2023 Volume 52 Issue 2 Pages 91-93
Organisms inhabit various environments, but the habitat distribution varies greatly depending on the species. Species that inhabit a specific environment are greatly affected by environmental changes such as global warming resulting the decrease of their population size, although species inhabiting diverse environments will adapt to new or fluctuating conditions. It is difficult to decide which endangered species should be prioritized for conservation because no methodology has been established to assess their extinction risk. To evaluate the extinction risk, we focused on genetic diversity, deleterious mutation and the proportion of the duplicated genes (PD) for five endangered freshwater stickleback populations in Japan and six endangered plants from four genera in the Ogasawara Islands where are registered as a UNESCO World Heritage site. Our results showed that endangered species had lower genetic diversity, a higher proportion of deleterious variations, and lower PD when compared with closely related non-endangered species. There are concerns that the number of extinct species will increase owing to human activity and future climate change, meaning that developing conservation plans for endangered species is critical. Knowing in advance which species are vulnerable to environmental changes is important when considering conservation priorities. Our results show that genomic information could be used as a possible indicator to measure the risk of extinction for species. We hope that this novel approach to species conservation will advance the scientific knowledge in this field.
人間活動により絶滅の危機に瀕している種が急速に増加している。限られた保全リソースで種の絶滅を食い止める努力が続けられているが、絶滅リスクを適切に評価する手法が確立されていないため、効果的な保全策を策定することは容易ではない。例えば国内淡水魚類400種のうち42%が絶滅危惧種であるが、絶滅のリスク評価の難しさから、種の保存法で希少種として指定されているのはわずか10種のみである。我々の研究グループでは、絶滅危惧種の脆弱性を客観的に評価するため、ゲノム情報に着目した研究を行ってきた。本稿では絶滅リスク評価の3つの指標について概説したのち、絶滅の危機に瀕している小笠原諸島の植物に対して実施した評価(RNA-seq による解析)、および、陸封型淡水イトヨに対して実施した評価(ゲノムリシーケンスによる解析)について紹介する。
絶滅危惧種に共通して見られる特徴として、環境の変化に脆弱で、個体数が急激に減少している傾向にある。絶滅危惧種では、個体数の減少に伴いゲノム中の遺伝的多様性が低下していると予想される。また、個体数が少ない集団では、自然選択効率の低下により有害な変異が効率的に排除できない。そのため、病気を引き起こす原因となるような適応度を下げる有害な変異が、絶滅危惧種のゲノム中に蓄積していると考えられる(Makino et al. 2018)3)。こうした遺伝的多様性や有害変異の蓄積の程度を調査をすることは、絶滅危惧種のリスク評価を行う上で有用な指標となりうる。
我々は、生物の環境適応能力に関連する遺伝的要因として遺伝子重複に着目して研究を行ってきた。遺伝子が重複して2コピーになると、機能的な制約が緩和され、重複遺伝子に変異が蓄積されやすくなる。その結果、新たな機能を持つ遺伝子が生まれやすくなると考えられる。多くの重複遺伝子を持つということは、より遺伝的に多様なゲノムを持っていると考えることができる。そこで、ゲノム上に重複遺伝子を多く持つ種は、さまざまな環境で生き延びるための環境適応力が高いのではないかと考え、ゲノム配列が既知である種のゲノム情報と生息範囲の環境の関係を調査した。その結果、ショウジョウバエ属の種と哺乳類では、全遺伝子中の重複遺伝子の割合(PD)が生息地の多様性と正の相関関係にあることを見出した(Makino and Kawata 20122); Tamate et al. 20144))。これらの結果から、環境への適応力が乏しい絶滅危惧種では PD が低いことが予想され、PD も絶滅危惧種のリスク評価を行う上で有用な指標となると期待できる。
ユネスコの世界遺産に登録されている小笠原諸島は固有種が豊富で生物多様性が高い一方で、絶滅の危機に瀕している種が極めて多い。ここで紹介する研究では、絶滅の危機に瀕している小笠原諸島の植物を対象とし、上述した3つの指標を用いて絶滅リスク評価を行った。小笠原諸島の4属6種の絶滅危惧植物(Ajuga boninsimae、Crepidiastrum grandicollum、Crepidiastrum ameristophyllum、Crepidiastrum linguifolium、Calanthe hoshii、Melastoma tetramerum)と、日本に生息する同属の近縁普通種から RNA を抽出して、次世代シークエンサーで RNA sequencing を実施した。アセンブルして得られた転写産物の配列をベースに網羅的に遺伝的変異を取得し、遺伝的多様性を推定した。有害変異の推定は、集団内に存在する非同義変異(アミノ酸配列を変える変異)を対象に PROVEAN を用いて実施した。PD は相同性検索 BLAST により全転写産物のなかの重複遺伝子を同定することで算出した。絶滅危惧種と同属近縁種のゲノムの特徴を比較した結果、絶滅危惧植物のゲノムは、遺伝的多様性が低く、有害変異の割合が高く、そして、環境適応力との相関が示唆されている PD が低いことが分かった(Hamabata et al. 2019)1)。 このことは本研究で用いた絶滅危惧種全てで絶滅のリスクが高いことを示している。
トゲウオ科のイトヨは北半球の沿岸域の寒冷地に生息する冷水性の魚である。日本国内には陸封淡水型イトヨが複数集団存在しているが、いずれも絶滅が危惧されている。本研究では5つの淡水型イトヨ集団(岐阜、滋賀、那須、大野、会津)と、海型イトヨのゲノムリシーケンスデータを用いて遺伝的変異を検出し、遺伝的多様性と有害変異の蓄積の程度を比較した。いずれの淡水型イトヨ集団においても、海型イトヨと比較して遺伝的多様性が低く、有害な変異が蓄積している一貫した傾向が観察された(Yoshida et al. 2020)5)。特に、会津集団、那須集団、大野集団の遺伝的多様性の低下、および、有害変異の蓄積は顕著で、これらの集団の絶滅リスクは他集団よりも高いことを示唆している。なお、PD の推定には、全ゲノム配列、または、全トランスクリプトーム配列が必要なため、ゲノムリシーケンスに基づいて実施した本研究では、PD による絶滅リスク評価は行っていない。PD による絶滅リスク評価を行うためには、データの制約がある点について注意が必要である。
人間の活動や将来の気候変動によって絶滅種が増加することが懸念されており、絶滅危惧種の保全計画の策定の必要性は今後ますます高まっていくことが予想される。環境変化に弱い種をあらかじめ把握することは、保全の優先順位を考える上で極めて重要である。本稿で紹介した一連の研究の成果は、生態的な情報が不十分な種であってもゲノム情報のみから絶滅リスクを評価できる可能性を示しており、ゲノム情報が種の絶滅リスクを測る指標として利用できる可能性を示した。種の保存に対するこの新しいアプローチが、本分野の科学的知識を深めるとともに、今後の保全計画の策定に活用されることを期待したい。
本研究を行うにあたり、多大なご助力をいただいた東北大学大学院大学院情報科学研究科の浜端朋子氏、京都大学大学院農学研究科の井鷺裕司氏、国立遺伝学研究所の北野潤氏、マックスプランク研究所の吉田恒太氏に御礼申し上げる。