2017 Volume 59 Issue 10 Pages 2557-2560
社会医療法人近森会グループは高度急性期医療からリハビリテーション,在宅までを一貫して行うことをモットーとしている.急性期医療を担う近森病院,回復期リハビリテーションを担う近森リハビリテーション病院,近森オルソリハビリテーション病院が高知駅から徒歩5分圏内に隣接して建っている.看護師の業務を看護というコア業務に絞り込んで,専門性が高く自立,自動するリハスタッフや薬剤師,管理栄養士,臨床工学技士,ソーシャルワーカーなどの多職種が病棟に常駐し,それぞれの視点で患者さんを診て,判断して,介入する「病棟常駐型チーム医療」を推し進めている.これにより医師は医師の仕事に専念することができる環境となっている.
1946年,南海大地震の3日後の12月24日に近森外科が開設された.初代院長近森正博が診療し,院長夫人が給食,事務長の3人での小さな組織から出発し,70年後の現在(2016年12月)では,近森会全体で2,300人のスタッフ,常勤医師141名,792床の大きな組織となった.
2010年には高知県初の社会医療法人となって民間の活力をもった公的病院になるとともに,2010年から7年計画で近森会全体の増改築工事が始まった.近森病院は338床から114床増床し,452床の高度急性期病院になった.近森リハビリテーション病院は新築移転し,近森オルソリハビリテーション病院も旧近森リハ病院を改築して移転,近森教育研修センター,近森病院附属看護学校も旧近森オルソリハ病院を改築し移転した.
消化器内科は1995年8月に榮枝弘司医師が赴任し開設された.翌年には岡田医師が赴任し常勤医2名+高知大学から派遣された研修医での少ない人員体制がしばらく続いた.マンパワー不足のなか増加する患者,救急症例に対応し多忙を極めていたが,現在は常勤医15名に増加してマンパワー不足が解消され,幅広い疾患の診療に対応可能となった.常勤医15名中7名は女性医師であり,出産,育児をしながらキャリアアップができる環境づくりに病院として取り組んでいる成果がでている.
組織近森病院本館3階の全フロアに画像診断部があり,内視鏡センターのほかエコー検査室,血管造影室,透視室が配置されている.内視鏡センターは本館3階の東半分を占めており,面積は666m2である.
内視鏡センター専属のスタッフはおらず,消化器内科が管理・運営を行っている.消化器内科は内視鏡検査処置のみならず外来,救急,病棟の業務を兼任している.
看護師,臨床検査技師もER外来,画像診断部,検査部にそれぞれ所属しており内視鏡業務は交替性で兼務している.気管支鏡検査も呼吸器内科,呼吸器外科の医師により内視鏡センターで行われる.
検査室レイアウト
内視鏡センターは本館3階東半分のワンフロアの広いスペースにあり受付,待合室,検査室,洗浄室,前処置室,リカバリールーム,説明室,カンファレンスルームが配置されている.内視鏡検査室4ブース,透視内視鏡室1ブースを隣接して配置している.各ブースは個室で各部屋のバックヤードはひとつながりにしており,患者のプライバシー保護と職員の動線確保の両立に配慮している.内視鏡システムの電源,配線や吸引はすべて天井内配管としており,整然とした環境で検査ができるようにしている.CSの前処置はトイレを備えた個室で行うようにしており,プライバシー保護が得られるとともに精神的にリラックスした状態で前処置が受けられるように配慮した.カンファレンスルームには全検査室の内視鏡映像がモニターできるようにしており各検査室での検査・処置の状況が把握できるようになっている.外来患者の検査でsedationするケースも増えており,検査後はリカバリールームで生体モニターを装着し監視している.患者さんへの説明室も2室設けている.
当院は3次救急病院であり,年間約7,000台の救急搬送を受け入れている.ヘリ搬送も昨年は140件受け入れている.そのため消化管出血や胆道感染症のような緊急内視鏡処置が必要な症例を診療する機会が多く,休日夜間も緊急内視鏡検査処置ができるように備えている.その際は医師2名(専門医+専攻医),看護師1名,臨床検査技師1名で対応している.
内視鏡検査に携わる臨床検査技師のほとんどは,内視鏡検査技師資格を取得している.当院の特徴の一つは,多数の臨床検査技師(以下,技師)が内視鏡業務をしていることである.技師は夜間・休日対応が出来るように,単独の検査部門だけでなく内視鏡,心臓カテーテル検査,輸血部門のいずれかが出来るように教育が行われ,その他の細菌,病理,生理,エコーと兼任をしている.全体では60人の技師が在籍しているが内視鏡に22人,心臓カテーテルに16人,輸血に18人(重複あり)が配属されている.内視鏡担当技師は病理検査に8人,細菌検査に4人,腹部エコーに7人,生理検査に3人が兼任となっており,病理兼任技師のうち5人は細胞検査士の資格を取得している.日勤帯の内視鏡業務には病理担当技師が原則1人以上配置されている.2009年のEUS-FNA導入時から迅速細胞診を行っているが,検体処理及び鏡検目的に1~2人の細胞検査士が検査に参加している.迅速細胞診が普及しにくい原因の一つに病理検査業務の多忙があげられる.しかし,当院のように業務をオーバーラップすることで,内視鏡業務を行いながら病理検体処理も行える技師がいたことが迅速細胞診導入を可能にした要因である.結果的にスタッフの配置をマネージメントすることで,限りある人材を効率的に活用し,労働生産性を上げることが出来ている.
(2017年5月現在)
医 師:指導医1名,専門医10名,専攻医4名
臨床検査技師:22名(内視鏡技師資格15名)
看護師(ER外来兼任):20名(内視鏡技師資格3名)
内視鏡洗浄員:3名
クラーク:2名
(2017年5月現在)
(2016年1月~12月)
毎年10名の初期研修医を消化器内科の研修として受け入れている.また他院からたすきがけの研修医も数名受け入れている.初期研修では消化器内科としての研修が主体であり,期間も2,3カ月と短いので内視鏡研修はモデルをつかった練習や抜き操作などに限定している.
本格的に内視鏡研修を行うのは後期研修医として消化器内科専攻医になってからである.当院の特徴は大内科制をとっていることであり,各科との垣根が低く相談しやすい環境となっている.主治医は3~4人のチーム制であり,上級医と密に相談しながら安心して診療に取り組めるとともに,夜間や休日もカバーしあい可能な限り休みが取れるように配慮している.消化器内科は肝臓,胆膵,消化管,IBD,化学療法など消化器疾患全般を診療しており,各専門の指導医から直接指導をうけながら消化器内科全般の研修が可能である.また当院は救急救命センターであり,緊急内視鏡数も多く,様々な消化器疾患を経験できる環境である.特にERCP数は年々増加し,中四国でも有数の症例数になっており,そのほとんどは処置内視鏡である.専攻医3年間でEGD,CS,ERCPのルーチン検査はもとより,緊急内視鏡検査処置,止血,EMR,EISなどを上級医の監督の下で完遂できるレベルまで育てることを目指している.
2週間に1回,主に手術症例を検討するカンファレンスを外科,病理診断部,放射線科と開催し,内視鏡や各種検査所見と手術所見や病理所見を照合し知識を深めるようにしている.また,内視鏡所見会も適宜行い,内視鏡診断能の向上に努めている.研究会や学会での発表,論文投稿も積極的に行っている.
看護師,内視鏡技師はそれぞれER外来や検査部と兼任であり,夜間や休日に交替で当直しているので時間外でも内視鏡検査がスムーズに行えるメリットがある.一方,各人が内視鏡室に勤務するのは週に2回程度であるため,内視鏡業務がやや不慣れとなる,あるいは情報共有が不十分となる恐れがある.毎朝のミーティングや月に1回の業務カンファレンスを行うことで解決を図っているが内視鏡専従者を1,2名配置したいところであり検討中である.
CSの前処置を個室で行うようにしており,患者さんには好評だが,スペースの問題で7部屋確保が精一杯で外来患者のCS検査枠が1日7件に制限されている.CS件数が徐々に増加していることから,外来CS予約が取りづらい状況になっている.外来CS枠増加を目指して在宅前処置を昨年から始めたがまだ件数が少なく,今後こちらを増やすようにしたいと考えている.
外来検査の際にもsedationをする機会が多くなっている.sedationすることにより患者さんの苦痛を軽減し詳細な検査が可能であり非常に有用であるが,sedationによる循環呼吸抑制などによる偶発症をきたす可能性があり注意が必要である.現在は生体モニター装着,リカバリールームの利用などで対応しているが,sedation使用運用マニュアルの作成などでより高いレベルの安全性の確保を目指したいと考えている.