Folia Pharmacologica Japonica
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Reviews: Search for Target Factors in Pain Control Mechanisms and Their Functional Analysis
Drug developmental strategies based on functional analysis of pain-regulating molecules in astrocytes under chronic pain
Norimitsu Morioka
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2024 Volume 159 Issue 6 Pages 363-366

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要約

慢性疼痛モデルにおいて,特に痛みが遷延化した状況下で脊髄アストロサイトが活性化していることが知られている.それ故,脊髄アストロサイトを標的とした有用な鎮痛薬の開発に向けた創薬研究が注目を集めている.中枢神経系においてはアストロサイトに限局して発現・機能する膜タンパク質であるconnexin43(Cx43)はgap junctionの構成要素として細胞間情報伝達に関わることがよく知られている一方で,特徴的に長いC末領域を介してシグナル分子と相互作用することで細胞機能に影響を及ぼすユニークなタンパク質でもある.これまでに著者らは神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後角アストロサイトにおいて,Cx43発現が著明に低下していることを見出した.そこで脊髄アストロサイトのCx43発現低下と痛みの発症との関連性を検討したところ,Cx43発現が低下することでグルタミン酸トランスポーターであるGLT-1や炎症性サイトカインであるinterleukin-6(IL-6)といった疼痛に関連する分子の発現が変動することが示された.特にCx43発現低下によるIL-6発現制御に着目してin vivo,in vitroの両面で解析を進めたところ,神経障害性疼痛時においてCx43発現低下により駆動したAkt-glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)シグナル伝達系を介してIL-6発現が増大することで痛みが惹起されていることが明らかとなった.このように,アストロサイトのCx43は従来知られてきた機能とは異なる,細胞内情報伝達分子との相互作用を介して疼痛関連分子の遺伝子発現を制御することで,痛みの遷延化に関与している新たな役割が示されたことから,慢性疼痛に対する創薬標的としての可能性に期待を抱かせる.

Abstract

Spinal cord astrocytes are activated in chronic pain models, especially under conditions of prolonged pain. Hence, targeting spinal cord astrocytes for the development of useful analgesics has attracted much attention. In the CNS, connexin43 (Cx43), a membrane protein expressed and functioning exclusively in astrocytes, is well known to be involved in intercellular signaling as a component of gap junction, but also interacts with intracellular molecules via its characteristically long C-terminal region, thereby affecting cellular function. Previously, we found that Cx43 expression was markedly reduced in spinal dorsal horn astrocytes from a mouse model of neuropathic pain. In order to investigate the relationship between reduced Cx43 expression in spinal astrocytes and the onset of pain, we showed that reduced Cx43 expression altered the expression of pain-related molecules such as the glutamate transporter GLT-1 and the pro-inflammatory cytokine interleukin-6 (IL-6). In particular, we focused on the regulation of IL-6 expression by reduced Cx43 expression in both in vivo and in vitro analyses, and found that IL-6 expression is increased through the Akt- glycogen synthase kinase-3β (GSK-3β) signaling system driven by reduced Cx43 expression during neuropathic pain, which in turn triggers pain. These findings suggest that astrocyte Cx43 is involved in pain prolongation by regulating gene expression of nociceptive factors through interactions with intracellular signaling molecules, which is different from its previously known function, and thus raises expectations for its potential as a new drug target for chronic pain.

1.  はじめに

本邦において何らかの疼痛症状を訴える患者は約2,300万人に上ると推計されている.特に遷延化した痛み,いわゆる慢性疼痛は生活の質を著しく低下させることにより,多大な経済的損失を生じさせ,本邦でのその損失額は年間約2兆円に達するとの報告がなされている1).この慢性疼痛患者増加の背景には既存の鎮痛薬が奏功しないケースが多いことが挙げられる.痛みの発生・伝導経路は非常に多様であることから,慢性疼痛の発症に関しても様々な要素が複合的に絡んでいることが容易に推定できる.よってその発症機序には個人差も大きく,万人に奏功する鎮痛作用機序や分子を同定することは至難といえる.

そんな中,慢性疼痛を示す動物モデルを用いた研究により新たな鎮痛薬の創薬標的となる機序・分子に関する数多くの知見が報告されてきた.特に脊髄後角に存在するミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞は,慢性疼痛時に著しく活性化していることが示されたことから,新たな創薬標的として注目を集めている.慢性疼痛モデルでの疼痛発症の時系列やその機能的役割の解析等を通じて,痛み発症後期,すなわち慢性期に相当すると思われる時期にアストロサイト活性化の指標の一つであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)の発現やc-Jun N-terminal kinase(JNK)のリン酸化が増大していたことやアストロサイトやJNKに対する阻害薬を脊髄くも膜下腔内に投与することで痛みが減弱されたことから,痛みの遷延化にアストロサイトが重要であることが強く示唆されている2,3).それ故,活性化したアストロサイトにおける特異的分子を同定し,それらを創薬標的とする戦略が有望と思われる.

2.  アストロサイトにおけるconnexin43

その中で,我々はconnexin43(Cx43)に着目した.Cx43はgap junctionを構成する膜タンパク質であり,中枢神経系では主にアストロサイトに局在することが報告されてい‍る4).我々のマウス脊髄後角切片を用いた免疫組織化学染色による解析においても,Cx43は神経細胞マーカーやミクログリアマーカーとは共局在せず,アストロサイトマーカーとのみ共局在することを確認している5).Cx43はconnexinファミリーの中でも特徴的な長いC末領域を有する構造であることが知られており,この領域を介して様々な細胞内タンパク質と相互作用することで,チャネル構造を介しての細胞間情報伝達だけではなく,細胞内シグナル伝達にも影響を及ぼすことが知られている6)

アストロサイトにおけるCx43と病態の関りについては様々な報告がなされているが,その詳細は他の秀逸な総説を参考にされたい7).特に中枢神経系における炎症性疾患である多発性硬化症において,アストロサイトのCx43発現が低下しており,それに伴って神経細胞の興奮性が亢進していることが報告されている8)

3.  神経障害性疼痛での脊髄アストロサイトのconnexin43発現変動

慢性疼痛モデルにおける脊髄後角アストロサイトでのCx43発現の挙動については一致した見解が得られていなかった.過去の報告において,坐骨神経に対する絞扼性神経損傷(chronic constriction injury:CCI)や抗がん薬投与によって生じる神経障害性疼痛のモデル動物において,脊髄でのCx43発現が増加しており,これらを機能的に抑制あるいは発現を低下させることで鎮痛効果が得られることが示されていた9,10).一方で,上記とは異なる神経障害性疼痛モデルである坐骨神経部分結紮モデル(partial sciatic nerve ligation:PSNL)を用いた我々の検討において,神経損傷後7日後から少なくとも21日後まで脊髄後角アストロサイトでのCx43タンパク質の発現が有意に低下していることが明らかとなった5).そこで,脊髄後角でのCx43発現低下が実際に痛みを惹起するのかを確かめるために,健常マウスに対してRNA干渉法,あるいはPSNLマウスに対してアデノウイルスベクターをそれぞれ用いて,マウス脊髄後角のCx43をknockdownあるいはoverexpressionさせたところ,前者では有意に痛みが生じ,後者では有意に痛みが緩和されることが示された5).以上の結果から,PSNLマウスにおいては,脊髄後角アストロサイトでのCx43発現低下が痛みの惹起に重要な役割を果たしていることが示された.神経障害性疼痛の発症機序には多様性があり,用いるモデルによって異なる挙動を示す分子も存在する.この点,我々は脊髄後角でのCx43発現の増減の方向性ではなく,その発現量が変動することが痛みの惹起に重要であると推察している.

4.  Connexin43発現低下により発現変動する疼痛関連因子interleukin-6

様々な細胞種において,Cx43発現の低下により複数の細胞内シグナルが駆動し,遺伝子発現制御に影響を及ぼすことが報告されている11,12).PSNLマウスにおいて,脊髄後角アストロサイトのCx43発現低下によって生じる痛みには,同じくアストロサイトに局在するグルタミン酸トランスポーターの一つであるGLT-1の発現低下に伴うグルタミン酸神経伝達の亢進が関与していることを明らかにした(図‍1).さらにアストロサイトに関連性の深い疼痛関連因子を中心に,Cx43発現低下によって発現変動する遺伝子について,RNA干渉法でCx43をknockdownさせた初代培養脊髄アストロサイトを用いて網羅的に解析した.その結果,対照群と比較して,interleukin-6(IL-6)とcyclooxygenase-2の発現が著明に増加していることが明らかとなった(図2).本稿では紙面の関係上,以降はIL-6の関与について詳述する.次に,このCx43発現低下による影響が,Cx43が構成するgap junctionの機能が低下したことに起因するのか,それともCx43発現自体の変化に起因するのかに注目した.通常の初代培養脊髄アストロサイトに対してgap junction阻害薬であるcarbenoxoloneを処置すると,その機能抑制に加えCx43発現も低下し,さらにIL-6発現が増大した13).一方で,Cx43-gap junctionの選択的阻害薬であるGap27の処置ではCx43発現に影響せず,またIL-6発現も変化しなかった13).以上の結果より,Cx43発現低下により生じた反応はCx43の機能低下ではなく,Cx43の発現変化に依存していることが示唆された.次に,Cx43発現低下により発現増大するIL-6が実際に痛みの惹起に関与しているかを確かめるために,健常マウスの脊髄後角Cx43をRNA干渉法によりknockdownさせたモデル(Cx43 knockdownマウス,上述のように痛みが惹起)を用いて検討した.Cx43 knockdownマウスの脊髄後角では対照群と比較してIL-6発現が有意に増加しており,さらにIL-6中和抗体を脊髄くも膜下腔内に投与することで痛みは緩和された13).またPSNLマウスに対してアデノウイルスベクターにより脊髄後角のCx43をoverexpressionさせると,対照群で認められたIL-6の発現増大作用は,有意に抑制されることが示された13).以上の知見より,神経障害性疼痛時において,脊髄後角アストロサイトCx43の発現低下はIL-6発現増大を介して痛みを惹起していることが明らかとなった.

図1神経障害性疼痛モデルにおける脊髄後角アストロサイトのconnexin43発現低下による痛みに対するグルタミン酸神経伝達亢進の関与

Cx43:connexin43.

図2Connexin43 knockdown初代培養脊髄アストロサイトにおける疼痛関連因子のmRNA発現変化

グラフはCt-siR(control siRNA)処置群における各種因子のmRNA発現量に対する相対比で表す.データは平均値±標準誤差 **P‍<‍0.01(文献13より改変).

5.  Connexin43発現低下によるIL-6発現増大の作用機序

上述のように,Cx43発現の低下により複数の細胞内シグナルが駆動することが報告されている.そこで,脊髄アストロサイトにおけるCx43発現低下によるIL-6発現増大に関わる細胞内シグナル分子について検討した.RNA干渉法によりCx43をknockdownさせた初代培養脊髄アストロサイトにおけるIL-6 mRNA発現増大作用は,glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)の阻害薬を処置することにより有意に抑制されることが示された13).一方で,janus kinase,extracellular signal-regulated kinase,JNK及びnuclear factor-κBに対するそれぞれの阻害薬によっては無影響であった13).GSK-3βの9番目のセリン残基(Ser9)のリン酸化は酵素活性に重要であり,Ser9のリン酸化が減少すると酵素活性が増大する.そこでCx43をknockdownさせた初代培養脊髄アストロサイトならびにCx43 knockdownマウスの脊髄後角におけるSer9-GSK-3βのリン酸化量を検討したところ,対照群と比較して有意に減少していた13).AktはGSK-3βの上流に位置するリン酸化酵素であり,GSK-3βのSer9のリン酸化に関与している.Cx43をknockdownさせた初代培養脊髄アストロサイトならびにCx43 knockdownマウスの脊髄後角において,Aktのリン酸化が減少,すなわちAktの酵素活性が抑制されていることも示された13).よってこれらの結果より,脊髄後角アストロサイトにおいてCx43発現が減少すると,Aktが抑制されることでGSK-3βが活性化されることが明らかとなった.これらの結果を受けて,Cx43 knockdownマウスの脊髄後角におけるGSK-3βの役割について薬理学的に検討した.Cx43 knockdownマウスの脊髄後角におけるIL-6発現増大はGSK-3β阻害薬の脊髄くも膜下腔内投与により著明に抑制された13).また同マウスにおいて惹起される痛みもGSK-3β阻害薬の脊髄くも膜下腔内投与によりほぼ完全に消失した(図3).

図3脊髄後角connexin43 knockdownマウスにおける痛みに対するGSK-3β阻害薬の効果

AR: AR-A014418 GSK-3β選択的阻害薬ARを脊髄くも膜下腔内投与(1 ‍ng)し,3時間後の機械的刺激に対する逃避閾値を示す.データは平均値±標準誤差 **P‍<‍0.01 vs control siRNA-vehicle,††P‍<‍0.01 vs Cx43 siRNA-vehicle(文献13より改変).

以上の結果より,神経障害性疼痛時に認められる脊髄後角アストロサイトでのCx43発現低下は,Akt-GSK-3βシグナル伝達系を介してIL-6の発現を増大させることで痛みを惹起していることが明らかとなった.

6.  おわりに

我々の研究より,神経障害性疼痛において,脊髄アストロサイトのCx43は痛みの惹起において非常に重要な役割を果たしていることが示唆された.Gap junctionの主要タンパク質として知られるCx43であるが,チャネル構成タンパク質としてだけではなく,様々な細胞内分子と相互作用し,シグナル情報伝達系に影響を及ぼすことで,病態時での細胞機能変化に関わっていることが本研究から初めて明らかとなった.我々は脳アストロサイトにおいてもCx43はアドレナリン受容体やリゾフォスファチジン酸受容体といったGタンパク質共役型受容体(GPCR)ともチロシンキナーゼSrcなどの細胞内分子を介して相互作用し,脳由来神経栄養因子の発現を制御していることを見出している14,15).慢性疼痛時では脊髄アストロサイトに発現する数多くのGPCRが疼痛惹起に関与していると思われる.それ故,本研究で見出したCx43発現低下を介した痛み発症機序にも,脊髄アストロサイトの何らかのGPCRとの相互作用が関与している可能性も予想される.

心臓疾患や神経変性疾患,炎症性疾患においてCx43発現の変動が病態発症に寄与していることが報告されているが,今のところCx43を標的とした薬剤の開発には至っていない.またCx43発現変動が病態の指標となる可能性があることから,特異的標識リガンドによるpositron emission tomographyやmanganese-enhanced magnetic response imageを応用したバイオマーカ―研究も進行中である16).本研究で得られた知見を受けて,疼痛領域においてもCx43に着目した創薬研究がさらに発展することを期待したい.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

文献
 
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