Folia Pharmacologica Japonica
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Review on New Drug
Pharmacological characteristics and clinical effectiveness of Futibatinib (Lytgobi® Tablets), a covalently-binding, irreversible FGFR1–4 inhibitor
Katsuya TakagakiRyota OkudeNaoki HirayamaHiroshi SootomeHiroshi Hirai
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2024 Volume 159 Issue 6 Pages 423-432

Details
要約

Futibatinib(製品名:リトゴビ®錠4 ‍mg)は,大鵬薬品によりシステイノミクス創薬技術を用いて開発された新規のFGFR(fibroblast growth factor receptor:線維芽細胞増殖因子受容体)阻害薬である.「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」を効能・効果として,2023年6月に国内製造販売承認が取得された.FutibatinibはFGFRのキナーゼドメイン内にあるP-ループのシステイン残基に共有結合し,FGFR1~4を選択的かつ不可逆的に阻害することによって抗腫瘍効果を発揮すると考えられている.開発中の薬剤を含め多くのFGFR阻害薬はATP競合型であり,共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬としては,Futibatinibが初めて承認された薬剤となる.腫瘍細胞株を用いた実験では,FutibatinibはFGFRのリン酸化とその下流のシグナル伝達を阻害することで,細胞増殖を抑制することが示された.共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬であるFutibatinibは,他のATP競合型の可逆的FGFR阻害薬と比べて,より幅広いFGFR変異体に対して阻害活性を示し,野生型のFGFR阻害効果と大きく乖離することなく細胞増殖を抑制する.また,FGFRがドライバーとなっているヒト腫瘍細胞株を皮下移植したマウスを用いた実験において,Futibatinibの経口投与は腫瘍縮小効果を示した.また,化学療法歴のあるFGFR2融合遺伝子またはFGFR2遺伝子再構成を有する肝内胆管がん患者を対象として実施された国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パートにおいて,主要評価項目の全奏効率は41.7%であり,共存遺伝子変異の有無によらず一貫した有効性を示した.安全性においてはいくつかの特徴的な副作用を認めたがいずれも管理可能であり,良好な安全性プロファイルを示した.Futibatinibは,治療選択肢の限られた胆道がんにおいて重要な薬剤であるとともに,他のがん種での開発が複数進行しており,より多くの患者への貢献が期待される薬剤である.

Abstract

Futibatinib (Lytgobi® Tablets 4 ‍mg), a novel fibroblast growth factor receptor (FGFR) inhibitor developed by Taiho Pharmaceutical using the Cysteinomix Drug Discovery Platform, was approved in Japan in June 2023 for the treatment of patients with unresectable biliary tract cancer with FGFR2 fusion or rearrangement that had progressed after at least one prior chemotherapy. Futibatinib covalently binds to the cysteine residue in the FGFR kinase domain P-loop structure and is believed to exert antitumor activity by selectively and irreversibly inhibiting FGFR1–4. Many FGFR inhibitors under development are ATP-competitive; however, futibatinib is the first approved covalently-binding irreversible FGFR inhibitor. It inhibits cell proliferation by inhibiting FGFR phosphorylation and its downstream signaling pathways in cancer cell lines. Futibatinib showed inhibitory activity against a wider range of FGFR mutants than ATP-competitive, reversible FGFR inhibitors and inhibited cell proliferation without significantly deviating from the inhibitory effect on wild-type FGFR. Futibatinib showed antitumor efficacy in mice subcutaneously transplanted with human tumor cell lines driven by FGFR. The international phase 2 study (TAS-120-101) was conducted in patients with refractory intrahepatic cholangiocarcinoma with FGFR2 fusion or rearrangement. The overall response rate was 41.7%, showing consistent efficacy regardless of co-occurring genomic alterations. Although some typical FGFR inhibitor-related side effects were observed, they were manageable and futibatinib had a good safety profile. Futibatinib is an important drug for biliary tract cancer, which has limited treatment options; its development is underway for other types of cancer, and it is expected to benefit more patients.

1.  はじめに

線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)は,線維芽細胞増殖因子(FGF)と結合して,細胞内シグナル伝達を活性化し,細胞の増殖,分化,遊走および生存に関与する受容体型チロシンキナーゼである.FGFR遺伝子に異常が起こると,シグナル伝達が恒常的に活性化され,がん化およびがんの進行が促進される1).胆道がんのうち,特に肝内胆管がんでは,FGFR2融合遺伝子またはFGFR2遺伝子再構成の存在が確認されており,がんの形成や進行に関与するドライバー遺伝子であることが示唆されている2).FGFR2遺伝子の融合/再構成は,日本人の肝内胆管がん患者で7.4%(20/272例),肝門部胆管がん患者で3.6%(3/83例)に認められると報告されている3)

本邦において,切除不能胆道がんに対する薬物治療は10年以上にわたり化学療法のみが選択肢であったが,2019年から分子標的薬が登場し,2021年には初のFGFR阻害薬としてPemigatinibが承認された.FGFR阻害薬は薬剤と標的の相互作用に基づきATP競合型の可逆的FGFR阻害薬と共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬に分類され4),開発中のものを含め多くのFGFR阻害薬はATP競合型である5).共有結合型不可逆的FGFR阻害薬としては,Futibatinibが初めて承認された薬剤であり,2024年4月現在において承認されている薬剤は他にない.

FGFR阻害薬においては腫瘍の耐性獲得が病勢進行につながることが懸念されており,耐性化のメカニズムのひとつとしてFGFRキナーゼドメインに生じる二次的変異があげられる.ゲートキーパー変異のような二次的変異の発生は立体障害を引き起こし,FGFR阻害薬の結合を妨げる6,7).Erdafitinib,PemigatinibなどのATP競合型の可逆的FGFR阻害薬(左記2剤はFDA承認済み)は,このような耐性変異に対して効果が乏しいとの報告があり6),耐性になりにくい次世代のFGFR阻害薬が求められる.

Futibatinibは大鵬薬品のシステイノミクス創薬技術を用いて開発された新規のFGFR阻害薬であり,FGFRキナーゼドメインのPループ構造のシステイン残基に共有結合することで不可逆的なFGFR阻害作用を示す8,9).共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬であるFutibatinibは,他のATP競合型の可逆的FGFR阻害薬よりも幅広い変異体に対して阻害作用を示し,野生型FGFRへの阻害活性と大きく乖離することなく細胞増殖抑制効果を示した10,11)

本総説では,2023年6月26日に「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」を効能・効果として国内製造販売承認を取得したFutibatinibの特徴的な薬理学的特性と臨床データについて説明する.

2.  薬理学的特性

FGFRファミリータンパク質(FGFR1~4)はいずれもFGFリガンドと結合し,下流のシグナル伝達分子(PLC-γ,STAT,PI3K/AKT,MAPKなど)を介して,細胞の増殖等に関与することが報告されている12,13).Futibatinibは,FGFRのキナーゼドメインに共有結合することで不可逆的にそのキナーゼ活性を阻害する.構造的に新規なFGFR1~4阻害薬である.Pemigatinib,Erdafitinib,InfigratinibなどのATP競合型のFGFR阻害薬は,FGFRキナーゼドメインのATP結合ポケットに可逆的に結合するのに対して,Futibatinibは共有結合型の阻害薬であり,FGFRキナーゼドメインATP結合ポケット内のPループのシステイン残基に不可逆的に結合する8,9,11)図1).このシステイン残基は全てのFGFRレセプターに保存されているため,Futibatinibは4つのFGFRファミリー全てのキナーゼ活性を阻害する.特異的な結合部位と不可逆的な結合により,FutibatinibはATP競合型可逆的FGFR阻害薬よりも薬剤耐性変異の影響を受けにくいことが考えられる.

図1 FGFR2のATP結合ポケットに対するFutibatinibおよびATP競合型可逆的FGFR阻害薬の予測相互作用

耐性変異として同定されたアミノ酸残基は球棒モデルで表示し,アミノ酸は一文字表記で位置番号を記した.キナーゼドメイン領域は次のように示されている:金色,ヒンジ領域;赤色,触媒ループ;青色,活性化ドメイン;紫色,c-α-ヘリックス;緑色,Pループ;青緑色,DFGモチーフ.FutibatinibはPループのC492に共有結合し,Erdafitinib,Pemigatinib,InfigratinibのようなATP競合型可逆的FGFR阻害薬の結合を阻害する耐性変異の存在に関係なく,ATP結合ポケットに留まることが可能である.(文献11より許可を得て転載.Copyright © (2023) Massachusetts Medical Society. All rights reserved. Translated with permission.)

3.  前臨床データ

蛍光標識基質を用いた移動度シフト法によって,ヒトFGFR1~4(組換えタンパク質)のキナーゼ活性に対するFutibatinibの阻害作用を評価した(表1).296種のヒトキナーゼからなるパネルの中で,FutibatinibはFGFR1~4を選択的に阻害し,50%阻害濃度は1.4~3.7 ‍nmol/Lであった9).野生型または4種類の変異型FGFR2をそれぞれ発現させたヒト胎児腎臓由来HEK293細胞株を用いて,FGFR2のリン酸化に対するFutibatinibの阻害作用をELISA法により評価した(表2).Futibatinibは全ての変異体のリン酸化に対して野生型と同程度の阻害活性を示し,FutibatinibのIC50値は野生型で3.1 ‍nmol/L,変異体で5.5~12.0 ‍nmol/Lであった14).FGFR遺伝子異常を有する腫瘍細胞株において,FutibatinibはFGFRキナーゼドメインに共有結合し,FGFRのリン酸化を阻害することにより,下流のシグナル伝達を阻害した9,15)

表1ヒトFGFR1~4に対するFutibatinibのキナーゼ阻害作用

キナーゼ IC50値(nmol/L)
FGFR1 1.8±0.4
FGFR2 1.4±0.3
FGFR3 1.6±0.1
FGFR4 3.7±0.4

平均値±標準偏差,n‍=‍3.(文献14より転載)

表2野生型または変異型FGFR2のリン酸化に対するFutibatinibの阻害作用(遺伝子導入細胞での評価)

FGFR2 IC50値(nmol/L)
野生型 3.1±1.3
N550H*1 12.0±5.0
V565I*2 8.4±3.1
E566G*3 5.5±4.7
K660M*4 9.2±7.0

平均値±標準偏差,n‍=‍3,1:550番目のアスパラギンがヒスチジンに置換,2:565番目のバリンがイソロイシンに置換,3:566番目のグルタミン酸がグリシンに置換,4:660番目のリシンがメチオニンに置換.(文献14より転載)

Futibatinibは,FGFR遺伝子異常を有する複数の腫瘍細胞株(胃がん,乳がん,小細胞肺がん,子宮内膜がん,膀胱がん)に対して,遺伝子異常のタイプに依らず強力かつ選択的な増殖阻害作用を示した14)表3).FGFRがドライバーとなっている複数のヒト腫瘍株移植モデルにおいて,Futibatinibの経口投与は腫瘍縮小効果を示し(図2),その作用はFGFRのリン酸化阻害と相関した9,15,16)

表3各腫瘍細胞株に対するFutibatinibの増殖抑制作用

細胞株 由来 FGFR GI50値(nmol/L)
MKN45 胃がん 野生型 ‍>‍1,000
MCF-7 乳がん ‍>‍1,000
DMS 144 小細胞肺がん FGFR1遺伝子増幅*1 2.22±0.61
SNU-16 胃がん FGFR2遺伝子増幅*2 1.40±0.19
MFM-223 乳がん FGFR2遺伝子増幅*3 1.07±0.04
AN3 CA 子宮内膜がん FGFR2遺伝子変異(K310R/N549K) 3.65±0.48
RT-4 膀胱がん FGFR3-TACC3融合遺伝子*4 10.31±4.16

平均値±標準偏差.n‍=‍3,GI50;50%細胞増殖阻害濃度,1:FISH法により検出される遺伝子コピー数が9以上,2:サザンブロット解析により検出される遺伝子コピー数が4以上,3:CGH法により検出されるシグナル強度比のlog2値が0.45を上回る,4:FGFR3遺伝子のエクソン17とTACC3遺伝子のエクソン4が融合.(文献14より転載)

図2 ヒト腫瘍細胞株を皮下移植したヌードマウスおよびヌードラットにおけるFutibatinibの有効性

平均値±標準誤差.(A)変異型FGFR2(K310R/N549K)を発現するヒト子宮内膜がん細胞株AN3 CAを皮下移植したヌードマウス(6例/群),(B)FGFR2遺伝子増幅を有するヒト胃がん細胞株SNU-16を皮下移植したヌードラット(6例/群)を用いて,それぞれFutibatinibの腫瘍増殖抑制作用が検討された.試験開始日を第0日として,第1~11日目に各用量のFutibatinibがQD経口投与され,第12日目に腫瘍体積が算出された.(文献16より許可を得て転載.Copyright © 2023, American Chemical Society.)

Futibatinibの曝露による薬剤耐性クローンの出現頻度を可逆的ATP競合型FGFR阻害薬と比較検討した.FGFR2キナーゼドメインにランダムに変異を誘導した細胞株に対する薬剤暴露実験において,Futibatinib暴露ではPemigatinibやErdrafitinibよりも薬剤耐性クローンの出現頻度は低く,薬剤耐性化リスクが低いことが示唆された(図3).また,FGFR2ゲートキーパー変異を含む複数の薬剤耐性FGFR2変異体に対する各種FGFR阻害薬の阻害活性を検証した結‍果,他の可逆的ATP競合型FGFR阻害薬と比較してFutibatinibは野生型FGFRと同程度の強さで阻害し,広範囲なFGFRキナーゼドメイン変異に対して強い阻害活性を示した10,17)表4).

図3 FutibatinibおよびATP競合型FGFR阻害薬の曝露による薬剤耐性クローンの出現状況

FGFRのキナーゼ活性に依存して増殖する細胞モデルを用いて,FutibatinibおよびATP競合型可逆的FGFR阻害薬を暴露した後に出現した耐性クローン数を評価した.(A)FGFR2キナーゼドメインの2つの領域に対してランダムに1アミノ酸置換を導入したベクターを細胞株に発現させ,薬剤を暴露した.細胞増殖の抑制率が50%未満であった細胞を耐性クローンと定義し,異なる2回の実験におけるその出現数を計測した.(文献17より転載)(B)同様のFGFR変異体ライブラリーを導入した細胞モデルに対して各薬剤を暴露後,耐性細胞が出現するまでに要した日数を測定した.各薬剤の曝露時の濃度は,野生型FGFR2を導入した細胞の90%に殺細胞効果を示す濃度(LD90)の10倍量とした.(文献10より転載)

表4代表的なFGFR2変異に対するFutibatinibおよびATP競合型可逆的FGFR阻害薬のリン酸化阻害活性

濃い網掛けの箇所の値は,野生型に対する阻害活性に比べて5倍を超える減弱が見られたことを示す.表の右側の記載は,キナーゼドメインにおける構造モチーフを示す.(文献10より転載)

4.  用量設定

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験;NCT02052778)の第Ⅰ相用量漸増パートでは,前治療を受けた進行固形がん患者86人を対象として,Futibatinibの安全性と薬物動態/薬力学を評価した18).用法・用量はFutibatinibを1日1回(QD)連続投与群(4~24 ‍mg QD;n‍=‍44)または週3回(TIW)間欠投与群(8~200 ‍mg TIW;n‍=‍42)で検討が行われた.用量制限毒性(DLT)は24 ‍mg QD投与群で3例に発現し,いずれも肝酵素上昇に関連したものであった.TIW投与群ではDLTは認められなかった.最大耐量(MTD)は20 ‍mg QDと決定され,TIW投与ではMTDは定義されなかった.QD投与群はいずれも用量に比例した薬物動態を示したが,TIW投与群は80 ‍mgから200 ‍mgの間で飽和していた.血清リン値はQD投与群とTIW投与群のいずれもFutibatinibの用量依存的に増加したが,QD投与によって強い相関が見られた.

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験の第Ⅰ相用量漸増パートと並行し,日本の進行固形がん患者を対象とした10059010試験(第Ⅰ相用量漸増試験;JapicCTI-142552)19)が実施された.この試験でも同様の結果が認められ,これらのデータに基づきFutibatinibの20 ‍mg QD投与が第Ⅱ相パートの推奨用量として選択された.

5.  臨床的有効性

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験;NCT02052778)の第Ⅰ相用量拡大パートでは,FGF/FGFR遺伝子異常を有する進行固形がん患者を対象にFutibatinibの評価を行った20).Futibatinib 20 ‍mg QDで投与を行ったFGFR遺伝子異常陽性胆管がん患者64例(肝内胆管がん61例,肝外胆管がん3例)において,全奏効率(ORR)は15.6%,病勢制御率(DCR)は71.9%であった.奏効例には,FGFR2–POC1B遺伝子融合を有する管外胆管がんが1例,FGFR遺伝子の融合,再構成または点変異を有する肝内胆管がんが9例含まれていた.

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)では,1レジメン以上の全身化学療法治療歴のあるFGFR2遺伝子融合または再構成を有する切除不能な進行肝内胆管がん患者103人を対象にFutibatinibの評価を行った11).主要評価項目である独立中央判定におけるORRは41.7%(43/103,95%CI,32.1~51.9)であった(図4).ORRは,65歳以上の患者や前治療歴の多い患者(前治療歴3回以上)など予後不良因子を有する患者を含むサブグループにおいても一貫していた(図5).追跡期間中央値は17.1ヵ月,無増悪生存期間(PFS)中央値は9.0ヵ月(95%信頼区間,6.9~13.1),全生存期間(OS)中央値は21.7ヵ月,1年生存率は72%であった(図6).追跡フォローアップ(中央値25.0ヵ月)の結果においても同様で,ORRは41.7%,OS中央値は20.0ヵ月(1年生存率73%),PFS中央値は8.9ヵ月であった21).奏効までの期間(TTR)の中央値は2.5ヵ月(範囲;0.7~7.4),奏効期間(DOR)の中央値は9.7ヵ月(95%信頼区間;7.6~17.0)であり,奏効例の72%(31/43)は6ヵ月以上奏効が持続した(図7).探索的なデータとして,FGFR阻害薬の治療歴のある胆道がん患者においてもFutibatinibの抗腫瘍効果が示唆されている.TAS-120-101試験の第Ⅰ相用量拡大パートにおいて,FGFR阻害薬治療歴を有する患者28例中5例(17.9%)で奏効が認められ,他の15例(53.6%)は病勢が制御されていた20).同じく第Ⅰ相パートの症例のうち,FGFR阻害薬であるInfigratinibまたはZoligratinibによる前治療歴を有する4例の解析では,PR 2例,SD 2例と一定の臨床的有用性が認められ,その効果の持続期間は5.1~17.2ヵ月であった15)

図4 国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)におけるFutibatinibの抗腫瘍効果および各患者の遺伝子プロファイル

FGFR2遺伝子変異は324遺伝子パネルアッセイを用いて評価された.各患者のFGFR2遺伝子異常(融合または再配列)の状況が示され,融合パートナーが同定された場合にはそれも併記されている.:1名の患者は,FGFR2遺伝子融合に加えてFGFR2 S799fs22変異を有していた.個々の患者における標的病変の腫瘍サイズのベースラインからの変化率はウォーターフォールプロットで示され,解析集団における全奏効率,病勢制御率および奏効期間の値も記載されている.324遺伝子パネルアッセイを用いて,共存遺伝子変異を評価した.少なくとも9名の患者において最も頻繁が高く確認された共存遺伝子変異が示されている.図の下部の棒グラフは各患者において,パネルアッセイで同定された遺伝子変異の総数を示している.3名の患者については,腫瘍の評価が欠けていたため含まれていない.(文献11より許可を得て転載.Copyright © (2023) Massachusetts Medical Society. All rights reserved. Translated with permission.)

図5 国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)におけるFutibatinib投与患者の全奏効率のサブグループ解析

CI:信頼区間,ECOG PS:Eastern Cooperative Oncology Group performance status,ORR:Objective Response Rate(全奏効率).全奏効率は客観的奏効率で示される.:信頼区間の幅は多重性を考慮して調整されていない.(文献11より許可を得て転載.Copyright © (2023) Massachusetts Medical Society. All rights reserved. Translated with permission.)

図6 国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)におけるFutibatinib投与患者の無増悪生存期間および全生存期間

(A)無増悪生存期間(Progression Free Survival),(B)全生存期間(Overall Survival)のKaplan-Meier曲線.点線は95%信頼区間の上限および下限を示す.(文献11より許可を得て転載.Copyright © (2023) Massachusetts Medical Society. All rights reserved. Translated with permission.)

図7 国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)におけるFutibatinib投与患者の腫瘍縮小効果判定と奏効期間

奏効期間の中央値はKaplan-Meier法を用いて算出した.効果判定は,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)version 1.1に準拠した独立中央判定に基づいている.(文献11より許可を得て転載.Copyright © (2023) Massachusetts Medical Society. All rights reserved. Translated with permission.)

6.  ゲノムプロファイリング解析と臨床効果

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験:NCT02052778)の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)の有効性解析対象であった103例から得られた探索的分子プロファイリング解析では,FGFR2遺伝子異常のタイプごと,あるいは共存する遺伝子変異の有無ごとでのFutibatinibの有効性が検討された11).FGFR2融合遺伝子を有する患者は80例(78%),FGFR2遺伝子再構成を有する患者は23例(22%)が含まれており,いずれの対象においても同様の有効性を示した(図4).FGFR2との融合パートナーとしてはBICC1が最も多く(24例),次いでKIAA1217(3例)とWAC(3例)であった.BICC1融合症例とBICC1以外の遺伝子との融合症例のORRはそれぞれ42%,45%であった.遺伝子パネルアッセイの結果が得られた93名の患者における共存遺伝子変異は,BAP1の頻度が最も高く(43%),次いでCDKN2A(22%),CDKN2B(17%),TP53(14%)であった.各共存遺伝子変異を有する症例におけるORRは,BAP1変異症例で35.0%(非変異症例で49.1%),CDKN2A変異症例で40.0%(非変異症例で43.8%),CDKN2B変異症例で43.8%(非変異症例で42.9%),TP53変異症例で38.5%(非変異症例で43.8%)となっており,共存遺伝子変異の有無にかかわらず一貫した傾向を示した(図4).PFS中央値は,BAP1変異症例で9.0ヵ月(非変異症例で8.0ヵ月),CDKN2A変異症例で4.9ヵ月(非変異症例で9.7ヵ月),CDKN2B変異症例で4.8ヵ月(非変異症例で11.0ヵ月),TP53変異症例で7.0ヵ月(非変異症例で9.0ヵ月)であった.臨床試験間の比較には注意が必要であるが,FGFR2遺伝子再構成を有する胆道がん患者を対象としたPemigatinibでの同様の解析において,TP53変異を有する9例のORRは0%(非変異症例で38.8%),PFS中央値はTP53変異症例で2.8ヵ月(非変異症例で9.0ヵ月)であった22)

7.  安全性・忍容性

国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験:NCT02052778)の第Ⅰ相用量拡大パート(n‍=‍170)20)と第Ⅱ相パート(n‍=‍103)11)によるFutibatinib 20 ‍mg QD投与の安全性プロファイルは他のFGFR阻害薬と同様のものであった2327)表5).国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅰ相用量拡大パートと第Ⅱ相パートにおいて高頻度(いずれかの試験でAll gradeで25%以上)に発現する治療関連有害事象(TRAE)として,高リン血症(81%,85%),下痢(24%,28%),疲労(15%,25%),口渇(13%,30%),脱毛(19%,33%),皮膚乾燥(13%,27%)が認められた.高リン血症はPemigatinibやInfigratinibと共通して高頻度に発現し(Pemigatinib;77%,Infigratinib;55%)26,28),FGFR阻害によるFGF23-FGFR1シグナル伝達の低下が起因し,近位尿細管でのリン酸再吸収の亢進によって引き起こされると考えられる29).第Ⅰ相用量拡大パートと第Ⅱ相パートにおいて,Grade 3以上のTRAEはそれぞれ43%および57%の患者で発現し,両試験に共通して10%以上で報告されたのは高リン血症であった(22%,30%).各試験でGrade 4のTRAEが1件ずつ報告された(γ-グルタミルトランスフェラーゼの増加およびアラニンアミノトランスフェラーゼの増加)30).重篤なTRAEは,第Ⅰ相用量拡大パートでは6%,第Ⅱ相パートでは10%の患者で報告され,いずれも治療関連死は発生しなかった.Futibatinibにおいて高リン血症の発現率がPemigatinibやInfigratinibでの報告26,28)よりもGrade 3以上の数値として高い理由は,用いた副作用Gradeの定義が異なることなどが関連する可能性がある.(Futibatinibの試験において,高リン血症は症状に関係なく血清リン酸値によっ‍てGradeが評価された)11,20).Futibatinibの上記2つの試験において,Grade 3~4の高リン血症は病勢進行と同意撤回により試験を中止した2例を除き回復した.FGFR阻害薬に共通する他の特徴的な有害事象として眼や爪に関す‍る毒性が認められている.国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅱ相パートにおいて,網膜障害は8%(Grade 3以上は0%),ドライアイは21%(Grade 3以上は1%),爪毒性は47%(grade 3以上は2%)の患者で報告された.Futibatinibによる有害事象のほとんどは投与中断や減量でマネジメントが可能であった.第Ⅰ相用量拡大パートにおいて,TRAEによる投与量変更は44%,投与中止は4%の患者で起こった.第Ⅱ相パートにおいて,TRAEによる投与中断,減量,投与中止となった患者の割合はそれぞれ50%,54%,2%であった.

表5国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)の第Ⅰ相用量拡大パートおよび第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)のいずれかにおいて10%以上の患者で発現した治療関連有害事象(TRAE)

TRAE 国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)
第Ⅰ相用量拡大パート20mg QD投与コホート20)
(n‍=‍170)
国際共同第Ⅱ相試験(TAS-120-101試験)
第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)11)
(n‍=‍103)
Any-grade(%) Grade ≥3(%) Any-grade(%) Grade ≥3(%)
高リン血症 81 22 85 30
下痢 24 1 28 0
脱毛 19 0 33 0
口渇 13 0 30 0
疲労 15 2 25 6
AST上昇 19 4 18 7
ALT上昇 21 8 15 5
皮膚乾燥 13 0 27 0
味覚障害 18 0
ドライアイ 17 1
口内炎 13 3 20 6
手足症候群 12 4 21 5
爪障害 16 0
爪甲剥離症 16 0
爪甲脱落症 14 1
爪の変色 14 0
便秘 10 0 17 0
吐き気 15 0 12 2
食欲減退 11 0 13 0
筋肉痛 12 0
無力症 10 2
関節痛 10 0
筋痙攣 10 1

―:10%以上の患者で発現したTRAEとして引用文献中に記載が無い項目.

8.  Futibatinibの今後の開発

Futibatinibは肝内胆管がんにおけるさらなる評価や他のがん種での検討を行うための臨床試験が進行している(表6).FGFR遺伝子融合/再構成を有する胆管がんを対象として,Futibatinibの20 ‍mg QD投与と16 ‍mg QD投与を比較する第Ⅱ相試験(FOENIX-CCA4試験;NCT05727176)が進行している.肝内胆管がん以外での開発として,尿路上皮がん,乳がんおよび食道がんをはじめとした複数のがん種において,Futibatinibの安全性や有効性を評価するための臨床試験が進行している.同時に,一部のがん種ではFutibatinibの併用療法としての評価および検討も進行している.

表6Futibatinibで進行中の臨床試験(第Ⅱ相以上の試験)

試験フェーズ 試験 対象 試験
デザイン
治療 主要評価項目 試験番号
TiFFANY試験;Phase II
固形がん,ctDNAのFGFR
遺伝子異常
ctDNAにFGFR遺伝子異常を有する進行・再発の固形がん オープン
ラベル
Futibatinib 奏効率 JapicCTI-
194624
Phase II
乳がん,FGFR遺伝子異常
FGFR2増幅を有するHR+HER2-乳がん/測定可能病変あり(コホート1) オープン
ラベル
Futibatinib 奏効率 NCT04024436
FGFR2増幅を有するトリプルネガティブ乳がん/測定可能病変あり(コホート2)
FGFR2増幅を有するHR+HER2-またはトリプルネガティブ乳がん/測定可能病変なし(コホート3) 臨床的
有用率
FGFR1増幅を有するHR+HER2-乳がん/測定可能病変あり(コホート4) Futibatinib+Fulvestrant 6ヵ月
無増悪
生存率
Phase II
固形がん・血液がん,FGFR
遺伝子異常
FGFR遺伝子異常を有する進行・再発の固形がん(コホートA) オープン
ラベル
Futibatinib 奏効率 NCT04189445
FGFR2増幅を有する胃がん・食道胃接合部がん(コホートB)
FGFR1再構成を有する骨髄性またはリンパ性腫瘍(コホートC) 完全
奏効率
Phase II
尿路上皮がん
抗PD-1抗体併用
FGFR3変異またはFGFR1~4遺伝子融合/再構成を有する進行・転移性尿路上皮がん(コホートA) オープン
ラベル
Futibatinib+Pembrolizumab
(抗PD-1抗体)
奏効率 NCT04601857
FGFR3変異およびFGFR1~4遺伝子融合/再構成を有さない進行・転移性尿路上皮がん(コホートB)
Ⅰ/Ⅱ Phase I/II
固形がん・非小細胞肺がん
MEK阻害薬併用
KRAS変異陽性進行がん固形がん(パート1) オープン
ラベル
Futibatinib+Binimetinib
(MEK阻害薬)
用量設定 NCT04965818
Ⅰ/Ⅱ KRAS変異陽性非小細胞肺がん(パート2) 奏効率
Phase II
子宮内膜がん,MSI-stable
抗PD-1抗体併用
MSI-stable転移性子宮内膜がん オープン
ラベル
Futibatinib+Pembrolizumab
(抗PD-1抗体)
奏効率 NCT05036681
FOENIX-CCA4試験;Phase II
肝内胆管がん,FGFR遺伝子異常
承認外用量の検討
FGFR遺伝子融合/再構成を有する胆道がん オープン
ラベル
Futibatinib
(20 ‍mgまたは16 ‍mg)
奏効率 NCT05727176
Phase II
食道がん・食道胃接合部がん・膵がん
抗PD-1抗体併用
進行・転移性の食道がんまたはSiewert type 1食道胃接合部がん(コホートA) オープン
ラベル
Futibatinib+Pembrolizumab
(抗PD-1抗体)+
標準化学療法
奏効率 NCT05945823
進行・転移性の膵がん(コホートB) オープン
ラベル

KRAS遺伝子変異陽性非小細胞肺がんを対象とした第Ⅰb/Ⅱ相試験(NCT04965818)では,FutibatinibとMEK阻害薬であるBinimetinibの併用療法が評価された31).ホルモン受容体陽性HER陰性乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんを対象とした第Ⅱ相試験(FOENIX-MBC2試験;NCT04024436)は4つのコホートで構成され,Futibatinibの検討が進んでいる.FGFR1遺伝子増幅を有するホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんを対象にFutibatinibとフルベストラントの併用療法を検討するコホートでは,同併用療法の有望な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが確認されている32).免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体との併用試験も進行しており(表6),尿路上皮がん,子宮内膜がん,食道がん,膵がんなどにおいてFutibatinibとの併用療法の有用性が評価される(NCT04601857,NCT05036681,NCT05945823).食道がんを対象とした第Ⅰb相試験(jRCT2080224975)では,FutibatinibとPembrolizumabの併用療法,またはFutibatinibとPembrolizumabと化学療法の併用療法について,各コホートで忍容性と抗腫瘍効果が確認された33).今後これらの開発が進めば,様々ながん種において多くの患者に貢献することが期待される.

9.  まとめ

切除不能胆道がんは予後不良で,薬物治療の選択肢は少なく,長きにわたり化学療法がその主体であったが,近年は分子標的薬が新たな選択肢として加わった.FGFR阻害薬としては,2021年にPemigatinib,2023年にFutibatinibが承認されている.FutibatinibはFGFR1~4を選択的かつ不可逆的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬であり,「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」を効能・効果として,2023年6月26日に承認を取得,2023年9月7日に発売された.開発中の薬剤を含め多くのFGFR阻害薬はATP競合型可逆的阻害薬であるが,Futibatinibはシステイノミクス創薬技術によって創出され,共有結合型不可逆的FGFR阻害薬としては初めて承認された薬剤である.腫瘍細胞株を用いた実験において,共有結合型不可逆的FGFR阻害薬であるFutibatinibは,他のATP競合型可逆的FGFR阻害薬と比較してより幅広い変異体に対して増殖抑制効果を示した.1レジメン以上の全身化学療法治療歴のあるFGFR2遺伝子融合または再構成を有する切除不能な進行肝内胆管がん患者を対象に実施された国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験の第Ⅱ相パート(FOENIX-CCA2試験)などの結果からFutibatinibの有効性および安全性が確認され,同試験のゲノムプロファイリング解析ではFGFR2遺伝子異常のタイプ(融合または再構成)や共存遺伝子変異によらず有効性を示していた.Futibatinibは,現在の適応疾患である胆道がんのみならず,他のがん腫を対象とした開発や併用療法としての開発も進行しており,さらなる展望が期待される薬剤である.

利益相反

高垣 勝哉,奥出 良太,平山 直樹,五月女 裕,平井 洋(大鵬薬品工業株式会社).

文献
 
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