2025 Volume 160 Issue 2 Pages 141-151
ベルモスジルメシル酸塩(以下,ベルモスジル)は,新規作用機序を有するステロイド依存性/抵抗性の慢性移植片対宿主病(chronic graft versus host disease:cGVHD)を対象に開発された,経口低分子薬である.ベルモスジルは選択的にRho-associated coiled-coil containing protein kinase 2(ROCK2)を阻害することで,免疫調整作用と抗線維化作用を示し,cGVHDで問題となる炎症と線維化を抑制しcGVHDの治療効果を示すと考えられる.日本国内で成人を対象とした臨床第Ⅰ相試験(ME3208-1試験)を実施した後,日本国内で実施した12歳以上のステロイド依存性/抵抗性cGVHD患者を対象にした臨床第Ⅲ相試験(ME3208-2試験)にて,有効性及び安全性を確認した.ベルモスジルは2023年5月に希少疾病用医薬品指定を受け,2024年3月に「造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果不十分な場合)」を効能または効果として製造販売承認後,2024年5月に薬価収載・発売された.
Belumosudil mesylate (REZUROCK® Tablets hereafter belumosudil) is a novel selective rho-associated, coiled-coil containing protein kinase 2 (ROCK2) inhibitor. ROCK2 is a kinase involved in immune cell differentiation and tissue fibrosis. Belumosudil exerts its effect by decreasing the inflammation and fibrosis in various organs which are the two key features of cGVHD. In the phase III clinical study in Japan, the primary endpoint was met, best overall response rate (best ORR), defined as the percentage of patients who achieved complete response (CR) or partial response (PR), was 85.7%. Belumosudil received manufacturing and marketing approval for the treatment of chronic graft-versus-host disease (cGVHD) in patients who have insufficient response to steroid therapy in March 2024 and launched in May 2024. The Japanese MHLW has also granted orphan drug designation in May 2023 for the treatment of cGVHD.
cGVHDは同種造血幹細胞移植後の合併症の一つであり1),幅広い臓器に傷害が起こる重篤かつ致死的な疾患である.各臓器では,炎症のみならず線維化の病態も見られており,cGVHDは患者の生活の質(quality of life:QOL)を著しく損ねるため2,3),抗炎症作用・抗線維化作用の双方を持つ薬剤が求められている.
造血細胞移植ガイドラインGVHD(第5版)2)にて推奨されているcGVHDの治療法は,全身療法,局所療法に分類され,さらに全身療法は,一次治療と二次治療に分けられる.一次治療の標準治療薬はステロイドであるが,症状や合併症の有無によってカルシニューリン阻害薬(calcineurin inhibitor:CNI)が併用されている.一次治療で効果が不十分な場合は二次治療の適用となるが,二次治療の標準療法は確立されておらず,一次治療で使用されたステロイド又はステロイドとCNIの併用の継続使用や保険適応外の治療法も含め治療が限られている2).また,ステロイドが長期間使われることにより,感染リスクの増加,糖尿病,骨密度低下,高血圧,白内障,副腎皮質機能低下など重大な副作用を発現するといった問題がある.最近ではブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton’s tyrosine kinase:BTK)阻害薬のイブルチニブやヤヌスキナーゼ(janus kinase:JAK)阻害薬のルキソリチニブが薬事承認され二次治療の選択肢が広がっているが,好中球減少症,血小板減少症等の重篤な骨髄抑制が現れることがあるため,定期的に血液検査を実施する必要がある4,5).
小児においても成人と同様にステロイドやCNI等の免疫抑制剤を用いた治療が適用されているが,小児患者はステロイド治療による成長障害を受けるほか,成人に比べ治療期間も長期となるため副作用のリスクにさらされる期間も長い.また,身体的・精神的な成長途上に移植を受け,成人以上に移植医療の影響を強く受けることから,長期フォローアップが必要である6).
高齢者の造血幹細胞移植の割合は近年増加傾向にあり,高齢がcGVHD発症のリスク因子であることから,今後,高齢のcGVHD患者は増加していくことが予想される7).高齢者は,生理機能の低下や合併症による併用薬も多いことから,若年者と比べてステロイドの副作用により注意が必要である.また,二次治療で用いられるイブルチニブでは,65歳以上の高齢者でGrade 3以上の有害事象,肺炎,尿路感染,心房細動,白血球増加症等の発現頻度が高いとされている4).以上より,依然として小児から高齢者まで有効かつ安全性が高いcGVHD治療薬の開発が急務となっている.
ベルモスジル(図1)は,Kadmon Corporation, LLC.(Kadmon社)により米国にてステロイド依存性/抵抗性cGVHD(以下,本疾患)を対象に開発が進められ,2017年10月にOrphan drug,2018年10月にBreakthrough therapyの指定を受け,本疾患を対象とし米国で実施された2試験において有効性,安全性及び忍容性が確認され米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)より2021年7月に承認された.Meiji Seikaファルマ株式会社は,Kadmon社が米国で実施したベルモスジルの臨床試験及び非臨床試験結果を踏まえ,国内おける本疾患を適応とした開発を進めることとした.
2020年12月より日本人健康成人男性を対象とした臨床第Ⅰ相試験(ME3208-1試験)を実施したのち,2021年11月に開始した12歳以上の日本人本疾患患者を対象とした臨床第Ⅲ相試験(ME3208-2試験)において,有効性・安全性が示されたことから,「造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(ステロイド剤の投与で効果が不十分な場合)」を効能又は効果として医薬品製造販売承認申請を行い,2024年3月に日本での承認を取得した.その後,2024年5月から「レズロック®錠200 mg」として発売された.
本稿では,ベルモスジルの薬理学的特徴,日本で実施された臨床試験結果について紹介する.
ROCKは,アクチン細胞骨格,細胞運動,増殖,接着などの多くの細胞内プロセスの制御を担うRho GTPaseのエフェクター分子として同定されたセリン・スレオニンキナーゼであり,ROCK1及びROCK2の2つのアイソフォームが存在する8).ROCK1及びROCK2のキナーゼ領域は高い相同性を示すが,生体内での分布や機能は互いに異なることが知られている.ROCK2は平滑筋,心筋,骨格筋,肺や脳などに広く分布し9),近年,T細胞免疫応答のバランス調整及びエフェクターT 細胞の機能獲得などの免疫機能調整に寄与することが示唆されている10,11).また,ROCKは線維化促進因子の下流で機能し,線維化シグナル伝達の制御に関与する12).
ベルモスジルは選択的にROCK2を阻害することで,cGVHDの病態に強く関与するナイーブT細胞のインターロイキン(IL)-17産生ヘルパーT17(T helper 17:Th17)細胞及び濾胞性ヘルパーT(T follicular helper:Tfh)細胞への分化とそれに続く炎症性サイトカイン産生を抑制するとともに,制御性T(regulatory T:Treg)細胞への分化とそれに続く抗炎症性サイトカイン産生を亢進し,免疫調整作用を発揮する.さらに,Tfh細胞の分化を抑制することで,B細胞とTfh細胞の相互作用により生じる胚中心反応とそれに続く自己抗体の産生を抑制することが示されている.また,本薬は線維芽細胞のコラーゲン産生を抑制することにより,抗線維化作用を発揮する.これらの作用に基づき,ベルモスジルはcGVHDの病態を改善する新規作用機序を有する治療薬として期待される(図2).
Th17細胞:ヘルパーT17細胞,Tfh細胞:濾胞性ヘルパーT細胞,Treg細胞:制御性T細胞,MRTF:Myocardin関連転写因子,JAK:ヤヌスキナーゼ,STAT:シグナル伝達兼転写活性化因子.(上図)cGVHDの慢性炎症には,Th17細胞とTfh細胞の過剰な活性化とTreg細胞の減少が関わっている.また,cGVHDの線維化には線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生の促進が関わっている.(下図)ベルモスジルはcGVHDにおいて,ROCK2阻害によるTh17細胞,Tfh細胞への分化抑制とTreg細胞への分化促進による免疫調整作用を示すと考えられる.また,組織線維化シグナル伝達経路の抑制により,抗線維化作用を示すと考えられる.
末梢血管平滑筋細胞由来ROCK1及びROCK2に対するベルモスジルの酵素阻害活性を検討した.ROCK1, ROCK2に対する50%阻害濃度(50%inhibition concentration:IC50)は,それぞれ3.04 μmol/L, 0.081 μmol/Lであった.このことからベルモスジルはROCK2特異的な阻害作用を示した13).
また,ラット脳から抽出したROCK2を用いてベルモスジルのROCK2阻害様式を評価した結果,阻害様式はATP競合的であることが示された13).
3) ベルモスジルのT細胞免疫の調整作用(in vitro試験) (1) Th17細胞に対する作用ROCK2の活性化はTh17細胞の分化誘導に必要な特異的転写因子インターフェロン調節因子(interferon regulatory factor:IRF)4及びレチノイン酸受容体関連オーファン受容体γt(RAR-related orphan receptor γt:RORγt)の発現並びにシグナル伝達兼転写活性化因子(signal transducer and activator of transcription 3:STAT3)3のリン酸化の亢進を介して,IL-21及びIL-17などの炎症性サイトカイン産生を亢進することが知られている14–16).そこで,ベルモスジルの炎症性サイトカイン産生及びTh17細胞の活性化に対する作用を検討した.健康ヒトドナー由来CD4陽性T細胞に対し,ベルモスジル,抗CD3/28抗体,IL-1β及びトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βを反応させ,炎症性サイトカイン産生量及びTh17細胞の転写因子発現量を測定した.その結果,ベルモスジルは炎症性サイトカインであるIL-21及びIL-17産生を抑制し(図3A),さらにIRF4及びRORγtの発現量,並びにリン酸化STAT3(pSTAT3)量を濃度依存的に減少させた(図3B)17).以上の結果から,ベルモスジルはTh17細胞特異的転写因子の発現及び活性化を阻害することで,Th17細胞の活性化を抑制することが示された.
健康ヒトドナー由来のCD4陽性T細胞に対し,ベルモスジルを処理し,抗CD3/28抗体,IL-1β及びTGF-βを反応させ,Th17細胞への分化を誘導する条件下で培養.その後,炎症性サイトカイン(IL-21,IL-17)量及び転写因子(IRF4,RORɤt,pSTAT3)発現量を測定.A:平均値(図中のエラーバーは原著に詳述なし). *P<0.05,**P<0.01 vs. 媒体群(two-tailed Student’s t-test).B:TGF-β:トランスフォーミング増殖因子-β,IL-1β:インターロイキン1β,DMSO:ジメチルスルホキシド,IRF4:インターフェロン調節因子4,RORγt:レチノイン酸受容体関連オーファン受容体γt,pSTAT3:リン酸化したSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子).
Tfh細胞はB細胞の成熟や抗体産生を調節するCD4陽性T細胞の一種であり,Tfh細胞への分化異常は過剰な自己抗体産生を誘導し,cGVHDの病態の増悪に寄与する18).そこで,Tfh細胞に対するベルモスジルの分化抑制作用を検討した.健康ヒトドナー由来のCD4陽性T細胞に対し,ベルモスジルを処理し,Tfh細胞への分化に必要なIL-21を反応させる条件(IL-21),Th17細胞への分化に必要な抗CD3/28抗体及びIL-1β並びにTGF-βを反応させる条件(Th17),両培養条件を組み合わせた条件(Th17+IL-21)で培養した.その後,CXCケモカイン受容体5(CXC chemokine receptor 5:CXCR5)及びプログラム細胞死タンパク質(programmed cell death 1:PD-1)が共陽性のTfh細胞割合を測定した.その結果,ベルモスジルはCXCR5及びPD1共陽性のTfh細胞割合を減少させた(図4)19).以上の結果から,ベルモスジルのTfh細胞に対する分化抑制作用が示唆された.
健康ヒトドナー由来のCD4陽性T細胞に対し,ベルモスジルを処理し,IL-21(5又は25 ng/mL)のみを反応させる条件(IL-21),抗CD3/28抗体,IL-1β及びTGF-βを反応させる条件(Th17)又は両培養条件を組み合わせた条件(Th17+IL-21)で培養し,Th17細胞及びTfh細胞への分化を誘導.その後,Tfh細胞マーカーとして,CXCR5及びPD1が共陽性のCD4陽性T細胞割合を測定.図中の( )は,IL-21の処理濃度(ng/mL)を示す.
免疫抑制を担うTreg細胞の活性化に必要な転写因子フォークヘッドボックスP3(forkhead box P3:FOXP3)及びリン酸化STAT5(pSTAT5)に対するベルモスジルの発現亢進作用及びTreg細胞分化亢進作用を検討した.健康ヒトドナー由来のCD4陽性T細胞に対し,ベルモスジル,抗CD3/28抗体,IL-1β及びTGF-βを反応させ,Th17細胞及びTreg細胞への分化を誘導する条件下で培養した.その後,リン酸化STAT5(pSTAT5)量,Foxp3を発現するTreg細胞割合,Treg細胞が産生する抗炎症性サイトカインIL-10量をそれぞれ測定した.その結果,ベルモスジルはリン酸化STAT5量,Foxp3陽性Treg細胞割合及びIL-10産生量を増加させた(図5)17).以上の結果から,ベルモスジルはTreg細胞活性化に関与する転写因子の発現を亢進することで,Treg細胞への分化を亢進することが示唆された.
健康ヒトドナー由来のCD4陽性T細胞に対し,ベルモスジルを処理し,抗CD3/28抗体,IL-1β及びTGF-βを反応させ,Th17細胞及びTreg細胞への分化を誘導する条件下で培養.その後,リン酸化STAT5(pStat5)量,Foxp3陽性Treg細胞割合,抗炎症性サイトカインIL-10量を測定.B,C:平均値±SD.*P<0.05,**P<0.01 vs. 媒体群(two-tailed Student’s t-test).pSTAT3:リン酸化したSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子),Foxp3:フォークヘッドボックスP3,DMSO:ジメチルスルホキシド.
組織線維化に関与する線維性細胞外基質の主要構成成分であるⅠ型コラーゲンα1鎖(Col1α1)産生に対するベルモスジルの抑制作用を検討した.ヒト肺線維芽細胞を用いたベルモスジルの抗線維化作用評価において,ベルモスジルはCol1α1のmRNA発現及びCol1α1の前駆体であるプロコラーゲン1αの分泌を抑制した(図6A~B)20).また,組織線維化シグナル伝達経路を活性化させる結合組織成長因子(connective tissue growth factor:CTGF)に対するベルモスジルの発現抑制作用を検討したところ,ベルモスジルはCTGFのmRNA発現を抑制した(図6C)21).
LL-24ヒト肺線維芽細胞に対し,ベルモスジル,抗線維化薬ニンテダニブエタンスルホン酸塩,抗線維化薬ピルフェニドンのいずれかを処理する条件下で培養後,Col1α1のmRNA発現量,プロコラーゲン1αタンパク質量,CTGFのmRNA発現量を測定.A,B:平均値±SD.Col1α1(1型コラーゲンα1鎖):組織線維化に関与する線維性細胞外基質の主要構成成分,DMSO:ジメチルスルホキシド.C:平均値±SD.CTGF:connective tissue growth factor(結合組織成長因子),DMSO:ジメチルスルホキシド.
ベルモスジルのcGVHDに対する免疫調整作用及び症状改善作用を検討するために,複数のマウスcGVHDモデルを用いたin vivo試験を実施した.
cGVHD症状として発現する肺線維化の増悪には線維性コラーゲンや抗体の組織への沈着が寄与し,肺機能低下をもたらす22).そこで,ベルモスジルの肺機能改善作用及び肺組織におけるベルモスジルの線維性コラーゲン及び抗体沈着の抑制作用を検討した.骨髄移植により作製した細気管支閉塞を伴うマウスcGVHDモデルにおいて,cGVHD症状を発現する移植後28日目よりベルモスジルを腹腔内投与し,移植後56日目に肺機能(抵抗性,弾性,コンプライアンス)を測定した結果,ベルモスジル投与により肺機能低下の抑制が認められた(図7A~C)23).また,肺組織における線維性コラーゲン及び抗体沈着の抑制作用を病理組織学的に評価したところ,ベルモスジル投与により肺のコラーゲン及び抗体沈着が減少した(図7D~E)23).
骨髄移植により,細気管支閉塞を伴うマウスcGVHDモデルを作製.cGVHD症状を発現する移植後28日目より,媒体対照又はベルモスジルを腹腔内投与し,移植56日目に肺機能(抵抗性,弾性,コンプライアンス),気管支及び血管周辺に存在するコラーゲン沈着と抗体沈着量を評価.※肺の膨らみやすさを示す指標.A,B,C:平均値±SEM,各郡n=8(独立した4試験を統合して解析).*P<0.05,**P<0.01 vs. BM+媒体群(1-way analysis of variance).BM:骨髄細胞移植,S:脾細胞移植.D,E:平均値±SEM,各郡n=8(独立した4試験を統合して解析).**P<0.01,***P<0.001 vs. BM+媒体群(two-tailed Student’s t-test).BM:骨髄細胞移植,S:脾細胞移植.
免疫応答の際には,脾臓やリンパ節などの二次免疫応答組織において胚中心と呼ばれる微小構造が形成され,胚中心内ではB細胞とTfh細胞の相互作用により生じる胚中心反応により抗体が産生される.一方,過剰な胚中心反応により産生される自己抗体はcGVHDの病態の増悪に寄与する18).そこで,細気管支閉塞を伴うマウスcGVHDモデルを用いて,ベルモスジルの脾臓の胚中心反応の抑制作用及びTfh細胞に対する分化抑制作用を検討した.その結果,ベルモスジルはcGVHDの病態悪化に関与するB細胞応答の指標である胚中心反応と免疫応答に関与するTfh細胞の分化を抑制した23).以上の結果から,ベルモスジルはTfh細胞分化を抑制することで,胚中心反応を抑制することが示唆された.
cGVHD症状として発現する皮膚硬化に対するベルモスジルの皮膚症状改善作用を検討するため,骨髄移植により作製したマウス強皮症様cGVHDモデルにおいて,cGVHD症状を発現する移植後19日目からベルモスジルを腹腔内投与し,皮膚病態の進行を評価した.その結果,ベルモスジル投与により皮膚GVHD症状が改善した(図8)23).
骨髄移植により,マウス強皮症様cGVHDモデルを作製.cGVHD症状を発現する移植後19日目から47日目まで媒体対照又はベルモスジルを腹腔内投与し,マウスの脱毛面積に応じた皮膚潰瘍に基づいた皮膚GVHDスコアを算出.また,移植51日目に皮膚症状(真皮の線維化,脂肪減少,炎症,表皮界面の変化,毛包の脱落)に基づいた皮膚病理スコアを算出.平均値±SEM,各郡n=8(独立した2試験を統合して解析).*P<0.05,**P<0.01 vs. 媒体群(1-way analysis of variance).
日本人におけるベルモスジルの安全性,忍容性及び薬物動態を評価するため,国内臨床第Ⅰ相試験(ME3208-1試験,jRCT2071200077)を実施した24).日本人健康成人男性48名を対象にベルモスジルまたはプラセボを単回投与,1日1回又は1日2回7日間反復投与した.
ベルモスジル200,400又は800 mgを食後に単回経口投与したときのベルモスジルのtmaxは2時間であり,約7~9時間のt1/2で消失した.Cmax及びAUCは200及び400 mgの用量ではほぼ線形であったが,800 mgでは用量比を下回り,吸収の飽和が示唆された(図9,表1).
平均値±標準偏差.#n=5(1 h).
Dose(N) | Pharmacokinetic parameters | ||||
---|---|---|---|---|---|
tmax(h) | Cmax(ng/mL) | AUC0-t(ng·h/mL) | AUC0-∞(ng·h/mL) | t1/2(h) | |
200 mg N=6 | 2.17±0.98 | 2488±480.0 | 11200±3539 | 11360±3530 | 6.56±1.17 |
400 mg N=6 | 1.83±0.41 | 4195±1038 | 19410±6481 | 19670±6498 | 9.21±4.57 |
800 mg N=6 | 3.00±1.67 | 5635±882.2 | 32490±7607 | 32700±7600 | 8.26±2.16 |
平均値±標準偏差.
ベルモスジル200 mgを1日1回,200 mgを1日2回又は400 mgを1日1回7日間食後に反復経口投与したときの第7日のベルモスジルのtmaxは2~4時間,t1/2は約6~10時間であり,単回投与と同程度であった.第7日のCmax及びAUCは用量の増加に伴い増加し,400 mg 1日1回では200 mg 1日1回の約2倍であり線形であった.いずれの用法・用量においてもCtroughは第3日以降でほぼ一定の値を示し,反復投与後のベルモスジルの累積は僅かであった(図10,表2).
平均値±標準偏差.
Dosage (N) |
Day | Pharmacokinetic parameters | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
tmax(h) | Cmax(ng/mL) | AUCτ(ng·h/mL) | AUC144-∞(ng·h/mL) | t1/2(h) | ||
200 mg once N=6 |
1 | 2.33±0.82 | 2300±361.4 | 9803±1405 | ― | ― |
7 | 2.33±0.82 | 2623±390.6 | 12610±3222 | 13080±3377 | 6.43±1.68 | |
200 mg twice N=6 |
1 | 2.67±1.03 | 2443±471.7 | 10200±1096 | ― | ― |
7 | 2.00±0.00 | 3130±500.0 | 14190±2436 | 16540±3352 | 6.70±0.80 | |
400 mg once N=6 |
1 | 3.33±1.03 | 4170±771.2 | 21240±2870 | ― | ― |
7 | 3.33±1.03 | 4823±1448 | 26790±7408 | 29130±7000 | 9.60±3.86 |
平均値±標準偏差.
本試験の結果より,日本人健康成人にベルモスジルを投与したときの薬物動態には,外国人健康成人と大きな差は認められなかった25–28).以上より,国内臨床第Ⅲ相試験では,用法用量を米国で既承認の「200 mgを食後に1日1回経口投与」として評価することとした.
日本人ステロイド依存性/抵抗性cGVHD患者におけるベルモスジルの有効性及び安全性を評価するため国内臨床第Ⅲ相試験(ME3208-2試験,jRCT2011210041)を実施した.12歳以上のステロイド依存性/抵抗性cGVHD患者を対象に,多施設共同,単群,非盲検,非無作為化のデザインで実施した.評価対象被験者数は,21名であった.このうち1名が18歳未満の小児であり,65歳以上の高齢者が5名含まれていた.年齢の中央値は50.0歳,cGVHDの前治療数の中央値は2.0,cGVHDの罹患期間の中央値は23.7ヵ月であった.ベルモスジル200 mgを1日1回経口投与し,治験薬投与中止基準に該当するまで継続することとした.以下に主要評価である最終被験者登録後24週経過時点の結果を示す29).
主要評価項目である最良全奏効率(best overall response rate:best ORR, 95%信頼区間(confidence interval:CI))は,85.7%(63.7,97.0)であり,95%CIの下限値が有効性を判断するために事前に設定した閾値25%を上回り,本試験の主要目的を達成した(図11).様々な臓器に病変が起こるcGVHDにおいて,評価対象とした病変を有する臓器のうち,肺と下部消化管を除く全ての臓器の症状を改善することが示された29).奏効持続期間(duration of response:DOR)及び各評価時点のORRの結果より,ベルモスジルの奏効は持続的であることが示された(図12及び図13).LeeのcGVHD症状尺度評価から,cGVHD患者のQOLは,持続的に改善されることが示された29).ベルモスジルの投与により,奏効を維持しつつ,ステロイド用量を経時的に減少することが可能であった.18歳未満の小児被験者1名に対しても有効性を示し,QOLを改善して,それらが持続した.登録された65歳以上の高齢者に対しても有効性が認められ,持続すると考えられた.
判断基準:best ORRの95%CIの下限値が閾値25%を上回った場合に有効と判断する.
※1 投与開始48週(n=5),投与中止時(n=2)は10例未満のため,%表記及びグラフ化は行っていない.
有害事象は,21名中18名(85.7%)に発現した(表3).有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events:CTCAE)v5.0に基づきGrade 3以上と判定された有害事象は6名(28.6%),重篤な有害事象は6名(28.6%),死亡に至った有害事象は1名(4.8%),ベルモスジルの投与中止に至った有害事象は1名(4.8%)に発現した.2名以上に発現した有害事象は,下痢(4名,19.0%),帯状疱疹,COVID-19及び白内障(各3名,14.3%),背部痛,筋痙縮,筋肉痛,低カリウム血症,蕁麻疹及び浮腫(各2名,9.5%)であった.2名以上に発現したベルモスジルと関連性がある有害事象は,帯状疱疹及び筋痙縮(各2名,9.5%)であった.死亡に至った有害事象は21名中1名(4.8%)に発現した.事象名は,再発急性骨髄性白血病で,本事象は原疾患に関連する事象と判定され,ベルモスジルとの関連性は否定された.有害事象の発現頻度及び安全性プロファイルは,海外で実施された試験30,31)と比して,大きな違いはなく,日本人に特異的な有害事象は認められなかった.有害事象及び副作用の発現頻度は投与時期によらず,投与継続により経時的に高くなる傾向は見られなかった.血球減少に伴う感染症,貧血及び出血の発現リスクが少なく,また,ベルモスジル投与に伴う感染症に関連するGrade 3以上,重篤及び投与中止に至った有害事象の発現頻度は低く,継続投与が可能であった.18歳未満の小児被験者も成人と同様の条件で試験は実施され,臨床検査値変動を含めて,小児特有の安全性の懸念は認められなかった.投与開始28週時点においても継続して投与されており,小児の忍容性に問題はないと考えられた.65歳以上の高齢者で有害事象の発現頻度が高くなることはなかった.また,臨床検査値変動を含めて,高齢者特有の安全性上の懸念は認められなかった.カットオフ時点(最終被験者登録後24週経過時点)においても継続して投与されており,高齢者の忍容性に問題はないと考えられた.
安全性解析対象集団(N=21) | ||||
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有害事象 | 副作用 | |||
器官別大分類(SOC) 基本語(PT) |
全Grade | Grade 3以上 | 全Grade | Grade 3以上 |
すべての有害事象及び副作用 | 18(85.7) | 6(28.6) | 8(38.1) | 1(4.8) |
筋骨格系及び結合組織障害 | 8(38.1) | ― | 2(9.5) | |
背部痛 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
筋痙縮 | 2(9.5) | ― | 2(9.5) | ― |
筋肉痛 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
関節痛 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
変形性脊椎症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
感染症及び寄生虫症 | 9(42.9) | 5(23.8) | 3(14.3) | 1(4.8) |
帯状疱疹 | 3(14.3) | ― | 2(9.5) | ― |
COVID-19 | 3(14.3) | 2(9.5) | ― | ― |
気管支炎 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
気管支肺アスペルギルス症 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
咽頭炎 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
肺炎 | 1(4.8) | 1(4.8) | 1(4.8) | 1(4.8) |
誤嚥性肺炎 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
敗血症 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
胃腸障害 | 5(23.8) | 2(9.5) | 1(4.8) | ― |
下痢 | 4(19.0) | ― | 1(4.8) | ― |
上腹部痛 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
イレウス | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
嘔吐 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
大腸ポリープ | 1(4.8) | ― | ― | ― |
胃腸ポリープ | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
眼障害 | 4(19.0) | 1(4.8) | 1(4.8) | ― |
白内障 | 3(14.3) | 1(4.8) | ― | ― |
結膜出血 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
網膜出血 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
網脈絡膜症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
代謝及び栄養障害 | 4(19.0) | ― | ― | ― |
低カリウム血症 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
耐糖能障害 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
高トリグリセリド血症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
脂質異常症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
皮膚及び皮下組織障害 | 4(19.0) | ― | 1(4.8) | ― |
蕁麻疹 | 2(9.5) | ― | 1(4.8) | ― |
湿疹 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
発疹 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
一般・全身障害及び投与部位の状態 | 3(14.3) | ― | 1(4.8) | ― |
浮腫 | 2(9.5) | ― | 1(4.8) | ― |
発熱 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
傷害,中毒及び処置合併症 | 3(14.3) | ― | ― | ― |
凍瘡 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
靱帯捻挫 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
皮膚裂傷 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
神経系障害 | 2(9.5) | ― | 1(4.8) | ― |
頭痛 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
神経系障害 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
精神障害 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
うつ病 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
不眠症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
腎及び尿路障害 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
腎機能障害 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
尿路結石症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
呼吸器,胸郭及び縦隔障害 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
鼻出血 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
気管狭窄 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
血管障害 | 2(9.5) | ― | ― | ― |
静脈炎 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
血管炎 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
血液及びリンパ系障害 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
低ブログリン血症 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
心臓障害 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
心不全 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
良性,悪性及び詳細不明の新生物 (嚢胞及びポリープを含む) |
1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
再発急性骨髄性白血病 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
縦隔の悪性新生物 | 1(4.8) | 1(4.8) | ― | ― |
臨床検査 | 5(23.8) | ― | 3(14.3) | ― |
アミラーゼ増加 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
血中コレステロール増加 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
血中クレアチニン増加 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
心電図ST部上昇 | 1(4.8) | ― | 1(4.8) | ― |
プロトロンビン時間短縮 | 1(4.8) | ― | ― | ― |
n(%) MedDRA/J
Grade:CTCAE v5.0-JCOG.器官別大分類(SOC)では,基本語(PT)を複数発現した症例は1例としてカウントした.同一事象が同一患者に複数回発現した場合は,Gradeが最も高い事象を1回のみカウントした.死亡に至った有害事象は1名(4.8%),ベルモスジルとの関連性は否定.投与中止に至った有害事象は1名(4.8%).
国内で実施された臨床試験において,ベルモスジルは,cGVHD治療の標準薬であるステロイドに依存性/抵抗性を示すcGVHD患者に対して1日1回200 mg投与することで,様々な臓器の症状を改善した.ベルモスジルはcGVHDを対象とする既存薬にはない,ROCK2阻害による免疫調整作用と抗線維化作用を発揮する新規作用機序により,cGVHDの様々な臓器の症状を改善したと考えられる.さらにベルモスジルは,小児から高齢の患者に対して,様々な臓器の症状改善効果だけでなく,QOLの改善効果といった有効性が認められた.また,安全性面においては他剤で問題となる好中球減少症,血小板減少症等の重篤な骨髄抑制が現れるリスクも低いと考えられた.一方,国内臨床試験の症例数は限られるため,実臨床における有効性,安全性のデータを積み重ねエビデンスの創出を行うことが重要と考えられる.
今後,標準的な治療法の確立されていないステロイド依存性/抵抗性cGVHD治療の貴重な治療選択肢として,ベルモスジルが臨床現場に貢献できることを期待したい.
西村 侑也,土屋 敏行,木島 功嗣,松平 崇(Meiji Seikaファルマ株式会社).