Folia Pharmacologica Japonica
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Review on New Drug
Pharmacological characteristics of tisotumab vedotin (recombinant) (TIVDAK® 40 ‍mg Intravenous Solution) and clinical study results in recurrent or metastatic cervical cancer
Yutaka KanekoKoki KabuYoshio Anazawa
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2025 Volume 160 Issue 4 Pages 291-301

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要約

再発又は遠隔転移を有する子宮頸がんに対する治療は,一次治療から標準治療として免疫チェックポイント阻害薬も使用されるようになり,新たな時代を迎えている.しかし,この治療環境の変化に対応可能な二次治療以降の治療薬は不足しており,新規の作用機序を有する治療薬の開発が求められている.チソツマブ ベドチン(遺伝子組換え)は,抗ヒト組織因子(TF)モノクローナル抗体(IgG1κ)であるチソツマブと,微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びバリン-シトルリン構造のリンカーから構成される抗体薬物複合体(ADC)である.腫瘍細胞内のプロテアーゼでリンカーが切断されると,MMAEが遊離し,微小管ネットワークの破壊を介して,細胞周期の停止及びアポトーシスを誘導する.非臨床試験では,チソツマブ ベドチンの濃度依存的な細胞傷害活性及び抗腫瘍活性が確認された.また,チソツマブ ベドチンは抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性及び抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性を媒介する.チソツマブ ベドチンの国際共同第Ⅲ相試験[SGNTV-003(innovaTV 301)試験]では,再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者において,二次治療又は三次治療としてのチソツマブ ベドチンは治験担当医師が選択した化学療法に比べて,高い有効性が認められた.また,特徴的な有害事象として眼障害が発現するものの,チソツマブ ベドチンの安全性プロファイルは全般的に管理可能であった.SGNTV-003(innovaTV 301)試験の日本人集団を対象とした解析結果は全体集団と一貫していた.これらの成績に基づき,チソツマブ ベドチンは,「がん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸癌」を効能又は効果として日本において2025年3月に承認を取得した.

Abstract

The treatment of recurrent or metastatic cervical cancer has entered a new era, with immune checkpoint inhibitors now being used as first-line standard of care options. Meanwhile, there is a lack of second-line and subsequent treatment options that can adapt to this changing treatment landscape, highlighting the need for the development of new treatments with novel mechanisms of action. Tisotumab vedotin (recombinant) is an antibody-drug conjugate (ADC) consisting of tisotumab, an anti-human tissue factor (TF) monoclonal antibody (IgG1κ), the microtubule inhibitor monomethyl auristatin E (MMAE), and a valine-citrulline linker. When the linker is cleaved by a protease in a tumor cell, MMAE is released to induce cell cycle arrest and apoptosis via disruption of the microtubular network. In non-clinical studies, tisotumab vedotin demonstrated concentration-dependent cytotoxic and anti-tumor activities. Tisotumab vedotin also mediated antibody-dependent cellular cytotoxicity (ADCC) and antibody-dependent cellular phagocytosis (ADCP) activities. In a global Phase III study of tisotumab vedotin as second- or third-line therapy in patients with recurrent or metastatic cervical cancer (Study SGNTV-003/innovaTV 301), the drug demonstrated higher efficacy than the investigator’s choice of chemotherapy. Although some eye-related adverse events occurred as unique toxicities, the safety profile of tisotumab vedotin was generally manageable. The results of analysis in the Japanese subpopulation of the SGNTV-003 (innovaTV 301) study were consistent with those of the overall population. Based on these results, tisotumab vedotin received regulatory approval in Japan in March 2025 for the indication of “advanced or recurrent cervical cancer that has progressed after cancer chemotherapy”.

1.  はじめに

子宮頸がんには,扁平上皮がん(約75%)及び腺がん(約25%)の2つの主要な組織学的サブタイプがある1.ヒトパピローマウイルス(HPV)感染は子宮頸がん発症の主要な危険因子であり,ほぼ全ての患者で子宮頸がんはHPV感染と関連している2.そのため,HPVに対する効果的な予防接種と子宮頸部異形成の定期検診は,子宮頸がんの発症の抑制に寄与する.ワクチン接種及び定期検診にも関わらず,子宮頸がんは世界的に女性で4番目に多いがんである.Global Cancer Observatoryによれば,2020年には全世界で約60万人が新たに子宮頸がんを発症し,34万人が死亡している3.日本では,1年間に約1万人が子宮頸がんと診断され,2023年の子宮頸がんによる死亡者数は約3千人であった4.子宮頸がん患者の約17%に遠隔転移が認められているが,転移を有する患者の5年生存率は約22%と予後不良であり,アンメットニーズの高い疾患である4.日本において,再発又は遠隔転移を有する子宮頸がんに対する一次治療として,白金製剤を含む併用化学療法とペムブロリズマブ又はベバシズマブ,若しくはその両方が推奨されている.白金製剤を含む化学療法歴を有する患者には,その後,免疫チェックポイント阻害薬であるセミプリマブ単独療法が推奨されているが,一次治療としてペムブロリズマブ(ベバシズマブとの併用又は非併用)治療歴のある再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者に対するセミプリマブの有効性は検討されていなかった.日本では,二次治療以降の子宮頸がんに対して利用可能な化学療法(主に単剤療法)はあるが,日本のガイドラインでは,白金製剤を含む化学療法歴がある場合のセミプリマブ単剤療法,並びに標準治療終了見込みの患者に対するゲノムプロファイリングによるMSI-High又はTMB-Highの場合のペムブロリズマブの投与のみ推奨されており,他に推奨されている単剤化学療法はない5.したがって子宮頸がんは,初回治療後に再発又は転移した場合,治療選択肢がほとんどなく,二次治療以降の新規の作用機序を有する治療薬の開発が求められている.

チソツマブ ベドチン(遺伝子組換え)(販売名:テブダック®点滴静注用40 mg)は,組織因子(tissue factor:TF)を標的とする抗ヒトTFモノクローナル抗体であるチソツマブ(HuMax®-TF)と,ペイロードである微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E:MMAE)を,プロテアーゼで切断可能なリンカーを介して結合させた薬物抗体比(drug-to antibody ratios:DAR)平均4の抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)である(図1).チソツマブ ベドチンはTFを発現している腫瘍細胞に結合すると,ADC-TF複合体が細胞内に取り込まれ,プロテアーゼ切断を介してMMAEが放出される.遊離型MMAEは活発に分裂している細胞の微小管重合を阻害することで,細胞周期の停止及びアポトーシスを誘導する.米国では第Ⅱ相試験のデータに基づき,2021年9月に,化学療法中又は化学療法後に病勢進行が認められた成人の進行又は再発の子宮頸がん患者の治療薬として迅速承認された.その後,一次又は二次全身療法の治療歴のある再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者を対象として,本剤と治験担当医師が選択した化学療法との比較を行う国際共同第Ⅲ相試験(innovaTV 301試験)で有効性の検証及び安全性の検討を行い,innovaTV 301試験のデータに基づき,2024年4月に本剤は米国で正式承認された.日本においては,海外第Ⅰ/Ⅱ相試験,国内第Ⅰ/Ⅱ相試験及び国際共同第Ⅲ相試験の結果をもって,「がん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸癌」を効能又は効果として2025年3月に承認を取得した.

図1 チソツマブ ベドチンの構造と特徴

薬物抗体比(drug-to antibody ratios:DAR)平均4

*1 MMAE;モノメチルアウリスタチンE,*2 IgG1;免疫グロブリンG1

本稿ではチソツマブ ベドチンの構造と特徴,薬理作用を検討した非臨床試験の結果,用法・用量根拠を含む,全体集団及び日本人集団の臨床試験成績について概説する.

2.  TFの生理学的機能

TF[別名:血液凝固第Ⅲ因子,トロンボプラスチン又はCD142]は,263アミノ酸残基からなる43~47 kDaの1回膜貫通型糖タンパク質である.正常な生理的条件下では,TFは止血及び血栓形成に関与し,血管損傷時の血液凝固反応の主要な開始因子であり,胚発生で重要な役割を果たす7.TFは血管内皮細胞に発現し,血管損傷により血中の可溶性凝固因子へ露出されると,血液凝固第Ⅶ因子(FVII)又はFVIIaがTFの細胞外ドメインに結合して凝固反応が開‍始される8.TF:FVIIa複合体は下流のシグナル伝達カスケードを惹起し,その結果,プロテアーゼ活性化受容体(protease-activated receptor:PAR)2を介した細胞内シグナル伝達経路により血管新生が促進され,ヤヌスキナーゼ‍/シグナル伝達兼転写活性化因子経路を介してアポトーシスが阻害される9.腫瘍形成時は,TF発現の厳密な調節が失われる.TFタンパク質の発現は,多様な種類の腫瘍の腫瘍細胞及び間質細胞で増加しており10,TF発現は転移頻度や予後不良因子と相関する11,12

3.  非臨床試験における薬理作用

in vitro試験より,TFを標的としたADCであるチソツマブ ベドチンは,MMAEを介した細胞傷害活性(直接的及びバイスタンダー効果)及び免疫介在性応答[ADCC,ADCP及び免疫原性細胞死(immunogenic cell death:ICD)]等,複数の細胞傷害作用機序による抗腫瘍活性が示された.また,in vivo試験によりチソツマブ ベドチンは腫瘍片移植モデルに対して抗腫瘍活性を示すことが認められた.

 1)子宮頸がん細胞株における直接的細胞傷害活性(in vitro試験)13,14

チソツマブ ベドチンは,TF高発現の子宮頸がん細胞株(CaSki及びSiHa)の増殖を阻害する.段階希釈したチソツマブ ベドチン(0.1 ng/mL~10 μg/mL)と各子宮頸がん細胞をインキュベートし,alamarBlue®を用いて生存細胞を‍評価した(図2:CaSki及びSiHa細胞)13.チソツマブ ベドチンは濃度依存的に細胞傷害活性を示し,チソツマブ ベドチンの腫瘍細胞増殖率に対する平均50%阻害濃度(50% inhibitory concentration:IC50)は,CaSki細胞で1.63 ng/mL,SiHa細胞で7.86 ng/mLであった.また,アイソタイプ対照ADC(IgG1-b12-vcMMAE)による細胞傷害作用の誘導は認められなかったことから,チソツマブ ベドチンの細胞傷害活性はTF依存的であることが示唆された.さ‍らに,補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性の検討では,MMAEと結合していないチソツマブは,腫瘍細胞に対してin vitro傷害活性を示さなかった14.したがって,チソツマブ ベドチンの直接的細胞傷害活性は,MMAEを介していることが示唆された.

図2 チソツマブ ベドチンによる子宮頸がん細胞株(2種:CaSki細胞及びSiHa細胞)に対する細胞傷害活性(in vitro)13

CaSkiおよびSiHa細胞を段階希釈したチソツマブ ベドチン(0.1 ng/mL~10 μg/mL)と5日間インキュベートし,生存細胞をalamarBlue®を用いて検出した.スタウロスポリンを用いて殺細胞作用を誘導し,陽性対照とした.データは1つの代表的な実験から得られた2つのウェルの平均値 ± SDである.各細胞のIC50はCaSki細胞が1.63 ng/mL,SiHa細胞が7.86 ng/mLであった.ADC:antibody-drug conjugate(抗体薬物複合体),IC50:50% inhibitory concentration(50%阻害濃度),SD:standard deviation(標準偏差),vcMMAE:valine-citrulline monomethyl auristatin E(バリン-シトルリン モノメチルアウリスタチンE)

 2)MMAE拡散によるバイスタンダー効果(in vitro試験)15

チソツマブ ベドチンは,遊離型MMAEが細胞膜通過により近傍細胞へ受動拡散し,近傍のTF低発現の腫瘍細胞に対しても細胞傷害作用を発揮する,バイスタンダー効果を示す.TF高発現接着細胞とTF低発現浮遊細胞の共培養細胞をチソツマブ ベドチンと共にインキュベートし,フローサイトメトリーアッセイにより細胞生存率を評価した.それぞれの細胞を単培養した場合,TF高発現細胞株に対してはチソツマブ ベドチンの細胞傷害活性は示されたが,TF低発現細胞株に対しては示されなかった.一方で,共培養細胞を用いた場合,TF低発現細胞に対する細胞傷害作用が認められたことから,チソツマブ ベドチンはバイスタンダー効果を有することが確認された.

 3)チソツマブ ベドチンによる免疫原性細胞死(ICD)の誘‍導16

免疫原性細胞死(ICD)とは,細胞死の過程で腫瘍細胞が細胞損傷シグナルを放出することで免疫応答を活性化する仕組みであり17,18,ICDの誘導により腫瘍細胞に対するT細胞性免疫応答が増強される.一方,T細胞上には抑制性免疫チェックポイント受容体PD-1(programmed cell death-1)が発現しており,免疫応答の活性化は負に制御されている(チェックポイント阻害作用)1921.MMAEを含むADCにおけるICD誘導作用は以前から報告されており22,23,チェックポイント阻害作用に対する腫瘍の感受性が高まることが示唆されている.

チソツマブ ベドチンによるこの作用を評価するため,チソツマブ ベドチン及び遊離型MMAEをTF陽性の類表皮がん細胞株(A431),乳がん細胞株(MDA-MB-231)及び膵がん細胞株(HPAF-II)とインキュベートし,ICDのマーカー[アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)及びhigh-mobility group box 1(HMGB1)]の放出,小胞体(endoplasmic reticulum:ER)ストレス応答の惹起,自然免疫細胞の活性化及びそれに伴う二次的T細胞応答,並びに抗PD-1抗体との併用によるT細胞性免疫応答の増加を評価した.その結果,チソツマブ ベドチン及び遊離型MMAEは,各腫瘍細胞において,ATP,HMGB1の放出及びERストレス応答を誘導した.一方,アイソタイプ対照ADC(IgG1-MMAE抗体)によるこれらの誘導は認められなかった.さらに,チソツマブ ベドチン又は遊離型MMAEで処理した腫瘍細胞とヒト末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)を共培養してICDを誘導すると,自然免疫細胞の活性化及びT細胞の増殖が観察された.また,これらのT細胞性免疫応答は,抗PD-1抗体の添加により増強した.なお,チソツマブ及びアイソタイプ対照ADCはT細胞応答を誘導しなかった.以上から,チソツマブ ベドチンの細胞傷害活性によりICDが誘導された結果,自然免疫細胞の活性化及び抗PD-1抗体の併用で増強されるT細胞性免疫応答が誘導されることが示唆された.

 4)チソツマブ及びチソツマブ ベドチンによる抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性24,抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性25及び補体依存性細胞傷害(CDC)活性14(in vitro試験)

IgG1κアイソタイプヒト抗体は,抗体依存性細胞傷害(ADCC),抗体依存性細胞貪食(ADCP),CDCなどのFc領域を介したエフェクター機能によって,抗体依存性の細胞傷害活性を誘導する可能性がある.これらの作用に対するMMAEの役割を明らかにするため,チソツマブ及びチソツマブ ベドチンを用いてADCC及びADCP活性を,チソツマブを用いてCDC活性を評価した.

チソツマブ及びチソツマブ ベドチンを51Crで標識したTF発現ヒト腫瘍細胞株(A431,MDA-MB-231及びBxPC-3)とインキュベート後,PBMCを添加してさらにインキュベートし,細胞溶解液中の51Crをガンマカウンターで測定してADCC活性を評価した24.チソツマブは,各腫瘍細胞において,ADCCを介した殺細胞作用を効果的に誘導した.また,チソツマブ及びチソツマブ ベドチンは同程度のADCC活性を示したことから,チソツマブとMMAEが結合していてもADCC活性は保持されていることが示唆された.

次に,PKH26で標識したTF発現ヒト腫瘍細胞株BxPC-3又はA431をチソツマブ及びチソツマブ ベドチンでオプソニン化後,単球由来マクロファージと共培養し,フローサイトメトリーアッセイを用いてPKH26及び抗CD11c抗体で二重染色したマクロファ−ジ分画を分析し,ADCP活性を評価した25.その結果,チソツマブ及びチソツマブ ベドチンは,用量依存的にADCP活性を誘導した.また,蛍光顕微鏡法により貪食作用を評価したところ,オプソニン化したBxPC-3はマクロファ−ジと共局在することが示された.

IgG1モノクローナル抗体は,細胞表面に結合すると補体活性化の古典経路の活性化を介してCDCを誘導する26.TF発現ヒト腫瘍細胞株MDA-MB-231及びBxPC-3をチソツマブ又はアイソタイプ対照抗体とインキュベート後,補体源としてヒト血清を添加してさらにインキュベートし,フローサイトメトリーアッセイにより,細胞表面に沈着する補体C4c及びC3cを検出し,補体活性化能を評価した14.MDA-MB-231及びBxPC-3において,チソツマブによるC4c及びC3c沈着が検出された.続いて,チソツマブ又はアイソタイプ対照抗体をヒト血清非存在下で腫瘍細胞とインキュベート後,ヒト血清を添加してさらにインキュベートし,ヨウ化プロピジウム(propidium iodide:PI)染色及びフローサイトメトリーアッセイにより死細胞の割合を検出して,CDC活性を評価した.その結果,チソツマブによる死細胞の増加は認められなかった.これらの結果から,チソツマブは腫瘍細胞にC4c及びC3c沈着を誘導するが,CDCを介した細胞傷害活性は誘導しないことが示唆された.

このようにチソツマブ及びチソツマブ ベドチンはADCC及びADCPを誘導するが,チソツマブはCDCを介した細胞傷害活性を誘導しないことが示された.

 5)PDXモデルに対するチソツマブ ベドチンの抗腫瘍活性(マウス)27

患者由来異種移植(patient-derived xenograft:PDX)マウスモデルを用いて,チソツマブ ベドチンのin vivo抗腫瘍活性を評価した.なお,動物実験計画は各実験実施施設において動物実験委員会により承認されている.本モデルはヒト腫瘍で認められる遺伝的及び組織学的不均一性が再現できると考えられている.

6種類の子宮頸がん患者由来の腫瘍組織片をそれぞれ免疫不全マウス(NMRI nu/nu又はBALB/c nu/nu)に皮下移植し,子宮頸がんPDXモデル(NMRI nu/nu:CEXF773,CEXF633.BALB/c nu/nu:CV1664,CV1248,CV1802,及びCV2320)を作成した.腫瘍が一定の体積(80~200 mm3)に到達した時点で無作為化し,チソツマブ ベドチン,アイソタイプ対照抗体(IgG1-b12)又はアイソタイプ対照ADC(IgG1-b12-vcMMAE)をIV投与し,抗腫瘍活性を比較した.その結果,CV2320以外の全ての子宮頸がんPDXモデルにおいて,チソツマブ ベドチンの投与により腫瘍増殖抑制(平均腫瘍体積がアイソタイプ対照抗体及びアイソタイプ対照ADC群よりも統計学的に有意な減少:P‍<‍0.001,一元配置分散後Mann-Whitney検定)又は腫瘍退縮(平均腫瘍体積が投与開始時よりも減少)が認められた.例として子宮頸がんモデル(NMRI nu/nu:CEXF773)に対するチソツマブ ベドチンの抗腫瘍活性を図3に示す.PDXモデルの腫瘍体積が110 mm3に到達した時点で無作為化し,チソツマブ ベドチン,IgG1-b12及びIgG1-b12-vcMMAE(4 mg/kg:day 0, 7)又はパクリタキセル(20 mg/kg:day 0, 7, 14)を各群(n‍=‍8/群)にIV投与した.その結果,チソツマブ ベドチンによる腫瘍退縮が認められている(図3A).また,パクリタキセル(20 mg/kg:day 0, 7, 14)投与後に腫瘍の進展がみられたCEXF773マウス(n‍=‍4)にチソツマブ ベドチン(4 mg/kg)を2回投与したところ,全てのマウスで腫瘍退縮がみられている(図3B).

図3 子宮頸がんPDXモデルに対するチソツマブ ベドチンの抗腫瘍活性(マウス)27

(A)免疫不全マウスに子宮頸がん患者由来腫瘍組織片を皮下移植して子宮頸がんPDXモデル(CEXF773)を作成し,腫瘍の大きさが110 mm3まで達した後に無作為化し,チソツマブ ベドチン,IgG1-b12(アイソタイプ対照抗体),IgG1-b12-vcMMAE(アイソタイプ対照ADC)又はパクリタキセルを投与した.チソツマブ ベドチン,IgG1-b12及びIgG1-b12-vcMMAEは4 mg/kgを2回,パクリタキセルは20 mg/kgを3回投与した.(B)パクリタキセルを3回投与後に腫瘍の進展がみられたマウスにチソツマブ ベドチンを2回投与した.曲線は各マウスの腫瘍体積を示す.

4.  チソツマブ ベドチンの臨床試験成績

 1)曝露-反応関係の検討

チソツマブ ベドチンの曝露量と有効性との関係,並びにチソツマブ ベドチン及び遊離型MMAEの曝露量と安全性との関係を評価することを目的に,曝露-反応関係の検討を実施した28

曝露-有効性は,SGNTV-003(innovaTV 301)試験(国際共同第Ⅲ相試験)において,チソツマブ ベドチン2 mg/kgを3週間間隔(1Q3W)で投与した再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者230例を対象に,主要評価項目である全生存期間(overall survival:OS),並びに副次評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival:PFS),確定客観的奏効率(objective response rate:ORR)及び奏効期間(duration of response:DOR)について評価した.OS,PFS及びORRは,Cycle 1における曝露量[最高血中濃度(maximum drug concentration:Cmax)及び濃度曲線下面積(area under the curve:AUC)]の増加に伴い改善あるいは改善する傾向がみられた.一方で,DORとチソツマブ ベドチンの曝露量との間に相関は認められなかった.全体として,曝露-有効性の解析は,2 mg/kg(体重100 kg以上の場合は1回量として200 mgを超えないこと)の1Q3W投与を支持するものであった.

曝露-安全性は,6試験の臨床試験でチソツマブ ベドチン2 mg/kgの1Q3W投与を実施した589例を対象に評価した.曝露-安全性解析より,チソツマブ ベドチンの曝露量(Cycle 1でのAUC及び/又はCmax)は,治験薬と関連のある重篤な有害事象,Grade 3以上の有害事象,投与休止,減量,及び投与中止に至った有害事象,Grade 2 以上及びGradeを問わない眼障害,並びにGrade 2以上及びGradeを問わない末梢神経障害の発現割合の予測因子であった.遊離型MMAEの曝露量(Cycle 1でのAUC)は,治験薬と関連のある重篤な有害事象及び全ての重篤な有害事象の発現割合の予測因子であった.チソツマブ ベドチン及び遊離型MMAEの曝露量と有害事象の発現割合との間には上述の関連性が認められたが,チソツマブ ベドチン2 mg/kg 1Q3W(体重100 kg以上の場合は1回量として200 mgを超えないこと)投与による曝露量の範囲で,子宮頸がん又は他の固形がん患者に対する忍容性は許容可能であり,相対用量強度の中央値は約96%と高く,管理可能な安全性プロファイルであった.

 2)用法・用量設定の根拠29

チソツマブ ベドチンのがん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸がんに対する用法及び用量は,「通常,成人にはチソツマブ ベドチン(遺伝子組換え)として1回2 mg/kg(体重)を30分以上かけて,3週間間隔で点滴静注する.ただし,1回量として200 mgを超えないこと.なお,患者の状態により適宜減量する」である.これは,GEN701(innovaTV 201)試験(海外第Ⅰ/Ⅱ相試験)の用量漸増パートと,日本人患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱ試験であるGCT1015-06(innovaTV 206)試験の用量漸増パートの結果から第Ⅱ相試験の推奨用量(recommended phase 2 dose:RP2D)を2 mg/kg 1Q3Wに決定した.その内容を以下に概説する.

GEN701(innovaTV 201)試験(海外第Ⅰ/Ⅱ相試験)の用量漸増パートでは,TFを発現している局所進行又は遠隔転移を有する固形がん患者27名を対象にチソツマブ ベドチンを8つの用量レベル(0.3~2.2 mg/kg)で1Q3W投与を評価した.

また日本人でのRP2Dは,GCT1015-06(innovaTV 206)試験の用量漸増パートにおいて固形がん患者6名の結果から2 mg/kg 1Q3Wと決定した.その後のGEN701(innovaTV 201)試験及びSGNTV-003(innovaTV 301)試験においてRP2Dにおける臨床的ベネフィットを確認している.

 3)眼障害

眼障害は,チソツマブ ベドチンのヒト初回投与試験[GEN701(innovaTV 201)試験]で最初に認められて以降,注目すべき有害事象として精査され,その後の試験ではアイケアが導入された.

SGNTV-003(innovaTV 301)試験の治験実施計画書に規定されたアイケアには,ベースライン時及び臨床的に必要な場合の眼科検査,点眼剤(副腎皮質ステロイド点眼剤,血管収縮点眼剤,及びドライアイ治療用点眼剤)の予防的点眼と冷却パックの使用,並びに治験薬の用量調整ガイダンスを含めた.さらに治験担当医師は来院時に患者の眼の評価を実施した.この評価には,眼窩及び結膜の目視検査,正常な眼球運動のコントロール,並びに眼症状に関する質問(眼のかゆみ,まぶたの粘着,眼の分泌物,かすみ目など)が含まれた.患者又は治験担当医師が徴候又は症状を認めた場合は,診断及び管理のために眼科医に紹介した.

SGNTV-003(innovaTV 301)試験において,眼障害はチソツマブ ベドチン群の132例(52.8%)に認められ,Grade 3の有害事象は10例(4.0%)で発現した[化学療法群はそれぞれ15例(6.3%),0例].なおGrade 3以上の有害事象を発現した全例が,関連する既往歴を有するか,又は重症度の低い眼障害が先行して発現していた.

眼障害のほとんどは眼表面(結膜及び角膜)に限局しており,いずれも判別可能な徴候又は症状が認められた.多く発現した眼障害は結膜炎(31.2%),角膜炎(15.6%),ドライアイ(13.2%)などであり,霧視又は視力変化が認められた患者は5%未満であった.眼障害の多くは可逆的であり,また治験実施計画書で規定された治験薬の用量調整(投与中止を含む)により管理可能であった.

以上より,SGNTV-003(innovaTV 301)試験で実施されたアイケアは眼障害の早期特定に有効であり,これらのリスクを管理するうえで有用となるものと考えられる.

 4)SGNTV-003(innovaTV 301)試験(国際共同第Ⅲ相試験)30

SGNTV-003(innovaTV 301)試験は,一次又は二次全身療法の治療歴のある再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者502例を対象に,チソツマブ ベドチンの有効性及び安‍全性を検討した無作為化,非盲検,国際共同第Ⅲ相試験である.本試験には日本人患者101例を含む.層別因子を,ECOG PS(performance-status)(0 vs. 1),ベバシズマブ投与歴の有無(あり vs. なし),試験実施地域(米国,欧州,アジア又はその他)及び抗PD-1抗体薬又は抗PD-L1抗体薬の投与歴の有無(あり vs. なし)として,チソツマブ ベドチン単剤を投与する群(チソツマブ ベドチン群253例)又は治験担当医師が選択した化学療法剤(トポテカン,ビノレルビン,ゲムシタビン,イリノテカン,ペメトレキセドのいずれか)を投与する群(化学療法群249例)に患者を1:1の割合で無作為に割り付けた.チソツマブ ベドチンは2 mg/kgの1Q3W投与とした.主要評価項目はOS,重要な副次評価項目は治験担当医師判定による‍PFS及び確定ORRとした.治験担当医師判定によるPFS及び確定ORRは,固形癌の治療効果判定のためのガイド‍ライン(response evaluation criteria in solid tumors:RECIST)version 1.1を用いて評価した.その他の副次評価項目は,奏効までの期間(time to treatment:TTR),奏効期間(duration of response:DOR),安全性などとした.階層的検定により,OS,PFS及び確定ORRに関する仮説全体での第一種の過誤確率を両側5%に制御した.データカットオフ日は事前に規定されたOS中間解析が実施された2023年7月24日とした.

主要評価項目であるOS中央値[95%信頼区間(confidence interval:CI)]は,チソツマブ ベドチン群で11.5ヵ月[9.8~14.9],化学療法群で9.5ヵ月[7.9~10.7]と統計学的に有意な差が認められ(両側P‍=‍0.0038,層別log-rank検定),チソツマブ ベドチン投与により死亡リスクは30%低下した[層別ハザード比[hazard ratio:HR]0.70[95%CI:0.54~0.89]).OSのKaplan-Meier曲線は3ヵ月以内に投与群間で乖離が認められ,この差は試験期間を通じて維持された(図4).12ヵ月時のOS率[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で48.7%[41.0~55.8],化学療法群で35.3%[28.0~42.7]であった.

図4 SGNTV-003(innovaTV 301)試験における全生存期間(主要評価項目)30

OS(全生存期間)は無作為化から死亡までの期間(原因を問わない)と定義した.グラフは治療群別のOSのKaplan-Meier推定値,チェックマークはcensored症例を示す.※1 ECOG PS(0 vs. 1),ベバシズマブ治療歴の有無,及び抗PD-(L)1抗体薬治療歴の有無を層別因子とした層別Cox比例ハザードモデル

独立データモニタリング委員会は,OSが事前に設定された中間解析時点の有効性の境界を超えたと判断し,本解析をOSの最終解析とみなした.重要な副次評価項目である治験担当医師判定によるPFS中央値[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で4.2ヵ月[4.0~4.4],化学療法群で2.9ヵ月[2.6~3.1]と有意差が認められ(両側P‍<‍0.0001,層別log-rank検定),病勢進行又は死亡リスクは33%低下した(HR 0.67[95%CI:0.54~0.82])(図5).治験担当医師判定による確定ORR[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で17.8%[13.3~23.1],化学療法群で5.2%[2.8‍~8.8]と,チソツマブ ベドチン群で有意に高かった(オッズ比4.0,[95%CI:2.1~7.6],両側P‍<‍0.0001,層別Cochran-Mantel-Haenszel検定)(表1).治験担当医師判定によるDOR中央値[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で5.3ヵ月[4.2~8.3],化学療法群で5.7ヵ月[2.8~未到達],TTR中央値はそれぞれ1.58ヵ月[1.2~4.5],1.74ヵ月[1.2~3.9]であった.両投与群とも,広範囲の腫瘍細胞膜の組織因子発現量で奏効が認められ,確定最良総合効果カテゴリーを通じて組織因子発現量の分布は同様であった.全体として,組織因子発現量と抗腫瘍効果の関連性にチソツマブ ベドチン群と化学療法群で臨床的に意味のある違いは認められず,組織因子発現量と抗腫瘍効果の関連性はみられなかった.

図5 SGNTV-003(innovaTV 301)試験における治験担当医師判定による無増悪生存期間(副次評価項目)30

治験担当医師判定によるPFSは,無作為化から病勢進行(RECIST version 1.1を用いて評価)又は原因を問わない死亡のいずれかのイベントが起こるまでの期間と定義した.グラフは治療群別の治験担当医師判定によるPFSのKaplan-Meier推定値,チェックマークはcensored症例を示す.※1 ECOG PS(0 vs. 1),ベバシズマブ治療歴の有無,及び抗PD-(L)1抗体薬治療歴の有無を層別因子とした層別Cox比例ハザードモデル

表1SGNTV-003(innovaTV 301)試験における抗腫瘍効果(副次評価項目)30

チソツマブ ベドチン群
(N‍=‍253)
化学療法群
(N‍=‍249)
ORR(CR+PR),%(95%CI)※1 17.8(13.3~23.1) 5.2(2.8~8.8)
 オッズ比(95%CI)※2 4.0(2.1~7.6)
 両側P※2,3 ‍<‍0.0001
最良総合効果※4,例数(%)
 CR 6(2.4) 0
 PR 39(15.4) 13(5.2)
 安定(SD) 147(58.1) 132(53.0)
 進行(PD) 46(18.2) 74(29.7)
 評価不能 0 4(1.6)
 データなし 15(5.9) 26(10.4)
DCR(CR+PR+SD),%(95%CI)※1 75.9(70.1~81.0) 58.2(51.8~64.4)
DOR中央値,月(95%CI)※5 5.3(4.2~8.3) 5.7(2.8~未到達)
TTR中央値,月(範囲)※6 1.58(1.2~4.5) 1.74(1.2~3.9)

※1 Clopper-Pearsonの正確法による両側95%CI,※2 ECOG PS(0 vs. 1),ベバシズマブ治療歴の有無,及び抗PD-(L)1抗体薬治療歴の有無を層別因子とした層別Cochran-Mantel-Haenszel(CMH)検定,※3 有意水準0.05(両側),※4 RECIST version 1.1に基づく,※5 中央値はKaplan-Meier法を用いて推定し,95%CIはcomplimentary log-log transformation法を用いて算出した,※6 奏効が確認された患者において,無作為化からCR又はPRのいずれかが先に起こるまでの期間,データカットオフ 2023年7月24日

有害事象は治験薬の投与を少なくとも1回以上受けた患者を対象に評価した.有害事象はチソツマブ ベドチン群では250例中246例(98.4%),化学療法群では239例中237例(99.2%)に認められた.主な有害事象(発現割合20%以上)は,チソツマブ ベドチン群では悪心83例(33.2%),結膜炎78例(31.2%),末梢性感覚ニューロパチー71例(28.4%),鼻出血65例(26.0%),便秘62例(24.8%),脱毛症61例(24.4%),食欲減退59例(23.6%),貧血58例(23.2%)及び下痢54例(21.6%)であった.化学療法群では貧血125例(52.3%),悪心96例(40.2%),好中球減少症54例(22.6%)及び発熱50例(20.9%)であった(表2).

表2SGNTV-003(innova TV 301)試験における発現割合が10%以上の全Grade及びGrade 3以上の有害事象(安全性解析対象集団)30

発現例数(%)
チソツマブ ベドチン群
(N‍=‍250)
化学療法群
(N‍=‍239)
全Grade Grade3以上 全Grade Grade 3以上
全有害事象 246(98.4) 130(52.0) 237(99.2) 149(62.3)
悪心 83(33.2) 1(0.4) 96(40.2) 5(2.1)
結膜炎 78(31.2) 0 1(0.4) 0
末梢性感覚ニューロパチー 71(28.4) 7(2.8) 6(2.5) 0
鼻出血 65(26.0) 0 6(2.5) 0
便秘 62(24.8) 3(1.2) 39(16.3) 0
脱毛症 61(24.4) 0 7(2.9) 0
食欲減退 59(23.6) 2(0.8) 42(17.6) 1(0.4)
貧血 58(23.2) 21(8.4) 125(52.3) 66(27.6)
下痢 54(21.6) 4(1.6) 36(15.1) 3(1.3)
嘔吐 44(17.6) 4(1.6) 44(18.4) 3(1.3)
発熱 42(16.8) 1(0.4) 50(20.9) 2(0.8)
無力症 40(16.0) 5(2.0) 38(15.9) 5(2.1)
角膜炎 39(15.6) 5(2.0) 0 0
腹痛 34(13.6) 10(4.0) 23(9.6) 4(1.7)
ドライアイ 33(13.2) 0 1(0.4) 0
尿路感染 33(13.2) 11(4.4) 38(15.9) 17(7.1)
疲労 32(12.8) 9(3.6) 39(16.3) 10(4.2)
そう痒症 25(10.0) 1(0.4) 7(2.9) 0
腟出血 25(10.0) 3(1.2) 13(5.4) 1(0.4)
アラニンアミノトランスフェラーゼ増加 18(7.2) 4(1.6) 26(10.9) 5(2.1)
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加 17(6.8) 1(0.4) 27(11.3) 3(1.3)
好中球減少症 17(6.8) 9(3.6) 54(22.6) 32(13.4)
末梢性浮腫 9(3.6) 0 30(12.6) 5(2.1)

死亡に至った有害事象は,チソツマブ ベドチン群では4例(1.6%),化学療法群では5例(2.1%)で発現した.化学療法群は,治験担当医師が選択した化学療法剤(トポテカン,ビノレルビン,ゲムシタビン,イリノテカン,ペメトレキセドのいずれか)を投与した.

チソツマブ ベドチンの特に注目すべき有害事象として,3)に示した眼障害の他に,末梢神経障害及び出血関連の有害事象が特定された.末梢神経障害は96例(38.4%)に認められ,Grade 3の末梢神経障害は14例(5.6%)で発現した[化学療法群はそれぞれ10例(4.2%),1例(0.4%)].また出血関連の有害事象は105例(42.0%)に認められ,Grade 3の出血関連の有害事象は5例(2.0%)で発現した[化学療法群はそれぞれ34例(14.2%),6例(2.5%)].

 5)SGNTV-003(innovaTV 301)試験における日本人集団の臨床成績31

SGNTV-003(innovaTV 301)試験には日本人患者101例が含まれており,チソツマブ ベドチン群に50例,化学療法群に51例が無作為に割り付けられた.このうち,治験薬の投与を1回以上受けた患者は,チソツマブ ベドチン群49例,化学療法群50例であった.

日本人集団におけるOS中央値[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で15.0ヵ月[9.7~未到達],化学療法群で8.5ヵ月[6.8~10.6](HR 0.45[95%CI:0.27~0.77])であった(図6).また,12ヵ月時のOS率[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で65.5%[49.9~77.4],化学療法‍群‍で32.3%[19.3~46.1]であった.日本人集団においても化学療法群と比較して,チソツマブ ベドチン群のOS中央値は臨床的に意味のある延長が認められ,この結果は‍全‍体集団と一貫していた.治験担当医師判定によるPFS中央値[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で4.0ヵ月[3.0‍~4.4],化学療法群で2.0ヵ月[1.5~3.0]であった(HR 0.63[95%CI:0.42~0.95])(図7).日本人集団における治験担当医師判定によるPFSのKaplan-Meier曲線は,‍全体集団に類似していた.治験担当医師判定による確定ORR[95%CI]は,チソツマブ ベドチン群で24.0%[13.1‍~38.2],化学療法群で2.0%[0.0~10.4]であり,チソツマブ ベドチン群で臨床的に意味のある改善が認められた(オッズ比15.8,[95%CI:2.0~126.8]).治験担当医師判定による確定ORRは,チソツマブ ベドチン群では全体集団に比べて日本人集団で数値的に高く,化学療法群では全体集団に比べて日本人集団で数値的に低かった.治験担当医師判定によるDOR中央値[95%CI]はチソツマブ ベドチン群で4.6ヵ月[2.7~未到達],化学療法群で未到達,TTR中央値[範囲]はそれぞれ2.20ヵ月[1.3~4.5],1.35ヵ月(確定部分奏効[partial response:PR]1例のみ)であった.

図6 SGNTV-003(innova TV 301)試験の日本人集団における全生存期間31

日本の参加施設に登録された患者を含めた.※1 Cox比例ハザードモデル

図7 SGNTV-003(innovaTV 301)試験の日本人集団における治験担当医師判定による無増悪生存期間31

日本の参加施設に登録された患者を含めた.※1 Cox比例ハザードモデル

日本人集団における主な有害事象(発現割合30%以上)は,チソツマブ ベドチン群では結膜炎23例(46.9%),悪心19例(38.8%),末梢性感覚ニューロパチー18例(36.7%),脱毛症及び鼻出血各15例(各30.6%)であった(表3).化学療法群では悪心及び貧血各21例(各42.0%),発熱17例(34.0%)であった.このうち,チソツマブ ベドチン群において化学療法群と比較して発現割合が10%以上高かった有害事象は,結膜炎,末梢性感覚ニューロパチー,脱毛症及び鼻出血であった.

表3SGNTV-003(innovaTV 301)試験の日本人集団における発現割合が10%以上の有害事象31

チソツマブ ベドチン群
(N‍=‍49),n(%)
化学療法群
(N‍=‍50),n(%)
全有害事象 49(100) 50(100)
結膜炎 23(46.9) 0
悪心 19(38.8) 21(42.0)
末梢性感覚ニューロパチー 18(36.7) 1(2.0)
脱毛症 15(30.6) 1(2.0)
鼻出血 15(30.6) 1(2.0)
食欲減退 12(24.5) 7(14.0)
発熱 12(24.5) 17(34.0)
便秘 9(18.4) 6(12.0)
貧血 8(16.3) 21(42.0)
倦怠感 8(16.3) 6(12.0)
体重減少 7(14.3) 2(4.0)
湿疹 6(12.2) 2(4.0)
不眠症 5(10.2) 1(2.0)
角膜炎 5(10.2) 0
そう痒症 5(10.2) 2(4.0)
アラニンアミノトランスフェラーゼ増加 4(8.2) 8(16.0)
好中球減少症 4(8.2) 12(24.0)
嘔吐 4(8.2) 6(12.0)
下痢 3(6.1) 12(24.0)
白血球数减少 2(4.1) 7(14.0)
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加 1(2.0) 8(16.0)
好中球数減少 1(2.0) 12(24.0)
末梢性浮腫 1(2.0) 6(12.0)
尿路感染 1(2.0) 5(10.0)

治験薬の初回投与から最終投与30日後までに初めて発現した又は重症度が増悪した有害事象.日本の参加施設に登録された患者を含めた.データカットオフ 2023年7月24日

SGNTV-003(innovaTV 301)試験のチソツマブ ベドチン群において,全体集団と比較して日本人集団で発現割合が10%以上高かった有害事象は,結膜炎及び倦怠感であった.全体として,日本人集団のチソツマブ ベドチン群の安全性プロファイルは全体集団のチソツマブ ベドチン群とおおむね一貫していた.

5.  おわりに

チソツマブ ベドチンはTFを標的としたADCであり,免疫チェックポイント阻害薬とは異なる作用機序を持つ.in vitro試験において,微小管重合阻害作用を有するMMAEを介した細胞傷害活性(直接的及びバイスタンダー効果)及び免疫介在性応答(ADCC,ADCP及びICD)等,複数の細胞傷害作用機序による抗腫瘍活性が示された.子宮頸がんPDXモデルに対するin vivo試験では,チソツマブ ベドチンの抗腫瘍活性が確認された.続いて臨床試験の結果から,曝露-反応解析を実施した.チソツマブ ベドチンの曝露と有効性の間に正の相関が認められ,またMMAEの曝露と安全性の間に正の相関が認められた.全体として,3週に1回2 mg/kg(ただし200 mgを超えない)を30分以上かけて静脈内投与する推奨用法・用量を支持する結果となった.また国際共同第Ⅲ相試験 [SGNTV-003(innovaTV 301)試験]では,日本人患者101例が組み入れられ,一次又は二次全身療法の治療歴のある再発又は遠隔転移を有する子宮頸がん患者において,臨床的ベネフィットが認められ,チソツマブ ベドチンの安全性プロファイルは全般的に管理可能であった.

これらの結果から,チソツマブ ベドチンは,未だ治療選択肢が少なくアンメット・メディカルニーズの高い再発・転移性子宮頸がん治療薬として,有望な治療選択肢の一つとなり得ると考えられた.より多くの治療選択肢を必要としている日本の子宮頸がんの治療ニーズにチソツマブ ベドチンが寄与できることを期待する.

利益相反

金子 豊,加峰 弘毅,穴澤 嘉雄(ジェンマブ株式会社).

文献
 
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