GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EUS-GUIDED BILIARY DRAINAGE
Kazuo HARA Susumu HIJIOKANozomi OKUNONobumasa MIZUNO
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2016 Volume 58 Issue 10 Pages 2141-2153

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要旨

近年,超音波内視鏡を応用した治療手技として,超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ(EUS-guided biliary drainage:EUS-BD)が注目されている.EUSを用いて経消化管的に胆管を穿刺し,ドレナージを行う手技である.通常の経乳頭的胆道ドレナージが困難な症例に対しては,経皮経肝胆道ドレナージが行われて来たが,外瘻になることによる苦痛やQOLの低下から新しい代替治療としてEUS-BDが開発されて来た.EUS-BDは,消化管と胆道に瘻孔を形成させるEUS下胆管消化管吻合術(EUS-guided bilio-enterostomy)と,EUSを用いて胆道穿刺を行い,そのルートを利用して経乳頭的または順行性アプローチを行うEUS-guided approachに大別される.保険収載されている胆管に対する瘻孔形成術とは,EUS下胆管消化管吻合術のことを示し,具体的には超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS:EUS-guided choledochoduodenostomy),超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-HGS:EUS-guided hepaticogastrostomy),超音波内視鏡下胆管空腸吻合術(EUS-HJS:EUS-guided hepaticojejunostomy)などを示す.EUS-BDは安全に施行できれば,臨床上非常に有用な手技であり,患者さんにもたらす恩恵も大きい.しかし,不慣れな術者が重篤な偶発症をおこす可能が指摘されており,教育と普及の面で大きな課題を残している.

本稿では,EUS-BDの現状と展望について述べた.現在もなお発展途上の手技であるため,今回の内容が不変的なものではないことを付け加えさせていただく.

Ⅰ はじめに

超音波内視鏡(EUS:Endoscopic ultrasound)は画像診断のみにとどまらず,超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引法(EUS-FNA:Endoscopic ultrasound guided Fine Needle Aspiration)まで発展し,普及を遂げてきた.最近では,EUSを用いた治療手技が次々に開発されているが,なかでもEUSを用いた各種ドレナージ術が行われるようになっている.Diagnostic EUS-FNAとTherapeutic EUSを合わせてInterventional EUSと呼ばれるようになっている.最も一般的な超音波内視鏡下ドレナージは膵仮性のう胞に対するドレナージであり,広く普及していると言える.もう一つ注目を集めている手技として,超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ(EUS-guided biliary drainage:EUS-BD)がある.1996年にWiersemaらがERCP不能例に対してEUS下に胆管造影を行った報告 1)が始まりとされ,2001年には,Giovanniniらによる胆管十二指腸吻合術が報告されている 2).簡単に言えば,EUSを用いて経消化管的に胆管を穿刺し,ドレナージを行う手技である.通常の経乳頭的胆道ドレナージが困難な症例に対しては,経皮経肝胆道ドレナージ(Percutaneous transhepatic biliary drainage:PTBD)が行われて来たが,外瘻になることによる苦痛やQOLの低下から新しい代替治療としてEUS-BDが開発された.

EUS-BDは,消化管と胆道に瘻孔を形成させるEUS下胆管消化管吻合術(EUS-guided bilio-enterostomy)と,EUSを用いて胆道穿刺を行い,そのルートを利用して経乳頭的または順行性アプローチを行うEUS-guided approachに大別される.保険収載されている胆管に対する瘻孔形成術とは,主にEUS下胆管消化管吻合術のことを示し,具体的には超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS:EUS-guided choledochoduodenostomy),超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-HGS:EUS-guided hepaticogastrostomy),超音波内視鏡下胆管空腸吻合術(EUS-HJS:EUS-guided hepaticojejunostomy)などを示す.EUS-guided approachは,EUS-RV(rendezvous)とEUS-AGS(antegrade stenting)に大別されている.

EUS-BDは,安全に施行できれば,臨床上非常に有用な手技であり,一部の手技はすでに保険収載されている.しかし,不慣れな術者が見よう見まねでこれらに手技を行うと,重篤な偶発症が起こる可能が指摘されており,教育と普及の面で大きな課題を残している.

本稿では,EUS-BDの現状と展望について述べるが,現在もなお発展途上の手技であり,今回述べる内容が不変的なものではないことを付け加えておく.

Ⅱ 超音波内視鏡下瘻孔形成術の保険収載について

超音波内視鏡下瘻孔形成術は,診療報酬点数表に以下の通り記載されている.

≪K682-4 超音波内視鏡下瘻孔形成術(腹腔内膿瘍に対するもの)21,320点≫通知:

腹腔内の膿瘍形成に対し,コンベックス型超音波内視鏡を用いて瘻孔形成術を行った場合に算定する.この際の超音波検査及び内視鏡検査の費用は所定点数に含まれる.なお,膵仮性囊胞,膵膿瘍,閉塞性黄疸又は骨盤腔内膿瘍に対し,コンベックス型超音波内視鏡を用いて瘻孔形成術を行った場合についても本区分で算定する.

現在,閉塞性黄疸に対して主に行われている瘻孔形成術は,胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS)と肝胃吻合術(EUS-HGS)が主である.これらの手技は,広く認知されており,今後も更なる発展を遂げると予想されている.そこで本稿ではEUS-CDSとEUS-HGSを中心として解説をさせていただきたい.また,EUS-guided approach,EUS-assisted ERCP(EUS-RV,EUS-AGSなど)は,保険収載されていない手技である.EUS-RVはその後に引き続きERCPを施行するため,ERCPとして保険請求が可能であるが,EUS-AGSは瘻孔形成を伴わない手技であり,現状では手技点数がない.この様にEUSを用いた新たな手技が次々と登場する中での保険収載の対応が遅れており,今後の課題である.

Ⅲ 使用機器とデバイスについて

a)超音波内視鏡について(Figure 1

前方斜視コンベックス型EUSまたはリニア型EUSを用いることが一般的である.これらの汎用EUSを用いれば,ほぼすべてのEUSガイド下治療が可能である.ラジアル型EUSでは安全な穿刺ができないため,Interventional EUSには不向きである.前方斜視コンベックス型EUSまたはリニア型EUSの問題点として,十二指腸の2重穿刺が報告されている 3),4).後腹膜気腫などの重篤な偶発症を惹起する可能性があり 3),避けるべき偶発症であるが,内視鏡の特性上,一部の症例では避けられない可能性がある.安全に手技を行うためには,EUS-CDS施行時には直視コンベックス型EUSの使用を進める報告もある 5),6).直視コンベックス型EUSを用いれば,消化管と穿刺針が直交するため,十二指腸壁を2回貫く可能性はほとんどないと言える.ただし,直視コンベックス型EUSは,内視鏡操作がやや難しいため,前方斜視コンベックス型EUSに精通していないとEUSの走査は困難である.

Figure 1 

超音波内視鏡.

EG-580UTは,前方斜視コンベックス型EUSであるが,先端硬性部が他のEUSスコープにくらべて短くコンパクトに設計されているため,アングルによるスコープの可動域が大きいという特徴がある.また,前方斜視コンベックス型EUSでありながら良好な内視鏡像が得られるという特性も兼ね備えている.

GF-UCT260はスタンダードな前方斜視コンベックス型EUSであり,汎用性が高い仕様となっている.直視コンベックス型EUS(TGF-UC260J)は直視鏡としての機能を備えている.

b)穿刺針について(Figure 2

通常用いられる穿刺針はEUS-FNAで使用されている19G Fine Needleである.Sono Tip 19Gは,19Gであっても柔軟性に富んでいるため,刺入角度の調整が容易であり穿刺しやすいという特徴がある4).肝内の深部胆管を穿刺するような場合は,その柔軟性がゆえに針が曲がりやすいという短所もある.そのような場合には,Expect 19Gなどを使用すると,穿刺針が直進しやすく,狙った位置に針先を刺入することが可能である.また,高度の胆管炎により胆管壁が硬い場合や,肝外胆管の拡張が不十分な時には,22G針または通電針を用いると有効な可能性がある 5),7).穿刺後のガイドワイヤ操作を楽に行うために,専用の穿刺針が開発されているが 8),刺入性能が通常のFNA針に比べて若干劣るため,好んで使用している施設は少ない 9)

Figure 2 

穿刺針.

Sono Tipは柔軟性に優れている.Expectは直進性がよく,深部胆管の穿刺に優れてる.Zimmon knifeは通電針として利用される.

c)ダイレータ(Figure 3

穿刺後のルート拡張は,EUS-BDを行う上で最も重要なポイントの1つである.機械的拡張が安全であることは言うまでもない.通常は,カテーテル型のダイレータまたは,バルンカテーテルが用いられる 10)~14).機械的拡張が困難な場合には,通電同軸ダイレータの使用が有効である 4).機械的拡張にこだわりすぎると手技の不成功を招く可能性があるため,常に通電同軸ダイレータの準備をしておく必要がある.通電の処置具を用いる場合で,穿刺ルートの近くを血管が走行している場合には,EUS画面上に血管が描出されていなくても細心の注意が必要である.EUS画面上で認識できる血管は,容易に避けることができるためむしろ出血の危険性は少ない.しかし,EUS画面上に描出されてないが,すぐ近傍を走行する血管があった場合は,通電の影響を受ける可能性があり出血などの危険を伴う.手技を成功させるためには,機械的拡張と通電拡張の特性をよく理解して,症例に応じて使い分けることが重要である.

Figure 3 

ダイレータ.

Soehendra biliary dilation catheterは不透過マーカーが搭載されており,ERCPでも使用される頻度の高いダイレータである.ESダイレータは,先端が針状にテーパリングされており,強固な狭窄突破に適するが,デリバリーが非常に硬い.Cyst Gastro Setは,通電可能な同軸ダイレータである.

d)ステント(Figure 4

EUS-BDのなかで最も重要なポイントは,ステントの留置である.ここで手技の成否が決まる.EUS-BD専用処置具の開発が以前からの課題であったが,最近では韓国を中心に専用処置の開発が進んでいる 15)~18).ステントの開発の分野において本邦は世界的に大きく後れをとっている.EUSガイド下治療の専用ステントの先駆けは,AXIOS stentである 19)~22).AXIOSステントはlumen apposing stentとして開発された.留置時には他のステントと同様にコツが必要であり,必ずしも安全とは言えないが,留置後はそのlumen apposing効果のため,逸脱や迷入などの可能性が限りなく低く,安全に瘻孔形成が可能である.デリバリーシステムに通電機能がついたHot AXIOSもさらに画期的なステントシステムとして注目されている 19).AXIOSのほかにも韓国のグループからOne step deviceの開発が試みられている 17),18).穿刺ルートの拡張からステント留置までをone stepで行うという試みである.処置具の入れ替えが少なければそれだけ時間短縮になり,胆汁漏れが少なくなるはずである.これらの処置具の開発が進めば偶発症の軽減につながる可能性が高く,理想的な処置具と言える.これらの海外発のステントは今現在,本邦での承認はとれていないため実際には使用できない.現状では,EUS-CDSには4~6cm長,EUS-HGSには10~12cm長で,径6~10mmの胆管ステントが用いられている 5),23).手技を簡単に行うためにプラスチックステントの使用を支持する声もあるが 24),ステントの開存期間が短いことや,胆汁漏などの早期偶発症の懸念があり,EUS-BDに精通した術者のほとんどが金属ステントを第一選択としている 25),26)

Figure 4 

金属ステント.

EUS-CDSには,WallFlexTM Biliary RX stent などの通常の胆管ステントが用いられる.EUS-HGSなどの経肝ドレナージには,Niti-STM S-type biliary stentなどの10cm以上の長いステントを用いる.先端1cm Bareになっているのが特徴である.AXIOSTM Stentは,胆嚢ドレナージや膵のう胞ドレナージにもっとも適している.図に示したものはHot AXIOSと呼ばれる通電機能を有したシステムである.

Ⅳ EUS-BDの実際

本稿では,EUS-BDの実際の手技について紹介させていただく.EUS-BDは,“経消化管的に胆道を穿刺し,穿刺ルートにステントを留置する手技”である.基本的な内視鏡操作はすべて同一であるが,超音波内視鏡下膵仮性嚢胞ドレナージなどでEUSガイド下治療に精通している術者であっても,EUS-BDは手技のコツが異なるため,実際に導入する場合には経験豊富な内視鏡医の指導を仰ぐべきである.

EUS-CDSFigure 5

Step1.EUSスコープを十二指腸球部まで挿入し,EUS画面上で肝外胆管を描出し,穿刺を行う.門脈系の閉塞を伴う膵癌症例の場合は側副血行路が発達して胆管周囲の血流が増している場合があるので注意を要する(Figure 5-a,b).

Figure 5

a:EUS-CDS(超音波画像).図は,直視コンベックス型EUSの超音波画像である.肝外胆管を可能な範囲で長軸に描出する.胆嚢管を誤穿刺しないようにあらかじめEUSで確認する必要がある.カラードプラを用いて,EUS画面上のみではなく,胆管周囲の血流評価を行った後に穿刺を行う.

b~e:EUS-CDS(透視画像).b:直視コンベックス型EUSと19G FNA針を用いて肝外胆管を穿刺する.c:胆管造影を行い,肝門部と胆管の走行を確認する.d:ガイドワイヤを胆管抹消側まで深く挿入し,引き続き穿刺ルートを拡張する.e:最後に胆管ステントを留置して手技を終了する.

f:EUS-CDS(術後CT像).EUS-CDS翌日のCT像を示す.肝門部から十二指腸内にステントが留置されている.周囲に胆汁漏もFree Airもないことが確認できる.

Step2.胆管を穿刺後,十分に胆汁吸引を行った後に胆管造影を行う.最後に留置するステントの位置を決めるため,ここで肝門部胆管の位置を把握しておく必要がある.刺入部が不適切な位置であれば,この段階までなら再穿刺や撤退も可能である(Figure 5-c).

Step3.ガイドワイヤを胆管深部まで十分に挿入し,穿刺ルートの拡張を行う.機械的拡張または通電拡張を行う(Figure 5-d).穿刺ルートを拡張する際には,透視像のみに気をとられ,超音波画像を見ないで拡張を行うと,穿刺ルートの軸を見失い手技に難渋することがある.穿刺ルートの拡張を行う際には,超音波画像上に穿刺ルートを描出したまま行うことを心がけるべきである.

Step4.穿刺ルートを介して肝外胆管から十二指腸内にかけてステントを留置する.ここでも超音波画像上に穿刺ルートを描出したままデリバリーの挿入を行うことを心がけるべきである(Figure 5-e).

手技の翌日には,血液検査と画像診断を行い早期偶発症の有無を確認することが望ましい(Figure 5-f).可能であればCT撮影を行い,ステントの位置確認,胆汁漏の有無,その他の偶発症の有無などを確認する.

EUS-HGSFigure 6

Step1.まず,手技のはじめにEG junctionにマーキングクリップを行い,食道穿刺を避ける工夫が報告されている.食道穿刺(経縦隔穿刺)は重篤な偶発症を招く危険性があるため避けるべきである.B2を安全に穿刺できる状況であれば,B2を穿刺対象としたほうが後の手技が容易になる.しかし,B2穿刺は経食道穿刺になることが多いため,安全性を重視してB3を選択することが多い(Figure 6-a).

Figure 6

a:EUS-HGS(内視鏡像と超音波画像).EUS-HGSを行う際には,経食道穿刺(縦隔穿刺)を避けるためにマーキングクリップをするとよい.B3の拡張胆管を狙ってFNA針で穿刺を行う(矢印は穿刺針を示す).

b~f:EUS-HGSとEUS-AGS.b:前方斜視コンベックス型EUSを用いてB3を穿刺する.症例によってはB2を穿刺することもある.c:胆管造影を行い,胆管の走行を確認する.d:ガイドワイヤを十二指腸内まで誘導し,下部胆管の狭窄部に対してステントを留置する(EUS-AGS:EUS-Antegrade Stenting).e:最後に肝内胆管から胃内にかけてステントを留置して手技を終了する.f:胃内まで留置されたEUS-HGSのステント.

Step2.B2またはB3を穿刺後,ガイドワイヤを胆管内に十分深く挿入する.ガイドワイヤで下部胆管の狭窄部を突破し,十二指腸内までガイドワイヤを誘導することが容易にできた場合には,EUS-AGSの併用を考慮する(Figure 6-b~d 27)

Step3.下部胆管の狭窄部に対してEUS-AGSを行う27).この際に,なるべく経十二指腸乳頭にならないようにステントを留置することが望ましい.特に膵管非拡張例では,膵炎の危険性が高いため避けるべきである(Figure 6-d).

Step4.最後に肝内胆管から胃内にかけて10cm長または12cm長のステントを留置して手技を終了する(Figure 6-e,f).

手技の翌日には,血液検査と画像診断を行い早期偶発症の有無を確認することが望ましい.可能であればCT撮影を行い,ステントの位置確認,胆汁漏の有無,その他の偶発症の有無などを確認する(Figure 7).EUS-HGSを行う際には,肝臓と胃の間に距離があることを念頭におく必要がある.ステントの迷入や逸脱は,術後数日で起こる可能性があり 28),29),十分な経過観察が望まれる.

Figure 7

a:EUS-HGS(術後CT像).肝臓と胃は癒着しておらず,両者の間には距離がある.この距離が,EUS-HGSを行う際に迷入の原因となる.

b:EUS-HGS術後の胆汁漏.EUS-HGS術後の胆汁漏を矢印でしめす.状況に応じて追加ドレナージを考慮する必要がある.

Ⅴ EUS-BDの適応について

現状におけるEUS-BDの適応は,術後の変更解剖例,十二指腸狭窄例,ERCPの挿管困難例などの症例で,PTBDの代替治療として適応がある 3),30).しかし,PTBDを否定するものではない.PTBDは長年の歴史に裏付けされた安全性が高い手技である.熟練者が施行すれば,重篤な偶発症は極めて少なく,EUS-BD施行不能例や不成功例であっても施行可能である.EUS-BDにこだわるあまりにPTBDを避けることは百害あって一利なしである.しかし,最近ではEUS-BDをERCP施行前に初回ドレナージとして施行するという試みもある.ERCPの欠点は,膵炎が避けられないことであり,EUS-BDの利点は膵炎がないことである.この利害関係からすれば,EUS-BDをERCP可能例に対して行うということも合理的ではある 5),31),32).しかし,安全性が担保できる専用処置具がない現状では,EUS-BDをprimary drainageとして安全に施行できる施設は限られている.現状におけるEUS-BDの治療選択案をFigure 8に示した 3).治療法の選択に関しては,各施設の状況に応じて適切に判断されるべきであり,絶対的なものではないことを付け加えておく.

Figure 8 

Algorithm of EUS-BD for inoperable malignant Lower biliary obstruction.

EUS-RV:EUS-guided rendezvous technique.

EUS-CDS:EUS-guided choledochoduodenostomy.

EUS-HGS:EUS-guided hepaticogastrostomy.

PTBD:Percutaneous transhepatic biliary drainage.

ERCP:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography.

Ⅵ EUS-BDの治療成績と偶発症

EUS-BDの手技の成功率は,初心者とエキスパートで大きく異なることが示されている.スペインからの報告 33)によると,EUS-BD施行経験が20症例未満の施設が集まり,多施設後ろ向き研究を行ったところ,手技成功率と偶発症はEUS-HGS:64.7%・29%,EUS-CDS:86.3%・15.3%,であったと報告されている(Table 1).EUS-HGSに関しては,手技の成功率が低く,偶発症が高いことが報告されている.それに比してEUS-CDSは手技の成功率が高く,偶発症が低いことが示されている.この報告では,最終的な致死率は4%であったと報告している.4%の致死率とは,通常の消化器外科手術よりも高く,尋常ではないことが分かる.このことから,EUS-BDは初心者にとっては大変危険な手技であると認識されてきた.一方,エキスパートの施設からの多施設後ろ向き研究 25)によると,手技成功率と偶発症はEUS-HGS:91.8%・19.7%,EUS-CDS:93.3%・13.3%,であったと報告されている(Table 2),手技の成功率,偶発症の発生率ともに初心者の成績を上回る良好な成績が示されている.その他の専門施設からの報告を見ても偶発症の発生率は,10~20%と報告されており,偶発症の発生率がやや高い手技であることは否めない 34)~37).EUS-HGSとEUS-CDSが比較された論文では 25),35),38),EUS-HGSの偶発症がやや高い傾向にあるとされていることが多い 26),36).本邦からの多施設共同研究によると,偶発症の発生率は,EUS-CDS 14%,EUS-HGS 30%と報告されている 26).やはり,EUS-HGSにおいては特に偶発症に注意するべきである.しかし,両者間にはそもそも適応の違いがある.EUS-CDSは十二指腸狭窄が無い症例に適応があり,EUS-HGSは術後症例や十二指腸狭窄例に適応がある.つまり,2つの手技を直接比較することにはあまり意味がないが,どちらの手技も可能な場合には,手技の成功率と安全性の観点からEUS-CDSを選択すべきと考えられる.

Table 1 

EUS-BDの初心者による成績.

EUS-BDの初心者は,EUS-HGSの成功率が64.7%と低く,偶発症が29%と高い.

最終的な死亡率は4%と高率であることが報告されている.

Table 2 

EUS-BDのエキスパートによる成績.

手技の成功率は90%以上と高く,偶発症も初心者に比べ低いことが報告されている.

EUS-BDのステント開存期間については,定まった報告がないのが現状である 3),5),26),31).全身状態が不良な患者さんが多く,術後の観察期間が短いことが主な原因である.一般的には,EUS-CDSの開存期間はEUS-HGSより長いと認識されている.

EUS-BDには特徴的な偶発症がある.EUS-CDSで注意すべきは胆汁漏と十二指腸の2重穿刺である 3),4).EUS-HGSで注意すべきは胆汁漏,区域性胆管炎,ステントの迷入・逸脱,ステントの過拡張による胆管狭窄 3),肝動脈瘤 17),28),29),39)などである(Figure 7).胆汁漏を早期に発見するためには,術後のCT scanが有効である.術後の胆汁漏を軽減し,ステントの長期開存を目的としたAntegrade stentingが報告されている 40),41).EUS-HGSの胆汁の流れは,逆行性であり,時に頻回の閉塞を経験する.そのため,順行性にドレナージを置く試みは合理的と言えるが,ステント留置による急性膵炎のリスクがあることを忘れてはならない.EUS-HGSの偶発症としてあげた,区域性胆管炎とステントの迷入・逸脱は,施術から数日経過した後にも発症する可能性がある.特に区域胆管炎は,施術から数日後に発症することが珍しくないため,十分な経過観察を行うことが必要である.

Ⅶ 超音波内視鏡下瘻孔形成術による閉塞性黄疸治療に関する提言 2014年

EUS-BDが急速に普及しつつある半面,EUS-BDの偶発症が問題になっている.特に初心者が施行する場合には大きなリスクを伴うため,4学会からEUS-BDに関する提言がなされている.以下に公表された文面を示す.

超音波内視鏡下瘻孔形成術による閉塞性黄疸治療(EUS-guided biliary drainage:EUS-BD)は超音波内視鏡ガイド下に,経消化管的に胆道にアプローチし,ドレナージを行う手技である.本手技は,原則的に経乳頭的胆道ドレナージが困難な症例において,経皮経肝胆道ドレナージ,外科治療に並んで考慮される治療選択肢の一つである.本手技の短期的有効性について多数の報告があるが,手技に関連した偶発症として胆汁性腹膜炎,出血,穿孔などが知られており,時に重症化する例も存在する.長期成績に関しては,多数例での報告は少ないのが現状である.また,手技の標準化,偶発症の予防策など解決すべき問題も残っている.従って本手技を行う際は,その適応を十分考慮し,手技,成績,偶発症,代替手段を患者さんに十分に説明し同意を得た上で行うべきである.また,偶発症が発生した際に迅速に対応できる,外科医,放射線科医などを含めた診療体制を予め病院内で構築しておく必要がある.更に,本手技の施行医および介助医は,手技に関する十分な知識を有し,内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技および超音波内視鏡ガイド下穿刺術(EUS-FNA)に熟練していることが必要である.初回実施前に経験の豊富な施設で見学,研修を行うことが望ましい.初回実施時にはこの手技に精通した医師の下で行うことを推奨する.

日本消化器内視鏡学会

日本消化器病学会

日本胆道学会

日本膵臓学会 合同

これらの提言を真摯に重く受け止め,EUS-BD症例の適応を慎重に選択すべきであると考えられる.

Ⅷ 最後に

現在までに最良なEUS-BDの専用処置具は開発されておらず,いまだ開発途上である.そのような中にあっても,手技的な問題点はすでに概ね克服されつつある.今後,専用処置具の開発により偶発症が予防できた暁には,ERCPを超えてFirst lineの胆管ドレナージになる可能性を秘めている手技であり,今後の更なる発展が期待される.しかし,現状では安全性が完全には担保されていないため,不慣れな術者が安易に施行すべきではないと考えられる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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