GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2017 Volume 59 Issue 11 Pages 2628-2629

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【症例】

症例:60歳代,男性.

主訴:なし.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2007年に当科にてスクリーニング希望による大腸内視鏡検査を施行し,深部大腸に淡黄白色隆起所見の多発を認めたため(Figure 12),同部位の生検と便普通寒天平板培地法による便検査を行った.便検査は糞線虫陽性であり,生検病理組織所見では好酸球の集簇巣を認めた(Figure 3).以上の所見から無症候性糞線虫症と診断され,Ivermectinの内服にて駆虫された.

Figure 1 

大腸内視鏡検査所見;深部大腸に淡黄白色隆起所見の多発を認めた.

Figure 2 

大腸内視鏡検査所見(近接像);深部大腸に淡黄白色隆起所見の多発を認めた.

Figure 3 

病理組織所見(HE染色,×400);生検病理組織所見では好酸球の集簇巣を認めた.

【解説】

糞線虫症は,軽症の場合には臨床的に問題となることは少ないが,宿主の免疫能が低下した場合などには重症化して敗血症や髄膜炎・肺炎などを生じる播種性糞線虫症となり死に至ることも少なくない.例えば,腹部症状を伴い,大腸発赤などの生検で好酸球性胃腸炎と診断されてステロイドが投与されると致死的病状となりうる 1.したがって,特に免疫を抑制する薬剤の投与前に糞線虫症を早期診断して駆虫しておくことは大変重要である.

50歳以上の沖縄県民の保虫者に関する疫学的報告として,2006年の琉球大学入院患者における陽性率は7.5%と報告されている 2.便検査は感度の高い普通寒天平板培地法を用いるべきである 3

今回呈示した淡黄白色隆起所見は無症状の糞線虫症において比較的高率に認められると報告されており 4,発赤やびらんなどの所見より初期に認める病変と考えられる.本所見を認めた場合は生検を行い病理組織学的に好酸球集簇や虫体の確認および便普通寒天平板培地法を行う必要がある.主に足から経皮感染したF型幼虫は,十二指腸や上部空腸に到達して成虫に成熟する.軽症例では十二指腸に炎症所見を認めないが,重症例では炎症所見を認めることがある 5.本症例では上部消化管内視鏡検査は施行しなかった.また,大腸では粘膜固有層内のF型幼虫が主体なので,虫体径が非常に小さいためか本症例のように必ずしも生検病理組織で虫体が同定されるわけではない.生検病理組織では好酸球浸潤が特徴とされている 6.治療はIvermectin内服で多くは駆虫される 7

沖縄県や鹿児島県南西諸島出身の高齢者において淡黄白色隆起所見を発見した場合は糞線虫症の診断と治療を行い,播種性糞線虫症への移行を防ぐことが望まれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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