GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A PATIENT WITH WHIPPLE’S DISEASE WITHOUT AN UNDERLYING DISEASE IN WHICH THE PATIENT WAS FOLLOWED ENDOSCOPICALLY BEFORE AND AFTER TREATMENT
Hiroshi ONO Shusuke NAKAUCHIAtsushi IKEDAMiki DOGAKIMomoko SUGAHiroshi HATANAKAHidenori TANAKAShinya WAKIAkira NAKAMURATakashi ITO
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2017 Volume 59 Issue 11 Pages 2607-2613

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要旨

症例は41歳男性で,食欲不振,倦怠感,発熱を主訴に来院した.当院で施行した上部消化管内視鏡では十二指腸にびまん性の白色絨毛を認め,生検病理組織所見と合わせてWhipple病と診断した.抗菌薬治療を開始し,約2カ月後と約8カ月後の内視鏡像と病理組織像の評価を行うことができた.最近の本邦における本症の報告のほとんどが,上部消化管内視鏡における十二指腸の白色絨毛を契機に診断されており,症状から診断することが難しい本症の診断において非常に有用な所見と考えられた.自験例は免疫低下を来す背景がないこと,内視鏡像と生検病理組織所見を経時的に評価し得たことから貴重な症例と考え報告する.

Ⅰ 緒  言

Whipple病は,グラム陽性桿菌であるTropheryma whippleiの感染により生じる全身性の慢性細菌性感染症であり,関節痛,消化器症状,体重減少等の多彩な臨床症状を呈する疾患である 1),2.世界的には近年増加傾向にあるが 3,本疾患は欧米の白人中年男性に多く,本邦での報告は10例程度と稀である 4)~15.今回,われわれは免疫能低下を来す基礎疾患がない本疾患を経験し,本疾患の治療経過における内視鏡像と生検病理組織像の経時的な変化について評価することができたので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:41歳,男性.

主訴:発熱,倦怠感,食欲不振.

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

現病歴:2004年頃より関節痛,頭痛を自覚していたが放置していた.2010年には倦怠感が出現し,2012年には息切れと倦怠感が強くなり近医を受診したが原因は不明であった.その後も症状の改善は乏しく,下腿の浮腫や発熱も出現したため2014年9月に当院を受診した.外来にて腹部造影CT等を施行するも原因は不明であり,同年11月に施行した上部消化管内視鏡では白色絨毛は認めていたが本症を疑うことができず,生検組織診断でも確定診断には至らなかった.その後も徐々に全身状態の悪化を認めたため,2015年1月に精査目的に入院となった.

入院時現症:身長173.5cm,体重77.1kg,血圧104/61mmHg,脈拍96回/分,体温36.9℃.脛骨前面に著明な浮腫が認められた以外は特記すべき事項なし.

入院時検査所見:WBC 4,760/mm3,Hb 8.5g/dl,Ht 25.5%,TP 3.7g/dl,Alb 1.6g/dl,AST 33IU/l,ALT 23IU/l,Na 130mEq/l,K 3.5mEq/l,Cl 97mEq/l,CRP 5.21mg/dlと炎症反応の上昇,貧血,低蛋白血症,電解質異常等を認めた.

上部消化管造影検査:十二指腸から上部空腸におけるKerckringの辺縁は軽度不整を認めたが,明らかな肥厚は認めなかった.

上部消化管内視鏡:十二指腸下行脚から水平脚にかけて,びまん性に腫大した易出血性の白色絨毛を認めた(Figure 1-a).NBI併用拡大観察では白色調の沈着物を認め,絨毛内の微細血管構造は不明瞭化していた(Figure 1-b).

Figure 1 

上部消化管内視鏡所見.

a:十二指腸下行脚にびまん性に腫大した白色絨毛を認めた.

b:NBI拡大観察では白色調の沈着物を認め,絨毛内の微細血管構造は不明瞭化していた.

下部消化管内視鏡検査:終末回腸には軽度の白色絨毛を認めたが,大腸には異常はなかった.

カプセル内視鏡:十二指腸下行脚から終末回腸までびまん性の白色絨毛を認めた.深部小腸に進むにつれ,白色絨毛の割合,絨毛のサイズとも減少していた.

経口的小腸バルーン内視鏡:上部空腸のみの観察であったが,カプセル内視鏡と同様の所見がみられた(Figure 2).

Figure 2 

経口的小腸シングルバルーン内視鏡:上部空腸では十二指腸と同様の所見が認められた.

病理組織学的所見:HE染色で十二指腸と空腸の粘膜固有層に泡沫状マクロファージの集簇を認め(Figure 3-a),胞体はジアスターゼ抵抗性PAS染色で陽性であり,脂肪滴も認めた(Figure 3-b).

Figure 3 

病理組織学的所見.

a:HE染色(200倍):粘膜固有層に泡沫状マクロファージの集簇を認めた.

b:ジアスターゼ抵抗性PAS染色(200倍):マクロファージはジアスターゼ抵抗性PAS染色陽性であり,脂肪滴も認めた.

電子顕微鏡所見:薄い細胞壁を持つ約2×0.2μmの細長い桿菌が多数認められた(Figure 4).

Figure 4 

電子顕微鏡所見(12,000倍):薄い細胞壁を持つ約2×0.2μmの細長い桿菌を認めた.

入院後経過:上記の検査の結果からWhipple病と診断し,過去の報告を基にCeftriaxone(CTRX)2g/日を2週間点滴静注した後にST(sulfamethoxazole/trimethoprim)合剤4錠/日の経口投与に変更した.しかし,ST合剤に変更後7日目に,AST 218IU/l,ALT 248IU/l,CRP 17.53mg/dlと肝酵素とCRPの上昇と高熱を認めた.上部消化管内視鏡で病状の悪化のないことを確認したうえで,薬剤性の肝障害と判断しST合剤の投与を中止した.発熱と肝障害の改善を確認した後,この副作用は用量依存性によるものと考え,ST合剤を2錠/日に減量し投与を再開した.その後は肝障害や原疾患の悪化なく経過したために退院となった.治療開始後約2カ月,約8カ月経過したところで上部消化管内視鏡を施行し,内視鏡像と生検病理組織像の対比を行った.約2カ月後の内視鏡像では絨毛の腫大,色調ともに改善を認め微細血管構造も明瞭となっていた(Figure 5).しかし生検病理組織像では泡沫細胞の大きさは縮小していたものの,粘膜固有層には依然として著明な集簇を認め脂肪滴も残存していた.約8カ月後の内視鏡像はほぼ正常の絨毛の所見となっており,生検病理組織像でも粘膜固有層の泡沫細胞は著明に減少していた(Figure 6).現在まで約13カ月間,抗菌薬を継続中であるが,症状の再燃や副作用等もなく経過している.

Figure 5 

上部消化管内視鏡所見(治療開始約2カ月後):絨毛の腫大,色調ともに改善を認め微細血管構造も明瞭となっていた.

Figure 6 

病理組織学的所見(治療開始約8カ月後)ジアスターゼ抵抗性PAS染色(200倍):粘膜固有層の泡沫細胞は著明に減少していた.

Ⅲ 考  察

Whipple病はWhippleが1907年に初めて報告した疾患で 16,1940年代になると小腸の粘膜固有層にPAS染色陽性のマクロファージが多数出現する疾患として認識された 17.その後,1960年代には電子顕微鏡でマクロファージに貪食された菌体が確認され,1990年代にはTropheryma whippleiに特異的な16S ribosomal RNAが同定された 18Tropheryma whippleiは自然環境下に存在する菌であり,感染経路として汚染された飲料水や土壌からの経口感染が疑われている 1.本疾患の典型例の約30%がHLA-B27を有していることから 19,感染と発症に細胞性免疫能の低下が関与していることが推測されている.

医学中央雑誌で『Whipple病』をキーワードに用いて1976年から2016年まで検索したが,再発例と会議録を除くと自験例を含め本邦では10例の報告があった(Table 1 4)~15.平均年齢は51歳で男性8例,女性2例と男性に多かった.

Table 1 

Whipple病の本邦報告例(再発例,会議録除く).

患者背景は4例でHTLV-1が陽性,海外在住歴が2例,精神発達遅滞が1例であり,また1例はHTLV-1,HIVとも未検査であったが,前立腺癌に対して放射線治療歴があった.自験例を含めた2例はHTLV-1等の免疫異常を来す既往症がなく,HLAもWhipple病に典型的な型ではなかった.本邦での報告は海外からの報告とは異なり,HLA-B27の保有者はないがHTLV-1のキャリアが多くみられることから,細胞性免疫の低下が本症の発症に関与していると推測された.

Whipple病はまず十二指腸や空腸の感染が起こり,ゆっくりと下痢,発熱,腹痛,吸収不良を伴う体重減少がみられる.さらに感染が全身に広がり,関節所見,神経所見,肺所見,皮膚所見,眼所見などを認めることがある.小腸に病変があり多彩な症状を呈する型(古典的Whipple病)と,血液培養陰性の心内膜炎型と,小腸の病変が証明されない中枢神経単独感染型が提唱されている1).本邦報告例の臨床症状は全例で下痢を認めており,体重減少7例,発熱4例,関節痛3例,腹痛2例,食欲不振2例,嘔吐1例であった.検査成績では低アルブミン,貧血とも9例で認められた.またリンパ節腫大が6例にみられた.

罹病期間は,楢本らの報告と自験例を除くと,本邦からの報告は発症から約1カ月~約2年であり,海外からの報告 20と比べ短期間の経過であった.本邦では10例中8例が2009年~2016年の最近8年間に報告されており,急激に報告が増えている.内視鏡検査が施行されていない楢本らの症例以外は十二指腸の白色絨毛を契機に診断されていた.本症の臨床症状は多彩で非特異的であり,症状のみから本症を想起するのは困難である.体重減少や腹痛があるため上部消化管内視鏡が行われるが,白色絨毛が本症に特徴的な所見と認識していなければ本症の診断は難しい.当院では入院の約2カ月前に初回上部消化管内視鏡を実施しており白色絨毛を指摘していた.しかし,Whipple病を疑うことができなかったため,病理組織学的にも診断に至らなかった.本邦で最近本症例の報告が増えてきたのは,十二指腸の白色絨毛が本症に特徴的であるという認識が消化器内科医に普及してきたためと思われる.以前に上部消化管内視鏡が行われていたにもかかわらず,本症例と同様に白色絨毛の生検をしても診断がつかなかった症例や,白色絨毛があっても生検がされずに診断がつかなかった症例が,一定数潜在していると思われる.

内視鏡所見に関して,十二指腸,空腸とも9例中8例で病変が認められ,残りの1例は十二指腸に病変がみられたが,空腸の観察はできていなかった.上部消化管内視鏡の通常観察では全例にびまん性の白色絨毛を,また拡大観察を行えた症例では全例に絨毛内血管の不明瞭化を認めていた.十二指腸に白色絨毛がみられWhipple病と鑑別を要する疾患は,リンパ管拡張症,非定型抗酸菌症,濾胞性リンパ腫,糞線虫症などが挙げられる 21.非定型抗酸菌症とWhipple病は,病理学的にもマクロファージの集簇によって起こる腫大した絨毛を認めるため,内視鏡的鑑別は難しい.リンパ管拡張症と糞線虫症は絨毛が腫大していないことが多く,詳細な内視鏡観察で鑑別は可能である.濾胞性リンパ腫の多くは白色顆粒状隆起の集簇および多発がみられ,鑑別は困難ではない.しかし,白色絨毛のみがみられる症例もあり 22,この場合は鑑別が難しいことがある.

病理組織所見に関しては,全例で粘膜固有層にPAS強陽性の泡沫細胞を多数認めており,本疾患に典型的な病理組織所見と考えられる.しかし,生検でマクロファージの集簇を認める疾患は,黄色腫をはじめいくつかの疾患があるため 23,臨床側から内視鏡像や経過等も含めて情報を提供する必要がある.Whipple病を疑えばPAS染色を行い,さらにジアスターゼ抵抗性PAS陽性の顆粒の存在まで確認できれば,病理組織所見で鑑別すべき疾患として非定型抗酸菌症が残る 24.これに関しても,Ziehl-Neelsen染色等を追加することで鑑別は可能と考える.

確定診断にはPCRや電子顕微鏡でのTropheryma whippleiの確認が必要とされている 8.本邦での報告例では,電顕とPCRの両者で確認したものが3例,PCRのみが2例,電顕のみが2例,電顕とPCRのいずれも施行していないものが2例,治療後の検体であり電顕とPCRの両方とも陰性が1例であった.確定診断できなかった3症例は特徴的な病理組織像と治療反応性より,Whipple病と臨床的に診断されていた.自験例では,電顕のみ施行しているが,Tropheryma whippleiの特徴である3層の細胞壁微細構造を認め 25,臨床像や内視鏡像と合わせてWhipple病と診断した.

治療に関しては,これまではテトラサイクリン系の抗菌薬が長く用いられてきた.しかし治療後の再発率が高いことから,最近では血液脳関門の通過が良好な抗菌薬が用いられている 2.初期治療としてCTRX 2g/dayを点滴静注で2週間投与した後に,維持療法として最低でも1年以上のST合剤 4錠/dayの内服が推奨されている 1.自験例でもこの推奨に従って治療したがST合剤4錠/日で肝障害が出現したため,2錠/日に減量することで継続投与が可能となった.

これまでの報告は診断と治療に焦点を当てたものがほとんどであり,治療中の内視鏡像や生検病理組織所見の変化について詳しく記述している文献は僅かである.自験例では治療開始から約2カ月後,約8カ月後に,上部消化管内視鏡を施行し病変部から生検検体を採取し,治療経過における内視鏡像と生検病理組織学的検討を行った.治療の指標として内視鏡像は有用であるが,治癒に関しては内視鏡所見のみでは不十分であり生検病理組織所見と合わせて評価する必要があると考えられる.また自験例は発症から診断に至るまでに約10年の経過を要しており,診断に難渋した症例である.この間に様々な医療機関を受診していたが,いずれも診断には至らなかった.本疾患の診断が,体重減少や消化器症状の精査のために施行される上部消化管内視鏡を契機になされることが多いことから,消化器内視鏡医として本疾患の典型的な所見は熟知しておく必要があると考える.

Ⅳ おわりに

本邦では極めて稀なWhipple病の1例を経験した.本症例は診断までに長期の経過を要したが,上部消化管内視鏡を契機に診断に至り,また治療経過における内視鏡像の変化と生検病理組織の変化についての検討を行うことができた.本症は完治可能な疾患であり,診断には特徴的な内視鏡所見より疑うこと,病理医との情報の共有が重要である.

論文作成につき御助言をいただいた大阪市立十三市民病院消化器内科 大川清孝先生,並びに病理組織所見につき御助言をいただいた三田市民病院臨床病理科 木崎智彦先生に深謝致します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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