GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CLINICOPATHOLOGICAL FEATURES OF Ⅰp+Ⅱc TYPE EARLY COLORECTAL CANCER
Yoshiro TAMEGAI Kenjiro MORISHIGEHiroki OSUMITeruhito KISHIHARAAkiko CHINOMasahiro IGARASHITsuyoshi KONISHIYosuke FUKUNAGAChiriko YAMAMOTOHiroshi KAWACHIShoichi SAITOHMasashi UENO
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2017 Volume 59 Issue 11 Pages 2592-2600

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要旨

【目的】茎を有する大腸腫瘍で,頭部に陥凹局面を呈する腫瘍を持ったⅠp+Ⅱc型早期癌の特徴について検討した.【対象・方法】Ⅰp+Ⅱc型早期癌22例(男性15例,女性7例,平均61.1歳)22病変を対象とし,その臨床病理学的所見についてⅠp型早期癌(417例),表面陥凹型病変317例(SM癌147例)と比較した.また自然経過例2例の形態変化について検討した.【結果】平均腫瘍径はⅠp+Ⅱc型12.7mmに対し,Ⅰp型は16.2mmで有意に大きかった.Ⅰp+Ⅱc型の局在部位はⅠp型および陥凹型(Ⅱc,Ⅱa+Ⅱc,Ⅰs+Ⅱc)に対し有意にS状結腸に多く,22例中19例で86.4%を占めた.Ⅰp+Ⅱc型の深達度はTis:2,T1a:3(13.6%),T1b:17(77.3%)で,リンパ節転移はSM癌の3例15%に認めた.以上はⅠp型のSM浸潤率,リンパ節転移率に比べ有意に高く,その悪性度が示唆された.同様にⅠp+Ⅱc型SM癌はly+:7/20(35.0%),v+:6/20(30.0%),budding:grade 2-3:9/20(45.0%)で,Ⅰp型SM癌に比べ有意に転移リスク因子の頻度は高かった.一方,Ⅰp+Ⅱc型SM癌と陥凹型SM癌の比較ではリンパ節転移リスク因子の陽性率,およびリンパ節転移率に有意差は認めなかった.また,22カ月でⅠp+Ⅱc型からⅠs+Ⅱc型,そしてⅡa+Ⅱc型T1b癌へ変化した1例,22日の経過でⅠp+ⅡcからⅡa+Ⅱc型T1b癌へ変化した1例を認めた.【結論】Ⅰp+Ⅱc型早期癌は主にS状結腸の場で発現した陥凹型早期癌の一表現形態であり,陥凹型特有の生物学的特性を有すると思われた.

Ⅰ 緒  言

大腸癌に対する内視鏡診断学は高解像度の通常白色光観察,および拡大内視鏡によるpit patternやNBI(Narrow Band Imaging),BLI(Blue-Laser Imaging)などの画像強調内視鏡観察(IEE:Image-Enhanced Endoscopy)へと進歩した.以上を背景に,最近有茎性Ⅰp型病変と類似の形態を呈するが,頭部の腫瘍部分に陥凹局面を持ったⅠp+Ⅱc型早期癌の存在が徐々に明らかとなった(Figure 1 1)~3

Figure 1 

Endoscopic pictures of Ⅰp and Ⅰp+Ⅱc type early colorectal cancer.

左はⅠp型病変,右はⅠp+Ⅱc型病変の内視鏡像を示す.Ⅰp+Ⅱc型病変では太い茎と頭部に陥凹局面を有する腫瘍を認め,周囲はⅠ型pitから成る正常粘膜で構成される.Ⅰp型病変では,周囲の急峻な起ちあがり部分から腫瘍成分で構成されⅠp+Ⅱc型とは明らかに異なる.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌は,頭部の陥凹局面 4の周囲はⅠ型pitの正常粘膜で構成され,腫瘍自体の組織像はⅡc型あるいはⅡa+Ⅱc型の形態を示す(Figure 2).また同病変は,腫瘍辺縁で急峻な起ち上がりを示すpolypoid growth 5),6のⅠp型病変とは異なった形態を示す.以上の,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の臨床病理学的特徴ならびに発育進展について検討した.

Figure 2 

Low-power histology of Ⅰp+Ⅱc type early colorectal cancer.

S状結腸の大きさ15×10mmのⅠp+Ⅱc型SM癌の組織像を示す.図の矢印が茎の部分で,頭部に陥凹主体のⅡcに相当する組織像を認める.また,粘膜筋板ならびに粘膜内癌巣は保たれていた.

Ⅱ 対象と方法

検討対象は,2006年4月から2015年1月の間に経験したⅠp+Ⅱc型早期癌は22例(男性15例,女性7例,平均61.1歳)22病変である.以上を対象に,1)性,年齢,腫瘍径,SM癌のリンパ節転移リスク因子(癌浸潤度,リンパ管侵襲ly,静脈侵襲v,簇出budding,粘膜筋板の組織所見)およびリンパ節転移率について,有茎性Ⅰp型早期癌417例(男性284例,女性133例,平均62.4歳)417病変と比較検討した.2)Ⅰp型,および陥凹型(Ⅱc型,Ⅱa+Ⅱc型,ならびにⅠs+Ⅱc型)317例との局在部位を比較した.3)Ⅰp+Ⅱc型癌と表面陥凹癌の生物学的相違点を知る目的で,特にSM癌に焦点を当て,Ⅰp+Ⅱc型SM癌20例と表面陥凹型SM癌147例との臨床的事項,リンパ節転移リスク因子,およびリンパ節転移率の比較検討を行った.また,4)初回観察時にⅠp+Ⅱc型を呈し,最終的にはⅡa+Ⅱc型早期癌へ形態変化した自然経過例を2例経験し,内視鏡像の推移および病理学的所見について検討した.

以上の検討では,pit pattern診断 7は工藤・鶴田分類に準じ,NBI拡大観察所見は従来の分類からJNET(Japanese NBI Expert Team)分類 8に遡って所見を変換してsurface patternとvessel patternを評価した.また,SM浸潤度分類ならびにリンパ節転移リスク因子の評価は大腸癌取り扱い規約(第8版) 9に準じた.一方,現状ではⅠp+Ⅱc型早期癌のSM浸潤度の評価法について基準はないが,腫瘍部分の内視鏡像および病理組織像がⅡc型やⅡa+Ⅱc型を呈したことから表面型と同様に扱い,規約に則って浸潤度を計測した.

また,SM癌の粘膜筋板の組織所見は,筋板が保持された例や僅かに断裂する病変をmm(+)とし,癌浸潤が高度で粘膜筋板の走行が同定不可能ないし癌性潰瘍を伴う例をmm(-)と分類 4した.以上の臨床病理学的事項の統計学的比較検討はχ2乗検定にて行い,両側検定においてp<0.05を有意差ありと判定した.

Ⅲ 成  績

1)Ⅰp+Ⅱc型早期癌とⅠp型早期癌の比較検討

病変発見時の腫瘍径の比較では,Ⅰp+Ⅱc型早期癌22例22病変の平均腫瘍径は12.6mm(5-20mm)で,10mm以下は9例(40.9%)であった(Table 1).一方,Ⅰp型早期癌417病変の腫瘍径は平均16.2mm(5-40mm)で,Ⅰp+Ⅱc型に比べて有意(p=0.00005)に腫瘍径は大きかった.同様にSM癌の腫瘍径は,Ⅰp+Ⅱc型SM癌20例の平均腫瘍径は12.8mm(5-20mm)であったのに対しⅠp型SM癌46病変の平均腫瘍径は18.8mm(8-30mm)と有意(p=0.000007)に大きかった.

Table 1 

Clinicopathological features of Ⅰp+Ⅱc and Ⅰp type early colorectal cancers.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌とⅠp型早期癌の臨床病理学的事項の比較を示す.

また,Ⅰp+Ⅱc型SM癌の最小は5mmのT1b癌(SM 1,300μm,tub1)であったが,Ⅰp型SM癌の最小は8mmのT1a癌(head invasion)で,5mm以下のSM癌は認めなかった.また,T1bの最小はⅠp+Ⅱc型が5mm,Ⅰp型は15mmであった.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌の組織型は,tub1:7例,tub2:6例,tub1+tub2:5例,tub1+adenoma:3例,tub2+por:1例で,腺腫非併存例は19例(86.4%)を占めたが,腺腫併存例を3例(13.6%)に認めた.また,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の浸潤度はTis:2例,T1a:3例(13.6%),T1b:17例(77.3%)で有意にT1b癌が多かった.一方,Ⅰp型早期癌ではTis:371例(89.0%),head invasion:38例(9.1%),stalk invasion:8例(1.9%)とTisおよびT1a癌が98.1%を占め,Ⅰp+Ⅱc型は有意(p<0.001)にT1b癌の頻度が高かった.

Ⅰp+Ⅱc型SM癌においてリンパ節転移例はT1b:17例中3例に認めたが,Ⅰp型SM癌の転移例は46例中2例(4.3%)と有意(p<0.001)に転移率は低かった.同様に,Ⅰp+Ⅱc型SM癌ではリンパ節転移のリスク因子はly+:20例中7例(35.0%),v+:20例中6例(30%),budding:grade2-3:20例中9例(45.0%)で,Ⅰp型SM癌に比べ有意(p<0.001)に陽性率は高かった.また,Ⅰp+Ⅱc型SM癌ではmm(+):20例中9例(45%),mm(-):20例中11例(55%)であり,粘膜筋板や粘膜内癌巣は約半数で保持された.

拡大内視鏡観察は18例に行い,pit patternはⅤI型高度14例(77.8%),ⅤN型4例(22.2%)で,陥凹辺縁はⅠ型17例(94.4%),ⅢL型は腺腫併存の1例に見られた.一方,NBI所見はJNET分類のType 3:14例(77.8%),Type 2B:4例(22.2%)であった.

2)局在部位の比較検討

Ⅰp+Ⅱc型早期癌の局在部位はS状結腸19例(86.4%),上行結腸1例(4.5%),横行結腸1例(4.5%),下行結腸1例(4.5%)で有意にS状結腸に局在し,特異な分布を示した(Table 2).また,Ⅰp型早期癌のS状結腸病変は270病変(64.7%)であり,Ⅰp+Ⅱc型に比べて有意(p=0.03)に低率であったが,他の部位では上行結腸11.3%,横行結腸10.6%とⅠp+Ⅱc型と比較して高頻度であった.

Table 2 

Comparison of the lesion site between Ⅰp+Ⅱc,Ⅰp,Ⅱc,Ⅱa+Ⅱc,and Ⅰs+Ⅱc type cancers.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌とⅠp型,Ⅱc型,Ⅱa+Ⅱc型,およびⅠs+Ⅱc型病変の局在部位の比較を示す.

同様に,Ⅰp+Ⅱc型病変の頭部の腫瘍形態がⅡcやⅡa+Ⅱc型の形態を示したことからこれら陥凹型早期癌と比較した.その結果,S状結腸における各陥凹型の分布はⅡc型41病変(27.9%),Ⅱa+Ⅱc型39病変(27.3%),およびⅠs+Ⅱc型8病変(29.6%)とⅠp+Ⅱc型に比較して有意(P<0.001)に低率であった.また,同じくⅠp型は上記の陥凹型病変と比較して有意(p<0.01)にS状結腸に存在した.一方,陥凹型のⅡc型ならびにⅡa+Ⅱc型病変は有意に横行結腸に多く分布した.

3)表面陥凹型SM癌との比較検討

Ⅰp+Ⅱc型SM癌と陥凹型SM癌について,特に悪性度の指標となるリンパ節転移リスク因子について比較検討した.その結果,Ⅰp+Ⅱc型SM癌はⅡc型SM癌およびⅠs+Ⅱc型SM癌に比べて腫瘍径は有意に大きかったが,Ⅱa+Ⅱc型SM癌との比較では有意差は認めず近似した(Table 3).また,T1bの頻度はⅠp+Ⅱc型SM癌において85.0%とⅡc型SM癌に比べて有意に高かったが,Ⅱa+Ⅱc型80.0%およびⅠs+Ⅱc型85.2%と同等であった.またSM癌の局在部位の比較では,特にS状結腸に占める頻度は検討2)の結果とほぼ同等であった.

Table 3 

Clinicopathological features of type Ⅰp+Ⅱc and superficial depressed type submucosal invasive cancers.

Ⅰp+Ⅱc型SM癌とⅡc型,Ⅱa+Ⅱc型,およびⅠs+Ⅱc型SM癌の臨床病理学事項の比較を示す.

一方,リンパ節転移リスク因子はⅠp+Ⅱc型と各陥凹型との間に有意差は認めなかった.しかし,T1bが80%以上を占めたⅠp+Ⅱc型,Ⅱa+Ⅱc型,Ⅰs+Ⅱc型では高率にリスク因子の発現を認めた.また,陥凹型SM癌の初期形態であるⅡc型のmm+は63.0%と高頻度であったが,Ⅰp+Ⅱc型では45%と2番目に多く,Ⅱa+Ⅱc型およびⅠs+Ⅱc型に比べて粘膜筋板は保持されていた.さらに,Ⅰp+Ⅱc型ならびに陥凹型SM癌のリンパ節転移率はⅠp型SM癌に比べて高率であり,特にⅠp+Ⅱc型とⅡa+Ⅱc型SM癌では15.0%と15.6%とほぼ同率であった.

4)Ⅰp+Ⅱc型早期癌の自然経過例の検討

初回の内視鏡検査時にⅠp+Ⅱc型を呈した2例の自然経過例を経験した.第1例は70歳代男性,初回検査時にS状結腸に有茎性で,頭部に陥凹局面を持った径5mmのⅠp+Ⅱc型病変を認めた(Figure 3).18カ月後に再検した結果,初回に見られた茎は消失し,辺縁に正常粘膜を伴ったⅠs+Ⅱc型病変へ変化した.SM癌を疑い,初回検査から22カ月後に完全摘除生検目的の内視鏡検査となった.摘除時の内視鏡所見では,Ⅰs+Ⅱc型病変は陥凹内隆起を伴うⅡa+Ⅱc型病変へと変化し,拡大内視鏡観察ではpit pattern はⅤI型高度不整,NBI観察ではJNET分類Type 3と診断された.

Figure 3 

Endoscopic image of the natural history case.

22カ月の経過でⅠp+Ⅱc型(5mm)からⅠs+Ⅱc型,そしてⅡa+Ⅱc型SM癌(8mm)へ発育した自然経過例を示す.本病変のTumor doubling timeは10.78カ月であった.

同病変に対しEMR(Endoscopic mucosal resection)を施行したが,切除病変の病理組織学的検索の結果,高分化型管状腺癌(tub1),腫瘍径8×6mm,深達度pT1b(SM 1,700μm),ly0,v0,budding:grade 1で粘膜筋板はmm(-)と判定された(Figure 4).また,tumor doubling time(以下DT) 10は10.78カ月であった.

Figure 4 

Histology of the natural history case, a low-power image and a high-power image.

Figure 3症例のEMR標本の組織像を示す.病理組織学的検索の結果,病変はⅡa+Ⅱc type early cancer, tub1,8×6mm,pT1b(SM 1,700μm),ly0,v0,budding:grade 1,pHM0,pVM0であった.

第2例は50歳代女性で,初回検査時にS状結腸に茎の太い寸胴型で,頭部に発赤した陥凹局面を有する腫瘍性病変を認めた.頭部の腫瘍は辺縁にⅠ型pit pattern,陥凹部にⅤI高度不整の腫瘍成分が観察され,Ⅰp+Ⅱc型SM高度浸潤癌と診断した.22日後に術前マーキング目的で内視鏡検査を施行したところ,茎は消失してⅡa+Ⅱc型へと変化した.手術標本の病理組織学的検索では,病変は腫瘍径8×7mmの中分化型管状腺癌(tub2),深達度T1b(SM 4,000μm),ly0,v0,n0であった.

Ⅳ 考  察

近年,徐々にその存在が明らかとなったⅠp+Ⅱc型早期癌の臨床病理学的特性や発育進展,そして早期大腸癌における位置付けは明確ではない.以上を明らかにする目的で,Ⅰp+Ⅱc型早期癌とⅠp型早期癌や表面陥凹型早期癌との比較,および自然経過例の分析を行い,上記の課題を考察した.

本研究で明らかとなったⅠp+Ⅱc型早期癌に特徴的な一所見として,その局在部位が挙げられる.すなわち,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の22例中19例86.4%はS状結腸に存在した.病変部位について竹村ら 1は8例中4例50%,森永ら 3は4例中3例75%がS状結腸であったと報告した.少数例ではあるが,著者らと同様にS状結腸の比率が高く,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の特異的な所見の一つと思われた.

Ⅰp+Ⅱc型病変がS状結腸に好発する要因として,以下の二点が考えられた.第一に,腸管蠕動と便性状との関連である.すなわち,右側結腸の液状便は左側では水分吸収により泥状から固形便となる.特にS状結腸では,間質を含む腫瘍塊である病変は便塊と混在して絶えず蠕動に晒され,時に先進して茎が形成される要因になると推測される.第二に,後腹膜に固定されていないS状結腸は可動性に富んでいることが挙げられる.以上より,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の成因には部位的特異性が関与することが示唆された.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌とⅠp型早期癌の腫瘍径の比較では,Ⅰp+Ⅱc型はⅠp型に比べて腫瘍径は有意に小さく,より小型の段階でSMへ浸潤することが示唆された.また,表面陥凹型SM癌の平均腫瘍径はⅡc型10.4mm,Ⅱa+Ⅱc型12.3mm,Ⅰs+Ⅱc型9.6mmであり,Ⅰp+Ⅱc型の12.8mmと近似した.著者ら 7),11),12は,Ⅱc型に代表される陥凹型早期癌は腫瘍径7-8mmでSMへ浸潤し10mm前後でSM深部へ浸潤する可能性を有すること,そして陥凹型SM癌では速いDTでMP癌へ発育する例が存在すること,を報告した 4.今回の成績において,Ⅰp+Ⅱc型および表面陥凹型SM癌の平均腫瘍径は9-12mmと上記の成績と近似しており,類似の生物学的特性を有することが示唆された.

Ⅰp+Ⅱc型SM癌はⅠp型SMに比べてT1b癌(85.0%)の頻度,リンパ節転移のリスク因子であるly+(35.0%),budding:grade 2-3(45.0%),およびリンパ節転移率(15%)が有意に高かった.以上より,Ⅰp+Ⅱc型早期癌はⅠp型早期癌に比べて転移リスク因子陽性率の高い病変と判断された.一方,Ⅰp+Ⅱc型SM癌と表面陥凹型SM癌の比較では,転移リスク因子陽性率やリンパ節転移率に有意差を認めず,両者の悪性度に差は無いと思われた.

また,Ⅰp+Ⅱc病変22例中の腺腫併存は3例のみで,他の19例(86.4%)では腺腫は認めなかった.さらに,M癌の2例(腺腫併存1例)ならびにSM癌9例(腺腫併存1例)の11例(50%)はmm(+)で,粘膜内癌巣はⅡcないしⅡc+Ⅱa型の組織像を呈した.以上より,粘膜内癌巣の残存した例から厳密に由来を推定すると,腺腫非併存でmm(+)の9例(40.9%)はⅡc型に相当する粘膜内癌巣が保持されており,陥凹型由来が示唆された.

一方,PG癌の一部が発育進展とともにNPGの陥凹型SM癌へ発育進展することが報告されている 5),10),13)~20.松井ら 17は,発育進展に伴うPGからNPGへの変化率はsm癌11.8%,mp癌16.7%,ss癌39.1%であり,深部浸潤に伴ってNPGへ変化する頻度が高まることを示した.以上より,癌の深部浸潤に伴い腺腫やPG部分が脱落する例が存在することを加味すると,陥凹型由来のⅠp+Ⅱc型早期癌の頻度は,mm(+)の腺腫非併存例の40.9%(9例)から,22病変全体における腺腫非併存の86.4%(19例)の間に存在すると推測された.しかし,粘膜内病変の脱落したmm(-)のT1b癌の由来を同定することは困難であり,正確にⅠp+Ⅱc型早期癌の由来と発育進展を解明するには多数例の集積と分子生物学的方法等の多角的分析が必要と思われた.

Matsuiら 10はⅠp型からⅡa+Ⅱc型へ変化した2例,Ⅰs型へ変化した1例,およびⅠp型で不変であった1例の計4例では頭部の脱落によって腫瘍径は小型化したと報告した.Ⅰp型病変の形態変化の要因として小田桐ら 14や石黒ら 16は,1)生検や局注による機械的刺激,2)粘膜下層の浮腫と頭部腫瘍部分の虚血,3)便通過や蠕動の物理的刺激,そして4)癌の“stalk invasion”により頭部が脱落して陥凹型へ移行した,と推察した.すなわち,少数であるが“adenoma carcinoma sequence”説 21や中村 22の“夜の破局”に相当する病変が提示されたが,以上の変化の早期癌全体における位置付けやⅠp+Ⅱc型病変との関連はいまだ不明である.

Ⅰp+Ⅱc型病変の自然経過例について「Ⅰp+Ⅱc」「形態変化」をキーワードに医学中央雑誌を検索したが報告例は確認されなかった.著者らはⅠp+Ⅱc型早期癌の自然経過例を2例経験し,形態変化を観察した.以上の2例は,腺腫非併存の有茎のⅠp+Ⅱc型から茎が消失して表面型のⅡa+Ⅱc型SM癌へ変化した.すなわち,NPGからNPGへの発育進展であり,上記の形態変化とは機序が異なると思われた.

特に,発見時に径5mmであったⅠp+Ⅱc病変は腺腫非併存で陥凹局面を伴ったNPG癌の形態を示しており,de novo発生 23の可能性が示唆された.さらに22カ月の経過において,癌の浸潤先進部においてdesmoplastic reactionや炎症細胞浸潤,そしてサイトカイン等の関与により固有筋層側へ接着固定され,Ⅰs+Ⅱc型からⅡa+Ⅱc型SM癌へ変化したと考えられた.

大腸癌の発育進展はドミノ的であり,粘膜下層へ浸潤した後は二次関数的に発育すると言われている.したがって,大腸癌の発育進展の一局面において病変と内視鏡的に対峙した際にその特性や時系列のどの局面に相当するのかを診断することは重要であり,適正な治療選択において必要不可欠となる.

Ⅰp+Ⅱc型早期癌は,今回得られた成績からⅡc,Ⅰs+Ⅱc,およびⅡa+Ⅱc型早期癌と同様の発育進展経路に属する病変と位置付けることが可能と思われた.また,Ⅰp+Ⅱc型早期癌の多くは発見時SM高度浸潤癌でありLAC(Laparoscopy assisted colectomy)の適応となる.他方,Tis-T1a癌が約2割に存在したことから,深達度診断に苦慮する例では完全一括摘除により正確な病理組織診断を得ることも考慮されるべきと思われた.

Ⅴ 結  論

Ⅰp+Ⅱc型早期癌はS状結腸に好発し,リンパ節転移率の高い病変で,小さな腫瘍径でSM深部に浸潤する陥凹型早期癌の性格を有した.また,Ⅰp+Ⅱc型早期癌からⅡa+Ⅱc型T1b癌へ発育し茎の消失した自然経過例を2例認めた.以上より,Ⅰp+Ⅱc型早期癌はS状結腸という場の特異性を有する陥凹型早期癌の1つの表現形態と推定された.また,本病変は主としてLACの適応となるが,深達度診断困難例では完全一括摘除による正確な病理組織学的検討が重要と思われた.

本論文の要旨は第83回消化器内視鏡学会総会プレナリーセッションにて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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