GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ETIOLOGICAL CLASSIFICATION OF GASTRITIS:A REPORT FROM THE KYOTO GLOBAL CONSENSUS CONFERENCE ON HELICOBACTER PYLORI GASTRITIS
Kentaro SUGANO Junichi AKIYAMASoichiro MIURA
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2017 Volume 59 Issue 1 Pages 3-13

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要旨

胃炎の国際的分類はUpdated Sydney System(USS)ならびに,国際疾病分類(ICD-10)が知られているが,いずれも成因論的分類としては不十分であり,京都で行われたヘリコバクター・ピロリ胃炎に関する国際的コンセンサス会議において,成因に基づいた胃炎の分類案がコンセンサスを得た.しかしこの成因分類にはまだ改変,解決を要する多くの課題が残されている.胃炎の分類にはほかに内視鏡所見による分類や病理組織所見に基づく分類があるが,胃炎の体系的治療や予防を考えるうえでは成因分類は必須であり,将来胃炎の全体像を明らかにするためには,胃の組織構築,胃の細菌叢,免疫応答など基礎的研究の進歩と,臨床病態の一層の解明が必要である.

Ⅰ 緒  言

Helicobacter pyloriHP)感染症は,通常幼児期に感染が成立し,上腹部症状や内視鏡的に認識しうる胃炎の有無に拘わらず,慢性に感染が持続して組織学的胃炎を来す.しかし,国際的に認知された胃炎の系統的成因分類が存在しないため,HP感染症による胃炎の位置づけは定まっていない.また内視鏡的胃炎と組織学的胃炎の間の不一致は,Sydney System(SS)やわが国からも報告されてきているが 1),2,最近の内視鏡機器性能の向上によってその胃炎診断能が病理診断に近づいていることは,わが国では共通認識となりつつある.しかし,わが国のこのような認識は,いまだに国際的なコンセンサスとして認知されていない.胃炎の内視鏡診断の質の相違が,器質的疾患を除外診断したうえで診断される機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)の診断論理にも影を落としてきた.すなわち,器質的疾患であるHP感染胃炎を内視鏡検査できちんと診断できないため,機能性疾患であるFDに組み入れてしまうという論理的な不整合を生じていたのである.

これらの問題点を論議し,国際的コンセンサスを得るため,日本消化器病学会が中心となって京都で国際会議を開催した.このコンセンサス会議の内容は論文としてすでに公表しているが 3,本稿では,そのなかで胃炎分類に関するコンセンサスの経緯ならびに概要を紹介するとともに,残された問題点についても述べる.

Ⅱ 胃炎の国際分類とその問題点

胃炎の分類体系に関してはこれまでも数多くの論文が発表されている.たとえば,Whiteheadらは,胃炎の病理組織分類 4を提唱しているが,胃炎の病因分類には触れられていない.その後,HPの発見を契機に胃炎の内視鏡的,病理組織学的分類に関する国際的取り決めとしてSydney System(SS)が発表された 5.このSSでは,病理組織学的分類のみならず,病因分類が示されている(Table 1).しかし,Correaらは,最も萎縮の検出率の高い胃角部の生検がなされていないこと,前庭部胃炎から多巣性萎縮へ進展することを前提にしていること,炎症が腺部に及ぶと萎縮と解釈するのは間違いであることなど,このシステムには欠陥が多いと批判し 6,わが国からもわずか2~4点の生検材料から胃粘膜全体の胃炎の病像を把握するには不十分であるという木村らの批判が発表されている 7.その後SSは,Correaらも参画して改定され,Updated Sydney System(USS)として発表された 8.USSでは,病理組織学的分類は重症度を図表示するなどの工夫がなされ,異なる施設で行われた研究の相互比較検討や,除菌効果に関する時間的変化を判定するうえで有用であることから,現在まで国際的に汎用されている.しかし,USSでは,胃炎の表現型と成因とを組み合わせたため,やや成因論的分類としては明快さを欠いている(Table 2).いずれにせよ,SS,USSはともに病理組織分類を中核とした分類であり,成因についての詳細な分析や記載が不足しており,分類基準の整合性も不十分である.たとえば,SSでは,薬剤性胃炎の項目の他に,Reactive Gastritis(RG)という別のカテゴリーが設けられているが,RGは薬剤性胃炎を含むカテゴリーと考えられる.実際,USSでは特殊型胃炎としてChemical injuryの項目に非ステロイド消炎薬(NSAID)や胆汁による胃炎が挙げられ,その同義語としてReactive gastritisが示されている.ただ,USSでは,TiclopidineはLymphocytic gastritisの原因として記載されており,成因論的仕分けが統一されていない.

Table 1 

Sydney Systemにおける胃炎の成因分類.

Table 2 

USSにおける慢性胃炎の分類.

一方,国際的な胃炎の疾病統計分類としては,世界保健機関(WHO)によるInternational statistical classification of diseases and related health problems(現在は第10版が用いられ,ICD-10と略称される)があるが,その分類は粗雑で欠陥が多い 9Table 3).たとえば,胃炎と十二指腸炎とを同一分類項目(K29)に割り振るという雑な扱いをしているだけでなく,肉眼的所見(萎縮など)や病因(アルコール)など,分類基準が論理的に不明確である.さらにHP胃炎や自己免疫性胃炎など重要な項目が欠落している.このような問題点を適正化するため,日本消化器病学会が中心となってICD-11改定作業部会(Working Group:WG)のための国際会議を開催し,胃炎と十二指腸炎とは別項目に分けて記載すること,それぞれを成因に基づいて分類することが合意されWHOに提案をした.しかしながら,WG提案はWHOがWGと相談することなく改変し,ICD-11試行版(ICD-11I)として公表した 10.このICD-11β版の胃炎分類は,WGが提案した成因論に基づく改定案と従来のICD-10分類とを折衷した分類となっている.これは現実には成因分類にまで遡求しえない場合における病名を統計処理するうえでの利便性を考慮したものであるが,単一の成因が重複カテゴリーに分類される可能性が残されているので,今後さらに整理・見直しが必要と考えられる.実際Gut論文で示したICD-11β版に最近修正が加えられ胃炎のコードが従来のECからDCに変更された(Table 4).今後もさらに変更される可能性がある.

Table 3 

ICD-10(2013年版)による胃炎・十二指腸炎(K29) の分類

Table 4 

ICD-11 beta draft (joint linearization for Mortality and Morbidity Statistics) における胃炎分類 (DC90 Gastritis).

Ⅲ 京都国際コンセンサス会議における胃炎の系統的成因分類と課題

胃炎分類に関しては,ICD改定作業に携わった限られた委員によるWGだけの議論ではなく,より幅広い意見を拾い上げ,国際的コンセンサスを形成する必要が求められる.そこで京都国際コンセンサス会議において,WGのICD-11改定案の妥当性を議論し,コンセンサスを得ることとした.その結論としては,ICD-11における胃炎の分類は,当然のことながら胃炎と十二指腸炎とは別項目として取り扱うこと,それぞれを成因に基づいて分類することが合意された.胃炎の分類案としては,論文作成過程でWG案をもとに,さらに項目の補足と整合性の検討を行い,成因に基づく分類案を提案した 3Table 5).

Table 5 

京都コンセンサス会議で提案した成因論に基づく胃炎分類.

胃炎の成因論的分類が必要な理由は,成因に基づいて治療や予防を行うことが最も効果的であるからである.襞の変化や発赤など胃炎の内視鏡的所見分類や,過形成性胃炎や,リンパ球性胃炎などの組織学的所見に基づく分類は,成因論的な探究を行ううえで重要な情報を提供するが,それだけでは十分ではない.HP胃炎は内視鏡的にも組織学的にも多彩な表現型を示し,それに応じた様々な名称や分類が用いられるが,(Figure 1)これらはいずれも共通の成因であるHP除菌による原因治療によって,改善したり進行を阻止したりできるのである.つまり,成因論的分類の意味は,胃炎の成因を明らかにし,その成因を除去する根治治療や予防策に及ぶ包括的マネージメントコンセプトを志向することにあるのである.

Figure 1 

Manifestations of Helicobacter pylori gastritis.

H.pylori感染胃炎は,それが有する病原因子,宿主の免疫応答性,食事などの外因によってその肉眼的(内視鏡的)表現型,組織学的所見が異なる.しかしH.pylori感染胃炎の内視鏡所見や組織学的変化は,H.pylori診断に特徴的であるとは限らず,診断正確度はHEの内視鏡でも完全ではない.一方組織学的にH.pyloriを検索することにより病因診断は可能であるが,生検組織は小さく,腸上皮化生の存在等によって存在診断は影響を受けるので,現在最も診断能が高いと考えられるのは13C-尿素呼気試験や便中抗原法である.内視鏡所見や組織所見に基づく胃炎の類型分類よりも成因分類が重要な理由は,H.pyloriを同定し,それを治療することにより,胃炎が治癒させたり,萎縮などの進行を抑制したりしうるからである.

しかし,この成因に基づく京都国際コンセンサス会議の胃炎分類は,限られた日程での議論であったことなどから,むしろ今後の議論のたたき台として提示したものであり,以下に述べる多くの解決すべき課題が残されている.

第一に,この分類では急性,慢性の区分を行っていない.これはUSSにおいても急性胃炎ではなく,慢性胃炎の分類となっていることを踏襲しているともいえるが,臨床診断として胃炎の経過のどの時点で急性胃炎と慢性胃炎とを切り替えるのかに関する一定の見解が現時点で存在しないことにもよる.たとえばHP急性胃炎の場合,感染成立からいつの時点で慢性胃炎とするのかについては明確でない.またアニサキス症はほとんどの場合,急性胃炎症状で受診するが,一カ月以上胃内に生存している場合や,粘膜下腫瘍様の所見を呈する慢性例も報告されている.急性・慢性の区分は治療対応に関係するので,今後胃炎の慢性,急性をどのように定義すべきかについてのコンセンサスが必要であろう.

第二に成因論的な詰めが甘いカテゴリーが幾つも残されているという問題がある.たとえば,Gastric Phlegmone(=Phlegmonous gastritis)という項目があるが,これは細菌性胃炎が重症化し,胃の深層に炎症が広く波及した状態であり,病因論的分類とはなじまない.Enterococcusによるgastritisの項は設けてあるが,Phlegmonous gastritisの起炎菌としてはむしろ,Streptococcus, Enterobacter, E.coliなどの方が多いことが報告されており 11,これらの細菌もBacterial gastritisの項目に追加し,その重症病態としてGastric Phlegmoneを位置づけるのがよいように思われる.またE.coliなどが関与する特殊な病態としてMalacoplakia がある 12.これも細菌性胃炎の特殊形態として起炎菌の項目に包括するのがよいと思われる.

また,Gastritis due to specified causesの項にLymphocytic gastritis(LG)が記載されているが,これは病理組織学所見に基づく分類であって,成因論的分類とはいえない.なぜならその成因としては,HP感染,Celiac 病,薬剤などさまざまな要因が病理組織所見としてLGを呈するからである.またEosinophilic gastritis(EG)とAllergic gastritis(AG)も,前者は好酸球性胃腸炎の表現型,後者は即時型アレルギーという区分で考えられたようであるが,好酸球性食道炎のようにアレルギーの関与が考えられる病態も存在することから,それぞれの区分をより明確に定義する必要がある.EGの成因についても,好酸球性胃腸炎の一環 13としてのみならず,寄生虫,アレルギー疾患や,Crohn’s diseaseなど成因がさまざまある.それ故,LGやEGは,成因が明らかな場合にはその項に分類し,原因不明の場合のみをunknown cause, or idiopathic, LGあるいはEGとし,Gastritis due to specific causesという項目ではなく,別枠としてGastritis due to unknown etiologyを設けてそこに組み入れるのが望ましいように思われる.

第三にこの成因分類表で提示されていない胃炎の問題がある.たとえば,食道胃接合部に存在する噴門腺領域に起きるCarditis(噴門部胃炎)が取り扱われていない.Carditisの原因は,HP感染に伴う胃炎とHP感染のない胃食道逆流症に伴うものに大別されるが,無症状のHP非感染健常人でも炎症所見が認められることが報告されている 14.すなわち,HPによるCarditisはHP胃炎として分類できるが,HP感染のないCarditisをどう位置づけるのかは未定である.その成因としては胃酸や胆汁による傷害,この領域で発生する一酸化窒素ラジカル,あるいは食道下端などの細菌叢の影響などが考えられるが,現時点では一定の見解はなく,これを成因論的に分類するのは困難である.

またCrohn’s diseaseに伴う胃炎は掲載されているが,潰瘍性大腸炎に伴う胃炎 15)~17は記載が漏れており,追加が必要である.

ホタルイカなどに寄生する旋尾線虫幼虫type Xによる腸閉塞などが生食習慣の拡大によって増加しているが,急性胃炎の報告もあるので追加記載が必要と思われる 18

さらに大きな問題として,粘膜下層以下の炎症について胃炎分類に追加すべきかどうかという議論が必要と思われる.Gastritis Cystica Profunda(GCP)は,粘膜下層や筋層に嚢胞状の拡張を示す腺管が認められ,胃癌の発生リスクが高い病態と考えられ,その成因としては,術後胃腸吻合による腺管の埋没,粘膜障害後の修復異常,Epstein-Barr Virus(EBV) や遺伝子異常などが考えられている.病名にGastritisとつけられており,粘膜下層部の嚢胞周囲の炎症所見が記載されている文献もあるが,背景粘膜にHP胃炎を伴っている場合やEBVの関与もありうるので,これらの原因による2次的な表現型となっている可能性もある.GCPは京都国際コンセンサス分類には触れられていないが,これを胃炎に分類すべきかどうか,含めるとすると成因別区分をどうするのかなどの議論が必要である.また,胃不全麻痺においては,病理組織で筋層の神経叢のマクロファージを中心とした炎症細胞浸潤所見が認められる 19.現在胃炎は主に胃粘膜層の炎症を想定しているが,胃不全麻痺の病理像は,胃の構成要素に起きている炎症であり,将来的にはこれらの病態を統一的に把握していくためには,胃の解剖学的構造要素に基づいた炎症性疾患分類を構築する必要があると思われる.

第四に,薬剤性胃炎のように胃炎として分類した疾患,たとえばNSAID胃炎では,炎症細胞浸潤が少なく,NSAID gastropathyと呼ぶべきであるという議論があり 20,それに対する対応が決着していないという問題がある.しかし,NSAIDによる粘膜バリア機能の破綻,細胞傷害,それに伴って生じる細菌やその菌体成分による炎症反応の惹起などが,NSAIDによる胃粘膜傷害機構として数多く報告されており,潰瘍に至らない場合でも,病因として炎症が関与しないと言い切ることは困難である.勿論NSAIDによって炎症がマスクされるので,明確な炎症所見の有無による区分が難しいことも事実である.従来,内視鏡的で認められる変化が炎症以外の要素によっていると考えられ,gastropathyと名付けられている代表的な例は門脈圧亢進胃症(Portal hypertensive gastropathy:PHG)であるが,PHGを組織学的に検討すると,うっ血を示す拡張血管のみならず,HP陰性にも拘わらず炎症細胞浸潤のある組織学的胃炎を示す場合が相当にあることが報告されている 21),22.今後,これらの胃の病態をGastropathyと呼ぶのか,あるいはGastritisとするのかに関しての取り決めが必要であると考えられる.なお,ICD-11β版ではPHGは血管病変に分類されている.

第五に複数の病因の関与する場合の病因論的診断の取り扱いをどうするのかが明確にされてない.HP胃炎とNSAID使用の場合のように,病因が複数関与している場合に,成因を併記するのか,それとも主因を示すのかといった規則を示す必要がある.同様に自己免疫性胃炎のうちの相当数が,既往にHP感染歴を有し,それが病因である可能性も報告されており 23)~25,このような症例の病因論的取扱いを取り決めておかないと実臨床において病因論的分類に基づく診断名を導入する場合に混乱を生じると思われる.

第六の問題として,胃炎の自然経過における変化を病因論的分類では把握しえないという限界がある.たとえばHP胃炎における萎縮性変化の進行や腸上皮化生の出現などの時相変化や萎縮の進展などは,病因論的分類のみでは把握が困難である.自己免疫性胃炎でもその初期像には典型的な体部胃腺萎縮は認められないので 26,病因論的診断を下すのが難しいことがある.病因分類とともに,ステージ分類,重症度分類が必要な場合があるといえよう.

最後に,治療介入後の状態に対する診断をどうするのかという問題がある.HPを除菌すると,活動性胃炎は速やかに消褪するが,粘膜下のリンパ球浸潤やリンパ濾胞は1年経過しても消失しない場合が相当の割合でみられる 27.また萎縮や腸上皮化生も必ずしも完全には回復しない.抗菌薬を使用されてHPが消失し,上記のごとき遺残所見のみを認めた場合には,病因論的診断が困難となる可能性がある 28

このように,京都コンセンサス会議で合意された成因論に基づく胃炎分類にはなお多くの課題-が残されている.これらの課題をさらに検討し,分類基準の整合性のとれた胃炎分類の改定がなされることが望ましい.

Ⅳ HP胃炎の内視鏡診断と胃癌リスク評価

胃炎の内視鏡診断と組織学的所見の解離は,内視鏡が臨床に使用されるようになった1950年初頭にすでに報告されている 29)~32.それによってhypertrophic gastritisという内視鏡診断名は,生検組織が正常で病理学的根拠がないことから抹消されることとなった.その当時の内視鏡の操作性や解像度を考えれば,このような不一致はやむを得ない結果とも考えられるが,内視鏡機器が進歩したその後も,内視鏡所見と組織学的所見の不一致はわが国を含め繰り返し報告され,「直視下生検を行わない内視鏡検査は完全ではない」というBenedictの言葉が覆ることはなかった 1),2),33),34

しかし,近年,拡大内視鏡(Magnification Endoscopy:ME),画像強調機能(image enhanced endoscopy:IEE)をあわせ持つ高精細内視鏡(high-resolution endoscopy: HE)が日常臨床に導入され,HP感染の有無,腸上皮化生の診断などがかなり正確に内視鏡検査によって診断できる時代が到来したのである 35)~39.ただ,IE-ME-HEを備えた内視鏡機器による検査は,諸外国ではまだ一般的ではなく,内視鏡検査による胃炎診断の信頼性についての国際的なコンセンサスは京都コンセンサス会議の段階では得られていなかった. この会議において病理組織学的所見が最終的な診断基準であることにはかわりないが,適切な修練を受け,IE-ME-HE機能を備えた内視鏡診断と適切なトレーニングを行えば,萎縮や腸上皮化生がかなり正確に診断できるという国際的コンセンサスが得られたのである.

機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia)は,種々の上腹部症状を説明しうる異常が内視鏡検査を含めて認められないと定義されているが,京都コンセンサスでHP-関連ディスペプシアの概念が創出された背景には,IE-ME-HEによってほぼ確実に胃炎と診断できる場合,上腹部症状の原因となりうる器質的疾患が存在することになり,その取扱いを考える必要が生じたことがある.

今後,諸外国においてもIE-ME-HEが普及し内視鏡診断の精度が向上すれば,FDのみならず他の機能性疾患の考え方にも影響が及ぶと考えられ,機能性消化管疾患の病態解明が進んでいくと思われる.

また胃癌のリスク評価に,胃炎のステージ分類であるOperative Link of Gastric Atrophy(OLGA) 40Table 6)およびOperative Link of Gastric Intestinal Metaplasia(OLGIM) 41が有用であることもコンセンサスが得られた.しかし,これらのステージングシステムは,前庭部,体部の生検組織の病理診断をUSSに基づいて行う必要があり,必ずしも一般的ではない.現在の進んだIEEによる内視鏡検査は,萎縮や腸上皮化生の診断を面の広がりとして把握することを可能にしてきており,内視鏡診断とこれらのステージングシステムとのリスク評価を比較検討したエビデンスを,わが国から創出していくことが望まれる.

Table 6 

OLGA(Operative Link on Gastritis Assessment)による胃炎ステージング.

Ⅴ 結  語

胃炎の分類に関する京都コンセンサスの背景とその結論について述べた.胃炎の成因論的分類は,その予防や対策を考えるうえで,最も重要であるが,その成因に基づく分類については,まだ多くの課題が残されている.LGに除菌治療を行うと,HP陽性のLGのみならず陰性の場合にも所見が改善すること 42や,HP陰性胃粘膜にも多数の細菌が存在しているという最近の報告 43)~45は,これらの細菌が胃炎に何らかの関与をしている可能性を示唆している.これら胃内に棲息する非HP細菌や食物等の外因性物質に対する免疫反応や,胃粘膜細胞分化や組織構築のメカニズムに関するわれわれの理解はまだ不完全であり,成因論的分類を根本的に考究していくためには,なお多くの研究が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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