Folia Pharmacologica Japonica
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Review on New Drug
Pharmacological characteristics and clinical study results of ensitrelvir fumaric acid (XOCOVA® Tablets 125 ‍mg)
Yuko TsugeYasuko AriwaKentarou Shibata
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2024 Volume 159 Issue 4 Pages 264-281

Details
要約

エンシトレルビル フマル酸(製品名:ゾコーバ®錠,以下本剤)は,SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬である.北海道大学と塩野義製薬株式会社は,SARS-CoV-2複製に必須なタンパク質であるSARS-CoV-2 3C-like(3CL)プロテアーゼをターゲットとした創薬に早期に取り組み,2020年6月の本格的な創薬活動の開始から13ヵ月後の2021年7月より臨床試験を開始した.本剤は,2022年2月に「SARS-CoV-2による感染症」の効能・効果にて製造販売承認申請を行い,2022年11月に本邦初となる緊急承認医薬品として承認を取得,2024年3月に通常承認された.本剤の緊急承認は,軽症/中等症患者を対象に日本を中心としたアジア(韓国,ベトナム)で実施した国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(T1221試験)で安全性が確認され,Phase 3 Part(SCORPIO-SR試験)で有効性が推定されたためであるが,その後Phase 3 Partの有効性が確認され通常承認となった.国際共同第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(T1221試験)Phase 3 Partでは,重症化リスク因子やワクチン接種の有無に関わらず,本剤375/125 ‍mgを1日1回,5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果が検証され,発症から72時間未満の患者において,オミクロン株流行期にみられる特徴的な5つの症状(鼻水または鼻づまり,喉の痛み,咳,熱っぽさまたは発熱,倦怠感(疲労感))の消失までの時間が,プラセボ群と比較して統計学的に有意に短縮した(P‍=‍0.0407).更に,4日目におけるSARS-CoV-2のウイルスRNA量のベースラインからの変化量がプラセボ群と比較して統計学的に有意に減少した(P‍<‍0.001).また,国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験では本剤群に重篤な副作用や死亡例の報告はなく,良好な忍容性と安全性が示された.本剤は,患者の重症化リスク因子によらず症状改善効果が確認された薬剤であり,本剤がCOVID-19の症状に苦しむ患者にとって,新たな治療選択肢として貢献できるものと期待したい.

Abstract

Ensitrelvir fumaric acid (Xocova® hereafter ensitrelvir) is a novel anti-SARS-CoV-2 drug for COVID-19. Hokkaido University and Shionogi & Co., Ltd. engaged in joint research targeting SARS-CoV-2 3C-like (3CL) protease at an early stage and started clinical trials in July 2021. In February 2022, an application was filed for manufacture and sales approval for the indication of “SARS-CoV-2 infection,”. Ensitrelvir recieved the first emergency regulatory approval from the Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW) in Japan in November 2022, and has obtained standard approval in March 2024. This emergency approval was based on the confirmed safety in a Phase 2/3 study (T1221) conducted in Japan and other Asian countries (Korea and Vietnam) in patients with mild/moderate COVID-19 and the presumed efficacy in Phase 3 Part (SCORPIO-SR), and the standard approval is based on efficacy from the Phase 3 part. In the Phase 3 part, ensitrelvir administered orally 375/125 ‍mg once daily for five days, in patients with irrespective of risk factors for severe complications and vaccination status, demonstrating a significant reduction vs placebo in the time to resolution of five typical Omicron-related symptoms (stuffy or runny nose, sore throat, cough, feeling hot or feverish, and low energy or tiredness), and also showed a significant reduction in viral RNA on day 4 relative to placebo (P < 0.001). In the Phase 2/3 study, there were no serious adverse events or deaths, indicating good tolerability and safety. We hope that ensitrelvir will contribute as a new treatment option for patients suffering from COVID-19 symptoms.

1.  はじめに

2019年12月,新型のコロナウイルスの感染によって肺炎が発症していることが報告され,その原因ウイルスは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名された1).SARS-CoV-2による感染症は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と命名され,世界保健機関(WHO)は2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した2).本邦においては,2020年1月に1例目の感染者が確認されて以来,2023年5月9日時点で,感染者(PCR陽性)は3,380万例以上,死亡は7万4千例以上と報告されており,2023年5月8日に5類感染症へ移行した後も多くの新規感染者が報告されている3)

SARS-CoV-2は,コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され,約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムをもつエンベロープウイルスである.2020年末から,感染・伝播性,毒力及び抗原性などに影響を与える可能性がある遺伝子変異を有する変異株が出現し,B.1.1. 7系統(アルファ),B.1.617.2系統(デルタ),B.1.1.529系統(オミクロン)が置き換わりながら流行を形成してきた.2021年末のオミクロン発生以降は,多くのオミクロンの亜系統が派生し,流行株が次々と置き換わっていく現象が現在も世界中で継続している4)

COVID-19の症状は,喉の痛み,咳,鼻水または鼻づまりといった上気道症状に加え,発熱,倦怠感,筋肉痛といった全身症状を伴う感冒様症状を生じることが多いが,頭痛,嗅覚障害,味覚障害などを呈することもある4).また,COVID-19の重症度は肺炎の有無と酸素飽和度で分類されているため,軽症であっても,呼吸器系症状に限らず,重度の鼻症状,倦怠感または筋肉痛,頭痛,嗅覚または味覚障害などを訴える患者も少なくない5).これらの病態は,発症後数日はウイルス増殖によるものであり,発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応によるものと考えられている6).そのため,発症早期には症状に応じて対症療法に加え抗ウイルス薬または中和抗体薬の投与を考慮すること,徐々に悪化のみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要とされている.

本邦ではワクチン接種が普及している一方で,ワクチン接種からの時間経過による中和抗体の減少やブレイクスルー感染が懸念されるとともに,次々と変異株に置き換わるなど,未だに流行を繰り返している.このような状況において,自宅で簡便に服用できる経口治療薬が長期的に安定供給されることの必要性が一層高まっている.

塩野義製薬は北海道大学と共同で,原因ウイルスであるSARS-CoV-2の複製に必須なタンパク質である,3CLプロテアーゼをターゲットとした創薬にいち早く取り組み,1‍日1回,単剤経口投与(5日間)での治療が可能なエンシトレルビル(図1)を創製した7).本格的な創薬活動の開始である2020年6月から2021年7月の臨床試験開始まで13ヵ月での創製であった.2021年7月に開始された第Ⅰ相臨床試験において良好な薬物動態を示し8),日本を中心としたアジアで実施した国際共同第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(T1221試験)のPhase 2aおよびPhase 2b Partにおいて明確な抗ウイルス効果を確認した9,10).さらに,国際共同第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(T1221試験)Phase 3 Partにおいて11),オミクロン株流行期に重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無によらず,軽症または中等症のCOVID-19患者に対して5日間経口投与したときのCOVID-19の5つの症状[鼻水または鼻づまり,喉の痛み,咳,熱っぽさまたは発熱,倦怠感(疲労感)]への有効性および安全性が検証されたことなどを踏まえ,2022年11月に「SARS-CoV-2による感染症」の効能・効果にて,本邦初となる緊急承認医薬品として承認を取得した.緊急承認時においては有効性及び安全性に係る情報は限られていたが,Phase 3 Partのデータや緊急承認の期間中に蓄積した100万人以上の安全性情報を元に12),有効性・安全性が確認できたとして,2024年3月5日に通常承認された.

図1エンシトレルビル フマル酸の化学構造式と製剤の剤型

2.  エンシトレルビル フマル酸の薬理作用

1) 作用部位・作用機序

本剤の標的酵素であるSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼは,SARS-CoV-2遺伝子から翻訳されたポリタンパク質のプロセシングを行うことでウイルス複製を進行させる.そのため,同酵素は SARS-CoV-2ウイルスの複製に必須と考えられている.SARS-CoV-2が細胞に侵入すると,ウイルスRNAを鋳型にタンパク質が翻訳され,このうち非構造タンパク質はポリタンパク質として翻訳される.その後,このポリタンパク質は,自身に含まれるパパイン様プロテアーゼ,3CLプロテアーゼによるプロセシングを受け,ウイルスの複製や転写に必須であるRNA依存性RNAポリメラーゼやヘリカーゼ又は3CLプロテアーゼそのもの,といったそれぞれ異なる機能を発揮する非構造タンパク質となる13).In vitro試験において,本剤はSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼに対し阻害活性を有することが示され14),ウイルスの複製を阻害することが示された15)図2).

図2エンシトレルビル フマル酸の作用機序(イメージ図)

ACE2:アンジオテンシン変換酵素2,RTC:複製転写複合体,RdRp:RNA依存性RNAポリメラーゼ.

2) 薬効を裏付ける試験成績

(1) SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ活性に対する阻害効果(In vitro試験)14)

SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼタンパク質を用いて本剤の3CLプロテアーゼに対する阻害活性を検討した.本剤のSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ活性に対する50%阻害濃度(IC50)は,0.0132 ‍μmol/Lであった.また,G15S,T21I,T24I,K88R,L89F,K90R,P108S,P132H,A193V,H246Y及びA255Vのアミノ酸置換を有するSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼに対してもwild-typeと同等の酵素阻害活性を示し,IC50は0.0080~0.0150 ‍μmol/Lであった(表1).

表1SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ活性に対するエンシトレルビル フマル酸の阻害効果

アミノ酸置換 IC50(nmol/L) IC50の倍率変化
wild-type 13.2±1.1
G15S 8.0±1.1 0.60±0.08
T21I 14.3±0.8 1.08±0.06
T24I 14.0±2.7 1.06±0.20
K88R 12.1±1.1 0.91±0.08
L89F 15.0±1.2 1.13±0.09
K90R 9.7±1.1 0.73±0.09
P108S 13.2±1.0 1.00±0.07
P132H 14.4±2.2 1.09±0.16
A193V 10.2±0.8 0.77±0.06
H246Y 12.5±1.0 0.95±0.08
A255V 10.1±0.4 0.77±0.04

(平均値±標準偏差)

(2) SARS-CoV-2感染細胞における抗ウイルス活性(In vitro試験)15,16)

SARS-CoV-2臨床分離株をVeroE6/TMPRSS2細胞及びHEK293T/ACE2-TMPRSS2細胞に感染させ,3日後の細胞生存率が50%になる本剤の濃度(EC50)を測定した.

表2-1表2-2のとおり,本剤のSARS-CoV-2に対するEC50は,VeroE6/TMPRSS2細胞では0.22~0.99 ‍μmol/L,HEK293T/ACE2-TMPRSS2細胞では0.026~0.064 ‍μmol/Lであり,マウス馴化株に対するEC50は,VeroE6/TMPRSS2細胞では0.12 ‍μmol/Lであった.また,本剤のVeroE6/TMPRSS2細胞及びHEK293T/ACE2-TMPRSS2細胞に対する50%細胞障害濃度(CC50)は‍>‍100 ‍μmol/L及び55 ‍μmol/Lであった.以上の結果から,本剤はスパイクタンパク質に変異が認められているオミクロン株を含む臨床分離株及びマウス馴化株に対して株間の感受性差が小さく,CC50より極めて低い濃度(‍>‍175倍)で抗SARS-CoV-2活性を有することが示された.

表2-1SARS-CoV-2感染細胞に対する抗ウイルス活性(VeroE6/TMPRSS2)

ウイルス株(WHOの呼称) Pango系統 EC50(μmol/L)
エンシトレルビル レムデシビル
hCoV-19/Japan/TY/WK-521/2020(従来株) A 0.37±0.060 1.9±0.14
hCoV-19/Japan/QK002/2020(アルファ株) B.1.1.7 0.33±0.050 0.87±0.027
hCoV-19/Japan/QHN001/2020(アルファ株) B.1.1.7 0.31±0.070 0.97±0.14
hCoV-19/Japan/QHN002/2020(アルファ株) B.1.1.7 0.46±0.044 0.99±0.18
hCoV-19/Japan/TY8-612/2021(ベータ株) B.1.351 0.40±0.048 1.2±0.30
hCoV-19/Japan/TY7-501/2021(ガンマ株) P.1 0.50±0.048 2.1±0.39
hCoV-19/Japan/TY7-503/2021(ガンマ株) P.1 0.43±0.00085 1.0±0.16
hCoV-19/Japan/TY11-927-P1/2021(デルタ株) B.1.617.2 0.41±0.014 1.6±0.22
hCoV-19/Japan/TY28-444/2021(シータ株) P.3 0.29±0.028 0.98±0.10
hCoV-19/Japan/TY33-456/2021(ラムダ株) C.37 0.27±0.048 3.2±0.61
hCoV-19/Japan/TY26-717/2021(ミュー株) B.1.621 0.43±0.069 3.9±0.41
hCoV-19/Japan/TY38-873/2021(オミクロン株) BA.1.18 0.29±0.054 1.1±0.28
hCoV-19/Japan/TY38-871/2021(オミクロン株) BA.1.1 0.36±0.077 1.0±0.052
hCoV-19/Japan/TY40-385/2022(オミクロン株) BA.2 0.52±0.091 1.0±0.23
hCoV-19/Japan/TY41-721/2022(オミクロン株) BA.2.12.1 0.24±0.077 0.49±0.20
hCoV-19/Japan/TY41-716/2022(オミクロン株) BA.2.75 0.30±0.032 0.91±0.080
hCoV-19/Japan/TY41-703/2022(オミクロン株) BA.4.1 0.22±0.072 0.65±0.19
hCoV-19/Japan/TY41-763/2022(オミクロン株) BA.4.6 0.30±0.074 0.87±0.074
hCoV-19/Japan/TY41-704/2022(オミクロン株) BA.5.2.1 0.37±0.018 1.7±0.29
hCoV-19/Japan/TY41-702/2022(オミクロン株) BE.1(BA.5-like) 0.40±0.082 1.3±0.54
hCoV-19/Japan/TY41-820/2022(オミクロン株) BF.7 0.51±0.074 1.2±0.090
hCoV-19/Japan/TY41-828/2022(オミクロン株) BF.7.4.1 0.55±0.081 1.6±0.49
hCoV-19/Japan/TY41-796/2022(オミクロン株) BQ.1.1 0.48±0.042 2.2±0.70
hCoV-19/Japan/TY41-832/2022(オミクロン株) CH.1.1.11 0.38±0.091 1.2±0.26
hCoV-19/Japan/TY41-795/2022(オミクロン株) XBB.1 0.33±0.098 0.95±0.075
hCoV-19/Japan/23-018/2022(オミクロン株) XBB.1.5 0.57±0.074 1.0±0.18
hCoV-19/Japan/TY41-951/2023(オミクロン株) XBB.1.9.1 0.99±0.11 3.0±0.31
hCoV-19/Japan/TY41-984/2023(オミクロン株) XBB.1.16 0.33±0.026 1.1±0.20
hCoV-19/Japan/TY41-831/2022(オミクロン株) XBF 0.29±0.015 1.0±0.16
hCoV-19/Japan/TY41-686/2022(オミクロン株) XE 0.44±0.037 1.1±0.36
SARS-CoV-2 MA-P10(マウス馴化株) 0.12±0.040 1.6±0.11
細胞株 CC50(μmol/L)
エンシトレルビル レムデシビル
VeroE6/TMPRSS2 ‍>‍100 ‍>‍100

(平均値±標準偏差)

*:Pango系統は,新型コロナウイルスに関して用いられる国際的な系統分類命名法であり,変異株の呼称として広く用いられている.

表2-2SARS-CoV-2感染細胞に対する抗ウイルス活性(HEK293T/ACE2-TMPRSS2)

ウイルス株(WHOの呼称) Pango系統 EC50(μmol/L)
エンシトレルビル レムデシビル
hCoV-19/Japan/TY/WK-521/2020(従来株) A 0.027±0.0018 0.012±0.0020
hCoV-19/Japan/QK002/2020(アルファ株) B.1.1.7 0.044±0.0068 0.011±0.0024
hCoV-19/Japan/TY8-612/2021(ベータ株) B.1.351 0.038±0.0059 0.010±0.00045
hCoV-19/Japan/TY7-501/2021(ガンマ株) P.1 0.026±0.0051 0.0061±0.0011
hCoV-19/Japan/TY11-927-P1/2021(デルタ株) B.1.617.2 0.058±0.0073 0.0094±0.0022
hCoV-19/Japan/TY38-873/2021(オミクロン株) BA. 1.18 0.064±0.033 0.015±0.0051
細胞株 CC50(μmol/L)
エンシトレルビル レムデシビル
HEK293T/ACE2-TMPRSS2 55±11 6.1±0.36

(平均値±標準偏差)

(3) SARS-CoV-2耐性分離試験(In vitro試験)17)

臨床分離株を感染させたVeroE6/TMPRSS2細胞を様々な濃度の本剤存在下で継代培養した.4代培養後のSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼをコードする領域のゲノムシーケンス解析を実施したところ,3CLプロテアーゼの酵素活性中心近くに位置するアミノ酸に置換が認められ,D48G,M49L,P52S,及びS144Aのアミノ酸置換を有するウイルスが分離された.また,S144AとM49L/S144Aの混合によるM49(M/L)/S144Aのアミノ酸置換を有するウイルスも分離された.一方で,3CLプロテアーゼ領域にアミノ酸の置換が見られたウイルスでは,11個の3CLプロテアーゼ切断部位には,アミノ酸の置換は検出されなかった.

(4) SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ変異体の薬剤感受性試験(In vitro試験)18)

本剤存在下で分離した3CLプロテアーゼ領域にアミノ酸置換を有するSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ変異体について,本剤及びレムデシビルの抗SARS-CoV-2活性を評価した.本剤非存在下で継代培養した3CLプロテアーゼ領域にアミノ酸置換を有さないウイルスと比較して,D48G,M49L,P52S,S144A及びM49L(M/L)/S144Aのアミノ酸置換を有するウイルスでは本剤の感受性がそれぞれ3.7~6.5倍,12~41倍,5.5倍,8.5~11倍及び100倍低下した.一方,これら変異体のレムデシビルに対する感受性は0.40~1.8倍であり,交叉耐性は示さなかった.

(5) リバースジェネティクス由来SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ変異体の複製能力及び薬剤感受性試験(In vitro試験)19)

本剤に対するSARS-CoV-2耐性分離試験で同定された3CLプロテアーゼ領域のアミノ酸置換D48G,M49L,P52S,S144A及びM49L/S144Aを有するSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ変異体をリバースジェネティクス法(人工合成法)により調製し,本剤,レムデシビル,ニルマトレルビル,カシリビマブ/イムデビマブ(遺伝子組換え)の抗SARS-CoV-2活性を評価した.野生型と比較して,D48G,M49L,P52S,S144A及びM49L/S144Aのアミノ酸置換を有する変異体では本剤の感受性がそれぞれ4.3倍,17倍,3.7倍,9.2倍及び100倍低下した.一方,これら変異体に対するレムデシビル,ニルマトレルビル,カシリビマブ/イムデビマブ(遺伝子組換え)の感受性はそれぞれ0.52~1.0倍,0.68~1.4倍,0.91~1.0倍であり,交叉耐性は示さなかった.次に,野生型及びこれら変異体をVeroE6/TMPRSS2細胞へ感染させ,ウイルスの増殖性を評価した.図3-1図3-2のとおり,変異体の増殖性は本試験条件下では野生型と同程度であり,3CLプロテアーゼ領域のD48G,M49L,P52S,S144A及びM49L/S144Aのアミノ酸置換はウイルスの複製能力に明らかな影響を及ぼさないことが示された.

図3リバースジェネティクス由来のSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼ変異体の増殖性

平均値±標準偏差.検出できないウイルス力価は,1.50 log10 TCID50/mLと定義した.

更に,ヒト鼻腔由来細胞のMucilAirTMに対し,野生型又は変異ウイルスを1:1又は1:9の比率で感染させ,競合増殖性を評価した.3CLプロテアーゼ領域のD48G,M49L及びS144Aのアミノ酸置換を持つウイルスの競合増殖能は,野生型ウイルスと同等であった.一方で,3CLプロテアーゼ領域のP52S及びM49L/S144Aのアミノ酸置換を持つウイルスは,野生型ウイルスと比較して,競合増殖能は低かった.なお,SARS-CoV-2遺伝子データベースであるGISAID※1のデータ(2022年5月27日時点)を用いて,変異割合を解析した結果,上記アミノ酸変異を有するウイルスの割合は0.001%以下であった.また,SARS-CoV-2遺伝子データベースであるGISAID※1のデータ(2023年3月15日時点)を用い,3CLプロテアーゼ共結晶構造において本剤から5 ‍Å以内に位置する24種のアミノ酸の置換割合を解析したところ,アミノ酸配列は極めて高度に保存されていた.

※1:Global Initiative on Sharing All Influenza Data(インフルエンザ及び新型コロナウイルスの配列情報のデータベース)

(6) SARS-CoV-2感染マウスモデルにおける肺内ウイルス低下効果(直後投与)(In vivo試験)20)

雌性BALB/cマウス(n‍=‍5~10)にSARS-CoV-2ガンマ株(hCoV-19/Japan/TY7-501/2021株)を1.00×104 50%組織細胞感染価(TCID50)/マウスで経鼻接種した.接種直後から,本剤を1,2,4,8,16及び32 ‍mg/kgの用量で12時間ごとに1日2回(bid)の単日経口投与,0.5,1,2,4,8及び16 ‍mg/kgの用量で6時間ごとに1日4回(qid)の単日経口投与,又は2,4,8,16,32及び64 ‍mg/kgの用量で1日1回(qd)の単日経口投与を実施し,初回投与から24時間後の肺内ウイルス力価を測定した.図4-1図4-2図4-3のとおり,本剤投与群では,いずれの投与においても,それぞれ用量依存的な肺内ウイルス力価の低下が認められ,マウスでのウイルス複製を阻害することが示唆された.また,PK/PD解析から,感染直後に本剤を投与開始したときの,初回投与から24時間後の肺内ウイルス力価を低下させるPKパラメータはCmax及びAUC0-24hが重要であると考えられた.

図4SARS-CoV-2感染マウスモデルにおいて感染直後より投与したときの肺内ウイルス力価への影響

1.qd,2.bid,3.qid.平均値±標準偏差,破線は定量下限(1.80 log10 TCID50/mL)を表す.Dunnett’s検定.P‍<‍0.05,**P‍<‍0.001,***P‍<‍0.0001(vs. Vehicle).

(7) SARS-CoV-2感染マウスモデルにおける肺内ウイルス低下効果(遅延投与)(In vivo試験)20,21)

雌性BALB/cマウス(n‍=‍5)にSARS-CoV-2ガンマ株(hCoV-19/Japan/TY7-501/2021株)を1.00×104 ‍TCID50/マウスで経鼻接種した24時間後より,本剤を8,16,32及び64 ‍mg/kgの用量で12時間ごとにbidの2日間経口投与,8,16,32及び64 ‍mg/kgの用量で8時間ごとに1日3回(tid)の2日間経口投与,16,32及び64 ‍mg/kgの用量でqdの2日間経口投与,又は32及び64 ‍mg/kgの用量で単回経口投与を実施し,初回投与から24時間後及び48時間後の肺内ウイルス力価を測定した.図5-1図5-2図5-3のとおり,本剤投与群では,用量依存的な肺内ウイルス力価の低下が認められた.単日投与群を除くすべての本剤投与群において,持続的な肺内ウイルス力価の抑制効果が認められ,初回投与48時間後における肺内ウイルス力価は,媒体対照群よりも有意に低値を示した.また,PK/PD解析から,感染24時間後に本剤を投与開始したときの,初回投与から48時間後の肺内ウイルス力価の低下量を予測するPKパラメータは,AUC0-48h,C48h及びTimeHigh(5×PA-EC50,10×PA-EC50)であった.

図5SARS-CoV-2感染マウスモデルにおいて感染24時間後より投与したときの肺内ウイルス力価への影響

1.bid,2.tid,3.qd.平均値±標準偏差.破線は定量下限(1.80 log10 TCID50/mL)を表す.Dunnett’s検定.P‍<‍0.05,**P‍<‍0.001,***P‍<‍0.0001(vs. Vehicle).

(8) SARS-CoV-2感染マウスにおけるエンシトレルビル フマル酸遅延投与による治療効果(In vivo試験)20,21)

雌性BALB/cマウスにSARS-CoV-2 MA-P10株(mouse-adapted hCoV-19/Japan/TY/WK-521/2020株)を1.00×103 TCID50/マウスで経鼻接種した24時間後より,本剤を4,8,16及び32 ‍mg/kgの用量で12時間ごとにbidの5日間経口投与を実施し,感染から14日間の体重変化率(感染当日の体重を100%としたときの,感染後の体重変化率),生存率及び生存期間を確認した.図6-1のとおり,感染14日後における生存率は,媒体対照群では37.5%,4 ‍mg/kg投与群では91.7%,8,16及び32 ‍mg/kg投与群では100%であり,本剤投与群では,いずれの投与量においても生存率が改善し,媒体対照群と比べて有意に生存期間が延長した.更に,感染5日後までの体重変化率をもとめ,それらの推移を媒体対照薬と比較した結果,図6-2のとおり,本剤投与群では,媒体対照群と比較して,用量依存的に抑制された.以上の結果から,本剤はマウスにおいてSARS-CoV-2感染に伴う病態進展を抑制し,生存率が改善するものと考えられた.

図6SARS-CoV-2感染マウスモデルにおける感染後の生存率と体重変化率

1.感染後14日間の生存率.log-rank検定(多重度は固定シーケンス手順によって調整).P‍<‍0.05,**P‍<‍0.01(vs. Vehicle).

2.感染後5日間の体重変化率.ANOVA検定(多重度は固定シーケンス手順によって調整).P‍<‍0.05,**P‍<‍0.01,***P‍<‍0.0001(vs. Vehicle).

図6SARS-CoV-2感染マウスモデルにおける感染後の生存率と体重変化率

1.感染後14日間の生存率.log-rank検定(多重度は固定シーケンス手順によって調整).P‍<‍0.05,**P‍<‍0.01(vs. Vehicle).

2.感染後5日間の体重変化率.ANOVA検定(多重度は固定シーケンス手順によって調整).P‍<‍0.05,**P‍<‍0.01,***P‍<‍0.0001(vs. Vehicle).

3.  毒性試験

・生殖発生毒性試験22)

ラットを用いた受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験,ラット及びウサギを用いた胚・胎児発生に関する試験,ラットを用いた出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験を実施した(表3).主な毒性所見は,ラットにおいて胎児の骨格変異及びウサギにおいて胚・胎児死亡,胎児の軸骨格に奇形・変異,外表に奇形所見として短尾及び二分脊椎が認められた.ラットの出生児において,全児死亡,生存率・出生率低下及び離乳後の性成熟遅延等の発育遅延に関連する変化が認められた.雄ラットにおいては,精巣上体の精子数減少及び精子活性・運動能低下等が認められたが,受胎能に影響しなかった.ラット胚・胎児並びに出生児及びウサギ胚・胎児に対する無毒性量は,ラットで60 ‍mg/kg/日,ウサギで30 ‍mg/kg/日と判断され,このときの本薬の血漿中曝露量(AUC0-24h,ラット:1,990 ‍μg·h/mL,ウサギ:1,260 ‍μg·h/mL)は,ヒトにおける本剤投与時の本薬の血漿中曝露量 35)(AUCtau:518.3 ‍μg·h/mL)と比較して,ラットで約3.8倍及びウサギで約2.4倍であった.

表3エンシトレルビル フマル酸の生殖発生毒性試験におけるエンシトレルビルの血漿中曝露量及び臨床との曝露比

動物種
(投与期間)
投与量
(mg/kg/日)
Cmax
(μg/mL)
AUC0-24h
(μg·h/mL)
曝露比
Cmax*1 AUC0-24h*2
妊娠ラット 20 46.1 618 1.6 1.2
60(無毒性量) 134 1,990 4.8 3.8
1,000 240 3,400 8.5 6.6
妊娠ウサギ 30(無毒性量) 68.8 1,260 2.4 2.4
100 167 2,580 5.9 5.0
300 220 3,840 7.8 7.4
ヒト(5日間) 375/125 ‍mg 28.1 518.3

*1:健康成人対象第Ⅰ相試験(T1211試験)の375/125 ‍mg(投与1日目のみ375 ‍mg,その後投与2~5日目は125 ‍mg投与の1日1回反復投与)投与5日目のCmax(28.1 ‍μg/mL)に対する各毒性試験における投与最終日のCmaxの比.

*2:健康成人対象第Ⅰ相試験(T1211試験)の375/125 ‍mg投与5日目のAUC0-τ(518.3 ‍μg·h/mL)に対する各毒性試験における投与最終日のAUC0-24hの比.

Cmax:最高血漿中濃度

AUC0-24h:投与時から24時間後までの血漿中濃度-時間曲線下面積

AUC0-τ:投与時から投与間隔時間τ(24時間)までの血漿中濃度-時間曲線下面積

これらの情報を踏まえ,添付文書上,妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこととし,また妊娠する可能性のある女性には本剤投与中及び最終投与後2週間において避妊する必要性及び適切な避妊法について説明することとした.なお,最終投与後の避妊期間(2週間)は,健康成人女性を対象とした試験における本剤の半減期の中央値(51.4時間)及び最大値(66.4時間)の5倍に相当する.

4.  薬物動態

1) 単回経口投与8)

日本人健康成人男性に本剤(懸濁剤)をエンシトレルビルとして20 ‍mg,70 ‍mg,250 ‍mg,500 ‍mg,1,000 ‍mg,2,000 ‍mgで空腹時単回経口投与※2したとき,Cmax及びAUCは概ね用量に比例して増大した(表4図7).

※2:承認外用法・用量

表4エンシトレルビル フマル酸(懸濁剤)の20~2,000 ‍mg空腹時単回経口投与時の薬物動態パラメータ(日本人健康成人男性)

投与量 例数 Cmax
(μg/mL)
Tmax
(h)
AUC0-last
(μg·h/mL)
AUC0-inf
(μg·h/mL)
t1/2,z
(h)
CL/F
(L/h)
Vz/F
(L)
20 ‍mg 6 1.70
(15.0)
2.50
(1.00,4.00)
82.00
(19.5)
91.44
(24.3)
42.6
(18.6)
0.219
(24.3)
13.5
(10.2)
70 ‍mg 6 5.20
(18.5)
1.50
(1.00,4.00)
289.1
(15.4)
291.0
(15.7)
45.7
(11.9)
0.241
(15.7)
15.9
(9.0)
250 ‍mg 8 15.2
(23.6)
2.50
(1.00,12.00)
906.8
(15.8)
913.7
(16.2)
43.1
(20.2)
0.274
(16.2)
17.0
(8.8)
500 ‍mg 6 32.6
(19.0)
2.00
(1.00,4.00)
1,975
(15.9)
1,987
(16.1)
42.2
(14.6)
0.252
(16.1)
15.3
(13.5)
1,000 ‍mg 6 63.8
(39.1)
2.75
(1.00,6.00)
3,341
(35.2)
3,370
(35.5)
48.1
(11.3)
0.297
(35.5)
20.6
(26.2)
2,000 ‍mg 6 96.9
(16.5)
4.00
(1.50,8.00)
6,311
(22.0)
6,346
(22.2)
43.1
(15.6)
0.315
(22.2)
19.6
(21.7)

幾何平均値(%変動係数)

*:中央値(最小値,最大値)

Cmax:最高血漿中濃度,Tmax:最高血漿中濃度到達時間

AUC0-last:投与時から濃度測定可能最終時点までの血漿中濃度-時間曲線下面積

AUC0-inf:投与時から無限大時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積,t1/2,z:終末相消失半減期

CL/F:見かけの全身クリアランス,Vz/F:見かけの終末相分布容積

図7エンシトレルビル フマル酸(懸濁剤)20~2,000 ‍mg空腹時単回経口投与時の平均血漿中濃度推移(日本人健康成人男性)

算術平均値±標準偏差 6例/群,250 ‍mg投与群は8例.

2) 併用薬の影響23)

(1) ミダゾラムとの薬物相互作用

日本人健康成人14例に,本剤をエンシトレルビルとして1日目は375 ‍mgを,2日目から5日目は125 ‍mgを1日1回空腹時反復経口投与し,ミダゾラム2 ‍mgを本剤反復投与開始前に空腹時単独投与(Day -2),本剤反復投与5日目(Day 5)に空腹時併用投与した.その結果,ミダゾラムのCmax,AUC0-last及びAUC0-infを,単独投与時と比較してそれぞれ2.80,6.90及び6.77倍に増大したことから,本剤はこの用法・用量においてCYP3Aの強い阻害薬であることが示された(表5-1).

表5-1ミダゾラムの薬物動態パラメータ及びミダゾラムの薬物動態に及ぼすエンシトレルビル フマル酸併用投与の影響

Cmax
(ng/mL)
AUC0-last
(ng·h/mL)
AUC0-inf
(ng·h/mL)
ミダゾラム単独投与 例数 14 14 14
幾何最小二乗平均 12.6 23.35 24.08
ミダゾラムとエンシトレルビル併用 例数 14 14 14
幾何最小二乗平均 35.2 161.1 163.0
ミダゾラムとエンシトレルビル併用/
ミダゾラム単独投与
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
2.8012
(2.3798,3.2971)
6.9011
(6.2722,7.5931)
6.7685
(6.1572,7.4404)

*:1日目は375 ‍mgを,2日目から5日目は125 ‍mgを1日1回空腹時反復経口投与

表5-2エンシトレルビル フマル酸5日間反復投与がデキサメタゾンの薬物動態に及ぼす影響

Cmax
(ng/mL)
AUC0-last
(ng·h/mL)
AUC0-inf
(ng·h/mL)
エンシトレルビルと併用投与(Day 5)/
デキサメタゾン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
1.4737
(1.3037,1.6660)
3.1840
(2.9607,3.4240)
3.4666
(3.2318,3.7184)
エンシトレルビルの最終投与から5日目(Day 9)/
デキサメタゾン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
1.2376
(1.0948,1.3991)
2.4480
(2.2764,2.6326)
2.3769
(2.2263,2.5377)
エンシトレルビルの最終投与から10日目(Day 14)/
デキサメタゾン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
1.1725
(1.0372,1.3255)
1.5608
(1.4514,1.6785)
1.5792
(1.4704,1.6960)

*:1日目は750 ‍mgを,2日目から5日目は250 ‍mgを1日1回空腹時反復経口投与(承認外用法・用量)

表5-3エンシトレルビル フマル酸5日間反復投与がプレドニゾロンの薬物動態に及ぼす影響

Cmax
(ng/mL)
AUC0-last
(ng·h/mL)
AUC0-inf
(ng·h/mL)
エンシトレルビルと併用投与(Day 5)/
プレドニゾロン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
1.1141
(1.0035,1.2369)
1.2408
(1.2073,1.2752)
1.2476
(1.2176,1.2784)
エンシトレルビルの最終投与から5日目(Day 9)/
プレドニゾロン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
1.0953
(0.9865,1.2160)
1.1142
(1.0842,1.1451)
1.1243
(1.0973,1.1521)
エンシトレルビルの最終投与から10日目(Day 14)/
プレドニゾロン単独投与(Day -2)
幾何最小二乗平均の比
(90%信頼区間)
0.9927
(0.8941,1.1021)
1.0267
(0.9990,1.0552)
1.0396
(1.0146,1.0653)

*:1日目は750 ‍mgを,2日目から5日目は250 ‍mgを1日1回空腹時反復経口投与(承認外用法・用量)

(2) ステロイド剤との薬物相互作用

COVID-19の治療に使用されるコルチコステロイドはCYP3Aの基質であることから,本剤がデキサメタゾン及びプレドニゾロンの薬物動態に及ぼす影響を評価した.本剤をエンシトレルビルとして日本人健康成人男性14例に1日目は750 ‍mgを,2日目から5日目は250 ‍mgを1日1回空腹時反復経口投与※2し,デキサメタゾン1 ‍mg又はプレドニゾロン10 ‍mgを本剤反復投与開始前に空腹時単独投与(Day -2),本剤反復投与5日目(Day 5)に空腹時併用投与,本剤の投与終了から5日目(Day 9)及び10日目(Day 14)に空腹時単独投与した.本剤併用投与時におけるデキサメタゾンのCmax,AUC0-last及びAUC0-infは,単独投与時(Day -2)と比較して,併用投与(Day 5)ではそれぞれ1.47,3.18及び3.47倍,本剤反復投与終了後5日目(Day 9)ではそれぞれ1.24,2.45及び2.38倍,本剤反復投与終了後10日目(Day 14)ではそれぞれ1.17,1.56及び1.58倍増大した(表5-2).本剤との併用投与によってデキサメタゾンの薬物曝露は増大したものの,その影響は本剤の投与終了から時間の経過とともに低下した.また,本剤併用投与時におけるプレドニゾロンのCmax,AUC0-last及びAUC0-infは,単独投与時(Day -2)と比較して,併用投与(Day 5)ではそれぞれ1.11,1.24及び1.25倍,本剤の反復投与終了後5日目(Day 9)ではそれぞれ1.10,1.11及び1.12倍,本剤の反復投与終了後10日目(Day 14)ではそれぞれ0.99,1.03及び1.04倍増大した(表5-3).プレドニゾロンのAUCのみ本剤と併用投与時(Day 5)に若干増大したものの,それ以降はほとんど影響が見られず,本剤反復投与によるプレドニゾロンの薬物曝露への臨床的に意味のある影響はないことが示唆された.

※2:承認外用法・用量

3) 腎機能障害患者(外国人データ)24)

軽度(60≦eGFR‍<‍90 ‍mL/min),中等度(30≦eGFR‍<60 ‍mL/min),重度(eGFR‍<‍30 ‍mL/min)の腎機能障害患者各8例に本剤(エンシトレルビルとして375 ‍mg)を単回経口投与※2したときの薬物動態の比較を表6-1に示す.軽度,中等度及び重度腎機能障害患者の本剤のAUCは,健康成人と比較してそれぞれ1.44倍,1.49倍及び1.60倍であった.

※2:承認外用法・用量

表6-1腎機能障害患者と健康成人との薬物動態比較

投与群 例数 Cmax*1
(μg/mL)
AUC0-inf*1
(μg·h/mL)
健康成人に対する比*2
Cmax AUC0-inf
健康成人 8 15.5(34.7) 996.0(26.0)
腎機能障害 軽度 8 20.5(18.9) 1432(20.8) 1.32(1.04,1.68) 1.44(1.17,1.76)
中等度 8 20.5(12.6) 1483(26.0) 1.33(1.06,1.66) 1.49(1.19,1.86)
重度 8 17.2(19.8) 1596(26.1) 1.11(0.87,1.42) 1.60(1.28,2.01)

*1:幾何平均値(%変動係数)

*2:幾何最小二乗平均の比(90%信頼区間)

表6-2肝機能障害患者と健康成人との薬物動態比較

投与群 例数 Cmax*1
(μg/mL)
AUC0-inf*1
(μg·h/mL)
健康成人に対する比*2
Cmax AUC0-inf
健康成人 8 20.5(15.1) 1,150(24.4)
肝機能障害 軽度 9 18.2(17.0) 1,180(30.1) 0.89(0.77,1.02) 1.03(0.81,1.29)
中等度 8 15.3(30.4) 1,003(24.6) 0.74(0.60,0.91) 0.87(0.71,1.08)

*1:幾何平均値(%変動係数)

*2:幾何最小二乗平均の比(90%信頼区間)

4) 肝機能障害患者(外国人データ)25)

軽度(Child-Pugh分類A)肝機能障害患者各9例及び中等度(Child-Pugh分類B)肝機能障害患者8例に本剤(エンシトレルビルとして375 ‍mg)を単回経口投与※2したときの薬物動態の比較を表6-2に示す.軽度及び中等度肝機能障害患者の本剤のAUCは,健康成人と比較してそれぞれ1.03倍及び0.87倍であった.

※2:承認外用法・用量

5.  エンシトレルビル フマル酸の臨床成績

1) 国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験[T1221試験]Phase 3 Part(SCORPIO-SR試験)11)

日本を中心としたアジア(韓国,ベトナム)92施設において12歳以上70歳未満(18歳未満は体重40 ‍kg以上に限る)の軽症/中等症のSARS-CoV-2感染症患者を対象に,1日目は本剤375 ‍mgを,2日目から5日目は本剤125 ‍mgを1日1回経口投与したときの,本剤の有効性及び安全性を検討することを目的としてプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.なお国内承認外用法・用量である本剤750/250 ‍mg群は安全性解析および副次的な位置づけとしての有効性解析として設定された.主要評価項目はSARS-CoV-2による感染症の5症状が快復するまでの時間とした.

発症から72時間(3日間)未満の被験者に対するCOVID-19の5症状が快復するまでの時間※3は,プラセボ群と比較して本剤375/125 ‍mg投与群で統計学的に有意に短かった(Peto-Prenticeの層別一般化Wilcoxon検定:P‍=‍0.0407)(検証的な解析結果)(図8).SARS-CoV-2による感染症の5症状が快復した被験者の割合が50%となるまでの時間の中央値は,本剤375/125 ‍mg投与群167.9時間,プラセボ群192.2時間であり,その差は-24.3時間(約1日)であった(表7).

図8COVID-19の5症状が快復するまでの時間のKaplan-Meier曲線

:有意水準両側5%,SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無を層とするPeto-Prenticeの層別一般化Wilcoxon検定.

表7COVID-19の5症状*1が快復するまでの時間*2

エンシトレルビル
375/125 ‍mg群
347例
プラセボ群
343例
例数 336 321
快復数 254 233
中央値*3[95%信頼区間](時間) 167.9[145.0,197.6] 192.2[174.5,238.3]
プラセボ群との群間差[95%信頼区間](時間) -24.3[-78.7,11.7]
ハザード比*4[95%信頼区間] 1.14[0.95,1.36]

5症状のベースラインのスコアはすべて0又は一部欠測した被験者は解析から除外された.

*1:①倦怠感又は疲労感,②熱っぽさ又は発熱,③鼻水又は鼻づまり,④喉の痛み,⑤咳.5症状は,被験者日誌でそれぞれ4段階(0:なし,1:軽度,2:中等度,3:重度)で評価した.

*2:治験薬投与開始時点からCOVID-19症状のうち評価対象の症状すべてが下記の定義を満たす状態に至った時点を指し,その状態が少なくとも24時間持続したとき,当該被験者のCOVID-19症状は快復したと判断した.

• SARS-CoV-2による感染症の発症前から存在した既存症状で,ベースライン(投与前検査)時点で悪化していると被験者が判断した症状については,ベースライン時の重症度が重度のものは中等度以下,中等度のものは軽度以下,軽度のものは軽度以下へ重症度が改善又は維持した状態となること.

• SARS-CoV-2による感染症の発症前から存在した既存症状で,ベースライン(投与前検査)時点で悪化していないと被験者が判断した症状については,ベースライン時の重症度が重度のものは重度以下,中等度のものは中等度以下,軽度のものは軽度以下へ重症度が維持又は改善した状態となること.

• 上記以外の症状[SARS-CoV-2による感染症の発症前には存在しておらず,ベースライン(投与前検査)時点以降に発現した症状]については,なしの状態となること.

*3:COVID-19の5症状が快復した被験者の割合が50%となるまでの時間.

*4:SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無を層とした層別Coxハザードモデル.

主要な副次評価項目である,発症から72時間未満の被‍験‍者に対する4日目におけるSARS-CoV-2のウイルスRNA量のベースラインからの変化量の調整済み推定値は,本剤375/125 ‍mg群が-‍2.48log10copies/mL,プラセボ群が-‍1.01log10copies/mLであり,その差は1.47log10copies/mLで統計学的に有意に減少した(P‍<‍0.001)(表8).

表84日目におけるSARS-CoV-2ウイルスRNA量のベースラインからの変化量

エンシトレルビル
375/125 ‍mg群
347例
プラセボ群
343例
例数 340 337
平均(標準誤差)(log10copies/mL) -2.48(0.08) -1.01(0.08)
プラセボ群との群間差,平均値(標準誤差)(log10copies/mL)[95%信頼区間] -1.47(0.08)[-1.63,-1.31]
P ‍<‍0.0001

ベースラインでの検査においてSARS-CoV-2ウイルスRNAが陽性であった被験者のデータ.

*:ベースラインでのSARS-CoV-2ウイルスRNA量,及びSARS-CoV-2による感染症に対するワクチンの接種の有無を共変量とする共分散分析.

また,SARS-CoV-2のウイルス力価陰性が最初に確認されるまでの時間は,プラセボ群と比較して本剤375/125 ‍mg群で統計学的に有意に短かった(P‍<‍0.001).中央値※1は,本剤375/125 ‍mg群36.2時間,プラセボ群65.3時間であり,その差は-29.1時間(約1日)で,統計学的に有意に短縮した(図9表9).

図9SARS-CoV-2のウイルス力価陰性が最初に確認されるまでの時間のKaplan-Meier曲線

*:有意水準両側0.05,SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無を層とする層別log-rank検定.

表9SARS-CoV-2のウイルス力価陰性が最初に確認されるまでの時間

エンシトレルビル
375/125 ‍mg群
203例
プラセボ群
214例
例数 199 211
中央値*1[95%信頼区間](時間) 36.2[23.4,43.2] 65.3[62.0,66.8]
プラセボ群との群間差[95%信頼区間](時間) -29.1[-42.3,-21.1]
ハザード比*2[95%信頼区間] 2.18[1.76,2.69]

*1:SARS-CoV-2のウイルス力価陰性が最初に確認された被験者の割合が50%となるまでの時間.

*2:SARS-CoV-2 による感染症に対するワクチン接種の有無を層とした層別Coxハザードモデル.

その他の副次評価項目である,21日までの各時点におけるSARS-CoV-2のウイルスRNA量のベースラインからの変化量において,本剤375/125 ‍mg群は主要な副次評価項目である4日目に加え,2日目,6日目時点でプラセボ群と比較して統計学的に有意な減少が認められた(図10).21日までの各時点におけるSARS-CoV-2のウイルス力価‍の‍ベースラインからの変化量は,2日目,4日目時点でプラセボ群と比較して統計学的に有意な減少が認められた(図‍11).

図10各時点におけるSARS-CoV-2のウイルスRNA量のベースラインからの変化量(21日目まで)

ITT集団のうち,COVID-19発症からランダム割付までの時間が72時間未満の集団.

ベースラインでの検査においてSARS-CoV-2ウイルスRNAが陽性であった被験者のデータ.ベースラインの平均値(標準偏差):エンシトレルビル375/125 ‍mg群6.976(1.006)log10copies/mL,プラセボ群6.933(0.993)log10copies/mL.SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無,及びベースラインでのSARS-CoV-2のウイルスRNA量を共変量とする共分散分析.P‍<‍0.05(vs. プラセボ群)(名目上のP値).

図11各時点におけるSARS-CoV-2のウイルス力価のベースラインからの変化量(21日目まで)

ITT集団のうち,COVID-19発症からランダム割付までの時間が72時間未満の集団.

ベースラインでの検査においてSARS-CoV-2ウイルス力価が検出された被験者のデータ.ベースラインの平均値(標準偏差):エンシトレルビル375/125 ‍mg群1.882(0.905)log10TCID50/mL,プラセボ群1.863(0.841)log10TCID50/mL.SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無,及びベースラインでのSARS-CoV-2のウイルスRNA量を共変量とする共分散分析.P‍<‍0.05(vs. プラセボ群)(名目上のP値).

臨床症状の評価として,その他の副次評価項目である,COVID-19の12症状が快復するまでの時間において,プラセボ群と比較して本剤375/125 ‍mg群で統計学的に有意な差は認められなかった.中央値は,本剤375/125 ‍mg群179.2時間,プラセボ群213.2時間であり,その差は-​34.0時間(約1.5日)であった.一方,COVID-19の12症状に嗅覚異常,味覚異常を加えた14症状が快復するまでの時間は,プラセボ群と比較して本剤375/125 ‍mg群で統計学的に有意に短かった(P‍=‍0.0304,名目上のP値).中央値は,本剤375/125 ‍mg群187.8時間,プラセボ群231.8時間であり,その差は-​44.1時間(約2日)であった(表10).

表10COVID-19の12症状が快復するまでの時間,及びCOVID-19の14症状が快復するまでの時間

エンシトレルビル
375/125mg群
347例
プラセボ群
343例
COVID-19の12症状*1が快復するまでの時間
 例数 336 321
 中央値*2[95%信頼区間](時間) 179.2[152.1,212.1] 213.2[185.8,253.8]
 プラセボ群との群間差[95%信頼区間](時間) -34.0[-85.9,8.3]
 名目上のP*3 0.0651
COVID-19の14症状*4が快復するまでの時間
 例数 336 321
 中央値*5[95%信頼区間](時間) 187.8[156.4,217.0] 231.8[192.1,265.8]
 プラセボ群との群間差[95%信頼区間](時間) -44.1[-95.3,4.5]
 名目上のP*3 0.0304

*1:①倦怠感又は疲労感,②筋肉痛又は体の痛み,③頭痛,④悪寒又は発汗,⑤熱っぽさ又は発熱,⑥鼻水又は鼻づまり,⑦喉の痛み,⑧咳,⑨息切れ(呼吸困難),⑩吐き気,⑪嘔吐,⑫下痢.12症状は,被験者日誌でそれぞれ4段階(0:なし,1:軽度,2:中等度,3:重度)で評価した.

*2:COVID-19の12症状が快復した被験者の割合が50%となるまでの時間.

*3:SARS-CoV-2による感染症に対するワクチン接種の有無を層とするPeto-Prenticeの層別一般化Wilcoxon検定.

*4:①倦怠感又は疲労感,②筋肉痛又は体の痛み,③頭痛,④悪寒又は発汗,⑤熱っぽさ又は発熱,⑥鼻水又は鼻づまり,⑦喉の痛み,⑧咳,⑨息切れ(呼吸困難),⑩吐き気,⑪嘔吐,⑫下痢,⑬嗅覚異常,⑭味覚異常.14症状のうち①~⑫の12症状は,被験者日誌でそれぞれ4段階(0:なし,1:軽度,2:中等度,3:重度)で,⑬,⑭は,それぞれ3段階(0:通常通り,1:通常に比べて感じない,2:全く感じない)で評価した.

*5:COVID-19の14症状が快復した被験者の割合が50%となるまでの時間.

Phase 3 Part(SCORPIO-SR試験)の探索的評価として,患者の罹患後症状を調査しDay 169までの中間解析を報告している26).本剤375/125 ‍mg群はプラセボ群と比較して,COVID-19急性期症状において25%,罹患後神経系症状において26%の罹患後症状発現リスクの低下がみられ,本剤がCOVID-19罹患後症状発現を抑制する可能性が示唆されている(図12).

副作用発現頻度は,本剤375/125 ‍mg群24.5%(148/604例),本剤750/250 ‍mg群(国内承認外用法・用量)36.2%(217/599),プラセボ群9.9%(60/605例)であった.2%以上に報告された副作用は,本剤375/125 ‍mg群では高比重リポタンパク(HDL-C)減少(18.4%[111/604例]),血中ビリルビン増加(2.8%[17/604例]),血中トリグリセリド増加(2.6%[16/604例]),本剤750/250mg群※ではHDL-C減少(26.2%[157/599例]),血中トリグリセリド増加(6.2%[37/599例]),血中ビリルビン増加(5.8%[35/599例]),頭痛(2.2%[13/599例]),血中コレステロール減少(2.0%[12/599例]),プラセボ群では血中トリグリセリド増加(2.8%[17/605例])であった.本試験においていずれの群でも死亡は認められなかった.また,重篤な有害事象として本剤投与群で重度月経出血,プラセボ群で急性胆嚢炎がそれぞれ1例に認められたが,いずれも治験薬との因果関係なしと判断された.投与中止に至った副作用は,本剤投与群で2例2件(湿疹及び嘔吐),プラセボ群で1例2件(筋力低下及び感覚鈍麻)に認められた(表11).

図12後遺症が発現した被験者の割合
表11副作用の発現状況

エンシトレルビル
375/125 ‍mg群
(604例)
エンシトレルビル
750/250 ‍mg群
(599例)
プラセボ群
(605例)
全体 148(24.5) 217(36.2) 60(9.9)
高比重リポタンパク減少 111(18.4) 157(26.2) 9(1.5)
血中トリグリセリド増加 16(2.6) 37(6.2) 17(2.8)
血中ビリルビン増加 17(2.8) 35(5.8) 3(0.5)
血中コレステロール減少 8(1.3) 12(2.0) 1(0.2)
抱合ビリルビン増加 1(0.2) 2(0.3) 1(0.2)
血中クレアチンホスホキナーゼ増加 4(0.7) 1(0.2) 1(0.2)
頭痛 4(0.7) 13(2.2) 2(0.3)
血中乳酸脱水素酵素増加 4(0.7) 8(1.3) 4(0.7)
ALT増加 3(0.5) 6(1.0) 7(1.2)
下痢 5(0.8) 8(1.3) 7(1.2)
浮動性めまい 4(0.7) 1(0.2) 2(0.3)
血中カリウム減少 1(0.2) 0 1(0.2)
低比重リポタンパク増加 2(0.3) 1(0.2) 3(0.5)
悪心 2(0.3) 5(0.8) 0
AST増加 1(0.2) 5(0.8) 7(1.2)
嘔吐 2(0.3) 4(0.7) 0
血中尿酸増加 2(0.3) 3(0.5) 1(0.2)
血中リン増加 1(0.2) 2(0.3) 2(0.3)
傾眠 3(0.5) 1(0.2) 0
錯感覚 2(0.3) 0 0
発疹 0 5(0.8) 1(0.2)
蕁麻疹 0 2(0.3) 0
血中コレステロール増加 0 1(0.2) 0
高トリグリセリド血症 1(0.2) 2(0.3) 1(0.2)
消化不良 1(0.2) 1(0.2) 0
血中アルカリホスファターゼ増加 0 1(0.2) 0
脂質異常症 2(0.3) 0 0
血中非抱合ビリルビン増加 2(0.3) 0 0
不眠症 0 2(0.3) 1(0.2)
腹部不快感 0 1(0.2) 0
湿疹 1(0.2) 0 1(0.2)
γ-GTP増加 1(0.2) 0 2(0.3)
C-反応性タンパク質増加 0 0 2(0.3)
トランスアミナーゼ上昇 0 1(0.2) 0
低比重リポタンパク減少 0 1(0.2) 2(0.3)
好中球数減少 0 0 1(0.2)

例数(%)(MedDRA version 24.0)

HDL-C,血中トリグリセリド,血中ビリルビン,および血清鉄は本剤投与群において投与後6日目に一時的な変化が観察されたが,これらはいずれも追加の治療なしで投与14日目にはほぼベースラインまで回復した(図13).なお,ハプトグロビン,網状赤血球,及び低比重リポタンパク質(LDL-C)は本剤群とプラセボ群で顕著な差は観察されず,溶血の臨床検査所見や臨床所見は観察されなかった.

図13HDL-C,血中トリグリセリド,血中ビリルビン,血清鉄の推移

a:HDL-Cの推移,b:血中トリグリセリドの推移,c:血中ビリルビンの推移,d:血清鉄の推移.

2) 市販後の副作用

市販後の2022年11月24日~2023年5月23日に5万人以上を対象として実施した市販直後調査において,重篤な副作用症例が10例(11件),非重篤症例が764例(1,028件)報告された.50件以上報告された主な副作用は下痢(257件),頭痛(156件),悪心(151件),嘔吐(66件),発疹(51件)であった27).なお,市販後に本剤との因果関係が否定できないアナフィラキシーの症例が報告されたことから,「重大な副作用」の項に「アナフィラキシー」を追記し,注意喚起を行った28).本改訂に伴い,医薬品リスク管理計画(RMP)における「重要な特定されたリスク」に「アナフィラキシー」を追加した29).また,2022年11月24日~2024年2月11日に100万人以上の使用患者から収集した市販後の副作用情報においては,重篤な副作用症例が70例(95件),非重篤症例が2,744例(3,545件)報告された.50件以上報告された主な副作用は下痢(732件),悪心(478件),頭痛(389件),発疹(362件),嘔吐(247件),蕁麻疹(141件),薬疹(95件),そう痒症(80件),浮動性めまい(69件),腹痛(62件),湿疹(60件),軟便(58件)であった12)

RMPには「重要な潜在的リスク」として「催奇形性」も設定しており,医薬品安全性管理活動及びリスク最小化活動を実施している30)

3) 「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」及び「授乳中の女性」への投与

本剤はウサギにおいて,臨床曝露量の5.0倍相当以上で胎児に催奇形性が認められるとともに,臨床曝露量の5.0倍に相当する用量で流産が,臨床曝露量の7.4倍に相当する用量で胚・胎児生存率の低下が認められており,妊婦又は妊娠している可能性のある女性は禁忌である.妊娠する可能性のある女性は,本剤を服用中及び最終服用後2 週間以内に性交渉を行う場合は,パートナーと共に適切な避妊を行うよう注意をしており,本剤投与前にはRMPに基づき作成されたチェックリストを用いて,妊婦又は妊娠している可能性がないことを確認する必要がある31)

また,ラットにおいて乳汁への移行が認められるとともに,母動物に毒性が認められた用量(臨床曝露量の6.6倍相当)で出生児の生後4日生存率低下及び発育遅延が認められていることから,本剤を服用中及び最終服用後2週間は授乳を避けることが望ましい.

4) 薬物相互作用

本剤はCYP3Aの基質であり,強いCYP3Aの時間依存的阻害作用を有し,本剤投与終了後も一定期間持続する.また,P-gp及びBCRPの基質であり,P-gp,BCRP,OATP1B1及びOATP1B3,OAT3およびOCT1への阻害作用を有する.そのため,CYP3Aで代謝される薬剤をはじめとした併用禁忌の薬剤(表12)とは併用しないこと.本剤と他の薬剤との相互作用はすべての薬剤との組み合わせについて検討されているわけではないため,他剤による治療中に新たに本剤を併用する場合や,本剤による治療中に新たに他の薬剤を併用する場合には,用量に留意して慎重に投与する必要がある.塩野義製薬株式会社の医療関係者向け情報ウェブサイトに,相互作用を検索できるツール,併用禁忌薬・併用注意薬一覧を掲載している32)

表12エンシトレルビル フマル酸の併用禁忌薬一覧

薬効分類名 薬剤名等 薬効分類名 薬剤名等
抗精神病薬 □ピモジド(オーラップ)
□ブロナンセリン(ロナセン)
□ルラシドン塩酸塩(ラツーダ)
降圧薬 □アゼルニジピン(カルブロック)
□アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル(レザルタス配合錠)
抗不整脈薬 □キニジン硫酸塩水和物 不眠症治療薬 □スボレキサント(ベルソムラ)
頻脈性不整脈・狭心症治療薬 □ベプリジル塩酸塩水和物(ベプリコール) 肺高血圧症治療薬 □タダラフィル(アドシルカ)
□リオシグアト(アデムパス)※3
抗血小板薬 □チカグレロル(ブリリンタ) 勃起不全治療薬 □バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)
選択的アルドステロンブロッカー □エプレレノン(セララ) 抗酸菌症治療薬 □リファブチン(ミコブティン)
頭痛治療薬 □エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン(クリアミン)
□ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩
非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 □フィネレノン(ケレンディア)
子宮収縮薬 □エルゴメトリンマレイン酸塩
□メチルエルゴメトリンマレイン酸塩(パルタンM)
選択的直接作用型第Ⅹa因子阻害薬 □リバーロキサバン(イグザレルト)※4
高脂血症治療薬 □シンバスタチン(リポバス)
□ロミタピドメシル酸塩(ジャクスタピッド)
抗てんかん薬 □カルバマゼピン(テグレトール)※1
□フェニトイン(ヒダントール,アレビアチン)※2
□ホスフェニトインナトリウム水和物(ホストイン)※2
睡眠導入薬 □トリアゾラム(ハルシオン)
グレリン様作用薬 □アナモレリン塩酸塩(エドルミズ)
HCNチャネル遮断薬 □イバブラジン塩酸塩(コララン) 抗結核薬 □リファンピシン(リファジン)※2
抗悪性腫瘍薬 □ベネトクラクス〔再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〕(ベネクレクスタ)
□イブルチニブ(イムブルビカ)
□アパルタミド(アーリーダ)※1
□エンザルタミド(イクスタンジ)※2
□ミトタン(オペプリム)※2
食品など □セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品(ハーブティー,サプリメントなど)※2

注釈のないものは本剤のCYP3A阻害作用の影響を受けるおそれのある薬剤

※1:CYP3A誘導作用により本剤の血中濃度を低下させるおそれのある薬剤.また,本剤のCYP3A阻害作用により影響を受けるおそれのある薬剤

※2:CYP3A誘導作用により本剤の血中濃度を低下させるおそれのある薬剤

※3:本剤のCYP3A阻害及びP-gp/BCRP阻害作用により影響を受けるおそれのある薬剤

※4:本剤のCYP3A阻害及びP-gp阻害作用の影響を受けるおそれのある薬剤

5) 本剤の通常承認取得について(2024年3月5日時点)

本剤は,2022年11月に国内初の緊急承認を取得して以来,投与開始前に患者又は代諾者からの文書による同意取得が必要であったが,本剤の有効性が確認されたことから2024年3月5日に通常承認を取得し,これに伴い文書による同意取得は不要となった.但し,投与禁忌である妊婦又は妊娠している可能性のある女性に関しては,「ゾコーバ錠125 ‍mgを服用する際の事前チェックリスト」で投与前に確認するなど引き続き注意が必要である.

6.  おわりに

本剤は,発症から72時間未満の軽症/中等症のSARS-CoV-2感染者に対し,5日間の経口投与において,COVID-19の5症状が快復するまでの時間をプラセボ群と比較して有意に短縮することが確認された.更に,SARS-CoV-2のウイルスRNA量及びウイルス力価はプラセボ群と比較して統計学的に有意に減少した.また,安全性についても重篤な副作用は認められていない.なお,本剤は腎機能又は肝機能障害のある患者でコルヒチンを投与中の患者は禁忌となるが,軽度から重度の腎機能障害のある患者および軽度または中等度の肝機能障害のある患者への投与において,投与量調節や投与制限は設けていない.本剤は通常承認を取得したが,今後も継続して安全性の検討を行い,催奇形性リスク及び薬物相互作用を含めて適切に注意喚起を行う必要がある.

現在もSARS-CoV-2の流行株が次々と置き換わり,様々な感染・伝播性や毒性を呈する状況において,本剤がCOVID-19の症状に苦しむ患者にとって,新たな治療選択肢として貢献できるものと期待したい.

利益相反

柘植 優子,有和 泰子,柴田 健太郎(塩野義製薬株式会社).

文献
 
© 2024 by The Japanese Pharmacological Society
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