2024 Volume 159 Issue 3 Pages 135-136
私,これまで2度AGORAに寄稿する機会を頂いた.最初は2006年(当時は「リレーエッセイ」)で,その次が2018年.木星の公転周期とほぼ同じ12年周期かと勝手に思っていたら,その半分となる今年,3度目の機会を頂戴した.以前にも述べたが,私はこの手の文章を書くのが非常に苦手ではあるのだが,あと一周り12年で退官という節目の年に頂いたのも何かのご縁と思い,少々書かせていただきたい.
研究の第一歩には,さまざまな現象に対して不思議と思う気持ちやそれに対する探求心が少なからず関わる.身の回りに数多ある説明できない現象の中で,自分が真に興味を抱き,限りある時間(カネも)を使って追究したい“不思議”を選んでいくわけである.学生の場合は,指導教員の提案から始まった研究を進めていく過程で,探求心をくすぐる不思議に出会うことも多いだろう.いずれにしても自分が感じた不思議への探求心は研究への強い動機付けとなり,大きな原動力を生む大切な要素であるのは敢えて特記するまでもない.自身の若き日の研究生活を振り返ると,目の前の小さい疑問をただ純粋に楽しみながら実験していた.何か大きな不思議を解明するという大層なものではないが,未熟な実験技術が徐々に洗練され,その過程で自分が思う不思議が少しずつ紐解かれていく様は格別だった.さらに多くの経験の蓄積により緻密な観察力も養われてくると,駆け出しの頃には気付けなかった現象や変化に目が留まることが増え,生命現象を説明しうる新しい法則性に気付くことがある.その気付きやおどろきの瞬間には形容し難い高揚感がある.新しい現象や法則性は意外とあちらこちらに潜んでいるはずなのだが,大抵はその存在に気付けないだけなのであろう.要はその研究への深い没入と熟練度に依るのかもしれない.幸運は準備ができている者に訪れると先人たちは述べている.以前,ある実験を教わりにM教授のラボを訪問した.実験装置やその周辺設備に至るまでM教授のこだわりが随所に見られ,生体機能を理解したいという飽くなき探究心と情熱に大変感銘を受けた.また,ある研究会で出会った学部生は,2年生から自らラボを訪問し現在に至るまで日々楽しく研究をしており,なんと学部期間中に海外の研究室に短期留学をするという.自分が興味をもった物事への探究心や研究への貪欲な姿勢に新鮮さを感じた.また最近,研究室の学生が「パッと見では気付かなかったんですが,何かないかとよく見てみたらこんな面白い規則性を見つけました!」と言ってきた.新しい現象を見つけたことはもちろんだが,学生のその姿勢が教員としては嬉しかった.上記の例に限らず,学生たちはそれぞれが自分の“不思議”をもっており,それを研究で明らかにしたいという情熱を持っている.多くの学生や仲間と共有した不思議を,共に研究で追究し少しずつ紐解いていける自身のこの環境に感謝したい.残りの12年で,探究心が芽生える土壌と,研究に没頭できる環境をさらにつくっていきたい.そして将来,学生それぞれが感じた不思議を自らの研究で探求し,新たな知を築いてほしいと心から願う.
昨年度までの2年間,本学会の研究推進委員長を務めた.学会にとって大きな貢献はできなかったものの,新しい試みとして次世代の会と企画教育委員会と共に,「日本薬理学会若手会員(学生・ポスドク)と大学等研究室・製薬企業等とのマッチングイベント」を第97回日本薬理学会年会で開催した.実はこの企画,某製薬企業の人事の方との話の中から出てきた案だ.製薬企業の方からは,通常の就活や採用面接だけでは,学生が何を思い,どのくらい情熱をもって自身の研究に臨んでいるのか,などをじっくり話す機会がないということを伺っていた.また,同時期に年会での学生の参加数が少ないという話を耳にしたこともあり,何とか若手の皆さんにとって学会参加への動機づけとなる企画をという思いがあった.マッチングイベント当日は,全国の国公私立大学のポスドクと学生が30名以上,大学等研究機関と製薬企業は計7団体に参加いただいた.皆様には心より感謝申し上げたい.若手会員の皆さんは自身がこれまで一生懸命取り組んできた研究を熱心に説明し,そして積極的に大学等研究機関と製薬企業の方に話しかけていた姿が非常に印象的であった.そこから生まれた新しい交流が若手会員の研究キャリア形成に少しでもつながれば幸いである(運営面で改善すべきことも多々あったがご容赦いただきたい).そのような取り組みを経て育った研究者が,次は学会を通じて後進の育成に参加していただければさらによい.各世代で継承される好循環を通じて今後益々発展し続ける学会となることを願いながら,筆を置きたい.