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Neuronal ER-PM junctions form Ca2+-dependent PKA signalosomes
Yoshiaki Suzuki
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2024 Volume 159 Issue 3 Pages 183

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プロテインキナーゼA(PKA)は,Aキナーゼアンカータンパク質(AKAP)による空間的区画化(PKAシグナロソーム形成)を経て,刺激特異的に情報を伝達する1).PKAは,触媒サブユニット(PKA-C)と,Ⅰ型あるいはⅡ型PKAを規定する制御サブユニット(PKA-RIあるいはPKA-RII)から構成される.cAMPがPKA-RIあるいはPKA-RIIに結合すると,PKA-Cが解離して基質をリン酸化する.Ⅱ型PKAはAKAPにより樹状突起に局在化して,神経伝達物質の受容体依存的にシナプス増強やスパインの可塑的変化を引き起こす.これに対して,Ⅰ型PKAは多様な神経入力を統合する細胞体に豊富に存在するが,Ⅰ型PKAの細胞内局在や生理的意義はほとんど知られていない.小胞体(ER)と細胞膜(PM)の接合部(ER-PM接合部)は,真核細胞に普遍的に存在する特殊な細胞内構造であり,細胞内情報伝達に必要な分子を集積させることで,脂質およびCa2+シグナル伝達において重要な役割を果たす2).本稿では,神経細胞体のER-PM接合部がⅠ型PKAシグナロソーム形成に関与することを明らかにした研究を紹介する3)

本論文の筆者らは以前の研究で,電位依存性KチャネルKv2.1が細胞内C末端のFFATモチーフを介してERの小胞体膜タンパク質(VAP)と結合することで,海馬ニューロンのER-PM接合部を形成することを明らかにした4).そこで筆者らはまず,マウスの脳からKv2.1を含むタンパク質複合体を精製し,質量分析法によりER-PM接合部のタンパク質構成成分を調べた.その結果,Ⅰ型PKA特異的AKAP13であるSPHKAPを同定した.Kv2.1遺伝子欠損マウスを用いた解析の結果,海馬ニューロンの細胞体および近位樹状突起上で,Kv2.1依存的にER-PM接合部の近傍でSPHKAP–PKA-RI複合体が形成されることがわかった.さらに免疫電子顕微鏡解析の結果,SPHKAP–PKA-RI複合体はER-PM接合部に隣接する層板状ERに,高密度で局在することが明らかになった.

Kv2.1はER-PM 接合部にL型電位依存性Ca2+チャネル(Cav1.2)とリアノジン受容体(RyR)を集積させる5).本研究ではさらに,SPHKAPが培養海馬ニューロンのER-PM接合部においてCav1.2とRyRの近傍にⅠ型PKAを局在化させることが判明した.脱分極刺激によりCav1.2から流入したCa2+は,Ca2+依存性アデニルシクラーゼによるcAMP産生を介して,PKA-CをSPHKAP–PKA-RI複合体から解離させた.このPKA-Cは近傍のCav1.2やRyRをリン酸化して脱分極刺激後の細胞内Ca2+濃度上昇の増強することで,記憶形成に必要な転写因子(CREBとc-Fos)の活性化・発現上昇に寄与した.最後に,SPHKAPからPKA-RIを切り離す干渉ペプチド(RIAD)を使用して,SPHKAP‐PKA-RI複合体のCav1.2依存性PKA活性化に対する影響を調べた.RIADは,脱分極刺激後のCav1.2依存性PKA活性化を抑制したが,フォルスコリンおよびIBMXによるPKA活性化には変化がなかったことから,Cav1.2から流入したCa2+はSPHKAPと結合したⅠ型PKAを選択的に活性化することが明らかになった.

以上より,SPHKAPは,Kv2.1と共にER-PM接合部とその直下の層板状ER近傍にCa2+依存性・受容体非依存性のⅠ型PKAシグナロソームを形成し,膜脱分極という電気信号をリン酸化という細胞全体で普遍的に認識される生化学的変化へ効率的に変換することが明らかになった.本研究で同定されたSPHKAP–Ⅰ型PKAシグナロソームは,神経細胞体が何千ものシナプス入力を発火出力や遺伝子発現の変化に統合する上で重要な役割を担うと考えられる.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

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