GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EFFICACY OF A BALLOON CATHETER WITH A SIDE HOLE IN ENDOSCOPIC DUODENAL STENTING FOR MALIGNANT GASTRIC OUTLET OBSTRUCTION WITH DUODENUM PERFORATION SECONDARY TO GALLBLADDER CANCER: A CASE REPORT
Hiroyuki HATAMORI Youhei TANIGUCHIMasashi FUKUSHIMAMasaya WADANaoto SHIMENOShuko MORITASatoko INOUEHiroshi TEIYoshiki SUGINOSHITATetsurou INOKUMA
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2017 Volume 59 Issue 1 Pages 56-61

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要旨

症例は65歳女性.2014年12月に肝浸潤,十二指腸浸潤,頸椎転移を伴う胆嚢癌と診断し緩和治療を行っていた.2015年3月に嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診し,進行胆嚢癌による十二指腸閉塞,胆嚢十二指腸瘻形成を認めた.内視鏡的十二指腸ステント留置術を施行するも,ガイドワイヤーが瘻孔に迷入し狭窄部を突破出来ず.最終的に結石除去用の側孔付バルーンカテーテルを使用しステント留置に成功した.ステント留置翌日より経口摂取が可能となり,術後大きな問題なく約1カ月半後に肺炎で死亡された.胆嚢十二指腸瘻形成によりガイドワイヤー留置が困難な場合,側孔付バルーンカテーテルの使用により瘻孔の遮断が可能となり有用な方法と考え報告する.

Ⅰ 緒  言

悪性胃十二指腸狭窄による通過障害に対しては従来胃空腸吻合術が主に行われてきたが,2010年4月にthrough the scope(TTS)法が可能な十二指腸ステントが保険収載され有用な緩和治療となっている.しかし,十二指腸ステント留置のためには狭窄部肛門側にガイドワイヤーを留置する必要があるためガイドワイヤーが狭窄部を通過出来なければステント留置は行えない.

今回,われわれは進行胆嚢癌による胆嚢十二指腸瘻形成のためガイドワイヤー留置に難渋し,最終的に結石除去用の側孔付バルーンカテーテルで瘻孔を遮断しガイドワイヤーの走行を変化させることで十二指腸ステント留置に成功した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:65歳,女性.

主訴:嘔気,嘔吐.

既往歴:特記すべき事項なし.

現病歴:2014年12月下旬に右季肋部痛を主訴に当科を受診し精密検査の結果,肝浸潤,十二指腸浸潤,頸椎転移を伴う胆嚢癌と診断した.化学療法は希望されず,肝浸潤による肝門部胆管狭窄に対して胆管メタリックステントを留置し緩和治療を行っていた.2015年2月末より嘔気が出現し,3月上旬より頻回の嘔吐を認めたため当院を受診し,腫瘍浸潤による十二指腸閉塞が疑われ緊急入院となった.

入院時現症:体温38.5℃,血圧111/75mmHg,脈拍105/min.眼球結膜に黄染なく,眼瞼結膜はやや蒼白であった.腹部は平坦,軟で右季肋部に圧痛を認めたが腹膜刺激兆候は認めなかった.

臨床検査成績:白血球数 16,400/μl,CRP値 9.16mg/dlと炎症所見の上昇を認めた.貧血,肝胆道系酵素は以前と比較して増悪を認めなかった(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

入院時透視下内視鏡検査所見:十二指腸球部に腫瘍浸潤を認め下行部は確認出来なかった.球部に十二指腸とは異なる腔を認め(Figure 1),腔内は壊死物質に覆われていた(Figure 2).造影剤(アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン注射液)を注入すると腫瘍内部が造影され胆嚢癌による胆嚢十二指腸瘻形成と判断した(Figure 3).

Figure 1 

十二指腸球部に瘻孔(矢頭)を認めた. 下行部は腫瘍浸潤により閉塞しており確認出来なかった.

Figure 2 

瘻孔内にスコープを進めると,内腔は壊死物質で覆われていた.

Figure 3 

十二指腸球部から造影剤を注入すると瘻孔(矢印)を介して腫瘍内部(矢頭)が造影された.下行部は描出されなかった.

入院時腹部CT所見:十二指腸造影検査直後に施行した.十二指腸球部の瘻孔を介して腫瘍内への造影剤貯留を認めた.

入院後経過:十二指腸閉塞のため経口摂取困難であり,QOL改善のための内視鏡的十二指腸ステント留置術について本人および家族に十分なインフォームドコンセントを行ったところステント留置を強く希望されたため第3病日に内視鏡的十二指腸ステント留置術を施行した.

ステント留置所見:内視鏡スコープはGIF-2T240(OLYMPUS社)を使用した.スコープを球部まで進め,透視下で0.025inchガイドワイヤー(VisiGlideTM,OLYMPUS社)を用いて十二指腸閉塞部の通過を試みたが,ガイドワイヤーが球部の瘻孔に迷入し下行部の選択に難渋した.そこで結石除去用の側孔付バルーンカテーテル(BouncerTM Multi-Path Extraction Balloon, COOK社)を使用した.まず透視下にバルーン先端よりガイドワイヤーを進め,瘻孔を通り腫瘍内部にガイドワイヤーを留置した.次にガイドワイヤー伝いにバルーンカテーテルを瘻孔部まで進め瘻孔を塞ぐように同部位でバルーンを膨らませた(Figure 4).そしてバルーン手前の側孔より2本目の0.025inchガイドワイヤー(VisiGlideTM, OLYMPUS社)を進め,一旦バルーンにガイドワイヤーを押し当てる形でガイドワイヤーの走行を変化させることで下行部を選択した(Figure 5).最後にERCPカテーテル(MTW社)を用いてガイドワイヤーをステント留置用にスティッフタイプの0.025inchガイドワイヤー(Wrangler, PIOLAX社)に交換しUncovered Metallic Stent(Niti-S,22mm×12cm,Century社)を留置した(Figure 6).留置翌日より飲水開始し,Gastric Outlet Obstruction Scoring System 1も入院時は0であったが留置3日後には3まで改善を認めた.その後は療養病院へ転院となり,約1カ月半後に肺炎により死亡された.

Figure 4 

側孔付バルーンカテーテルを腫瘍内部に進め瘻孔を遮断する様にバルーンを膨らませた.

Figure 5 

最終的に側孔から進めたガイドワイヤーの走行を180°変化させる形で下行部を選択出来た.

Figure 6 

Uncovered Metallic Stent(Niti-S, 22mm×12cm, Century 社)を口側断端が胃内となるよう留置を行った.

Ⅲ 考  察

悪性胃十二指腸狭窄に対しては胃空腸吻合術が行われてきたが,十二指腸ステント留置術が保険適応となり治療選択肢が広がった.胃空腸吻合術と内視鏡的十二指腸ステント留置術を比較検討した報告では,手技的成功率,合併症の頻度,予後に関しては両治療群間の差は認められず,ステント留置群で治療後の食事開始時期が早く在院日数が短いとされる 2)~5.臨床的成功率は短期的にはステント留置群で優れるとする報告 3),4があるものの,長期的には胃空腸吻合術が優れていたとする報告 5もあり,今後大規模な比較試験が必要と考える.本症例では,胆嚢癌末期で予後2カ月未満 5と判断していたこと,患者自身が外科手術という侵襲的な治療を希望されていなかったことより内視鏡的十二指腸ステント留置術を選択した.

内視鏡的十二指腸ステント留置術の手技的成功率は96-100%であり,留置失敗例の原因としては,ガイドワイヤーが狭窄部を通過できないことが大半を占める 6)~10.本症例では,胆嚢癌の十二指腸球部への浸潤により胆嚢十二指腸瘻を形成していた.胆嚢癌による胆嚢十二指腸瘻形成は比較的まれな病態である.福永ら 11が内胆汁瘻183例の原因について検討した報告では,胆石症・胆石胆嚢炎が全体の91%(167例)と最多を占め,胆嚢癌は4%(8例)であり,そのうち胆嚢癌が十二指腸と瘻孔を形成していた症例は全体の1%(2例)であった.一方,胆嚢癌が十二指腸に浸潤し瘻孔を形成するという病態の他に,内胆汁瘻の形成が胆道悪性腫瘍のリスクファクターである可能性が示唆されており 12,既存の胆嚢十二指腸瘻に合併した胆嚢癌の報告も散見される 13),14.また,Sonsら 15は胆嚢癌剖検例287例を検討し内胆汁瘻の合併率は4%(10例)であったと報告しており,胆嚢癌と胆嚢十二指腸瘻が併存している症例は決してまれでないことが示唆される.

今回われわれが医中誌,PubMedを用いて検索を行った結果では,胆嚢十二指腸瘻を伴う悪性胃十二指腸狭窄に対し十二指腸ステントを留置した報告は認めなかった.本症例の胆嚢十二指腸瘻例に限らず,十二指腸との瘻孔を形成した腫瘍に対して内視鏡的ステント留置術を行う場合は上述したように瘻孔の位置によってはガイドワイヤーを狭窄部より肛門側に留置することが困難になることが予想される.本症例でもスコープを球部へ挿入すると瘻孔がスコープの真正面に位置していたため,球部より透視下にガイドワイヤー操作を行うもガイドワイヤーが瘻孔に迷入してしまい下行部の選択が困難であった.

そこで,瘻孔を塞ぎガイドワイヤーを正しい管腔へと導く目的で側孔付バルーンカテーテルを使用した.BouncerTM Multi-Path Extraction Balloonは結石除去用の側孔付バルーンカテーテルであり,バルーン径は15mm,カテーテルの全長は200cm,外径は6.6Frで,最小適合鉗子チャネルは3.2mmとなっている.最大の特徴はガイドワイヤールーメンをカテーテル先端とバルーン手前の側孔の2カ所に備えている点であり適合ガイドワイヤー径はそれぞれ0.035inch/0.025inchである(Figure 7).側孔のガイドワイヤールーメンがバルーン手前にあることで,バルーンにガイドワイヤーを押し当ててガイドワイヤーの走行を変化させることが可能となる.

Figure 7 

BouncerTM Multi-Path Extraction Balloon, COOK 社.

実際,本症例でも瘻孔で膨らませたバルーンに側孔のガイドワイヤーを押し当てることで,ガイドワイヤーの走行を180度変化させ下行部を選択することが可能であった.通常は総胆管結石の採石や肝門部での胆管選択などERCPの際に使用されるデバイスであるが,膵管治療などにも応用され有効であったとの報告もある 16.本症例での側孔付バルーンカテーテルの使用は保険適用外であるが,TTSタイプの十二指腸ステントはガイドワイヤーなしでのステント留置を行い得ず,ステント留置が行い得ない場合には通過障害の改善のために胃空腸吻合術が必要であったことを考慮すると,側孔付バルーンカテーテルの使用は低侵襲かつ低コストであり十分正当化されるものと考える.本症例以外でも,2つの管腔のうち選択困難な管腔にガイドワイヤーを留置するといった処置の際には側孔付バルーンカテーテルの使用は非常に有用な手段の1つと考えられる.

Ⅳ 結  語

胆嚢癌の十二指腸浸潤により胆嚢十二指腸瘻を形成した悪性胃十二指腸狭窄に対して十二指腸ステント留置に成功した1例を経験した.胆嚢十二指腸瘻形成によりガイドワイヤー留置が困難な場合,側孔付バルーンカテーテルの使用は非常に有用な手段の1つと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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