FUKUSHIMA MEDICAL JOURNAL
Online ISSN : 2436-7826
Print ISSN : 0016-2582
A case of IgG4-related retroperitoneal fibrosis diagnosed by tissue biopsy
Kei NakadaShin KumagaiOsamu MurakiShuzo Suzuki
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2022 Volume 72 Issue 2 Pages 65-71

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Abstract

要旨:症例は82歳男性。2020年12月,右腰背部痛を主訴に近医受診。腹部CTにて右腎門部に不整形腫瘤を認め精査加療目的に当科に紹介された。当科で施行した腹部CT,逆行性腎盂造影,および尿細胞診で腎あるいは尿路由来の悪性疾患の診断には至らなかったことから,後腹膜線維症が疑われた。血清IgGおよびIgG4の高値を認めたため,診断確定をするためにエコーガイド下生検を施行した。病理組織ではびまん性のリンパ球集簇と線維化が見られた。またIgG4陽性形質細胞の浸潤を認め,IgG4/IgG陽性細胞比が40%以上に増加していたことからIgG4関連後腹膜線維症と診断した。プレドニゾロン20 mg/dayの投与を行ったところ,右腎門部腫瘤の縮小と血清IgG4値の低下を認めた。

Translated Abstract

Abstract:An 82-year-old man presented to our department in December 2020 with a complaint of right lumbar back pain. An abdominal computed tomography showed an irregular mass at the right renal hilum. The abdominal CT, retrograde pyelography, and urine cytology did not reveal a renal or urinary tract malignancy, and retroperitoneal fibrosis was also suspected. An echo-guided biopsy was performed to confirm the diagnosis because of high levels of serum IgG and IgG4. The histopathological specimens showed diffuse lymphocyte aggregation and fibrosis. The patient was diagnosed as having IgG4-related retroperitoneal fibrosis because the IgG4/IgG-positive cell ratio increased to 40 or more. After treatment with prednisolone 20 mg/day, the right hilar mass shrank and the serum IgG4 level decreased.

I. 緒言

IgG4関連後腹膜線維症は本邦では比較的稀な疾患である。今回,我々は画像による診断が困難であった右腎門部腫瘤に対し,エコーガイド下の生検を行い診断に至ったIgG4関連後腹膜線維症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

II. 症例

患者:82歳,男性

主訴:右腰背部痛

既往歴:虫垂切除術(38歳時)

経尿道的前立腺切除術(78歳時)

高血圧症(63歳~)

家族歴:特記することはない

現病歴:2020年12月中旬,右腰背部痛が出現し近医を受診。WBC 14,000/μlと高値から,精査のため撮影された腹部骨盤CTで右腎門部に59 mm×33 mm×56 mmの腫瘤を認めた。同年12月下旬,精査加療目的に当科に紹介され受診。

身体所見:右肋骨脊柱角叩打痛を認めたが,腹部に異常所見を認めなかった。直腸内触診では前立腺に異常所見を認めなかった。

検査所見:高蛋白・低アルブミン血症(TP 9.2 g/dl, Alb 2.9 g/dl)と腎機能低下(Cre 1.04 mg/dl, eGFR 52.47 ml/min/m2)を認めた。炎症所見は軽度であった(WBC 9,000 /μl, CRP 0.31 mg/dl)。検尿で異常を認めず,自然尿の細胞診は陰性だった。他に異常所見は認められなかった。

画像所見 :腹部超音波検査で右腎盂の軽度拡張と右腎盂尿管移行部に不整腫瘤を認め腎盂癌が疑われた。腹部CTでは右腎盂を置換し周囲に拡大する腫瘤を認めた(Fig. 1)。

逆行性腎盂尿管造影(RP)では右腎に軽度の水腎症を認めたが,右腎盂尿管に不整像はなかった(Fig. 2)。分腎尿(右腎尿)細胞診は陰性であった。

外来経過:腎盂癌を疑い精査を進めたが,RP,分腎尿細胞診からは腎盂癌の所見は乏しく,後腹膜線維症や悪性リンパ腫が鑑別に挙がった。そこで,腫瘍マーカーや免疫学的血液検査を行った。抗核抗体40倍,IgG4 158 mg/dl(基準値11-121 mg/dl),sIL-2R 3,020 U/ml(基準値157-474 U/ml),C3 35 mg/dl(基準値86-160 mg/dl),C4 2 mg/dl(基準値17-45 mg/dl)だった。腫瘍マーカーの有意な上昇はなく,画像検査から消化管由来の悪性腫瘍や神経内分泌系腫瘍は否定的であった。sIL-2Rが高値から悪性リンパ腫が疑われたが,発熱や頸部リンパ節腫脹などの症状や所見を認めなかった。IgG4がわずかに高値であったことからIgG4関連疾患も考えられた。確定診断のためにエコーガイド下に右腎盂下極付近の腫瘤から組織生検を施行した。

病理組織:びまん性の形質細胞浸潤,リンパ球の集簇と線維化が見られた。IgG4/IgG陽性細胞比が40%以上と増加し,最大300個/HPFのIgG4陽性形質細胞を認めた(Fig. 3)。免疫染色で濾胞性リンパ腫やMALTリンパ腫は否定された。以上から本症例はIgG4関連後腹膜線維症と診断した。

診断後の経過:2021年3月からプレドニゾロン20 mg/dayで投与を開始した。治療開始149日後には右腎門部腫瘤の著明な縮小とIgG4の低下を認めた(Fig. 4)。以後,プレドニゾロンを漸減し,同年9月から5 mg/dayの内服を継続しており,再発の徴候はない。

Fig. 1. 腹部CT所見

右腎盂を置換するようにして周囲に拡大する腫瘤を認めた。

Fig. 2. 逆行性腎盂造影所見

右腎盂尿管の内腔は保たれ不整を認めなかった。

Fig. 3. 病理所見 上:HE染色 中:IgG染色 下:IgG4染色

びまん性の形質細胞浸潤とリンパ球の集簇を認めた。

IgG4/IgG陽性細胞比は40%以上に増加し,最大300/HPF以上のIgG4陽性形質細胞が見られた。

Fig. 4. 腹部CT所見 左:治療開始前 右:治療開始後

右腎門部腫瘤は著明に縮小した。

III. 考察

後腹膜線維症は後腹膜に線維組織の慢性炎症性増殖を生じる疾患で,1948年にOrmondにより初めて報告された1)。後腹膜線維症はその原因から特発性と二次性に分けられる。特発性後腹膜線維症の年間罹患率は10万あたり1.3例と推定され,好発年齢は40~60歳前後,男女比は3:1と男性に多い。特発性はさらにIgG4関連と非IgG4関連に分類され,二次性の原因として感染・薬剤・放射線・悪性腫瘍などがある2)。治療の第一選択はステロイド内服による内科的治療であるが,尿路閉塞を伴う場合には尿管ステント留置術や腎瘻増設術を行い,難治例や再発例では尿管剥離術などの外科的治療も検討される3)

IgG4関連疾患は,1993年に鈴木らが高IgG4血症を伴うシェーグレン症候群を報告4)して以降,2001年のHamanoらによる自己免疫性膵炎での高 IgG4 血症の報告5)を契機として,本邦より提唱された疾患概念である。本疾患は,自己免疫異常や血中IgG4高値に加え,膵,肝胆,唾液腺・涙腺,後腹膜腔など全身のあらゆる臓器において,リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化を認め,同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患群と考えられている。本邦では指定難病に指定されており,年間受療者数は約8,000人と推定される6-9)。IgG4関連疾患はI. 古典的Mikulicz症候群+他臓器障害型,II. 肝胆膵疾患型,III. 頭頸部限局型,IV. 後腹膜線維症±大動脈炎型と大きく4つの表現型に分類できることが知られている。頭頸部限局型でアジア人女性の割合が多く,その他にアジア人はMikulicz症候群+他臓器障害型の罹患患者が多いことが報告されている。また本症例で診断したIgG4関連後腹膜線維症は,IgG4関連疾患全体の約24%を占める10)

IgG4関連疾患は包括的診断基準が定められている11)。① 臨床的及び画像的診断,② 血清学的診断,③ 病理組織学的診断の3つの診断項目からなり,中でも病理学的診断がより重視されている。①+②+③ で確定診断群,①+③ で準確診群,①+② で疑診群とされるが,生検困難やその他の理由で,包括的診断基準で確定診断を得ない場合でも,IgG4関連疾患臓器別診断基準で確定診断されたものは,IgG4関連疾患確診群と判断される。本症例はIgG4関連疾患包括診断基準を3項目とも満たしており,IgG4関連後腹膜線維症と診断された。

我々が医学中央雑誌にて検索し得たIgG4関連後腹膜線維症としての症例報告は20例あった。このうち2例はIgG4上昇を伴わない特発性後腹膜線維症であり,1例はIgG4関連漏斗下垂体炎であった。また,IgG4関連後腹膜線維症と鑑別を要した濾胞性リンパ腫の1例も見られた。この4例を除いた16例について自験例との比較検討を行った(Table 112-25)。発症平均年齢は66歳,男女比15:1,治療前IgG4中央値326.0 mg/dl,治療後IgG4中央値は81.8 mg/dlで,発症部位は腹部大動脈周囲が8例(50.0%)を占めた。自験例と同様に腎盂尿管周囲に腫瘤を認めた症例は1例(6.3%)のみであった。14例(87.5%)ではステロイドの投与が行われ,外科的治療が行われた症例は7例(43.8%)であった。1例において自然寛解したと報告されていた。腎門部腫瘤として右腎尿管・腫瘤切除術が行われた1例も見られた。

また,報告された16例についてIgG4関連疾患包括診断基準の診断項目を満たしているか検討を行った(Table 2)。臨床的及び画像的診断項目は全ての症例が満たし,また血清学的診断項目は11症例(68.8%)が満たしていた。

7例(43.8%)ではIgG4関連後腹膜線維症を疑い,または悪性疾患との鑑別目的に組織生検が行われていた。2例(12.5%)では腎・尿路以外の悪性腫瘍の治療として行われた術中迅速またはリンパ節郭清の検体で,偶発的にIgG4関連後腹膜線維症と診断された。検討した16例の症例報告では病理組織学的診断項目を満たしているのは7例(43.8%)であった。

また過去5年間の日本国外の報告を検討した。前記の分類IVに相当し,かつIgG4関連大動脈炎を除外した症例は14例見られた26-39)。このうち診断目的に非開腹にて後腹膜腫瘤の組織生検が行われていた症例は5例(35.7%)のみであった。腎臓や前立腺,膵臓など比較的アプローチが容易な臓器から組織生検を行った症例や血清学的所見から診断に至った症例も散見された。また,腫瘤が尿路を閉塞したため腎後性腎不全となり,良性疾患であるにも関わらず診断確定前に腎盂腎炎の予防目的に腎臓摘出にまで至る症例もあった。

これらは後腹膜生検が解剖学的に困難であることを示唆している。実際に大動脈周囲/後腹膜病変の生検は相当の侵襲や合併症の危険性を伴うため容易には行えず,包括診断基準のみでは診断に至らない例が多いと思われた。2018年に水島らは自らの経験症例としてIgG4関連後腹膜線維症99例を基に,臨床像の解析と動脈周囲/後腹膜病変の臓器特異的診断基準を提案している40)。この中でも,実際に動脈周囲後腹膜病変の組織採取が行われた症例は33例(33.3%)のみであった。

IgG4関連後腹膜線維症はステロイド治療が奏功する疾患である。確定できればより侵襲の高い外科的治療は回避できる。本例はIgG4関連後腹膜線維症を疑い,エコーガイド下に組織生検を施行したことで,確定診断に至り,加療できた貴重な症例と考えられる。

Table 1. 報告例一覧と自験例との比較
Table 2. IgG4関連疾患包括診断基準との比較

IV. 結語

組織生検で診断に至ったIgG4関連後腹膜線維症の1例を報告した。

IgG4関連疾患を疑う場合には可能な限り組織生検を行い,病理診断を確定させた上で治療を開始することが望ましいと考えられた。

謝辞

病理学的検討を行って下さった,福島県立医科大学基礎病理学講座 田中瑞子先生に深謝いたします。

文献
 
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