2016 Volume 58 Issue 9 Pages 1466-1491
2008年(平成20年)より2012年(平成24年)の5年間における消化器関連の偶発症数は,総検査数17,087,111件に対して12,548件(0.073%)であった.観察のみの偶発症の発生率の0.014%に対し,治療的な内視鏡検査での偶発症発生率は0.67%と約50倍高かった.死亡事案は220件あり,特に70歳以上の高齢者での死亡が164件と全体の3/4をしめた.
1983年に開始され,5年毎に行われてきた消化器関連の偶発症調査は今回で6回目になった.第6回調査は2008年(平成20年)より2012年(平成24年)の5年間に発生した検査および治療における被検者と術者双方の偶発症を調査する目的で行われた.
アンケートはこれまでの調査の連続性を保つために,第5回調査のアンケートを基本とした.しかし,腹腔鏡下手術については,外科系の学会で調査が行われており,今回の調査からは外科的治療目的の腹腔鏡は調査の範疇に含めないこととした.
2.アンケートの依頼と回答率アンケートは事前にアンケートの用紙を,本学会の指導施設を中心に評議員の所属する1,278施設に発送した.そして,回答をインターネット上で行う事とした.回答は544施設から得られ,回答率は42.6%であり,これまでの調査と比較して若干低下した(Table 1).
アンケートの依頼と回答率.
検査総数は,観察(±生検)のみが15,545,115件,治療内視鏡が1,534,202件,腹腔鏡が7,794件の合計17,087,111件で,過去5回の調査件数(Table 2)より増加していた.偶発症数は,12,548件(0.073%)であり,件数,比率ともに増加した.偶発症の内訳は,観察のみで2,132件(0.014%),治療内視鏡で10,387件(0.677%),腹腔鏡で2件(0.026%)であり,治療内視鏡での偶発症は観察のみの約50倍であった(Table 3).
検査総数と偶発症発生数.
第6回調査期間に行われた検査と偶発症発生数.
アンケート調査は本学会の指導施設が中心であり,一施設あたりの年間検査件数は平均で観察のみが5,715件,治療内視鏡が564件,腹腔鏡が3件,総数が6,282件と,検査件数は著しく増加した(Table 4).
一施設あたりの年間平均検査件数.
前処置に関連する偶発症は472件(0.0028%)で起こり,このうち死亡数は9件(0.00005%)であった(Table 5).前処置に関連する偶発症は前回よりも低下しており,第3回調査以降の減少傾向が続いている.
前処置に関連する偶発症.
偶発症の内容は,鎮静・鎮痛薬関連219件(46.5%),腸管洗浄液関連105件(22.2%),咽頭麻酔関連39件(8.3%)の順であった.死亡者数は9例で,そのうち鎮静薬関連4例(44.4%),腸管洗浄液関連3例(33.3%),抗血栓薬休薬関連と原因不明が各1例であった.これまでの調査と同様に,鎮静薬に関連した偶発症が最も多かったが,腸管洗浄液に関連した偶発症の発症および死亡も前回調査同様に目立った.
鎮静・鎮痛薬関連偶発症のケースカードに記載があった175件においては,呼吸抑制,呼吸停止が合わせて99例と最も多く,続く偶発症も低酸素血症の22例であり,呼吸抑制に関わるものが多くを占めた(Table 6).咽頭麻酔,鎮痙薬では,ショック,皮疹等の頻度が比較的高く,アレルギーの関与が示唆された.
前処置に関連する偶発症の内容.
鎮静薬の使用状況を第4回調査と同様に全施設で行った.上部消化管では,ミダゾラム47.6%,ジアゼパム27.9%,大腸でもミダゾラム41.0%,塩酸ペチジン27.0%,ジアゼパム21.9%,膵・胆道では,ミダゾラム57.0%,ペンタゾシン34.0%(複数使用あり),と第5回調査と比較して,ミダゾラムを使用する施設が増加した(Table 7).
回答544施設での鎮静薬の使用状況.
観察のみ(生検を含む)の内視鏡検査の機種別件数は経口の上部消化管内視鏡が10,299,643件と最も多く,経鼻の上部消化管内視鏡が966,041件で,両者で11,265,684件であり,上部消化管内視鏡が最も多くを占めていたのは前回同様である.経口の上部消化管内視鏡での偶発症は550件(0.005%)であり,前回調査の2,108件(0.025%)と比して大きく低下した.一方,経鼻の上部消化管内視鏡の件数は,前回調査と比較して約6.8倍(前回141,708件)と著しく増加しており,偶発症件数も232件(0.024%)と前回の24例(0.017%)と比して大きく増加しており,割合も若干増加した(Table 8).
観察のみ(生検を含む)の内視鏡検査の件数と偶発症発生数(機種別).
経口的バルーン小腸内視鏡は9,923件,経肛門的バルーン小腸内視鏡は11,809件が実施された.偶発症は前者で33件(0.333%),後者で11件(0.093%)であり,前回調査(経口・経肛門併せて85件 0.797%)と比較して低下してきている.
大腸内視鏡は,3,815,118件が実施され,偶発症は438件(0.011%)であった.
側視型十二指腸内視鏡の実施件数は222,365件であり,偶発症は716件(0.322%)であった.
カプセル内視鏡は,総件数が15,347件と増加し,それに伴い偶発症の件数は34件(0.222%)と増加したが,割合は低下した(前回16件,0.601%).
第5回調査では側視型十二指腸内視鏡に最も多くの偶発症がみられ,今回の調査でも716件(0.322%)と最も多かったが,前回の1,429件(0.517%)と比較して,件数,割合ともに低下していた(Table 8).
検査部位・機種別に,偶発症の種類,対処方法,死亡例の有無を以下に集計する.
8.観察のみ(生検を含む)の内視鏡検査における偶発症の詳細1)上部消化管内視鏡(経口)
上部消化管内視鏡(経口)での偶発症は550件であり,ケースカードに記載のあった469件中最も多かったのは出血であり,ついで裂創が多かった(Table 9).
上部消化管内視鏡検査(経口)における偶発症.
部位別に検討すると,食道では,裂創(57件)や出血(27件)が多く,また,穿孔例も比較的多いこと(14例)が目立った.胃では出血が162件で偶発症の半数以上を占めており,次が裂創で136例あった.穿孔は十二指腸で26件みられ,球部,下行部,水平部のいずれでも起こっていた.死亡例は13例で,穿孔によるものは3例であったが,何らかの原因による検査中の心肺停止が8件と最も多かった.
2)上部消化管内視鏡(経鼻)
経鼻内視鏡の偶発症は232例であり,ケースカードに記載のあった146件中,最も多いものは鼻出血(111件)であった(Table 10).
上部消化管内視鏡(経鼻)における偶発症.
3)バルーン小腸内視鏡検査(経口)
経口的なバルーン小腸内視鏡検査での偶発症は33件報告されており,ケースカードの記載のあった32件では,膵炎の発生頻度が高く,また,誤嚥による死亡が1件報告されていた(Table 11).
バルーン小腸内視鏡(経口)における偶発症.
4)バルーン小腸内視鏡(経肛門)
経肛門的なバルーン小腸内視鏡検査での偶発症は11件報告されており,ケースカードに記載があった11例では穿孔が5件と最も多く,全件で手術が施行されていた(Table 12).
バルーン小腸内視鏡(経肛門)による偶発症.
5)大腸内視鏡
大腸内視鏡検査での偶発症は438件報告され,そのうちケースカードの記載のあった340件では穿孔が200件ともっとも多く,155例(75.5%)で手術が施行され,13例(6.5%)が死亡していた(Table 13).穿孔の部位は,小腸1例,盲腸2例,上行結腸8例,横行結腸9例,下行結腸7例,S状結腸114例,直腸42例であり,大半がS状結腸から直腸にかけての部位で起こっていた.出血は75件で,すべてが保存的ないし内視鏡的な処置で対応できていた.
大腸内視鏡による偶発症.
6)診断的ERCP
診断的なERCPは側視型十二指腸鏡とバルーン小腸内視鏡で行われており,それぞれ検査数が222,365件,6,710件の合計229,075件が行われており,偶発症は側視型十二指腸内視鏡で716件,バルーン小腸内視鏡で30件の合計746件報告されており,死亡例は前者による17例のみであった(Table 14).
診断的ERCPの件数と偶発症発生件数.
側視型十二指腸内視鏡でケースカードの記載のあった637件では急性膵炎が504件と最も多く,穿孔77件,急性胆道炎16例,裂創15件の順であった(Table 15).バルーン小腸内視鏡では,穿孔が最も多く,急性膵炎がそれに次いだ(Table 16).
側視型十二指腸内視鏡による診断的ERCPでの偶発症.
バルーン小腸内視鏡による診断的ERCPでの偶発症.
7)超音波内視鏡(EUS)
上部消化管におけるEUS専用機での実施43,130件中,偶発症は9件(0.021%)報告されており,ケースカードに記載のあった5件では,出血,穿孔がそれぞれ2件であり,手術例も1件認めた(Table 17).
EUS専用機(上部)による偶発症の種類.
下部消化管におけるEUS専用機での実施2,096件中偶発症は1件(0.048%)のみで,原因不明の脳内出血で後遺症をきたしていた.
胆膵におけるEUS専用機での実施71,896件中偶発症は30件(0.042%)であり,穿孔が16件と半数以上を占め,次いで裂創が4件であった.穿孔例の内10件で手術が施行されていた(Table 18).
EUS専用機(胆膵)による偶発症の種類.
超音波プローブを用いたEUSでは,上部消化管で実施51,299件中3件(0.006%)の偶発症の報告があり,裂創2件と穿孔1件であり(Table 19),いずれも胃で起こっていた.下部消化管での実施8,934件で偶発症の報告はなかった.
超音波プローブ(上部)による偶発症の種類.
胆管における管腔内超音波検査(IDUS)では実施13,200件中偶発症は25件(0.189%)で,急性膵炎が20件と最も多く,次いで胆道炎であった(Table 20).膵管におけるIDUSでは2,864件中偶発症は35件(1.222%)で,その内34件が急性膵炎であった(Table 21).
管腔内超音波検査(胆管)による偶発症の種類.
管腔内超音波検査(膵管)による偶発症の種類.
8)膵菅鏡,胆道・胆嚢鏡での偶発症
膵菅鏡では実施603例中2件(0.332%)の偶発症の報告があり,いずれも膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)症例における急性膵炎で,保存的に軽快したと報告されている.
経皮的胆道鏡(PTCS)での実施933件に対して偶発症の報告はなかった.経口的胆道鏡では,実施1,684件中7件(0.416%)の偶発症があり,ケースカードに記載の5件の偶発症中,急性膵炎が3件であった(Table 22).1件の死亡例があったがケースカードへの記載がなく詳細は不明である.
胆道・胆嚢スコープ(経口)による偶発症の種類.
9)カプセル内視鏡
カプセル内視鏡での偶発症は34件であり,そのうち33件は滞留であり,11例(33.3%)で手術が施行されていた(Table 23).
カプセル内視鏡による偶発症の種類.
治療的内視鏡では,腫瘍治療が836,788例と最も多く,ついでERCP関連の治療手技(271,531件),そして,止血治療(159,015件)が続いた(Table 24).偶発症は腫瘍治療で6,906件(0.825%),ERCP関連で2,646件(0.974%)に認めた.死亡率が最も高かったのは胃瘻造設で0.0337%であった.
治療手技別件数と偶発症.
1)腫瘍治療に関連した偶発症
腫瘍治療の方法として,ポリペクトミーは258,010件に行われ,偶発症は1,016件(0.394%),EMRでは464,110件中2,642件(0.569%),ESDでは108,630件中3,233件(2.976%)であった(Table 25).ポリペクトミーでの偶発症の件数では大腸が圧倒的に多かったが(986件),偶発症の発生率では,十二指腸が7.554%と最も高かった.EMRでの偶発症も件数では大腸が最も多いが(2,500件),発生率では十二指腸が5.126%と最も高かった.ESDでの偶発症は,件数では胃が最も多かったが(2,292件),発生率ではここでも十二指腸が23.590%と最も高かった.
腫瘍治療に関連した偶発症数(%).
手技別に偶発症の頻度をみると,ポリペクトミーやEMRに比して,ESDでの偶発症の頻度が食道から大腸に至る全領域で一桁高く,熱凝固等による治療も大腸ではESDと同程度に高いことが分かる.
以下,腫瘍治療に関してケースカードの記載があったものにつき,治療部位,治療手技別にまとめる.
a)ポリペクトミー
食道での偶発症は出血が1件のみで,内視鏡的に治療されていた.
胃では7件のうちケースカードの記載があった5件は,いずれも出血であり,保存的(1件),内視鏡的(4件)に治療されていた(Table 26).
ポリペクトミー(胃)での偶発症.
十二指腸では,21件中9件でケースカードの記載があり,5件が出血,4件が穿孔であった.これら9件のうち4件で手術が施行され,訴訟に発展したものが1件認めた(Table 27).
ポリペクトミー(十二指腸)での偶発症.
小腸のポリペクトミーではケースカードの記載は穿孔が1件で,手術が施行され軽快していた.
大腸では偶発症986件の内,ケースカードの記載のあった891件中,出血が822件と最も多かった.穿孔は63件で,そのうち24件で手術が施行され,訴訟となった場合も3件認められた(Table 28).
ポリペクトミー(大腸)での偶発症.
b)EMR
食道では10件の偶発症があり,そのうちケースカードの記載があった9件の内訳は出血4件,穿孔4件,裂創1件であったが,手術となった症例はなかった(Table 29).
EMR(食道)での偶発症.
胃では61件の偶発症があり,そのうち出血が48件と最も多く,穿孔が10件であった.出血例では死亡例が1件認められた(Table 30).
EMR(胃)での偶発症.
十二指腸では67件の偶発症があり,ケースカードの記載があった63件中,穿孔が35件と最も多く,次は出血の26件であった(Table 31).
EMR(十二指腸)での偶発症.
小腸では5件の偶発症があり,出血が3件,急性膵炎1件,大腿ヘルニア1件であった(Table 32).
腫瘍治療(EMR)(小腸)での偶発症.
大腸では2,500件の偶発症があり,ケースカードの記載があった2,071件中では出血が1,880件と最も多く,穿孔(159件),腹膜炎(23件)がこれに続いていた(Table 33).
EMR(大腸)での偶発症.
c)ESD
食道では299件の偶発症があり,ケースカードの記載があった255件で,穿孔が148件と最も多く,狭窄(33件),出血(21件),肺炎(17件),皮下気腫(15件),縦隔炎(11件)がこれに続いた(Table 34).なお,狭窄は,術後の合併症と考えられる.
ESD(食道)での偶発症.
胃では2,292件の偶発症があり,ケースカードの記載があった2,043件では,出血が1,011件,穿孔が956件で,死亡例もそれぞれ6件,7件みられた(Table 35).
(ESD)(胃)での偶発症.
十二指腸では92件の偶発症があり,ケースカード記載のあった88件中,穿孔が68件と最も多く,そのうち死亡が2件であった(Table 36).
ESD(十二指腸)での偶発症.
小腸での偶発症は下顎骨脱臼を1件認めたのみで,出血や穿孔等の報告はなかった.大腸では549件の偶発症があり,そのうちでケースカードの記載があった506件中,穿孔が302件,次は出血(182件)で,出血例から死亡が1件みられた(Table 37).
ESD(大腸)での偶発症.
d)熱凝固等
食道での偶発症は6件報告あり,穿孔2件,食道狭窄2件であった(Table 38).
熱凝固法など(食道)での偶発症.
胃での偶発症は22件報告があり,出血10件,穿孔9件であった(Table 39).
熱凝固法など(胃)での偶発症.
十二指腸での偶発症は2件の報告があり,出血と穿孔が1件ずつであった(Table 40).
熱凝固法など(十二指腸)での偶発症.
小腸での偶発症は2件の報告があり,ケースカードの記載のあった1件は出血で,内視鏡治療にて対応可能であった.
大腸での偶発症は29件の報告があり,出血が19件,穿孔が10件で,穿孔例のうち8件で手術が施行されていた(Table 41).
熱凝固法など(大腸)での偶発症.
2)止血治療における偶発症
止血治療に関わる偶発症は107件報告され,14件の死亡例が報告されていた.以下,止血部位別に偶発症を示す.
a)食道での止血術(静脈瘤治療を除く)
食道では5件の報告があり,裂創が2件,出血例は1例であったが死亡していた(Table 42).死亡例は原疾患に糖尿病性腎症で循不全となっており,出血性ショックとなって死亡と報告されている.
食道での止血治療における偶発症.
b)胃での止血術
胃では44件の偶発症報告があり,出血が25件,穿孔8件で,裂創が4件であった.また,肺炎や循環器系の偶発症や,死亡例の報告もみられた(Table 43).死亡例は止血処置中に血圧低下,呼吸低下が見られた場合は,止血術中に穿孔を来してしまったり,悪性腫瘍からの出血がコントロールできず,誤嚥性の肺炎をきたした場合である.
胃での止血治療における偶発症.
c)十二指腸での止血術
十二指腸では20件偶発症の報告があり,穿孔が14件と最も多く,3例は死亡していた(Table 44).また,出血例5件のうち2件も死亡していた.
十二指腸での止血治療における偶発症.
d)小腸での止血術
小腸では3件の偶発症の報告があり,いずれも穿孔であった(Table 45).
小腸での止血治療における偶発症.
e)大腸での止血術
大腸では18件偶発症の報告があり,そのうち穿孔が11件(死亡1例),出血が6件であった(Table 46).
大腸における止血治療における偶発症.
3)静脈瘤治療に伴う偶発症
硬化療法は28,764件で行われ,偶発症は34件(0.118%)であった.EVLは31,347件で行われ,偶発症は40件(0.128%),シアノアクリレートは1,830件で行われ,偶発症は6件(0.328%)であった.死亡例は,硬化療法で2例(0.0070%),EVLで6例(0.0191%),シアノアクリレートでの死亡例は報告がなかった(Table 47).各治療法別の偶発症の内訳を以下に示す.
静脈瘤治療と偶発症.
a)硬化療法
硬化療法の偶発症は30件報告されており,狭窄が7件,血腫が5件,裂創が4件であり,誤嚥による死亡が1件報告されていた(Table 48).
硬化療法での偶発症.
b)EVL
EVLでの偶発症は31件報告されており,出血が19件と最も多く,そのうち死亡が3件にみられた(Table 49).その他,裂創5件,血腫2件,穿孔2件あり,また,肺炎で1件の死亡例の報告がある.
EVLでの偶発症.
c)シアノアクリレート
シアノアクリレートの偶発症は6件,その内4件が出血であった(Table 50).
シアノアクリレートでの偶発症.
4)ERCP関連治療手技における偶発症
ERCP関連治療手技は271,531件が行われ,2,700件(0.994%)の偶発症が見られた(Table 51).その内訳はEBD(内視鏡的胆道ドレナージ,endoscopic biliary drainage)では102,032件中715件(0.701%)で死亡が19件(0.0186%),EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術,endoscopic sphintectomy)では83,242件中1,112件(1.336%)で死亡が22件,胆管ステント留置術では56,595件中477件(0.843%)で死亡が14件,EPBD(内視鏡的乳頭バルーン拡張術 endoscopic papillary balloon dilation)では17,791件中239件(1.343%)で死亡が3件,膵菅ステント留置術では11,871件中157件(1.323%)であった.
治療的ERCPに関連した偶発症.
a)EBD
EBDにおける偶発症として715件が報告されており,ケースカードに記載のあった629件では,急性膵炎が440件(死亡8件),穿孔が66件(死亡4件),急性胆道炎が58件(死亡1件)であった(Table 52).
EBDにおける偶発症.
b)EST
ESTに関連する偶発症は1,112件報告されており,ケースカードに記載のあった1,027件中,急性膵炎がは494件(死亡8件),出血が294件(死亡2件),穿孔が165件(死亡8件)であった(Table 53).
ESTにおける偶発症.
c)EPBD
EPBDでの偶発症は239件が報告されており,ケースカードに記載のあった230件中,急性膵炎が185件(死亡が4件),急性胆道炎が18件,穿孔が14件(死亡1件)であった(Table 54).
EPBDにおける偶発症.
d)胆管ステント留置術
胆管ステント留置術では477件の偶発症が報告されており,ケースカードに記載があった474件中,急性膵炎が319件(死亡6件),急性胆道炎が72件(死亡3件),穿孔が41件(死亡3件)であった(Table 55).
胆管ステント留置術における偶発症.
e)膵管ステント留置術
膵管ステント留置術では157件の偶発症が報告されており,ケースカードの記載があった156件中,急性膵炎が120件(死亡2件),ステントの迷入が8件,穿孔が7件,急性胆道炎が7件であった(Table 56).
膵菅ステント留置術における偶発症.
5)PTCS
治療的PTCSでは11例の偶発症が報告されており,ケースカードの記載があった7件中,急性胆道炎が5件,急性膵炎が1件,穿孔が1件であり,いずれも保存的に治療されていた(Table 57).
治療的PTCSでの偶発症.
6)消化管狭窄解除術に伴う偶発症
消化管狭窄解除に伴う偶発症は196件の報告があり,発生率は0.318%であり,14例の死亡例が報告されていた(Table 24).以下に部位別に詳細を示す.
a)食道の狭窄解除術
食道の狭窄解除術は,バルーン法では実施39,761件中偶発症が61件(死亡1件),ブジー法で実施4,121件中偶発症は3件(死亡1件),ステントが実施4,116件中偶発症は15件(死亡2件)認めた.ケースカードの記載があった76件中,穿孔が54件(死亡3件)で最も多く,次いで出血が7件,ステント逸脱が5件であった(Table 58).
狭窄解除術(食道)での偶発症.
b)胃の狭窄解除術
バルーン法では実施3,875件中偶発症が17件,ブジー法で実施484件中偶発症は1件,ステントが実施1,166件中偶発症は8件(死亡1件)認めた.ケースカードの記載があった25件中穿孔が20件(死亡1件)で最も多く,ステント逸脱が2件であった(Table 59).
狭窄解除術(胃)での偶発症.
c)十二指腸の狭窄解除術
バルーン法では実施687件中偶発症が7件(死亡1件),ブジー法で実施10件中偶発症は1件,ステントが実施1,378件中偶発症は14件(死亡2件)認めた.ケースカードの記載があった15件中,穿孔が14件(死亡3件)と最も多かった(Table 60).
狭窄解除術(十二指腸)での偶発症.
d)小腸の狭窄解除術
バルーン法では実施743件中偶発症が3件,ブジー法で実施6件中偶発症の報告は無し,ステントが実施15件中偶発症は2件(死亡1件)認めた.ケースカードの記載があった7件中,穿孔が5件(死亡1件)と最も多かった(Table 61).
狭窄解除術(小腸)での偶発症.
e)大腸の狭窄解除術
バルーン法では実施3,662件中偶発症が15件(死亡2件),ブジー法で実施179件中偶発症は1件,ステントが実施1,375件中偶発症は27件(死亡1件)認めた.ケースカードの記載があった31件中,穿孔が22件(死亡3件)と最も多かった(Table 62).
狭窄解除術(大腸)での偶発症.
7)異物除去術における偶発症
異物除去は18,580件が施行され,偶発症は23件の報告がある.そのうちケースカードの記載のあった例について,部位別にまとめる.
a)食道の異物除去術
食道の異物除去術では実施9,338件中19件(死亡1件)の偶発症が報告されており,ケースカードの記載では,裂創が11件,穿孔が5件(死亡1件)であった(Table 63).
異物除去(食道)での偶発症.
b)胃の異物除去術
胃では実施8,365件中2件の偶発症があり,うち死亡が1件と報告されている.ケースカードへの記載がなく詳細は不明である.
c)大腸の異物除去術
大腸では実施438件中2件の偶発症が報告され,いずれも穿孔であったが手術にて軽快した.
8)PEG,PTEGにおける偶発症
a)PEG
PEGでは233件の偶発症が報告されており,ケースカードの記載があった196例中,出血が81件,腹膜炎が27件,穿孔,裂創,肺炎がそれぞれ24件の順であり,死亡が22件であった(Table 64).
PEGでの偶発症.
b)PTEG
PTEGでの偶発症は3件で,出血が2件,穿孔が1件であったが,いずれも保存的に軽快した(Table 65).
PTEGでの偶発症.
9)EUS下穿刺
EUS下穿刺での偶発症は87件の報告がみられ,ケースカードの記載があった69件中,出血が18件(死亡1件)と最も多く,腹膜炎13件,急性膵炎11件,穿孔10件と続いた(Table 66).
EUS下穿刺での偶発症.
外科治療を除く腹腔鏡は7,794件行われ,偶発症は2件のみで死亡例は認めなかった.内訳は観察のみが1,323件で偶発症は1件,肝生検が1,682例で偶発症は1件で,腫瘍焼灼1,349件,その他3,440件で偶発症は認めなかった(Table 67).
腹腔鏡での検査・治療と偶発症.
医事紛争となった件数は,前処置関が7件,観察のみ(生検を含む)の検査が24件,治療関連が21件であった.前処置関連1件は係争中で他はすべて示談となっていた.治療関連で,裁判判決にまで至ったものは1件のみで,医療者側に問題はなく,他は和解ないし示談となっていた.
12.死亡例について内視鏡検査に伴う偶発症による死亡例のうち,年齢の明らかな220症例を年齢群別にTable 68にまとめる.220件の死亡例のうち70歳以上が165件(75.0%)を占めていた.また,167件(75.9%)が治療内視鏡に関連していた.
死亡例の年齢分布と原因手技の種類.
医療従事者の偶発症をTable 69に示す.18件の報告のうち眼障害・眼球汚染で半数の9件を占めていた.
医療従事者の偶発症.
5年間の偶発症の調査成績を,各治療手技別,部位別にまとめた.内視鏡検査件数の増加や内視鏡治療の適応の拡大に伴い従来以上にリスクの高い内視鏡手技が多く行われてきているなかで,偶発症の件数も増加している.偶発症の発生頻度は,手技・対象によって異なり,高いものから低いものまであるが,偶発症の発生がゼロであった手技は経皮的な胆道鏡のみであり,それ以外のすべての内視鏡手技において偶発症の発生を認めている.今回の調査にて,高度な技術を要する手技はもとより通常のルーチン検査においても依然として一定の頻度で偶発症がおこっており,また,様々な基礎疾患を有する症例での内視鏡検査も増加してきており,常に偶発症のリスクに加えて基礎疾患への配慮も念頭に慎重に内視鏡検査を実施していく必要性が改めて示された.
最後にアンケート調査に御協力いただいた会員諸氏に深く感謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:
【利益相反】
医療安全委員会各委員には,下記の内容で申告を求めた.
投稿時より遡って過去2年間以内の本調査に関係する企業,組織または団体について:
1.報酬額 (年間100万円以上),株式の利益(年間100万円以上,あるいは当該株式の5%以上保有),特許使用料(年間100万円以上),講演料(年間合計50万円以上),原稿料(年間合計50万円以上),
株式会社メディコスヒラタ,オリンパス株式会社,エーザイ株式会社,武田薬品工業株式会社,大塚製薬株式会社,第一三共株式会社,アストラゼネカ株式会社
2.研究費,助成金などの総額(研究経費を共有する所属部局に支払われた年間総額100万円以上),奨学(奨励)寄付などの総額(奨学寄付金を共有する所属部局に支払われた年間総額100万円以上),企業などが提供する寄付講座,研究とは直接無関係なものの提供(年間5万円以上),
アボットジャパン株式会社,アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,第一三共株式会社
【資金】
本調査の実施並びに報告に係る費用は,日本消化器内視鏡学会の資金より拠出した.