2017 Volume 59 Issue 12 Pages 2719-2724
難治性空腸皮膚瘻に対し,ガイドワイヤーを併用したOTSCシステムによる閉鎖術が有効であった1例を報告する.症例は71歳男性,脳梗塞後,空腸瘻が施行された.施設入所中に空腸瘻カテーテルが皮下に埋没し紹介入院となった.カテーテルを抜去後も瘻孔が閉鎖せず,保存的治療で改善しないため,OTSCシステムによる内視鏡的閉鎖術を試みた.経皮的に瘻孔よりガイドワイヤーを挿入し,内視鏡を用いて口からガイドワイヤーを引き出した.このガイドワイヤーの誘導下にOTSCシステムを装着した内視鏡を空腸皮膚瘻まで挿入し,クリップを展開し閉鎖した.空腸など内視鏡操作が困難な瘻孔閉鎖にOTSCシステムを使用する際,ガイドワイヤーを併用した工夫が有用であった.
胃瘻や空腸瘻のカテーテルを抜去すると,通常は数日の間に瘻孔が閉鎖する.しかし,カテーテル抜去後も何らかの原因で瘻孔が閉鎖しない症例に遭遇する.今回われわれは難治性空腸皮膚瘻の閉鎖に,ガイドワイヤーを併用したOTSCシステムの使用が有効であった症例を経験した.本邦では胃瘻後の瘻孔閉鎖に対するOTSCシステム使用例の報告は散見されるが 1),2),空腸瘻の閉鎖に使用された報告はなく,若干の文献的考察を加えて報告する.
71歳,男性.
主訴:空腸瘻からの栄養剤,腸液の漏れ.
既往歴:49歳時,胃癌に対して胃全摘術が施行された.60歳時,脳出血,68歳時,脳梗塞を発症し,経鼻胃管からの経腸栄養が開始された.69歳時,経皮内視鏡的空腸瘻造設術:direct percutaneous endoscopic jejunostomy(以下DPEJ)が施行され経鼻胃管が抜去された.
家族歴:特記すべき事なし.
現病歴:DPEJ施行後施設で経腸栄養を継続していたが,平成27年X月,腸瘻カテーテルを自分で牽引し,その後瘻孔周囲の皮膚の発赤と栄養剤の漏れをきたし,その2日後に紹介入院となった.
入院時現症:身長158cm,体重41.7kg,BMI 16.7kg/m2,体温36.5℃,脈拍75/分,整,血圧119/53mmHg,腹部は平坦,軟で瘻孔周囲の圧痛を認めた.瘻孔部はDPEJのバンバーが皮下に埋没した状態であり,瘻孔拡大と周囲の皮膚の発赤を認めた.
臨床検査成績:CRPは3.77mg/dlと上昇,アルブミンが3.3g/dlと低下していた(Table 1).
臨床検査成績.
腹部CT検査:腸瘻カテーテルを抜去し腹部CT検査を行ったところ,皮下に埋没したバンパーの部位に一致して皮下ポケットを形成し,空腸との交通が認められた(Figure 1).
空腸カテーテル抜去直後の腹部CT所見.
皮下に埋没したバンパーによる空洞を形成し(矢印),空腸,皮膚との交通を認める.
入院後経過:カテーテル抜去後,中心静脈栄養からの栄養投与を行い経過観察した.第5病日には瘻孔はピンホール状に縮小したため,瘻孔よりループワイヤーを挿入し,内視鏡を用いて口から引き出し,プル法により腸瘻カテーテルを再留置した.翌日より経腸栄養を再開したところ徐々に瘻孔が拡大し,経腸栄養を再び中止した.その後も腸液の漏れが続き,この瘻孔を使用することは困難と判断し,第20病日にカテーテルを抜去した.瘻孔は徐々に縮小し第30病日には瘻孔が閉鎖した.第32病日に中心静脈カテーテルの感染をきたし,カテーテルを抜去し末梢静脈栄養に変更した.そこで第35病日に瘻孔の口側5cmの部位に,新たなDPEJを施行した.翌日より経腸栄養を再開したところ,第46病日に閉鎖していた旧瘻孔が再開通した.再び経腸栄養を中止し,中心静脈栄養に変更した.さらに表皮側の縫合を行ったが腸液の漏れが持続し,瘻孔は更に拡大したため,第53病日にOTSCシステムによる閉鎖術を試みた.
OTSCシステムを装着した内視鏡は視野が不良で瘻孔までのアプローチが困難と思われたため,まず瘻孔よりガイドワイヤー(JagwireTM 0.025 in X 450cm,Boston Scientific,NA:USA)を挿入し(Figure 2-a),通常の経口内視鏡(GIF-H260,オリンパスメディカルシステムズ,東京)を用いてガイドワイヤーを把持し口から引き出した.次に,同内視鏡にOTSCシステム(12/6t-220,Ovesco Endoscopy AG:Germany)を装着し,内視鏡鉗子チャンネルから逆行性にガイドワイヤーを通過させた(Figure 2-b).このガイドワイヤーに沿って内視鏡を挿入し,空腸の瘻孔部位まで内視鏡を誘導した.
OTSCシステムによる内視鏡的瘻孔閉鎖術.
a:経皮的に瘻孔よりガイドワイヤーを挿入し内視鏡で確認した.
b:OTSCシステムを装着した内視鏡の鉗子チャンネルに,口から引き出したガイドワイヤーを逆行性に挿入した.
c:ガイドワイヤー誘導下に内視鏡を瘻孔まで挿入し,アプリケーターを瘻孔の中央に押し当てた.
d:ガイドワイヤーを口側より抜去し,クリップを展開し瘻孔を閉鎖した.
ガイドワイヤーを目印にアプリケーター先端が瘻孔の中心になるように内視鏡を調整し(Figure 2-c),吸引をかけ十分に粘膜をアプリケーター内に引き込んだ状態でガイドワイヤーを口側より抜去し,クリップを展開した(Figure 2-d).内視鏡の送気が皮膚側に漏出しないことや,小腸の管腔が開存していることを確認し内視鏡を抜去した.
第60病日より経腸栄養を再開し,瘻孔からの漏れも無く経過良好であったため,第68病日に紹介元施設へ退院した.その半年後のカテーテル交換に受診した際も瘻孔は閉鎖しており(Figure 3),現在まで安定して経腸栄養を継続している.
閉鎖6カ月後の腹壁所見.
旧瘻孔(矢印)は閉鎖状態である.
一般に胃瘻カテーテルを抜去した場合,急速に瘻孔は縮小し,事故抜去の際には迅速な瘻孔確保が求められる.しかし,閉鎖目的でカテーテルを抜去後も瘻孔が閉じず,難治性の皮膚瘻を形成することがある.このような瘻孔閉鎖不全には,全身的な要因と局所的な要因が関与しているとされている.小児では瘻孔が閉鎖しにくく,カテーテル留置期間が長期になるほど閉鎖しにくいとされている 3).成人でも低栄養状態,肥満,ステロイド剤の投与,局所の感染や胃酸,腸液の影響,不良肉芽形成などが閉鎖を妨げる因子と考えられている 2),4).
胃瘻に比べ小腸瘻は瘻孔の閉鎖が遷延したり,閉鎖せず開存することが多いとされている.これは局所要因としての胆汁や膵液の関与が示唆されている 5).Rumallaらは36例のDPEJ施行例のうち2例の閉鎖不全を,Mapleらは286例中9例の閉鎖不全を認めたと報告している 6),7).本例では瘻孔が以前の胃全摘術の手術瘢痕上に造設されており,瘻孔周囲組織の線維化が強かったことが難治性となった要因と思われる.さらにバンパーが皮下に埋没しポケットを形成したため,腸液がポケットに貯留しやすい状況であったことも一時閉鎖後に再開通した原因ではないかと思われた.
難治性瘻孔の閉鎖には種々の方法が報告されている 8).絶飲食と中心静脈栄養,ソマトスタチンアナログや制酸剤,血液凝固第ⅩⅢ因子製剤などの投与が行われている 9).局所に対する処置としては,ディスポーザブルトレパンを用いた不良肉芽の除去やフィブリン糊,被覆材の使用で肉芽の増殖を促す方法などが報告されている 10)~12).このような治療でも瘻孔が閉塞しない症例では内視鏡的クリッピング,内視鏡的結紮術,アルゴンプラズマ凝固法などの内視鏡的処置や侵襲のある外科的な閉鎖術が選択される 5),13)~16).その時期について一定の見解はないが,胃瘻カテーテルを抜去して1カ月経過しても閉鎖しない症例では外科的な閉鎖を考慮すべきと報告されている 17).本例では入院後1カ月半経過した時点でも閉鎖せず,保存的治療では更に長期化する可能性が高かったこと,中心静脈栄養中にカテーテル感染症をきたしたことなどの理由で,早期の経腸栄養の再開を目指して,内視鏡による閉鎖術を選択した.
2009年欧米で導入された内視鏡用全層縫合器Over-The-Scope Clip(以下OTSC)システムは,2011年より本邦でも使用可能となり,このような難治性瘻孔の閉鎖にしばしば使用されるようになった18),19).本システムは内視鏡の先端にクリップを装填したアプリケーターを装着し,アプリケーター先端を病変部に押し当てる.ツイングラスファイバー把持鉗子や吸引を用いて病変組織をアプリケーター内に引き込み,クリップを展開することにより病変組織を縫合する.従来の経鉗子チャンネルのクリップでは処置が困難な難治性の出血,穿孔,瘻孔,術後縫合不全などに使用されている.Natural orifice transluminal endoscopic surgery(NOTES)時の瘻孔閉鎖に対して,内視鏡的クリッピングとOTSCシステムを比較した試験では,OTSCシステムが短時間で確実に閉鎖が可能であったと報告されている 20).本例では瘻孔が形成され2年が経過し,瘻孔周囲の組織も堅くなっていることが予測された.また,皮下ポケットが大きく,空腸側の瘻孔も大きい可能性があったため,内視鏡的閉鎖術として内視鏡的クリッピングではなくOTSCシステムを選択した.
OTSCシステムは出血,穿孔,瘻孔,縫合不全のいずれに対しても,手術成功率は89%以上であり,良好な成績が報告されている.しかし,長期的にみた根治率では,瘻孔以外は90%前後の成績であるのに対して,瘻孔閉鎖の完治率は50%前後であった 19),21).またLawらは,小腸,胃,大腸の瘻孔閉鎖を報告しているが,処置成功率は88%以上であるが,完治率はいずれの部位も50%前後であった 22).消化管穿孔に対する閉鎖に比べ,瘻孔閉鎖の長期的治癒率が低いのは,慢性の瘻孔は線維化が強く,腸管の進展性が低いためと考えられている 23).そのため,消化管の全層を十分にフード内に吸引できず,再発率が高いと思われる.
瘻孔閉鎖の有効率は胃,小腸,大腸の間で差がないが,内視鏡のアプローチが困難で管腔の狭い小腸は,閉鎖手技が困難と思われる.さらにOTSCシステムを装着すると,内視鏡先端の長いアプリケーターにより視野が不良になるとともに操作性が損なわれる.本例ではガイドワイヤーを瘻孔へのアプローチに用いることで,OTSCシステムを装着した内視鏡をすみやかに挿入することが可能であった.さらに,ガイドワイヤーの挿入部をアプリケーターの中心部に誘導することで,ツイングラスファイバーなどの補助具の使用なしに,瘻孔の中心部をアプリケーター内に吸引することが可能であった.処置直後より瘻孔は完全に閉鎖された状態となり,その後経腸栄養を継続しても再発することはなかった.
OTSCシステムによる処置の偶発症としては,消化管狭窄,消化管穿孔,組織損傷などの報告があるが,その頻度は2%程度とされている 19).しかし,消化管腔の狭い,食道や小腸では狭窄の合併がしばしば報告されており 24),25),本例のように空腸で使用する場合は,消化管腔を広く縫合しないように注意が必要であろう.
以上のように,難治性瘻孔の閉鎖の局所的治療として,OTSCシステムは試みるべき処置と思われる.特に本例のような内視鏡のアプローチや操作性が不良な部位での瘻孔閉鎖には,ガイドワイヤーを併用した工夫が有用と思われた.
難治性の消化管皮膚瘻の内視鏡的閉鎖に,OTSCシステムは有効である.より確実な閉鎖のために,ガイドワイヤーの使用も選択肢の一つと思われる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし