Folia Pharmacologica Japonica
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Review on New Drug
Pharmacological characteristics and clinical study results of danicopan (Voydeya® tablets)
Hideo Hayashi
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2025 Volume 160 Issue 4 Pages 279-290

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要約

ダニコパン(製品名:ボイデヤ®錠)は,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を効能又は効果として,2024年1月に国内での製造販売承認を取得した,新規の経口低分子補体D因子阻害薬である.PNHは造血幹細胞の後天的変異によって補体制御因子を欠くPNH型血球が増殖することを病因とする希少な慢性溶血性疾患である.PNHの治療で標準的に使用されている補体成分C5阻害薬(C5阻害薬)は,終末補体経路の活性化を阻害することにより血管内溶血(IVH)を抑制する.一方,C5阻害薬が投与されているPNH患者の一部では,血管外溶血(EVH)が顕在化し貧血などの症状が持続することが問題となっていた.EVHの原因としてPNH型赤血球の膜上に近位補体の補体成分C3フラグメントが蓄積することがあげられ,これを抑制するために,より近位の補体経路である第二経路の活性化に関与する補体D因子を標的とするダニコパンが開発された.ダニコパンは補体D因子に可逆的に結合し,そのセリンプロテアーゼ活性を阻害することにより,補体第二経路の活性化を選択的に阻害することがin vitro試験及びex vivo試験において示された.さらに,国際共同第Ⅲ相試験(ALPHA試験:ALXN2040-PNH-301試験[NCT04469465])において,C5阻害薬による治療下でEVHが認められるPNH患者を対象としてダニコパンを追加投与した結果,ヘモグロビン(Hb)濃度の有意かつ臨床的に意義のある上昇が認められた.本試験において安全性に関する新たな懸念は認められなかった.これまでC5阻害薬治療中に生じるEVHに対しての治療は輸血などの対症療法に限られていたが,経口薬であるダニコパンの登場によって,C5阻害薬によるIVHの制御を継続したうえでEVHをコントロールすることが可能となった.

Abstract

Danicopan (brand name: Voydeya® tablets) is a new oral small molecule complement factor D inhibitor that was approved in Japan in January 2024 for paroxysmal nocturnal hemoglobinuria (PNH). PNH is a rare, chronic hematologic disorder caused by acquired mutations of hematopoietic stem cells in the PIGA gene. These mutations cause deficiencies in complement regulatory proteins CD55 and CD59 that may lead to uncontrolled terminal complement activation, intravascular hemolysis, thrombosis, and premature mortality. Complement C5 inhibitors (C5i; eculizumab and ravulizumab) are the current standard of care of PNH treatment, and control intravascular hemolysis (IVH) by inhibiting terminal complement pathway activation. However, extravascular hemolysis (EVH) with persistent symptoms, such as anemia, occurs in some C5i-treated patients with PNH. EVH is caused by the accumulation of proximal complement C3 fragment on the membrane of surviving PNH-type red blood cells. These cells subsequently undergo phagocytosis in the spleen or liver. Danicopan was developed to control EVH by targeting complement factor D involved in alternative pathway activation. Preclinical studies showed that danicopan selectively inhibits alternative complement pathway activation by reversibly binding to factor D and inhibiting its serine protease activity. A global phase III study (ALPHA study: ALXN2040-PNH-301 [NCT04469465]) investigated danicopan as add-on therapy to ravulizumab or eculizumab in patients with PNH and clinically significant EVH. Danicopan achieved statistically significant, clinically meaningful increases in hemoglobin levels, reduced transfusion, and reduced fatigue, while maintaining control of IVH. No new safety concerns were observed. Danicopan makes it possible to control EVH while controlling IVH with C5i.

1.  はじめに

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,補体の制御不能な活性化による難治性の慢性溶血性疾患である1.国内のPNHの有病率は人口100万人あたり1~5人2と稀で,指定難病に認定されている.PNHの主な臨床所見として貧血,黄疸,肉眼的ヘモグロビン尿(淡赤色尿~暗褐色尿)があげられる1.また,溶血とそれに伴う腎障害,平滑筋障害(嚥下障害,勃起不全など),肺高血圧,血栓症などの症状は,患者の生活の質を大きく低下させ,命に関わることもある1

自然免疫において重要な働きを担う補体は,複雑な活性化経路を持つ(図13,4.近位補体は3つの異なる経路(古典経路,レクチン経路,第二経路)により活性化されるが,いずれも補体C3をC3aとC3bへと切断するC3転換酵素の生成をもたらし,これが補体C5をC5aとC5bへと切断するC5転換酵素を生成する.グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol:GPI)アンカー型の補体制御因子CD55は,これらC3/C5転換酵素を失活させることで近位補体を抑制する2.一方,終末補体は前述のC5転換酵素による補体C5の切断で開始される.C5bは終末補体成分C6,C7,C8,C9をリクルートし,細胞表面で膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)を形成して細胞破壊を引き起こすが,GPIアンカー型の補体制御因子CD59はC9結合を阻害することによりこの終末反応を抑制する2

図1 補体経路及びダニコパンの作用機序(文献3,4より一部改変して引用)

Barratt J, et al. Front Immunol. 2021;12:712572. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

Lee JW, et al. Expert Rev Clin Pharmacol. 2022;15:851-861.

PNHは,phosphatidylinositol N-acetylglucosaminyltransferase subunit A(PIGA)遺伝子などのGPIアンカー生合成に関わる遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞が,クローン性に拡大することで発症する.生じた異常(PNH型)血球は,前述の補体経路制御に重要なGPIアンカー型タンパク質(CD55,CD59)を欠くため,わずかな補体活性化で容易にMACが形成される.PNH型赤血球はこのMACにより破壊され,血管内溶血(intravascular hemolysis:IVH)が引き起こされる2,5

現在PNHの治療で標準的に使用されているヒト化モノクローナル抗体エクリズマブ及びその誘導体ラブリズマブは,補体C5に結合し終末補体の活性化を阻害することでIVHを効果的に抑制する69.これらC5阻害薬の登場により,IVHとそれに伴う血栓症など生命を脅かす深刻な合併症などのマネジメントが可能になった610

一方で,C5阻害薬によってIVHが抑制されているにもかかわらず,一部の患者で貧血の改善が得られないケースがみられ,このような患者では血管外溶血(extravascular hemolysis:EVH)がその原因に関与していることが近年明らかになっている.C5阻害薬投与中の患者のPNH型赤血球ではC3bの沈着が認められ,これにより赤血球がオプソニン化され,補体受容体を発現している網内系(肝臓や脾臓)のマクロファージにより捕捉・貪食されEVHが引き起こされる1113図1).C5阻害薬投与中の患者の正常赤血球や未治療のPNH患者ではC3b沈着が認められないことから14,EVHはC5阻害薬を投与している患者のみで生じていると考えられている.臨床的に顕在化するのは患者の25~50%で12,ヘモグロビン(hemoglobin:Hb)濃度の低下,網状赤血球数の増加といった貧血症状やそれに伴う疲労が持続することがあるが15,16,これまでEVHに対して有効な治療薬はなく,輸血などの対症療法に頼らざるを得なかった.

ダニコパン(製品名:ボイデヤ®錠)は,Achillion社(現Alexion Pharmaceuticals社)が創製した新規の経口低分子補体D因子阻害薬である.C5阻害薬投与中のPNH患者で認められるEVHの原因であるC3b沈着を抑制するためには,より上位の近位補体経路の抑制が必要と考えられたことから,第二経路の活性化において重要な働きを持つ補体D因子が開発の標的とされた.ダニコパンは補体D因子のセリンプロテアーゼ活性に対する阻害作用により補体第二経路の活性化を抑制し,C3b沈着を抑えることで,EVHを抑制すると期待された.ラブリズマブ又はエクリズマブ投与下でEVHが認められるPNH患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(ALPHA試験:ALXN2040-PNH-301試験[NCT04469465])でダニコパンの有効性及び安全性が検討され,事前に規定された中間解析の結果,日本人を含む全体集団においてダニコパンの追加投与によるHb濃度の統計学的に有意かつ臨床的に意味のある上昇が示された.また,新たな安全性の懸念は認められなかった17.これを受けてダニコパンは,「発作性夜間ヘモグロビン尿症」を効能又は効果として2024年1月に世界に先駆けて国内における製造販売承認を取得した.米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)においても2024年3月に承認されている.本稿では,新規補体D因子阻害薬ダニコパンの薬理学的特性及び臨床試験成績について概説する.

2.  ダニコパンの薬理作用

 1)作用部位と作用機序

ダニコパンのターゲットである補体D因子は,セリンプロテアーゼ活性によりC3由来物質と結合している補体B因子を切断し,第二経路の活性化とそれに続く終末補体経路の活性化を引き起こす3,18.ダニコパンは補体D因子に可逆的に結合し,そのセリンプロテアーゼ活性を阻害することで,第二経路の活性化を選択的に阻害する.このためダニコパンは,C5阻害薬投与中の患者のPNH型赤血球へのC3フラグメント沈着とそれに続くEVHを抑制し,また,終末補体経路を活性化させることもない17図1).また,後述するとおりダニコパンの阻害作用は第二経路選択的であることから,感染性病原体に対する防御作用に重要な古典経路及びレクチン経路へは影響しないと考えられている.

 2)薬効を裏付ける試験成績

(1) 補体D因子に対する阻害作用(in vitro)19表1

ダニコパンと補体D因子との結合は,表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)実験により検討され,ダニコパンはナノモル以下の親和性でヒト補体D因子に可逆的に結合することが示された.また,ダニコパンの補体D因子セリンプロテアーゼ活性に対する阻害作用は,非特異的最小チオエステル基質,並びに天然基質であるC3の活性化産物C3bと補体B因子の複合体(C3bB)を用いた酵素アッセイにより検討され,いずれの基質を用いた酵素アッセイにおいても,ダニコパンがヒト補体D因子のセリンプロテアーゼ活性を阻害することが示された.さらにX線結晶構造解析により,ダニコパンは補体D因子のセリンプロテアーゼ活性部位に結合することが示された.

表1ヒト補体D因子プロテアーゼに対するダニコパンの結合と阻害作用

結果(μmol/L)
補体D因子結合,表面プラズモン共鳴実験 KD‍=‍0.00054(n‍=‍1)
補体D因子活性,非特異的最小チオエステル基質を用いた酵素アッセイ IC50‍=‍0.035 ± 0.001(n‍=‍3)
補体D因子活性,天然基質C3bBを用いた酵素アッセイ IC50‍=‍0.018 ± 0.007(n‍=‍5)
Ki‍=‍0.0057 ± 0.003(n‍=‍3)
補体D因子+ダニコバン,X線結晶構造解析 活性部位に結合

平均値 ± 標準偏差

(2) 第二経路に対する選択的阻害作用(in vitro)19表2

正常ヒト血清における第二経路の活性化に対するダニコ‍パンの作用を,異種細胞(ウサギ赤血球)の溶血アッセイ,並びに第二経路活性化後の終末補体複合体の形成及び沈着を測定する機能的酵素免疫定量法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)(Wieslabアッセイ)を用いて検討したところ,ダニコパンの第二経路活性に対する阻害作用が認められた.これらのアッセイにおいて,ダニコパンによる古典経路及びレクチン経路活性の直接的な阻害は認められず,ダニコパンは第二経路活性を選択的に阻害することが示された.

表2第二経路,古典経路,レクチン経路におけるダニコパンの阻害作用

結果(μmol/L)
第二経路活性:溶血アッセイ(8%血清) IC50‍=‍0.027 ± 0.013
IC90‍=‍0.092 ± 0.026
(n‍=‍16)
第二経路活性:Wieslabアッセイ(5.6%血清) IC50‍=‍0.034 ± 0.000
IC90‍=‍0.11 ± 0.00
(n‍=‍2)

古典経路及びレクチン経路活性は阻害しなかった.

平均値 ± 標準偏差

(3) PNH患者由来の赤血球における補体D因子に対する阻害作用(ex vivo)(表3

PNH患者から採取した赤血球をヒト72%血清に添加し,生理的状態を反映した条件でのダニコパンの溶血に対する阻害作用を検討したところ,ダニコパンが溶血を抑制することが示された19.またPNH患者から採取し60%血清で処理した赤血球における第二経路介在性のC3フラグメント沈着を測定したところ,ダニコパンがC3フラグメント沈着を抑制することが示された20

表3PNH患者由来の赤血球におけるダニコパンの阻害作用

結果(μmol/L)
PNH患者の赤血球の溶血(72%血清) IC50‍=‍0.037 ± 0.018
IC90‍=‍0.18 ± 0.08
(PNH患者2例のcombined analysis)
PNH患者の赤血球へのC3フラグメント沈着(60%血清) IC50‍=‍0.031
IC90‍=‍0.089
(n‍=‍1)(PNH患者1例)

平均値 ± 標準偏差

 3)作用発現時間・持続時間

ダニコパンの作用発現時間及び持続時間は,外国人健康成人を対象としたACH471-001試験(NCT04889677)及びACH471-002試験(NCT04889690)において検討した.

ACH471-001試験では,外国人健康成人44例を対象としてダニコパン200 mg,600 mg*1,又は1,200 mg*1を単回投与したところ,いずれの投与量においても,ダニコパンの単回経口投与直後から第二経路活性はほぼ完全に阻害された.200 mg及び600 mgを投与されたコホートでは,90%以上の阻害が投与後少なくとも3時間維持された.また血漿中の補体B因子のBbフラグメント濃度は,用量に依存して投与8~16時間後に最低値となり,その後,投与48時間後までにベースラインまで回復した21,22

ACH471-002試験では,外国人健康成人45例を対象としてダニコパン200 mg,500 mg,又は800 mgを1日2回*1,最長14日間投与し,反復投与時のダニコパンの作用発現時間及び持続時間を検討した.14日目の第二経路活性は,投与後2時間以内にほぼ完全に阻害され,投与後約1.5~4時間持続した.血漿中のBbフラグメント濃度についても低下が確認され,その低下は投与期間中維持された22,23

*1:承認外用法・用量

3.  毒性試験-生殖発生毒性試験24,25

 1)受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験(ウサギ)

雌雄New Zealand White(NZW)ウサギに,ダニコパン0,125,250又は500 mg/kg/日を,雄(各群n‍=‍22~23)には交配28日前から剖検前日まで,雌(各群n‍=‍22)には交配14日前から妊娠7日まで1日1回経口投与したところ,雄は250及び500 mg/kg/日,雌は500 mg/kg/日で体重減少又は体重増加量の減少を認め,死亡又は瀕死状態に至ったことから,一般毒性の無毒性量は雄で125 mg/kg/‍日,雌で250 mg/kg/日と考えられた.また雌雄とも,500 mg/kg/日で忍容性の低下に伴うとみられる生殖能低下を認めたことから,雌雄の受胎能に関する無毒性量は250 mg/kg/日と考えられた.いずれの用量でも子宮内生存率に変化はみられなかったことから,初期胚に対する無毒性量は検討した最高用量である500 mg/kg/日と考えられた.

 2)胚・胎児発生に関する試験(ラット及びウサギ)

交配雌Wistar Hannover(WH)ラット(各群n‍=‍25)に,ダニコパン0,200,500又は1,000 mg/kg/日を,妊娠6日から17日まで1日2回経口投与した.母動物に有害な影響がみられなかったことから,母動物に関する無毒性量は1,000 mg/kg/日と考えられた.また1,000 mg/kg/日で胎児体重の軽微な減少(最大8%)がみられたことから,胎児に関する無毒性量は500 mg/kg/日と考えられた.

雌NZWウサギ(各群n‍=‍6)に,ダニコパン0,200,500又は1,000 mg/kg/日を妊娠7日から20日まで1日1回経口投与した.1,000 mg/kg/日では母動物の体重減少,体重増加量の減少,摂餌量の減少,流産及び胎児の体重減少がみられた.これらのことから,母動物及び胎児に対する無毒性量は500 mg/kg/日と考えられた.

 3)出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験(ウサギ)

交配雌NZWウサギ(各群n‍=‍30)に,ダニコパン0,50,125又は250 mg/kg/日を,妊娠7日から授乳41日まで1日1回経口投与したところ,母動物,出生児,出生児の母体機能について,いずれの評価パラメータにも有害作用がみられなかったことから,母動物の一般毒性,F1出生児の発生毒性,F1親動物の一般毒性及びF1生殖/初期胚毒性に対する無毒性量は,いずれも250 mg/kg/日と考えられた.

 4)幼若動物を用いた毒性試験(イヌ)

4週齢の幼若イヌに,ダニコパン100,250,500,750又は1,000 mg/kg/日を,約2週間経口投与した.いずれの用量でも死亡及び毒性所見はみられなかった.臨床検査パ‍ラメータの変化として,1,000 mg/kg/日群の雌で,網状赤血球数の軽度から中等度の減少,及びアスパラギン酸ア‍ミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase:AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase:ALT),アルカリホスファターゼ,γ-グルタミルトランスフェラーゼ,総ビリルビンの軽度から高度な増加がみられた.また病理組織学的変化として,500 mg/kg/日以上で,軽微から中等度の胆管肥大/過形成がみられた.ほとんどは軽微から軽度の門脈域の混合性細胞浸潤を伴い,肝細胞障害が示唆される変化を伴わない胆管上皮の軽微な急性変性・壊死が散見された.

4.  薬物動態

 1)臨床試験で確認された血中濃度の推移

ALXN2040-HV-101試験(NCT04451434)において,日本人健康成人9例にダニコパン200 mgを高脂肪食摂取後又は絶食下で単回*1経口投与したときのダニコパンの血漿中濃度推移を図2に,薬物動態パラメータを表4に示す26.また,ACH471-002試験において,外国人健康成人8例にダニコパン75 mgを1日3回*17日間経口投与したときのダニコパンの血漿中濃度は,投与2日後に定常状態に達し,反復投与による明確な蓄積性は認められなかった27表5).健康成人及びPNH患者を対象とした計14臨床試験,407例から得られた計7,195検体のダニコパン血漿中濃度データを用いて母集団薬物動態解析を実施した.ダニコパン150 mg 1日3回の投与レジメンでの患者ごとの共変量(200 mg 1日3回,体重60 kg,体重100 kg,女性,重度の腎機能障害,空腹,高脂肪食)の影響を考慮した薬物動態パラメータのポストホック推定値を用いて,PNH患者にダニコパン150 mg又は200 mgを1日3回反復経口投与したときの定常状態におけるダニコパンの曝露量をシミュレーションした結果を表6に示す28

図2 日本人健康成人にダニコパンを高脂肪食摂取後又は絶食下で単回投与したときの血漿中薬物濃度
表4日本人健康成人におけるダニコパン単回投与時の薬物動態パラメータ

投与量(食事条件) Cmax(ng/mL) tmaxa)(h) AUC0-inf(ng·h/mL) t1/2(h)
200 mg(高脂肪食摂取後) 883.2(347.76) 3.0[2.0,8.4] 4,201(849.41) 6.9(2.48)
200 mg(絶食下) 651.4(412.00) 2.5[1.0,6.0] 3,059(1,042.3) 9.0(5.59)

9例の算術平均値(標準偏差)

a)9例の中央値[範囲]

表5外国人健康成人における定常状態(7日目)でのCmax及びAUCtauの累積係数

Cmax AUCtau
例数 8 8
幾何平均値 0.9162 1.002
幾何平均値 %CV 21 12

累積係数‍=‍7日目の値/1日目の値

表6PNH患者における定常状態のダニコパンの曝露量(ポストホック推定値)

投与量(1日3回投与) Cmax, ss(ng/mL) Ctrough, ss(ng/mL) AUC0-24h, ss(ng·h/mL)
150 mg 558(172) 169(68.1) 8,350(2,420)
200 mg 694(214) 211(84.7) 10,400(3,010)

69例の算術平均値(標準偏差)

*1:承認外用法・用量

 2)食事・併用薬の影響

(1) 食事の影響29

ACH471-016試験(NCT04551599)において,外国人健康成人17例にダニコパン200 mgを高脂肪食摂取後又は絶食下で単回経口投与したときのCmax及びAUC0-infの幾何平均値は,高脂肪食摂取後投与で,それぞれ825.9 ng/mL及び3,501 ng·h/mL,絶食下投与で,それぞれ426.4 ng/mL及び2,711 ng·h/mLで,高脂肪食摂取後投与では絶食下投与に比べてそれぞれ約93%及び約25%上昇した.tmaxの中央値は,高脂肪食摂取後投与で約3.0時間,絶食下投与で約2.5時間であった.また高脂肪食摂取後及び絶食下投与のt1/2の平均値は約7~9時間であった.

(2) 薬物相互作用27

母集団薬物動態解析の結果から,C5阻害薬であるラブリズマブ及びエクリズマブは,ダニコパンの薬物動態に有意な影響を及ぼさないことが示された.In vitroでの薬物相互作用の検討結果をふまえ,ダニコパンと臨床で併用される可能性のある薬剤を考慮のうえ,外国人を対象とした臨床薬理試験においてダニコパンとの薬物相互作用を評価した.

健康成人12例にダニコパン150 mgを1日3回6日間反復経口投与し,投与4日目にP糖タンパク質(P-glycoprotein:P-gp)基質であるフェキソフェナジン180 mgを併用して単回経口投与したときのフェキソフェナジンのCmax及びAUC0-infは,フェキソフェナジンを単独投与したときと比較して,それぞれ約42%及び約62%上昇した.健康成人28例にダニコパン200 mgを1日3回10日間反復経口投与し,投与5日目にCYP3A基質かつP-gp基質であるタクロリムス2 mgを併用して単回経口投与したときのタクロリムスのCmax及びAUC0-infは,タクロリムスを単独投与したときと比較して,それぞれ約13%及び約49%上昇した.これらの結果から,ダニコパンはP-gpの阻害作用を有すると考えられ,ダニコパンとP-gpの基質となる薬剤とを併用した場合に,それら薬剤の血中濃度が上昇する可能性が示唆された.また,健康成人19例にダニコパン200 mgを1日3回7日間反復経口投与し,投与4日目に乳がん耐性タンパク質(breast cancer resistance protein:BCRP)基質であるロスバスタチン20 mgを併用して単回経口投与した.ダニコパンと併用したときのロスバスタチンのCmax及びAUC0-infは,ロスバスタチンを単独投与したときと比較して,それぞれ約229%及び約125%上昇したことから,ダニコパンはBCRPの阻害作用を有すると考えられた.

一方で,CYP3Aの基質であるミダゾラム及びシクロスポリンとダニコパンとの併用投与で臨床上問題となる薬物相互作用は認められなかった.また,ダニコパンと,UGTの基質であるミコフェノール酸,CYP2C19の基質であるオメプラゾール,CYP2C9の基質であるS-ワルファリン,CYP1A2の基質であるR-ワルファリン,CYP2B6の基質であるbupropion*2との併用投与でも臨床上問題となる薬物相互作用は認められなかった.同様に,ダニコパンを経口避妊薬であるエチニルエストラジオール及びノルエチステロンと併用投与しても,経口避妊薬の血漿中濃度に臨床上問題となる影響は認められなかった.ダニコパンを制酸薬である炭酸カルシウム,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,simethicone*2と併用投与しても,ダニコパンの血漿中濃度に影響は認められなかった.

*2:国内未承認

 3)特定の背景を有する患者

(1) 腎機能障害患者における薬物動態30

腎機能障害がダニコパンの薬物動態へ及ぼす影響を検討‍するため,腎機能障害を有する外国人成人を対象としたACH471-009試験(NCT04935294)を実施した.重度腎機‍能障害(estimated glomerular filtration rate:eGFR‍<30 ‍mL/min/1.73 m2)を有する成人8例(非透析例)及び背‍景を一致させた腎機能が正常な成人8例にダニコパン200 mgを単回経口投与したときのダニコパンのAUC0-inf及‍びAUC0-tは,重度腎機能障害を有する成人では,腎機能が正常な成人と比較してそれぞれ52%及び48%高値を示‍した(P‍<‍0.10,2標本t検定).また経口クリアランスは約34%,腎ク‍リアランスは約51%低値を示した.腎ク‍リアランスの幾何平均値は重度腎機能障害を有する成人で0.131 ‍L/h,腎機能が正常な成人で0.268 L/hであった.Cmax,tmax,t1/2は重度腎機能障害を有する成人と腎機能が正常な成人との間で同様であった.

(2) 肝機能障害患者における薬物動態31

肝機能障害がダニコパンの薬物動態に及ぼす影響を検討するため,肝機能障害を有する外国人成人を対象としたACH471-012試験(NCT03555539)を実施した.中等度(Child-Pugh分類B)肝機能障害を有する成人8例及び背景を一致させた肝機能が正常な成人8例にダニコパン200 ‍mgを単回投与したときのダニコパンのCmax,AUCt及びAUC0-infは,中等度肝機能障害を有する成人では,肝機能が正常な成人と比較してそれぞれ約27%,約8%及び約8%低下した.tmaxの中央値は肝機能が正常な成人で2.75時間,中等度肝機能障害を有する成人で4.00時間であった.t1/2の算術平均値は両投与群で類似していた.これらのことから,中等度の肝機能障害がダニコパンの薬物動態に及ぼす影響は臨床的に意味のあるものではなく,ダニコパンは中等度の肝機能障害を有する患者に対して用量調節せずに投与可能であると考えられた.重度(Child-Pugh分類C)の肝機能障害患者を対象とする臨床試験は実施されていない.

5.  ダニコパンの臨床試験成績(国際共同第Ⅲ相試験:ALPHA試験;ALXN2040-PNH-301試験[NCT04469465])17,32

 1)試験概要

補体C5阻害薬であるラブリズマブ又はエクリズマブが投与されておりEVH症状を示すPNH患者(組み入れ基準:Hb濃度≦9.5 g/dL,網状赤血球数≧120×109/L)を対象に,ダニコパンを追加投与したときの有効性及び安全性を検討する目的で,多施設共同プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験が行われた.本試験は,12週間の二重盲検期,12週間の継続投与期,最長2年間の延長投与期の3つのパートで構成され,いずれの期間においてもラブリズマブ又はエクリズマブは継続して投与された.二重盲検期では,ダニコパン群又はプラセボ群に2:1の比で割り付け,治験薬の経口投与を受けた.継続投与期では,ダニコパン群はダニコパンを継続し,プラセボ群はダニコパンに切り替えた.延長投与期では,すべての患者が24週時点と同用量でダニコパンの継続投与を受けた.ダニコパンの開始用量は,150 mg 1日3回とし,投与6,12,18週時点,及び延長投与期の任意の時点で,200 mg 1日3回まで増量可とした.主な組み入れ基準は,6ヵ月以上前からラブリズマブ又はエクリズマブが投与されており,網状赤血球絶対数が120×109/L以上かつHb濃度が9.5 g/dL以下で定義される貧血を認める18歳以上の成人PNH患者で,過去3年以内又は治験薬投与開始時点で髄膜炎菌ワクチンを接種していることであった.PNH患者86例(日本人12例を含む)が組み入れられ,目標登録症例数84例の約75%にあたる63例が二重盲検期を完了又は中止した時点で中間解析を行い,治験の早期中止の必要性を含め有効性及び安全性を評価した.

 2)有効性

主要評価項目である投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量(最小二乗平均値 ± 標準誤差)はダニコパン群2.94 ± 0.21 g/dL,プラセボ群0.50 ± 0.31 g/dLで,群間差は2.44 ± 0.38 g/dLであり,ダニコパン群のプラセボ群に対する優越性が示された[P‍<‍0.0001,混合効果モデルによる反復測定解析法(mixed model for repeated measures:MMRM法),有意水準両側0.018].本試験で認められた群間差は,臨床的に意義があると考えられる差に相当する2 g/dLを上回っていた.日本人集団における投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量(平均値)は表7のとおりであった.

表7投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量(g/dL)(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団)

全体集団 日本人集団
ダニコパン群 プラセボ群 ダニコパン群 プラセボ群
べースラインのHb濃度 7.66 ± 0.94(42) 7.74 ± 1.04(21) 6.96 ± 1.13(5) 7.70 ± 0.42(2)
12週時点のHb濃度の
べースラインからの変化量
3.15 ± 1.27(36) 0.65 ± 0.91(20) 2.58 ± 1.64(5) -​0.30 ± 0.28(2)

平均値 ± 標準偏差(評価例数)

二重盲検期において,Hb濃度のベースラインからの変化量は,ダニコパン群では投与2週後から増加し投与12週時点まで維持された(図3).この変化は投与48週時点まで維持されていることが,継続投与期及び延長投与期を含む投与48週時点までのHb濃度の推移より示された(図4).継続投与期に入る投与12週時点で,プラセボからダニコパンへ切り替えた場合も,切り替え以降はHb濃度が上昇し,その効果は投与48週時点まで維持された(図4).

図3 Hb濃度のベースラインからの変化量の推移(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団)
図4 Hb濃度のベースラインからの推移(二重盲検期~延長投与期:中間解析における有効性解析対象集団)

BL:ベースライン.

主な副次評価項目は,投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2 g/dL以上増加した患者の割合,投与開始から12週間輸血を回避できた患者の割合,倦怠感の指標であるFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue(FACIT-Fatigue)スコアの投与12週時点でのベースラインからの変化量,及び投与12週時点の網状赤血球絶対数のベースラインからの変化量の4項目であった.投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2 g/dL以上上昇した患者の割合は,ダニコパン群59.5%,プラセボ群0%で,ダニコパン群はプラセボ群に対して有意に高かった[P‍<‍0.0001,スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴の層別因子で調整したCochran-Mantel-Haenszel(CMH)検定](表8).また投与開始から12週間輸血を回避できた患者の割合は,ダニコパン群83.3%,プラセボ群38.1%で,ダニコパン群はプラセボ群に対して有意に高かった(P‍=‍0.0004,スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴の層別因子で調整したCMH検定)(表9).投与12週時点のFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は,ダニコパン群7.97,プラセボ群1.85で,ダニコパン群はプラセボ群に対して有意に高かった(P‍=‍0.0021,MMRM法)(表10).日本人集団における投与12週時点のFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量(平均値)は表11のとおりであった.投与12週時点の網状赤血球絶対数のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は,ダニコパン群-‍83.8×109/L,プラセボ群3.5×109/Lで,ダニコパン群はプラセボ群に対して有意に低かった(P‍<‍0.0001,MMRM法)(表12).日本人集団における投与12週時点の網状赤血球絶対数スコアのベースラインからの変化量(平均値)は表13のとおりであった.

表8投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2 g/dL以上上昇した患者の割合(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団)

全体集団 日本人集団
ダニコパン群
(n‍=‍42)
プラセボ群
(n‍=‍21)
群間差
(ダニコパン群-プラセボ群)
P ダニコパン群
(n‍=‍5)
プラセボ群
(n‍=‍2)
割合%(例数) 59.5(25) 0 46.9 ‍<‍0.0001a) 60.0(3) 0
95%信頼区間 43.3,74.4 0.0,16.1 29.2,64.7 14.7,94.7 0.0,84.2

a)スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴の層別因子で調整したCMH検定

表9投与開始から12週間輸血を回避できた患者の割合(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団)

全体集団 日本人集団
ダニコパン群
(n‍=‍42)
プラセボ群
(n‍=‍21)
群間差
(ダニコパン群-プラセボ群)
P ダニコパン群
(n‍=‍5)
プラセボ群
(n‍=‍2)
割合%(例数) 83.3(35) 38.1(8) 41.7 0.0004a) 100(5) 50.0(1)
95%信頼区間 68.6,93.0 18.1,61.6 22.7,60.8 47.8,100 1.3,98.7

a)スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴の層別因子で調整したCMH検定

表10投与12週時点のFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団,全体集団)

ダニコパン群
(n‍=‍42)
プラセボ群
(n‍=‍21)
群間差
(ダニコパン群-プラセボ群)
P
最小二乗平均値(標準誤差) 7.97(1.128) 1.85(1.581) 6.12(1.894) 0.0021a)
95%信頼区間 5.72,10.23 -​1.31,5.02 2.33,9.91

a)投与群,来院時期,来院時期と投与群の交互作用をカテゴリカル変数の固定効果とし,ベースライン値,スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴を連続変数の共変量としたMMRM法

表11投与12週時点のFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団,日本人集団)

ダニコパン群
(n‍=‍5)
プラセボ群
(n‍=‍2)
平均値(標準偏差) 5.00(5.657) -​8.50(2.121)
表12投与12週時点の網状赤血球絶対数(109/L)のベースラインからの変化量(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団,全体集団)

ダニコパン群
(n‍=‍42)
プラセボ群
(n‍=‍20)
群間差
(ダニコパン群-プラセボ群)
P
最小二乗平均値(標準誤差) -​83.8(8.93) 3.5(12.68) -​87.2(15.25) ‍<‍0.0001a)
95%信頼区間 -​101.6,-​65.9 -​21.9,28.8 -​117.7,-​56.7

a)投与群,来院時期,来院時期と投与群の交互作用をカテゴリカル変数の固定効果とし,ベースライン値,スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴を連続変数の共変量としたMMRM法

表13投与12週時点の網状赤血球絶対数(109/L)のベースラインからの変化量(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団,日本人集団)

ダニコパン群
(n‍=‍5)
プラセボ群
(n‍=‍2)
平均値(標準偏差) −18.00(17.792) 41.45(44.618)

ダニコパンの薬力学的作用を検討するために,その他の‍評‍価項目として,投与12週時点のPNH型赤血球のC3フラグメント沈着(PNH型赤血球のうちのC3沈着陽性細‍胞の割合)を評価したところ,ベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は,ダニコパン群-​15.06%,プラセボ群0.89%であり,ダニコパン群で有意に減少した(P‍=‍0.0041,名目上のP値,MMRM法)(表14).溶血アッセイにより二重盲検期から継続投与期までの第二経路活性の推移を検討したところ,ダニコパン群では投与前に32%の活性があったが,投与後は9.9%に低下し,以降,24週目の投与後まで測定したほとんどの時点で10%未満であった.プラセボ群では12週目の投与前までは約35~42%で推移していた活性は,ダニコパンに切り替えた投与開始12週後時点で約13%に低下し,以降24週目の投与後まで,測定した全時点で10%未満であった(図5).これらの結果から,ダニコパンのPNH患者に対する有効性とそれを裏付ける第二経路に対する阻害作用が示された.

表14投与12週時点のPNH型赤血球のC3フラグメント沈着(PNH赤血球Ⅲ型)(%)のベースラインからの変化量(二重盲検期:中間解析における有効性解析対象集団)

ダニコパン群
(n‍=‍23)
プラセボ群
(n‍=‍10)
群間差
(ダニコパン群-プラセボ群)
P
最小二乗平均値(標準誤差) −15.06(2.824) 0.89(4.394) −15.95(5.126) 0.0041a)
95%信頼区間 −20.83,−9.28 −8.07,9.86 −26.43,−5.47

a)投与群,来院時期,来院時期と投与群の交互作用,ベースライン値,スクリーニング時点のHb濃度,輸血歴を連続変数の共変量としたMMRM法

図5 第二経路活性の推移(二重盲検期~継続投与期)

 3)安全性

ダニコパン群及びプラセボ群の全投与患者を対象とした二重盲検期における副作用発現頻度は,ダニコパン群では21.1%(12/57例),プラセボ群では27.6%(8/29例)であった.各群で2例以上に認められた副作用を表15に示す.重篤な副作用は,ダニコパン群で1例(血中ビリルビン増加及び膵炎を発現した1例)に認められ,プラセボ群では認められなかった.投与中止に至った副作用は,ダニコパン群で3例(肝酵素上昇1例,ALT増加及びAST増加を発現した1例,血中ビリルビン増加及び膵炎を発現した1例),プラセボ群で1例(AST増加)に認められた.死亡に至った副作用は認められなかった.注目すべき副作用である髄膜炎菌感染症は認められなかった.また同じく注目すべき副作用である肝酵素上昇は,ダニコパン群で5例(ALT増加及びAST増加を発現した2例,肝機能異常,肝酵素上昇,血中ビリルビン増加各1例),プラセボ群で2例(AST増加2例)に認められた.日本人集団における副作用発現頻度は,ダニコパン群では25.0%(2/8例)であり,内訳は,肝機能異常,高血圧が各1例であった.プラセボ群(4例)では副作用は認められなかった.

表15二重盲検期における副作用の発現状況(各群で2例以上に認められた副作用)

ダニコパン群
(n‍=‍57)
プラセボ群
(n‍=‍29)
全副作用の発現例数(%) 12(21.1) 8(27.6)
悪心 4(7.0) 2(6.9)
発熱 2(3.5) 0
ALT増加 2(3.5) 0
AST増加 2(3.5) 2(6.9)
頭痛 2(3.5) 0

発現例数(%)

MedDRA/J version 25.1(データカットオフ:2023年3月31日)

継続投与期における副作用発現頻度は,ダニコパン継続群では5.5%(3/55例)で,プラセボからダニコパンへの切り替え(プラセボ/ダニコパン)群では25.9%(7/27例)であった.重篤な副作用は,プラセボ/ダニコパン群で1例(頭痛)に認められ,ダニコパン継続群では認められなかった.投与中止に至った副作用,死亡に至った副作用は認められなかった.注目すべき副作用である髄膜炎菌感染症は認められず,肝酵素上昇はプラセボ/ダニコパン群で1例(肝機能異常)に認められた.

延長投与期における副作用発現頻度は,全体集団で25.0%(21/84例)であった.全体集団で2例以上に認められた副作用を表16に示す.重篤な副作用は2例(血中ビリルビン増加及び膵炎を発現した1例,頭痛1例)に認められた.投与中止に至った副作用は4例(肝酵素上昇1例,ALT増加及びAST増加を発現した1例,血中ビリルビン増加及び膵炎を発現した1例,肝機能異常1例)に認められた.死亡に至った副作用は認められなかった.注目すべき副作用である髄膜炎菌感染症は認められず,肝酵素上昇は7例(肝機能異常3例,ALT増加及びAST増加を発現した2例,肝酵素上昇,血中ビリルビン増加各1例)に認められた.日本人集団における副作用発現頻度は33.3%(4/12例)であり,内訳は,肝機能異常が3例,高血圧が1例であった.

表16延長投与期における副作用の発現状況(全体集団で2例以上に認められた副作用)

n‍=‍84
全副作用の発現例数(%) 21(25.0)
悪心 5(6.0)
頭痛 3(3.6)
肝機能異常 3(3.6)
発熱 3(3.6)
ALT増加 2(2.4)
AST増加 2(2.4)
下痢 2(2.4)
血小板減少症 2(2.4)

発現例数(%)

MedDRA/J version 25.1(データカットオフ:2023年3月31日)

6.  おわりに

現在PNHの治療で標準的に使用されているC5阻害薬はPNHの治療を大きく改善したが,C5阻害薬を投与されている一部の患者ではEVHとそれに伴う貧血症状の持続が問題になっており,有効な治療法が求められていた.補体D因子阻害薬であるダニコパンは,第二経路の活性化を選択的に阻害し,C5阻害薬投与中のPNH型赤血球へのC3フラグメント沈着とEVHを抑制する.

ダニコパンの有効性及び安全性は,国際共同第Ⅲ相試験(ALPHA試験;ALXN2040-PNH-301試験[NCT04469465])において検討され,主要評価項目である投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量について,プラセボに対する優越性が示された17.また,主な副次評価項目である投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2 g/dL以上上昇した患者の割合,投与開始から12週間輸血を回避できた患者の割合,投与12週時点のFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量,及び投与12週時点の網状赤血球絶対数のベースラインからの変化量のいずれにおいても,プラセボ群と比較して有意な差が認められた17.同試験における副作用の発現状況からは,ダニコパンの安全性について大きな懸念は示されなかった.これらの有効性及び安全性の結果をもとに,ダニコパンは,C5阻害薬による治療を行っても効果不十分なPNH患者において,C5阻害薬と併用する新たな治療薬として2024年1月に国内での承認を受けた.

なお,C5阻害薬の投与によって,髄膜炎菌をはじめとする莢膜形成細菌による感染症の発現リスクが高まることが知られている1.ダニコパンもまた,補体介在性の感染防御機能を部分的に阻害する作用機序を持ち,髄膜炎菌感染症のリスクが懸念される.前述のALPHA試験では,髄膜炎菌感染症に関連する有害事象は二重盲検期,継続投与期,及び延長投与期を通して認められなかったが,髄膜炎菌ワクチンの接種歴を有することを選択基準としていた.これらをふまえて,ダニコパンの投与を開始する前には必ず髄膜炎菌ワクチンの接種歴を確認し,接種が確認できない場合や追加接種が必要な場合は,原則,ダニコパン投与前にワクチンを接種し,投与期間中も必要に応じてワクチンの追加接種を考慮する必要がある.髄膜炎菌感染症が疑われた場合には直ちに診察し,抗菌薬の投与などの適切な処置を速やかに行える体制を整えておくことが肝要である.

また,ダニコパンの臨床開発プログラムにおいては,重度の肝機能障害患者を対象とした臨床試験は実施しておらず,前述のALPHA試験における一部の患者で肝酵素上昇がみられたことから,ダニコパンの投与開始前及び投与期間中は定期的な肝機能検査を実施することが求められる.

ダニコパンは2024年1月に承認を受け,2024年4月より販売を開始した新規治療薬であり,今後も薬剤の適正使用に努めながら症例の蓄積と継続した安全性のモニタリングを行っていくことが重要である.ダニコパンにより,C5阻害薬を用いた終末補体経路抑制によるIVH管理を継続しながら,近位補体経路抑制によるEVHの治療を行うことが可能となった.ダニコパンが貧血などの症状に苦しむPNH患者に貢献できることを期待している.

利益相反

林 英生(アレクシオンファーマ合同会社).

文献
 
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