FISH GENETICS AND BREEDING SCIENCE
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Shotaro HIRASE
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2023 Volume 52 Issue 2 Pages 49-50

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種の絶滅が世界的に加速している。その速度は、過去の5回の大量絶滅期(“Big Five” mass extinctions)の速度を超えており、地球の生物相は6度目の大量絶滅期に向かっていることが、数多くの証拠に基づいて示されている1)。この傾向は、水圏生物においても例外ではなく、例えば、魚類の絶滅の速度は、1800年から1900年の間に急激に上昇したことが示唆されている2)。また、現在絶滅の危機に瀕していない種であっても、個体群の消滅は頻繁に起こっており、その損失は種レベルの消滅をはるかに上回っているという3)

今後、環境変動4)や漁獲5)、他種との交雑6)などによって、それぞれの種の個体数が減少し、それによって種の絶滅がさらに加速していくことが危惧される。特に絶滅が危惧される希少な種・系統を保全していく上で、それらの種の表現型を規定する遺伝基盤、種の生態や集団構造、個体数減少のメカニズム、頑健性と脆弱性に関する情報は必要不可欠である。これらを明らかにする上で、ゲノム情報を用いた遺伝学は今後重要な役割を果たし得る。

水産育種研究会は、遺伝学的な情報を用いて、水産有用系統を“育てる”という目標のもとで発展してきた。2019年に行われた定例シンポジウム「無脊椎動物育種の現状と展望」では、海産無脊椎動物の育種に関する研究発表がなされ、活発な議論がなされた7)。一方で、このような育種に利用される遺伝基盤は、元々野生にあった遺伝資源であり、野外における生物多様性を守ることもまた水産育種の発展させる上で重要である。これは藤野和男博士による水産育種 No.3「水産生物における遺伝資源保存の方法論」でも記述されているところである8)

本シンポジウムでは、希少な種・系統を対象とした遺伝学的な研究の成果、ゲノム情報を活用した最新の解析技術をご紹介頂くことで、水圏における希少な種・系統を保全するために、今後、遺伝学に何ができるのかを考える場を提供することを目的とした。

引用文献
 
© The Japanese Society of Fish Genetics and Breeding Science
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