FUKUSHIMA MEDICAL JOURNAL
Online ISSN : 2436-7826
Print ISSN : 0016-2582
Age-dependent changes in the macular choriocapillaris imaged with high-resolution optical coherence tomography angiography.
Kimihiro ImaizumiTetsuju SekiryuYukinori SuganoYutaka KatoKeiichiro TanakaKoki NorikawaJunichiro Honjo
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2025 Volume 75 Issue 1 Pages 13-25

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Abstract

要約:【目的】 脈絡膜毛細血管板(CC)の異常は加齢黄斑変性などの疾患を引き起こす可能性が指摘されている。近年,optical coherence tomography angiography (OCTA)の登場により,CCを定量的に計測することが可能となってきたが,CCの血管径は数µmと微細で,加齢変化を正確に評価した報告は少ない。今回,市販機では最も解像度が高いSPECTRALIS® OCT Angiography Module (Heidelberg社)を用いてCC血管密度を計測し,画像処理法による差を検討するとともに,年齢および眼軸長との関係を検討した。

【方法】 健常人91例(男性60眼,女性31眼,平均49.0歳,眼軸長平均24.4 mm)の正常眼を対象とした。SPECTRALIS® OCTAを用いて,黄斑部を中心に約3 × 3 mmの範囲を撮影した。網膜色素上皮下から20-49 µmの画像を用い,Otsu法,Phansalkar法,Multiscale Hessian enhancement (MHE)-Otsu法の3つの画像処理法でCC血管密度を算出した。3つの画像処理法の計測結果から年齢,眼軸長との関係を検討した。

【結果】 全91眼のCC血管密度平均値はOtsu法39.45±3.33%,Phansalkar法43.89±7.29%,MHE-Otsu法54.34±2.01%だった。各画像処理法のCC血管密度平均値における一元配置分散分析を行った結果,それぞれの画像処理法のCC血管密度平均値に独立して有意な差があった(F 〈2, 270〉=211.5, p<0.001)。加えて,Tukey-Kramer testを用いた多重比較で各画像処理法のCC血管密度平均値の全ての組み合わせでp<0.001と統計的に有意な差が認められた。CC血管密度と年齢の相関はOtsu法r=−0.66, p<0.001, Phansalkar法r=−0.66, p<0.001, MHE-Otsu法r=−0.64, p<0.001でいずれの計測法でも有意な負の相関を示した。CC血管密度と眼軸長の相関はOtsu法ではr=0.22, p=0.043と弱い正の相関があったが,Phansalkar法ではr=0.18, p=0.091, MHE-Otsu法ではr=0.19, p=0.068で,いずれも有意な相関を認めなかった。

【結論】 正常眼においてCC血管密度は年齢とともに減少するが,眼軸長変化によるCC血管密度変化は少ないと考えられた。3つの画像処理法の中でMHE-Otsu法が最も組織学的なCC血管密度を測定していると考えられた。CC血管密度の測定は脈絡膜の加齢性変化を推定する指標となりうると考えられた。

Translated Abstract

Abstract:Purpose:To assess the correlation the choriocapillaris (CC) vascular density in the macular between age and axial length using the SPECTRALIS® OCT Angiography Module (Heidelberg).

Methods:This study included 91 normal eyes of 91 healthy individuals between the ages of 24 and 79 years old. We imaged an area of 3×3 mm centered on the macula using the SPECTRALIS® OCT Angiography Module. The CC vascular density was calculated using three image processing methods:Otsu method, Phansalkar method, and Multiscale Hessian enhancement (MHE)-Otsu method, using images 20-49 µm from the subretinal pigment epithelium. Continuous variables were compared using one-way analysis of variance (ANOVA). Associations of CC vascular density and axial length were analyzed by Pearson correlation.

Results:The mean CC vascular density of 91 eyes was 39.45±3.33% for the Otsu method, 43.89±7.29% for the Phansalkar method, and 54.34±2.01% for the MHE-Otsu method. A one-way ANOVA in the mean CC vascular density for each imaging method showed a significant differences (F 〈2, 270〉=211.5, p<0.001). The correlation between CC vascular density and age was statistically significant differences (all p<0.001) as follows:Otsu method r=−0.66;Phansalkar method r=−0.66;MHE-Otsu method r=−0.64. The correlation between CC vascular density and axial length was significantly differences for the Otsu method, r=0.22, p=0.043, but not for the Phansalkar method, r=0.18, p=0.091, and for the MHE-Otsu method, r=0.19, p=0.068. There was no significant correlation between age and axial length (r=0.098, p>0.35).

Conclusions:CC vascular density in normal eyes decreased with age. CC vascular density in normal axial eyes was considered to be less affected by axial length.

I. 緒言

脈絡膜は,網膜外層,視細胞を栄養する血管に富む組織で,視機能の形成,維持に大きな役割を果たしている。脈絡膜血管は毛様動脈由来で,その血流は眼内血流の90%以上を占め,組織血流量はおよそ500-2,000 ml/min/100 gといわれている1。脈絡膜は,網膜色素上皮(retinal pigment epithelium; RPE)からBruch膜,脈絡膜毛細血管板 (choriocapillaris;CC),脈絡膜中大血管(Sattler層とHaller層),脈絡膜上層で構成される2。CCは組織学的にRPEの強膜側約5 µmの位置にあり,約6.9 µmの厚みを持つ板状小葉構造を持つ密な毛細血管網となっており,視細胞に酸素と栄養分を供給している。脈絡膜循環は加齢とともに減少するといわれている3-5。Ramrattanらは組織学的検討からCC血管密度は約70%で,年齢とともに減少し100歳では血管密度はおよそ40%になると報告した6。臨床的にこのようなCCの減少は,疾患の発症につながる可能性があり,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症でCCの毛細血管密度が減少することが報告されている7,8。生体眼でCCの加齢性変化を計測することは疾患発症の予測や病態解明につながると考えられる。

臨床における脈絡膜観察は,これまでは主にインドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影検査(indocyanine green angiography;IA)を用いて行われてきた。しかし,IAでは約0.2秒前後でCCの充盈が完了するため,実験的な観察は可能であるが,臨床での評価は困難であった9。近年,開発された光干渉断層血管撮影(optical coherence tomography angiography;OCTA)は,光干渉断層計(optical coherence tomography;OCT)を発展させた機器で,脈絡膜血管を非侵襲的に描出することを可能にした10-12。OCTAはOCTで眼底を高速スキャン(80,000~100,000 scan/sec)し,同一部位の画像差分を解析し,変化した部分すなわち血流を描出することにより血管像を構築する。

組織学的検討ではCC血管径は10~20 µmと報告されている6,13。OCTAによる観察では,RPEにより走査光が減衰,散乱するためCCの鮮明な画像を得ることは難しい。OCTAの機種には約1,000 nm前後の波長を使用するswept source OCTA(SS-OCTA)と800 nm前後の波長を使用するspectral domain OCTA(SD-OCTA)の2種類がある。SS-OCTAは,高速で深達性が高くRPE下のCCの描出に有利であるが,約1,000 nmの長波長を使用するため,側方解像度は20 µm程度にとどまる。一方,SD-OCTAはより解像度を高くすることが可能であるが,RPEにより減衰するためCCの描出は困難である。また,スキャン速度に限界があり,眼球運動によるアーチファクトの影響を受けやすい。近年市販されたSPECTRALIS® OCTA Module(Heidelberg Engineering, Heidelberg, Germany)(SP-OCTA)は,リファレンススキャンとOCTスキャンの2つのスキャンによる独自のアイトラッキングシステム (TruTrack TM)が備わっており,たえず動いている目に対しても眼底の位置を正確に認識し,全く同じ位置でのOCT撮影が可能となった。それにより,高解像度(側方解像度5.7 µm)の画像が得られ,理論的にはSP-OCTAでCCの描出と評価が可能である。

従来のOCTAではCC形態を直接計測することは困難であったため,CCのflow-void(血流の無信号領域)を測定しCC形態を評価していた14。CCのflow-voidの測定には自動局所閾値化によるOtsu法15,Phansalkar法16による2階調化と,これにMultiscale Hessian Hesse行列による血管強調法 (Multiscale Hessian enhancement:MHE)17,18による強調処理を加えた3つの画像処理法が行われていた。SS-OCTAで計測したAl-sheikhらはOtsu法を使用し,健常眼のCC血管密度は約44.4%と報告している19。また,SD-OCTAで計測したUjiらはMHE法を使用し,健常眼のCC血管密度は約61.9%と報告している20。両者のCC血管密度の差はOCTAの機器の違い,画像処理法の違い,CCの描出が不正確であった可能性などが考えられる。今までSP-OCTAを使用したCC形態の評価の報告はなく,SP-OCTAによりCCを高解像度で描出できる可能性が期待できる。

今回,市販機では最も解像度が高いSP-OCTAを用いてCC血管密度を計測し,画像処理法による差を検討するとともに,CC血管密度と年齢および眼軸長との関係を検討した。

II. 方法

本研究は福島県立医科大学倫理委員会の承認を得て行った(倫理委員会承認受付番号 2700)。本研究の対象は,2018年5月22日から2018年9月7日までに福島県立医科大学にてOCTA撮影を行った健常人91例(男性60例,女性31例,24歳~79歳,平均49.0歳)を対象とした(表1)。各年齢層の症例数は20-39歳が28例,40-59歳が37例,60歳-79歳が26例だった。除外項目は以下のとおりである。① 眼軸長が22 mm未満,27 mm以上,② 角膜疾患の既往,③ 黄斑疾患,眼内疾患の既往,④ 糖尿病など微小血管循環に影響を与える全身疾患の既往,⑤OCTAの信号強度が6/10未満,⑥ 本研究に同意しない者を除外した。

対象者全員に眼科的検査(他覚的屈折検査,角膜形状解析,光学式眼軸長測定,OCTとOCTAによる黄斑部撮影)を実施した。他覚的屈折検査はオートレフラクトメーターTONOREF® III(Nidek, Gamagori, Japan)を,眼軸長測定はIOL Master® 700(Carl Zeiss Meditec, Dublin, CA, USA)を,OCTはSPECTRALIS®(Heidelberg Engineering, Heidelberg, Germany)使用した。全データは前向きに集められ,データ収集,対象者名を匿名化した後,データ解析を行った。

表1. 対象

本研究対象者

年齢,性別,眼軸長,等価球面屈折値の平均,標準偏差(SD),範囲

OCTAによる画像の取得

自然瞳孔下にSP-OCTAで約3×3mm (798×798 pixel)の画像を撮影した。SP-OCTAでは内蔵ソフトウェアによりRPEを基準に平坦化した画像が自動的に作成され,任意の厚さの血管画像を平坦化した正面視画像として表示される(図1A)。その際,画像化する厚さと範囲も自由に選択することができる。本研究では,RPE下縁から20-49 µmの範囲を選択した(図1B)。

図1. 測定範囲の決定

A)網膜中心窩の正面視画像。B)網膜中心窩のOCT断層像:網膜色素上皮下縁から20-49 μmの点線の範囲を選択した。C)網膜全層のOCTA画像:網膜全層のOCTA画像をもとに目視で中心窩の中央を決定。決定した位置を中心に798×798 pixelの正方形を作図した。D)図Bの点線の範囲のOCTA画像:図Cの正方形を図Dに投射,同部位を切り出して画像処理に使用した。

画像解析

画像の処理にはImageJ version 1.51a(National Institutes of Health)21とMATLAB(Mathworks, Natick, MA, USA)を用いた。最初にImageJに網膜全層のOCTA画像(図1C)と,図1Bで選択した範囲のOCTA画像(図1D)を取り込み,網膜全層のOCTA画像(図1C)の中心窩中央を目視で指定し798×798 pixelの正方形画像に位置合わせを行った。この正方形画像を選択した範囲のOCTA画像 (図1D)にオーバーレイし,798×798 pixelの正方形画像を切り出した。

OCTAを含め眼底画像は被検者の眼軸長により倍率が変化するため既報に基づき画像の倍率補正を行った22。網膜上の物体の実際の大きさをt,OCTの測定値をs,OCTのカメラに関する倍率をp,眼軸長に関する倍率をq[q=0.01306×(眼軸長−1.82)]とすると次の式が成り立つ。

t=p×q×s

切り出した図1DのOCTA画像を上記の式で倍率補正を行い,ImageJで8ビットグレイスケール画像に変換した(図2A)。Otsu法,Phansalkar法の2階調化の設定は,既報と同様に2階調化の領域を半径15 pixel,閾値レベルを算出するparameter を0に設定し10,血管領域を白色として2階調化を行った(図2B, C)。MHE-Otsu法では切り出した画像をMATLABのHessian based Frangi Vesselness filterを用いて血管強調画像を作成し,前出のOtsu法と同様に2階調化を行った(図2D)。3つの画像処理法で2階調化した画像をImageJで血管に相当する白色部分のpixel数を計測した。画像全体に占める血管面積をCC血管密度とした。

図2. 脈絡膜毛細血管板画像の2階調化

A)図1で切り出した画像を8bit grayscaleに変換した画像。B)Otsu法,C)Phansalkar法,D)Multiscale Hessian enhancement-Otsu法による2階調化画像。

I. CC 血管密度と年齢,眼軸長との相関性を検討

全91眼を対象に3つの画像処理法を用いてCC血管密度を計測し,年齢,眼軸長との関連を検討した。

II. 画像処理法における再現性の検討

同一検者により,各年代から4-5人ずつ選び25眼の各画像処理法における再現性を検討した。同一のOCTA画像を画像解析と同様の方法で,ImageJを用いて網膜血管像の中心窩中央を目視で位置合わせした後,再度3つの画像処理法で2階調化しCC血管密度を求めた。1回目と2回目の計測結果から各画像処理法における再現性の検討を行った。

統計分析

統計分析は統計ソフトウェアJMP(SAS Institute, Cary, NC)を使用した。年齢,眼軸長,CC血管密度について平均,標準偏差(standard deviation;SD)を求め,各画像処理法と年齢,眼軸長の相関係数rrの有意水準p値を求めた。各画像処理法のCC血管密度平均値における一元配置分散分析を行い,加えてTukey-Kramer testを使用し多重比較を行った。CC血管密度のばらつき,再現性については変動係数(coefficient of variation;CV),級内相関係数(intraclass correlation coefficients;ICC)を算出し,系統誤差を検出する目的にBrand-Altman分析を行った。0.05未満の有意水準p値を統計的に有意とした。

III. 結果

各画像処理法の画像を拡大すると,Otsu法では他の画像処理法と比べ白色の血管面積が少なく描出されていた。Phansalkar法ではOtsu法より白色の血管面積は多かったが,他の画像処理法に比べ血管の管腔構造が不明瞭だった。MHE-Otsu法では他の画像処理法に比べ血管面積が多く,管腔構造が保たれていた(図3)。

図3. 2 階調化画像の拡大図

図2の画像の中心約100×100pixelを拡大。B),C),D)の白色部分を血管として血管密度を測定。A)図1で切り出した画像を8 bit grayscaleに変換した画像。B)Otsu法,C)Phansalkar法,D)Multiscale Hessian enhancement-Otsu法による2階調化画像。

I. 各画像処理法における再現性の検討

再現性の検討結果を表2に示す。25眼の2回の計測値を平均したCC血管密度平均値はOtsu法40.20±3.08%,Phansalkar法45.31±7.01%,MHE-Otsu法54.72±1.82%だった。各画像処理法のCC血管密度平均値における一元配置分散分析を行った結果,画像処理法の有意な効果があった(F 〈2, 147〉=165.2, p<0.001)。加えて,Tukey-Kramer testを用いた多重比較では,各画像処理法の全ての組み合わせでp<0.001と統計的に有意な差が認められた。

各画像処理法のCVはOtsu法が0.077,Phansalkar法が0.15,MHE-Otsu法が0.033で,CVはMHE-Otsu法で最小,Phansalkar法で最大であった。ICCはOtsu法で0.99,Phansalkar法で0.99,MHE-Otsu法で0.98となり,全ての測定法で高値であった(表2)。

Bland-Altman分析ではOtsu法の2回計測値のばらつきが最も小さい結果だった。Brand-Altman分析の結果を求めるとOtsu法r=0.0002,p=0.90,Phansalkar法r=0.52,p=0.0075,MHE-Otsu法r= 0.23,p=0.2687であった。Phansalkar法ではCC血管密度が高くなると誤差が大きくなる比例誤差を認めた。いずれの計測法でも2回目と1回目の差の平均値の±-1.96SDが0を含んでおり,加算誤差は認めなかった(図4)。

図4. 各画像処理法におけるBland-Altman分析

CC;choriocapillaris

SD;標準偏差

表2. 各計測法における再現性の検討

任意に選択した対象25眼を目視による中心の決定を2度行い1回目と2回目の計測値を比較

Otsu法,Phansalkar法,MHE(Multiscale Hessian enhancement)-Otsu法の2回計測時の脈絡膜毛細血管板(CC),変動係数(CV),級内相関係数(ICC),SD ; standard deviation

II. CC血管密度と年齢,眼軸長の相関性を検討

対象91眼全例における年齢の平均値は49.0±15.6歳,眼軸長は24.36±0.8 mmであった(表1)。

CC血管密度平均値はOtsu法39.45±3.33%,Phansalkar法43.89±7.29%,MHE-Otsu法54.34±2.01%だった(表3)。各画像処理法のCC血管密度平均値における一元配置分散分析を行った結果,画像処理法の有意な効果があった(F 〈2,270〉=211.5, p<0.001)。加えて,Tukey-Kramer testを用いた多重比較で各画像処理法のCC血管密度平均値の全ての組み合わせでp<0.001と統計的に有意な差が認められた。各画像処理法のCC血管密度平均値を比較すると,MHE-Otsu法が最もRamrattanらの組織学的検討の値に近い結果となった6

CC血管密度と年齢の相関はOtsu法r=−0.66,p<0.001,Phansalkar法r=−0.66,p<0.001,MHE-Otsu法r=−0.64,p<0.001でいずれの計測法でも有意な負の相関を示した(図5)。RMSE(root mean square error)はMHE-Otsu法で1.56と最も低値であった。

CC血管密度と眼軸長の相関はOtsu法ではr=0.22,p=0.043と有意な正の相関があったが,Phansalkar法ではr=0.18,p=0.091,MHE-Otsu法ではr=0.19,p=0.068で,いずれも有意な相関を認めなかった(図6)。

年齢と眼軸長の相関性を検討したところ,r=−0.098,p=0.35で有意な相関はなかった。

図5. 各画像処理法における脈絡膜毛細血管板血管密度と年齢との相関

CC;choriocapillaris

RMSE;root mean square error

図6. 各画像処理法における脈絡膜毛細血管板血管密度と眼軸との相関

CC;choriocapillaris

RMSE;root mean square error

表3. 各画像処理法のCC 血管密度の平均値

Otsu 法,Phansalkar 法,MHE(Multiscale Hessian enhancement)-Otsu 法の脈絡膜毛細血管板(CC)血管密度の比較

IV. 考察

本研究では従来の機種より側方解像度が高いSP-OCTAを使用し,画像処理法による差を検討するとともに,CC血管密度と年齢および眼軸長との関係を検討した。

CC血管密度についての既報を表4に示す。解像度は不充分と考えられるが,過去のOCTAを用いた報告で,平均値とSDが報告されていたことから,それらの値を算出し,比較検討を行った。SD-OCTAを用いたWangらはCV値が0.074と報告している23。我々の計測では0.077(Otsu法),0.15 (Phansalkar法),0.033(MHE-Otsu法)となっておりOtsu法で計測された過去の報告に類似していた。MHE法ではSuganoらはCV値が0.054とやや低い数値を報告していたが24,我々の検討でもMHE-Otsu法でCVが低くバラツキが少ないと推定された。Brand-Altman分析では2回の計測値のばらつきはOtsu法で最も小さかった。その理由として,MHE-Otsu法はCC血管密度の測定値が高かったためばらつきが大きくなり,Otsu法はCC血管密度の測定値が低かったためばらつきが小さかったと考えられた。Phansalkar法では比例誤差を認め,計測値が大きくなるほど誤差が大きくなるため,性状が異なりCC血管密度のばらつきが大きい対象を比較する場合は不適と考えられた。

表4. 脈絡膜毛細血管板血管密度に関する既報

CC;脈絡膜毛細血管板 SD;標準偏差

AO-OCTA;adaptive optics optical coherence tomography angiography SS-OCTA;swept source optical coherence tomography angiography

SD-OCTA;spectral domain optical coherence tomography angiography MHE;Multiscale Hessian enhancement

†:RTVue XR Avanti ††:Cirrus 5000 with AngioPlex †††:DRI OCT Triton ††††:PLEX Elite 9000 †††††:SPECTRALIS® OCTA Module

a:Ramrattan RS, et al. Morphometric analysis of Bruch’s membrane, the choriocapillaris, and the choroid in aging. Invest Ophthalmol and Vis Sci. 1994;35:2857-2864.

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各画像処理法によるCC血管密度の差について

各画像処理法のCC血管密度平均値はOtsu法39.45±3.33%,Phansalkar法43.89±7.29%,MHE-Otsu法54.34±2.01%と,各画像処理法の全ての組み合わせでCC血管密度平均値に有意な差が認められた。その理由について検討すると,自動局所閾値化によるOtsu法とPhansalkar法の差は2階調化のアルゴリズムの違いによって抽出される血管領域が大きく変わるためと考えられた。MHE-Otsu法はMHE行列による血管強調処理が行われることで血管領域が太くなるため他の画像処理法と比べCC血管密度が大きくなったと考えられた。3つの画像処理法の中でMHE-Otsu法のCC血管密度が最もRamrattanらの組織学的検討の値に近いこと6,CV値が低くバラツキが少ないことからSP-OCTAを使用したCC血管密度の測定にはMHE-Otsu法が最も適していると考えられた。

CC血管密度と年齢との関係について

年齢とCC血管密度との関係については,Ramrattanらは組織学的検討でCC血管密度は年齢と共に減少しすることを報告している6。この報告によれば,CC血管密度は20歳台で約70%,60歳台で約55%となっている。同年代の健常対象者のCC血管密度をSS-OCTAで計測したAl-sheikhらの報告ではCC血管密度は約44.4%19,SD-OCTAで計測したWangらの報告では約44.5%としており,両者の報告は同様の結果であった23。今回我々の研究はやや平均年齢が高いが,自動局所閾値による2階調化法で求めたCC血管密度は39.5%(Otsu法),43.9%(Phansalkar法)となりAl-sheikh,Wangらの報告に近い値となった。MHEを用いた過去の報告では,Suganoらの報告のCC血管密度は60.8%24,Ujiらの報告では61.9%となっている20。本研究ではやや平均年齢は高いがCC血管密度54.3%(MHE-Otsu法)と近い結果となった。同一年代健常者を対象とした場合,計測機器に関わらず同じ画像処理法を用いることで,類似の結果がでる可能性が示唆された。現在SD-OCTA,SS-OCTAともに多くの機種が使用されているが,それぞれの計測データの画像処理法を統一することで,比較が可能となる可能性があると考えられた。

CC血管密度の平均に関しては,組織学的検討では全年齢の平均が65.5%とされており6,MHEを使った計測が最も近い数値となるが,組織学的検討よりも低い数値となっている。この理由として,RamrattanらはCC血管径の外側まで計測しており,CC血管密度が高く測定された可能性が,また,ホルムアルデヒドによる血管平滑筋の弛緩作用により血管内腔が拡張したためCC血管密度が高く測定された可能性がある。実験的ではあるが,補償光学を用いたOCTAでより正確に計測した報告でもCC血管密度は54.4%とされており,組織標本と比較し,生体眼のCC血管密度はやや低い可能性もある25。SD-OCTAではRPE,Bruch膜によるアーチファクトがあるため描出されない血管がありCC血管密度が低く計測された可能性も考えられる。

組織学的報告と同様OCTAを用いたCC血管密度の検討においても年齢とともにCC血管密度が低下することが確認された。腎臓などの全身臓器においても加齢とともに血管密度が減少し機能が低下するといわれている26。また,脈絡膜においても加齢により脈膜厚が減少することが報告されている27。加齢により血管密度が減少するメカニズムははっきりとしていないが,加齢による血管硬化により脈絡膜に還流する血流が減少すること,加齢による慢性炎症で毛細血管が減少する事などが考えられる。加齢により血管内皮のみで構成されるCC血管密度が減少することは,毛細内皮障害が脈絡膜血管全体の加齢性変化に関与している可能性がある。今後CC血管密度と脈絡膜厚および脈絡膜体積などの比較検討が必要である。

眼軸長とCC血管密度について

眼軸長と脈絡膜の関係についてはOCTを用いた研究で,眼軸長と脈絡膜厚が負の相関にあることが報告されているが28,眼軸長とCC血管密度を組織学的に検討した報告はほとんどない。Hirataらは,電子顕微鏡的にひよこの近視眼のCC毛細血管構造を調べ,近視眼でCC毛細血管密度が有意に減少していることを報告している29

OCTAの報告では,Al-Sheikhらは眼軸長26.5 mm以上の強度近視眼において眼軸長とCC血管密度が負の相関にあることを報告している30。その理由として,脈絡膜が網膜外層に酸素と栄養を供給していることが知られているが,近視によって誘発された網膜の菲薄化,減少により,これを維持するための脈絡膜血流が適応的に減少している可能性,また,近視による機械的な伸びは,血管の直線化と狭窄,および関連する分岐の減少を引き起こすことによりCCの流量欠損の面積が増加する可能性などが考えられている。

一方,Wangらは,中心窩の表在性網膜小血管,毛細血管ネットワーク密度,深部網膜毛細血管ネットワーク密度,および絨毛毛細血管密度を検討し,眼軸長と相関していなかったことを報告している23。その理由として,Bruch膜厚は眼軸長と相関しないという報告から31,Bruch膜直下のCC血管密度も眼軸長と関連していない可能性,また,乳頭黄斑間の眼軸長の伸長はBruch膜のない乳頭周囲脈絡網膜萎縮の拡大によって引き起こされるという報告もあり32,眼軸長の伸長とCC血管密度が関連しない可能性が考えられている。

本研究では眼軸長とCC血管密度に有意な相関を認めず,Wangらの報告と同様であった23。今回の研究対象には長眼軸長が含まれなかったため,脈絡膜構造に大きな変化がなかったことが原因と考えている。有意差はなかったが眼軸とCC血管密度に正の相関があった理由として,次の2つのことが考えられた。一つは若年者で眼軸長が長い傾向にあり,年齢によってCC血管密度が上昇した可能性が考えられた。もう一つは,OCT本体が眼軸長に合わせて自動的に補正する内部システムを持っているが,長眼軸眼では倍率補正に誤差が生じやすいため,その誤差によりCC血管密度が上昇した可能性が考えられた。

研究限界

今回の我々の研究ではCC血管密度の値が既報と同様で各画像処理法で再現性を確認できたが,いくつかの研究限界を認める。再現性の確認は,同一画像で行われており,撮影時期,散瞳状態等を変えた場合の再現性について検討していない。3つの画像処理方法は自動化されておらず,OCTA撮影後に目視による位置決定が必要なため,複数の検者では再現性が低くなると考えられる。

今後は複数の検者による再現性の確認,画像処理方法の自動化が必要である。また,今回は同一のOCTAで撮影を行ったが,OCTA機器の違いについても検討が必要である。既報との比較において,機器の違い,画像処理法の違いがあるため,計測結果の比較検討は困難である。複数の機器で画像処理法の再現性を検討し,その妥当性が確認できれば,統一的な画像処理法の開発につながる可能性がある。今回,加齢によりCC血管密度が減少することを確認できたが,健常眼のみを対象としており,加齢黄斑変性などの眼疾患,高血圧症や糖尿病などによる全身疾患のCC血管密度の変化については不明である。

結語

強度近視,強度遠視を含まない正常眼軸眼においては,CC血管密度は年齢とともに減少し,眼軸長の変化による影響は少ない。CC血管密度の測定は脈絡膜の加齢性変化を推定する指標となりうると考えられた。既報との比較で画像処理法の違いがCC血管密度に影響することが明らかとなった。今後は機器の違いを超えた脈絡膜血管構造の比較の目的で画像処理法のさらなる検討が必要である。

引用文献
 
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