Folia Pharmacologica Japonica
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Reviews: Corporate Challenges to Regenerative Medicine
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Hisaharu YamadaKohei Kikkawa
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2024 Volume 159 Issue 3 Pages 137

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これまでの製薬業界では,低分子化合物による創薬が大勢を占め,さらに抗体医薬品を含むタンパク質医薬の創薬から,核酸医薬,細胞医薬,再生医療の研究開発も進んでおり,モダリティーの選択肢の幅が拡がっている.この中で再生医療は,医療の世界において先端的な分野であり,急速に進歩発展し,世界中で日々新たな成果が取り上げられている.再生医療は細胞や組織を用いた治療法であり,従来の薬剤では対処困難なアンメット・メディカル・ニーズに対して新たな道を開くもので,多くの患者さんの期待を担っている.国内では,iPS細胞技術を用いた再生医療研究が盛んであり,皮膚細胞などから作られた細胞を多種の細胞に変化させ患者さんに移植することで,拒絶反応を回避することができ,パーキンソン病,心筋梗塞,糖尿病などの治療に有効な手段とされ,日々研究が進んでいる.この特集では,国内で最初に再生医療製品を開発されたフロンティア企業より,その開発を含めた現状,次にバイオ3Dプリンターを用いたユニークな製品開発の取り組み,最後に大手製薬企業の細胞治療製品の研究開発について執筆いただいた.

株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)は,バイオベンチャーを立ち上げられ,国内初の再生医療の産業化に挑戦された.初めての再生医療品の承認申請を目指されたのであるから,多くの規制に対応されねばならなかったご苦労は計り知れないものがある.この挑戦は,自家培養表皮ジェイスの重症熱傷を適応対象とした薬事承認を取得されたことで実を結び,その後も多くの製品開発に成功されている.特に自家の製品について開発を続けてこられているが,近年,他家の製品開発についても取り組まれている.J-TECの井家先生には,J-TECが開発された各種製品の開発の経緯と国内の再生医療等製品の現状並びに今後の製品展開についても言及していただいた.

3Dバイオプリンティング技術は,再生医療分野において注目されている革新的な技術の一つである.この技術を用い患者の臓器あるいは組織を作製することが可能である.さらに,この技術については医療分野のみならず,医薬品開発の分野にも応用可能である. 株式会社サイフューズは,細胞のみで構成された立体的な組織・臓器を難病に苦しむ患者さんや先端医療の現場へ届け,未来社会の次世代医療に貢献することを目指すベンチャー企業である.サイフューズの前川先生には,三次元細胞積層技術を用いた患者さんの細胞だけを原材料として作製した神経再生,骨軟骨再生,血管再生等の開発,さらに,この技術の創薬への応用として,三次元肝臓構造体,3Dミニ肝臓を開発され,医薬品候補化合物の肝毒性評価,代謝機構解明,肝臓疾患モデルなど,in vitroのヒト肝臓モデルについても解説いただいた.

クローン病は,国内では難病指定されており,小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍が見られ,腸管狭窄や瘻孔等の特徴的な病態を形成する.この疾患に対し,武田薬品工業株式会社は,同種異系の脂肪組織由来間葉系幹細胞の懸濁液を含む細胞治療製品であるダルバドスト ロセルの承認を取得された.武田薬品工業の山口先生には,クローン病に伴う複雑痔瘻の概略,ダルバドストロセルの特徴,欧州及び日本で実施された主要な第3相試験成績の概要,並びに日本での開発戦略について紹介していただいた.本品の開発においては,医療用医薬品とは異なった臨床開発の対応が必要であり,医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談をうまく利用して開発を進められることをご指摘いただいた.

以上,この特集では,再生医療に取り組む企業の現状についてご紹介した.読者の皆様には,一般的な医療用医薬品の開発とは異なる対応が必要なこと,また規制当局との面談を通して開発を進めることの有用性など,再生医療製品の開発の特殊性についてご理解を頂けたら幸いである.今回紙面の関係で,安全性評価などの詳細は割愛せざるを得なかったが,また,機会があれば,企業の方々の取り組みを紹介したいと思う.この場を借りて,お忙しい中,執筆いただいた著者の先生方に御礼を申し上げたい.

2024年4月

 
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