Folia Pharmacologica Japonica
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Reviews: Search for Target Factors in Pain Control Mechanisms and Their Functional Analysis
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Shogo Tokuyama
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2024 Volume 159 Issue 6 Pages 353

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今回の特集に掲載された総説は,2023年12月14日に神戸国際会議場(兵庫県)にて開催された第97回日本薬理学会年会における公募シンポジウム14「疼痛制御機構におけるターゲット因子の探索とその機能解析」の発表内容を中心にまとめたものである.すなわち,「年会で本シンポジウムに参加したが,もう一度確認したい」,「日程の都合上,年会では他の発表を聴講したため,このシンポジウムに参加出来なかったが,内容について知りたい」との要望に応えるべく企画されたものである.

疼痛とは身体に生じる不快な感覚や感情のことである.痛みにはさまざまな種類があり,身体的な損傷や病気,または心理的な要因によって誘発される.疼痛は身体に危険を知らせる重要な警告シグナルの一つであるものの,過度の疼痛によって生活の質(QOL)を大きく低下させる要因にもなる.疼痛は急性疼痛,慢性疼痛,神経因性疼痛,体性感覚痛,内臓痛などのカテゴリーに分類されている.

現時点において,疼痛治療薬として抗てんかん薬,抗うつ薬,非ステロイド性鎮痛薬,非麻薬性鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬などが用いられている.しかしながら,疼痛制御機構の解明に関する多数の報告があるにもかかわらず,未だ不明点が多く,多くの疼痛疾患においてその治療法が確立していない状況にある.適切な治療薬の開発のためには,疼痛制御機構に関与するターゲット因子の探索とその機能解析の解明は必須となる.疼痛制御機構におけるターゲット因子は,痛みの伝達や感知,制御に関与するさまざまな生理的および化学的因子を指す.事実,これらの因子は,痛みを緩和するために治療のターゲットとして利用されてきている.現在までに主要なターゲット因子として,神経伝達物質と受容体,イオンチャネル,神経ペプチド,免疫系因子,内因性鎮痛系などが知られている.ターゲット因子を主眼とした治療は,特定の病因や痛みのメカニズムに直接作用するため,全体的な治療効果が高まることが期待される.また,個々の患者の痛みの原因や感受性が異なるため,個別に設計されたターゲット治療は,より効果的な症状の緩和を目指すことも可能となる.

本シンポジウムでは,将来の治療薬開発につながることが期待される「多価不飽和脂肪酸受容体シグナル」,「脾臓および自律神経系」および「アストロサイト」を介する疼痛制御機構におけるターゲット因子に関する研究を推進して活躍する国内第一線の研究者を招聘し,最新の取り組みの成果をご披露頂いた.幸いにも当日は会場を埋め尽くすほどの参加者があり,活発な意見交換がなされ,所期の目的は達成されたとの思いがある.

上記の背景をもとに,本特集では神戸学院大学薬学部の中本賀寿夫氏と徳山尚吾による「ストレスにともなう慢性疼痛の新たな治療標的としての長鎖脂肪酸受容体シグナル」,京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野の山下志織氏,白川久志氏,植田弘師氏には「線維筋痛症の疼痛形成・維持機構における脳-脾臓連関の重要性」,さらには広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学の森岡徳光氏には「慢性疼痛でのアストロサイトにおける疼痛制御分子の機能解析に基づく創薬戦略」と題した基礎研究知見について最新のデータを中心にご執筆頂いた.是非,本特集において,年会シンポジウム開催時の息吹を少しでも感じて頂けると幸いである.また,それぞれの著者の提案する疼痛制御機構におけるターゲット因子が,将来的に有効な治療薬の開発において多大なる寄与を果たすと期待している.

末筆ではありますが,本シンポジウムの開催ならびに本特集の執筆にあたり,多大なるご理解とご協力を賜りました関係者およびシンポジスト諸氏にこの場をお借り致しまして,感謝の気持ちをお伝えしたいと存じます.

2024年10月

 
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