Folia Pharmacologica Japonica
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Akemichi Baba
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2024 Volume 159 Issue 3 Pages 133-134

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米田幸雄先生

(1950-2023)

日本薬理学会名誉会員,金沢大学名誉教授の米田幸雄先生が2023年12月31日にご逝去されました.享年73歳でした.謹んで哀悼の意を表します.

米田先生は1975年に大阪大学薬学研究科(薬理学講座)を修了後,京都府立医大薬理(栗山欣彌教授)のスタッフとして神経化学の研鑽を積み,その間,米国シティオブホープ医学研究所の研究員としての実績を重ねた後,摂南大学薬学部准教授,同教授を経て,1999年に金沢大学薬学部薬物学講座の教授に着任されました.2015年に定年退職された後は,一般社団法人 予防薬理学研究所を設立され,若手研究者の支援とともに,科学的根拠を持つ機能性食品の開発に軸足を移し精力的に活動されていました.

栗山先生にGABAの神経化学の薫陶を受けて始まった神経アミノ酸の研究は,摂南大でのグルタミン酸研究で大きく開花しました.グルタミン酸受容体の同定が世界の潮流であった当時,国内で先駆けてそのテーマに取り組み研究をリードしました.薬理学会をはじめとする多くの学会では,常に米田研からの数多くの演題が発表され,「binding実験の米田研」と呼ばれることもありました.金沢大学に移られてからは,グルタミン酸シグナル研究を骨芽細胞に移し,新しい視点の骨代謝研究を切り開きました.米田先生のこれらグルタミン酸の神経薬理・神経化学的研究から骨芽細胞へと展開した膨大な業績は,300報を超える原著論文,総説や30編を超える著書に見ることができますが,日本薬学会奨励賞,日本神経薬理学会学術賞から平成26年度日本薬学会賞「多様化形質細胞間の神経アミノ酸シグナルの普遍性」の受賞として高く評価されています.

研究への揺るぎない思いと自らのハードワークは,米田先生の人生訓とも言えるものであり,温かみと面白みを併せ持つ豊かな人間力と相まって,院生,スタッフを魅了せずにはおきませんでした.研究室のまとまりの中で,多くの優秀な弟子が育ち,現在,多方面で活躍しています.研究を通して後進を育てることは大学教授の最も重要な役割でありますが,なかなか果たすことの難しい課題と言えます.米田先生は見事にそれを達成されました.強調すべきは,この様な教育研究でのサクセスストーリーが,恵まれた環境でのよくある話ではなく,米田先生一代で成し遂げられたものであり,心から敬服しています.

初めて米田先生にお目にかかったのは,彼が大阪大学薬学部薬理学講座(岩田平太郎教授)に卒研生として配属された時でした.研究室の3年先輩に当たる私は,痩身で色黒,短髪のスポーツマンタイプの彼の立ち居振る舞いに魅了され,親しく交流すると共に,修士論文のお手伝いもしました.爾来,50有余年,岩田研の兄弟弟子として薬理学の世界を共に歩んで来ました.恵まれた研究環境とは言えない中で,研究への一途の想いで孤軍奮闘して来た彼の姿に,時にライバルとして尊敬し,また仲間として深く共鳴しました.2年前に病を得てから逝去されるまで,折に触れて話をしてきました.自分の病状,その帰結を客観的に見つめるさまは,まさに研究者そのもので,語るべき言葉もなく,深い感動を覚えました.余りに早いご逝去が残念でなりませんが,最後に長年の交流のお礼とあっぱれな人生であったことを伝え,最後のお別れにしました.

ここに米田先生を偲び,心からご冥福をお祈り申し上げます.

 
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