法9)を応用した手法が植物において考案されている10)。特定の制限酵素のペアを用いた制限酵素処理、アダプターのライゲーション、セレクティブ PCR を行い、制限酵素間での増幅断片長を比較することでメチル化状態の差異を確認することができる 。この手法の利点として、事前の塩基配列情報が無くともゲノム全体のメチル化状態の差異が検出可能となることである。欠点としては、メチル化パターンに差異が生じていたとしても、それがどの領域に位置するか特定できない点が挙げられる。

本研究では AFLP 法を応用した手法をグッピーに応用し、野生型に近い小型の S 系統、観賞魚として育成された大型の G 系統、および小型の SC 系統(S 系統とコブラ班を持つ雑種から作出)の3系統間でのゲノム全体のメチル化パターンの差異の検出を目的とした。

材料と方法

供試魚  本研究では300~500個体/60 L の密度、水温25±1℃、光条件14時間点灯-10時間消灯、1日に 2 回の給餌条件のもとで維持されているグッピーの S 系統、SC 系統、および G 系統の雄雌各4個体ずつ、計24個体を用いた。S 系統は野生型に近いスタンダードタイプと呼ばれる小型の系統である。SC 系統は、S 系統とコブラ班を持つ雑種から作出した小型の系統である。G 系統は、灰色の体色に、コブラ班を持つ観賞魚として育成されたファンシータイプと呼ばれる大型の系統である。それぞれのグッピーの選択は系統を維持している水槽から無作為抽出した。

DNA 抽出  DNeasy Blood and Tissue Kit (Qiagen)を用いて全 DNA の抽出を行った。抽出にはエタノールで固定したグッピーの尾鰭の一部を用いた。

フラグメント解析  フラグメント解析手法は Vos et al.9) の AFLP 法を応用した Xu et al.10) の方法に従った。

メチル化パターンの確認  制限酵素のメチル化感受性の違いから HpaII と MspI を用いた PCR の増幅断片長に差異が表れるため、それぞれの増幅断片パターンを比較することでメチル化の差異を検出できる(Fig. 1)。メチル化パターンの分類は Xu et al.10) に従った。HapII と MspI の両方でバンドが検出された場合は Non-methylated にカウントした。MspI のみでバンドが検出された場合は CpG-methylated に、HapII のみでバンドが検出された場合は CpCpG-methylated あるいは Hemi-methylated とカウントした。HapII と MspI の両方でバンドが検出されなかった場合は Hyper-methylated とカウントした。この場合、いずれかの個体ではバンドが観察されていなければならない。

Fig. 1. The expected relations of banding pattern and type of methylation. 〇 indicates existence of band and × indicates absence. If band was observed in both endonuclease treatments, it is non-methylated. If band was observed only MspI treatment, it is CpG-methylated. If band was observed only HapII treatment, it is CpCpG-methylated or hemi-methylated. The band was not observed in both treatments, it is Hyper-methylated. In this case, a band was observed in other individuals.

統計解析  主成分分析はエクセル統計2010(SSRI)を用いて行った。

結  果

6つのプライマーペアを用いて増幅を行ったところ、合計212のマーカー座が検出された。これらマーカー座に m1~m212の通し番号を付けた。AFLP 法を応用した手法が配列変異の影響を受けやすいことなど、メチル化以外の要因によりバンドが検出された可能性を考え、24個体中3個体以上で変異が検出されたマーカー座のみを以降の解析に用いた。その結果、126のマーカー座が得られた。HapII では1個体あたり43のバンドが検出され、MspI では1個体あたり51のバンドが検出された。系統内でメチル化パターンの雌雄差は観察されなかった。得られた結果から4種のメチル化パターンを各系統8個体での合計として計数した(Table 1)。S 系統では CpG-methylated、 CpCpG-methylated・hemi-methylated、あるいは Hyper methylation のいずれかが生じていた頻度の最も高かく、G 系統で最も低かった。

Table 1. Type of methylation observed in each strains

CpG-methylated、CpCpG-methylated・hemi-methylated、Hyper methylation の3種類をメチル化「有り」、Non-methylated をメチル化「無し」として再分類を行い、メチル化の有無で主成分分析を行った。その結果、23の主成分が得られ、主成分1の寄与率が19.8%、主成分2の寄与率が11.6%であった。これら2つの主成分を二次元にプロットすると、S 系統と SC 系統が近く G 系統が離れていた(Fig. 2)。また、主成分分析に影響を与える幾つかのマーカー座が観察された(Table 2)。m114、m117、および m115は S、SC 系統でメチル化の頻度が高く、m159、m167、m168、および m169はG系統で高いメチル化の頻度を示した。

Fig. 2. Principle component plot derived from the comparison of methylation patterns in total of 126 loci in each individual. The first principal component (PC1) accounts for about 19.8% of total variance and the second component (PC2) for 11.6%.

Table 2. Marked loci observed strain differences in this study

考  察

主に植物で用いられてきた AFLP 法を応用した手法が、魚類においてもゲノム全体のメチル化パターンの差異を検出できる簡便な手法として有用であることが確認できた。得られた126のバンドパターンをメチル化の有無で再分類し、主成分分析を行ったところ、S と SC 系統、および G 系統を分ける複数のマーカー座が確認できた。SC 系統はS系統を含む雑種系統であり、野生型に近いSと SC 系統と観賞魚型である G 系統が離れていたことは、これまでにアイソザイム 11,12)で得られた系統間の差異とも一致している。また、グッピー系統間には体長 13)、高温 14,15)や塩分16)などの環境適応能力、行動パターン17)などの形質において差異が報告されている。これらの差異とメチル化パターンの差異との関連は不明だが、これらの形質の差異が系統育成過程で生じているとされていることから、DNA メチル化パターンにも反映されている可能性が考えられる。

検出されたバンドパターンは4種類に分類できるが、HapII と MspI の2つの制限酵素で増幅産物が検出されずに Hyper methylated に分類される場合は、DNA メチル化の状態だけでなく、配列変異が影響している可能性が考えられる。AFLP 法を応用した手法は、事前に塩基配列情報を調べる必要がなく、ゲノム全体の DNA メチル化パターンをバンドパターンとして検出できるが、ゲノム上のどの領域で差異が生じているかを特定することはできない。ゲノム全体の DNA メチル化パターンの差異を検出すると同時に、領域を特定するためには、今後、メチル化パターンの全ゲノムでの解析を行う必要があると考えられる。

メチル化の差異により表現型が変化すること 5,6,7)、餌や環境でメチル化が変化すること 6,7,8)が示されていることから、餌条件や飼育環境を管理・検討することによるメチル化制御による新たな育種法の可能性が期待される。メチル化と遺伝子発現(表現型)との関係や、メチル化の変化に係る要因について、今後の更なる情報収集が求められる。

謝  辞

本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号23658156)の支援を受けて行われた。

要  約

AFLP 法を応用した手法でグッピー3系統(S、SC、G)間のメチル化パターンの差異を検出した。合計126のメチル化変異領域が検出された。何らかのメチル化が生じている頻度は、S 系統で高く、G 系統で低かった。また、メチル化の有無で系統間の類縁関係を調べたところ、S と SC 系統が近く、G 系統が離れていた。この系統間の関係はアイソザイムなどで得られている系統間の関係と同様であった。このことは、系統育成の過程が DNA メチル化パターンにも反映している可能性が考えられた。

文  献
 
© The Japanese Society of Fish Genetics and Breeding Science
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