2017 Volume 59 Issue 2 Pages 207-218
Endocytoscopy system(ECS)は2003年に細胞レベルまで拡大可能な超拡大内視鏡として試作機1号が開発された.現在の第4世代ECSはHi-vision画像で連続して500倍までの拡大が可能となり,市販可能なレベルに到達している.
食道におけるECS観察を効率的に運用するためにType分類を提案した.Type1:核密度が低く観察される扁平上皮細胞はN/C比が低く核異型のないもの.Type2:核密度は高く,細胞間の境界が不明瞭になっているが核異型が弱い.Type3:核密度が高く核異型が観察される.Type3を悪性とすると内視鏡医の診断は感度93.6%,特異度94.0%であり,病理医の判定は感度93.6%,特異度98.8%であった.
食道に対するECS診断はOptical biopsyを実現し生検診断省略を可能にする.しかし,あくまで表面から見た病理診断であり限界も熟知する必要がある.
Endocytoscopy system(ECS)はモニター画面上400倍から1,000倍の拡大率をもつ超拡大内視鏡(軟性鏡)であり消化管内に挿入可能である.メチレンブルー,トルイジンブルーなどで表面の粘膜を染色することにより生体内で細胞を直接観察することができる.
第1世代ECSは2003年に開発され,筆者らは生体内で正常食道,食道癌細胞の描出にはじめて成功し,2004年に食道におけるECS観察の第1報を報告した 1).
本稿では現在までの開発の経過と食道病変におけるECS観察の実際を紹介する.
各Endocytoscopy system試作機の性能.
ECSは現在まで4種類の試作機をオリンパスメディカルシステムズ社が製作した.
ECSの開発はコンタクトエンドスコピー(Karl Storz社:硬性鏡)を用いた生体内細胞観察にヒントを得て研究が始まった.このコンタクトエンドスコピーは細胞レベルまで拡大可能な硬性鏡であり,おもに耳鼻科領域で生体内細胞観察の報告がある 2).大植らはこれを用い主に大腸の切除標本で基礎検討を重ね生体内での細胞観察の可能性を示唆した 3).筆者は食道において同様の基礎検討を行い 4),消化管内にも挿入可能な軟性鏡の製作をオリンパスメディカルシステムズ社に依頼した.これをうけ2003年に処置様の内視鏡(GIF-1T)の生検鉗子孔を通るプローブとして第1世代ECSが開発された 1).このECSは14インチモニター上最大拡大率450倍,1,125倍の2種類があり固定焦点,固定倍率であった.プローブの利点としてGIF-1Tの画面を見ながらECSプローブを対象粘膜に接触させることで,あたかも生検を取るかのように細胞の画像が得られた.しかし耐久性に問題があり,2005年に80倍までの拡大内視鏡に450倍のECSを搭載した第2世代ECS(二眼式:GIF-Y0001)が開発された.第1,第2世代ECSでの食道癌症例に対する検討では病理医は1,125倍ECSで得られた画像から84%の症例で生検診断を省略できるとした 5).しかし第2世代ECSにより耐久性は向上したもののECSレンズと80倍拡大内視鏡レンズが2mm離れているため小さな病変にpin pointでECSレンズを接触させることが困難であった.これを受け2009年に380倍まで光学的に連続して拡大できる第3世代ECS(GIF-Y0002)が試作された 6).連続拡大のメリットは大きく,通常観察~弱拡大による微細血管観察~最大拡大による細胞観察が1本のスコープで連続して行えるようになった.またGIF-Y0001に比べ細径化され,スクリーニング検査にも使用可能となり食道癌以外の良性病変の検討も可能となった.しかし,当初380倍と倍率が低いため良性病変の病理医の正診率は低かった 7).この問題を解決するため本体内蔵の1.8倍電子ズームを使用し700倍で再検討すると核異型の認識が容易となり病理医の正診率は飛躍的に向上した 8).2015年に開発された第4世代ECS(GIF-Y0074)では光学的に連続して500倍まで倍率を上げることが可能で,さらにHi-vision化に成功し,より鮮明に核の形態をとらえることができるようになった.外径9.7mmとさらに細径化され市販可能なレベルまで到達している 9).
Informed consent,前処置
検査前に通常の内視鏡検査と同様の同意を取得することに加えて超拡大観察に関する同意も取得する.この際,検査後生体染色に使用する薬剤により尿が青染することを必ず伝えるようにしている.
咽頭麻酔,プロナーゼ内服などの前処置は通常の上部消化管内視鏡検査と同様である.蠕動の排除のためブチルスコポラミンの筋肉注射を行うが,ミダゾラムなどによる沈静は個別に考慮している.
電子動画1
連続拡大ECSであるGIF-Y0002,GIF-Y0074での食道病変の観察の手順は,市販の拡大内視鏡と同様に通常観察をまず行い,弱拡大で対象部の微細血管形態を観察する.必要であればヨード染色を行った後にチオ硫酸ナトリウム(デトキソール)2アンプルを使用し十分にヨードを中和する.ヨウ素ヨウ化カリウム液はメチレンブルーもしくはトルイジンブルー溶液と混合すると結晶化する.このためヨード染色後にトルイジンブルー染色をすると微細な結晶がECS観察を妨げることがある.そのためヨウ素ヨウ化カリウム液の濃度は1%程度とする.また,ヨード染色後チオ硫酸ナトリウムで約1分間中和し,1%トルイジンブルー溶液2-3mlで染色後に十分に洗浄し細胞観察を行う.散布直後より細胞が染色されておりECSにて観察可能となる.染色が弱い場合には追加で1-2mlを散布する.トルイジンブルー染色では癌細胞が表面に露出している部分は濃染するため範囲診断もおおむね可能である.
トルイジンブルー染色後対象部にレンズを接触させ最大拡大率で細胞の形態を観察する.病変を画面の12時方向になるよう内視鏡軸を調整しup-angleのみで対象部位に接触させると容易である.接触による粘膜の損傷はこれまで経験していないが,軽く接触させることを心掛けたほうが無難であろう.
食道癌症例を観察する場合,筆者はまず正常部分を観察し,その後食道癌の部分を観察することで正常との違いを記録に残すようにしている.可能であれば正常部と癌部の境界部も撮影している.この境界部は組織標本におけるoblique lineに相当する.
これまでの研究から食道において核異型を判定する至適倍率は少なくとも600倍程度は必要であることがわかった 8).GIF-Y0002の光学的最大倍率はモニター画面上380倍,GIF-Y0074は500倍であるため,本体内蔵の1.8倍のデジタルズームを使用し700倍以上に拡大し最終診断を行っている.このデジタルズーム機能をハンドルのボタンに割り付けることで円滑な観察が可能である.
各種染色液での正常食道粘膜(GIF-Y0074,トルイジンブルー染色,900倍).
a:トルイジンブルー.
b:メチレンブルー.
c:クリスタルバイオレット.
現在消化管内視鏡において頻用される染色液で核染する代表的な薬剤はメチレンブルー,トルイジンブルー,クリスタルバイオレット(ピオクタニン)があげられる 10).トルイジンブルー(Figure 1-a),メチレンブルー(Figure 1-b)はおもに核が濃染し細胞質は薄く染色される.色合いはメチレンブルーが青に対し,トルイジンブルーは紫がかった色調を呈する.メチレンブルーとトルイジンブルーは構造式が類似しており染色性は同等である.クリスタルバイオレット(Figure 1-c)では細胞質も淡く紫色に染色され核染色はメチレンブルーなどに比べ淡い.井上らはメチレンブルー・クリスタルバイオレット2重染色法を提案し疑似Hematoxylin-Eosin(HE)染色が可能であるとしている 11).
染色液の毒性に関して2003年,Olliverら 12)はBarrett粘膜のサーベイランス時に使用するメチレンブルーが白色光での観察時にDNA傷害を惹起すると報告し,内視鏡観察時のメチレンブルー使用に対し注意喚起を行った.しかし,メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療のため静脈内投与もされる安全な薬剤である.米国National Toxycology Program(NTP)での検討ではラットの2年間の強制摂食試験で雄のみに膵島細胞腺腫,腺癌の増加が認められたため発癌性における「幾分かの根拠がある」程度にとどめている 13).一方,クリスタルバイオレット(ゲンチアンバイオレット)はNTPの報告によるとげっ歯類に発癌性があると報告されており,また人膀胱癌とも関連する.米国FDAではマラカイトグリーン,ゲンチアンバイオレットなどは養殖魚への使用を認めておらず米国が中国産養殖魚を輸入差し止めにしたことは記憶に新しい(国立医薬品食品衛生研究所http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/chemical/malachite_green/malachite2.pdf).以上を考慮し筆者は食道領域で広く使用されているトルイジンブルーを食道の生体染色に使用している.これらの薬剤は現在広く内視鏡診断に使用されており使用する量もごくわずかで安全と考えられるが,潜在する危険性も熟知しておく必要がある.
食道におけるECS観察の原理(文献14より引用).
LGIN,low-grade intraepithelial neoplasia;HGIN,high-grade intraepithelial neoplasia.
ECS観察では染色液の浸透性のため粘膜表層から1,2層の細胞の情報のみが得られる.正常食道粘膜では粘膜表層に向かうにつれ表層分化が起こり細胞は円板状に薄くなり核は濃縮する.結果ECSにて表面の細胞を観察すると広い細胞質と濃縮した核を持つ重層扁平上皮の最表層の細胞が敷石状に配列する様子が観察される.
一方,食道癌では重層扁平上皮全層が異型細胞で置換される.よってECS観察では表層からでもN/C比が低く,核異型を有する癌細胞が密に観察され,前述の正常重層扁平上皮細胞との鑑別は容易である.
異型細胞が基底層側に限局する基底層型の食道癌,low grade dysplasia(LGIN)などでは表面の細胞の核密度は上昇するかもしれないが核異型はない.
われわれは,切除標本からの検討を元に2006年にType分類の原型(川田ら)を発表し 15),次いで熊谷らがこれを元に生体内での検討に応用した 5),14).
現在のType分類はヨード染色,Narrow Band Imaging(NBI)などを用いて対象領域を決定し,核密度,核異型の要素で3段階に分類している.すなわち,「Type1(非癌):核密度が低く観察される扁平上皮細胞はN/C比が低く核異型のないもの.Type2(境界病変):核密度は高く,細胞間の境界が不明瞭になっているが核異型が弱い.Type3(悪性):核は腫大し,核密度が高く核異型が観察される.」とした(Figure 3) 16).
Type分類(GIF-Y0074,トルイジンブルー染色,900倍).
a:Type 1:N/C比が低く核異型のない細胞が描出される.
b:Type 2:核密度が高く細胞間の境界が不明瞭である.核異型は認めない.
c:Type 3:核密度が高く,核異型(核の大小不同,染色性の不同)を認める.
Type1と診断されたものは非癌であることがほとんどで生検を行うことなくFollow upでよい.また核密度の上昇,核異型を伴うType3と診断されたものは悪性(食道癌)であり生検省略は可能である.しかし,Type2と診断されたものの治療方針は生検組織診断が必須である.
正常食道粘膜(電子動画1:正常参照)
正常食道粘膜はメチレンブルー,トルイジンブルーで染色すると通常観察では均一に淡く染色されていることがわかる.ECS観察では表層から1-2層までの紡錘形の扁平上皮細胞が敷石状に整然と配列し,淡染する細胞質と濃染する核が描出される.核は色素による染色性,形状は均一であり(核異型がない)N/C比は低い.
メチレンブルー,トルイジンブルーを散布すると通常観察では癌病巣部は,正常食道粘膜と比べ明らかに濃染する.これは癌細胞が表層に露出している部分で濃染するのであるが,500倍での観察より正常食道粘膜と比べ核密度が高いことが確認される.900倍に拡大すると,低倍率での観察と比較してより明瞭に核異型が観察される.すなわち,各々の細胞はN/C比が高く核の形状,色素での染色性が不同である.また,細胞核は正常食道粘膜に比べて腫大している.
食道炎には胃食道逆流症(GERD),カンジタ,好酸球性食道炎など様々な病態がある.ECSにて観察すると,食道炎を起こしている部分は程度の差はあるものの核密度は上昇している.表層での核密度の上昇は,病変の異型度を反映しているのではなく,ターンオーバーの早さを反映している.よって,“核密度の上昇”は悪性所見の必要条件であって十分条件ではない.いかに核密度の上昇が高度であっても,核異型が認められなければECS画像のみで悪性と診断してはいけない.
粘膜傷害を伴うGERD症例では,白苔に覆われた粘膜傷害部を観察すると非常に小さな炎症細胞の集簇を認める(Figure 4-a~c).この白苔における炎症細胞の集蔟は放射線性食道炎や,食道癌における白苔でも同様である.また,粘膜傷害部近傍の扁平上皮にはしばしば乳頭血管の周囲を扁平上皮細胞が「木の節」状に取り囲む特徴的な“onion slice appearance”を呈することもある(Figure 4-d~f).
a:食道癌術後食道-胃吻合部近傍の粘膜傷害部(GERD,Grade C).
b:同症例,aの→部分の白苔のECS像.小型の炎症細胞が高度に集蔟している(GIF-Y00074,トルイジンブルー染色,900倍).
c:白苔の組織像.好中球や少数の好酸球,リンパ球の集蔟を認める.
d:Grade B GERD症例.
e:粘膜傷害部近傍(d矢印部)のECS像(GIF-Y00074,トルイジンブルー染色,900倍).年輪状のonion slice appearanceが認められた.
f:生検組織検査では上皮乳頭が表層近くまで延長していた.
g~i:食道癌術後Grade C GERD症例(文献16より引用).
h:粘膜傷害部(g矢印部)でのECS像(GIF-Y00072,トルイジンブルー染色,700倍).小型の核ながら核密度の著明な上昇と核異型が認められ内視鏡医はType3と診断した.病理医は境界病変と判断した.
i:同部の生検組織像.Regenerative squamous epitheliumの診断であった.
j:カンジタ食道炎の白苔一部の白苔ではカンジタ菌糸が観察される(GIF-Y0002,メチレンブルー染色,700倍).
k:好酸球性食道炎のECS像(GIF-Y00074,トルイジンブルー染色,900倍).2核の炎症細胞浸潤を高度に認める.
l:生検組織診断では高度の好酸球浸潤を認めた.
ごくまれにGERD症例で固有食道腺の導管の拡張像が認められる.食道偽憩室症は固有食道腺の導管の拡張であり高度のGERDに認められるとされている 18).正常では認められない固有食道腺の導管拡張像は食道偽憩室症の初期像であると考えている.
粘膜傷害部で観察される再生上皮(regenerative squamous epithelium)は,生検組織診断でもしばしば癌との鑑別が困難なことがある.これをECS観察すると表層に核密度の上昇と核異型を示す細胞が観察され注意を要する(Figure 4-g~i).ただし,癌細胞と比べて小型の核であることが多い.
カンジタ食道炎の診断は小さな白苔が散在することで診断は容易である.この白苔をECS観察すると一部でカンジタの菌糸が観察される(Figure 4-j).
好酸球性食道炎では通常観察にて粘膜の白濁,縦走溝,気管様狭窄などを認めるが,確定診断は数カ所生検して上皮内に好酸球数15以上/HPFが証明されることが必要である.ECSで観察すると核密度のわずかな上昇とともに上皮表層に2核の分葉した炎症細胞浸潤を認める(Figure 4-k,l).炎症細胞浸潤の程度は場所により異なるためECSを使用すれば効率的な狙撃生検が可能となると考えられる.
食道癌に対する放射線治療後のfollowとして29症例に対しのべ40回ECS観察を行った.時系列で変化を比較すると照射直後では食道粘膜は発赤し薄い白苔で覆われている(急性期)(Figure 5-a).この時期のECS観察では白苔では炎症細胞の集蔟(Figure 5-b)とびらん面で再生上皮が観察される(Figure 5-c).1年程度経過すると急性炎症はおさまり上皮化が完成する(修復期)(Figure 5-d).この頃の上皮を表面から観察すると放射線の影響と考えられる核の大小不同,いびつにつぶれた核が約50%に観察される(Figure 5-e,f).2年以上経過すると核の形状の多様性はあまり認めなくなる(晩期).経過中3例の再発にECSスコープでの観察時に遭遇した.再発3例中1例で悪性細胞が確認されたが,これ以外の2症例はいずれも表層に癌が露出しておらずECSによる表層の細胞観察の限界症例であった.このほか内視鏡医,病理医ともにType3,悪性とした放射線性食道炎も経験し(Figure 5-g~i),照射後のfollowには生検組織診断を行うべきであると考える.
a:放射線治療終了直後の食道(急性期).腫瘍は消失したものの発赤,浮腫が著明で薄い白苔でおおわれている.
b:白苔部では炎症細胞の集簇を認める.
c:びらん部では再生上皮(大小不同の扁平上皮細胞)を認める(急性期).
d:1年以上経過すると急性炎症は消退し上皮化が完成する(修復期).
e:上皮表層の細胞形態は核の大小不同が目立つ(修復期).
f:また,濃縮し変形した核も認められる(修復期).
g:進行食道癌に対し放射線化学療法にてCRとなった後2年目の経過観察にて発見されたBrownish area(文献8より引用).
h:ECS観察では核密度の上昇と核異型が観察された.内視鏡医診断はType3,病理医判定は悪性であった(GIF-Y0002,トルイジンブルー染色,700倍)(文献8より引用).
i:同部からの生検組織像では乳頭の延長,炎症細胞浸潤を認め食道炎の診断であった(文献8より引用).
当院において2012年より4年間で600倍以上でのECS観察を食道病変174例に施行した(Table 2).
600倍以上でECS観察した食道病変の内視鏡医,病理医による診断結果.
内視鏡医による食道癌の検討では,T1症例41例のうち表面の白苔などの理由で細胞の観察が不良に終わった症例は1例のみで40例(97.6%)は観察可能であった.一方T2-T4の47例中9例(19.1%)が観察不良であった.進行癌では周囲の上皮内伸展部でType3を確認できることが多いが,観察不良例では上皮内伸展はなく潰瘍底は白苔で覆われており癌細胞が表面に露出していなかった.また進行癌では特殊型の鑑別が必要な場合もあり生検診断を併用するべきと考える.観察不良10例を除く78例中(照射後再燃例を除く)基底層型食道癌1例(Figure 6)をType1とした以外はすべてType3と診断した(感度98.7%).病理医の判定は,食道癌では78中73例で悪性と判定し感度93.6%であった.内視鏡医がType1と判断した基底層型食道癌を良性と判定した.残りは核異型が弱い,もしくは画質の問題で境界(生検示唆)と判定した.
基底層型食道癌
a:通常観察では粘膜面に異常を認めない.
b:ヨード染色で不染帯となる0-Ⅱbである.
c:ECSでは表面の細胞に異型を認めずType1と診断した.病理医も良性と診断した(GIF-Y0002,トルイジンブルー染色,700倍).
d:生検組織診断では異型細胞は基底層側に限局し基底層型食道癌の診断であった.
良性病変(low grade intraepithelial neoplasiaを含む)では内視鏡医がType1もしくは2と診断したものは83例中78例であり特異度94.0%であった.GradeC,DのGERD症例で病理診断が再生上皮であった3例をType3と診断した.病理医は放射線性食道炎の1例を悪性と診断したが,再生上皮を含む13例を境界,残る69例は良性と判断した(特異度98.8%).
以上の結果より食道病変に対するECS診断は感度,特異度ともに十分臨床応用可能と考える.ただし,食道炎における再生異型,また放射線照射後の評価にはECSのみで診断するのではなく生検組織診断を行うべきである.
食道におけるECS観察は細胞を直接生体内で観察することにより最終病理診断が可能である.現時点でわれわれは通常観察で明らかな食道扁平上皮癌に対する“食道癌であることを確かめるため”の生検は省略可能と考えている.また最新の試作機であるGIF-Y0074は開発初期からの様々な問題点を克服し市販可能なレベルに到達している.これまでに蓄積した80倍での微細血管観察に加え細胞の情報も得られ,食道の内視鏡診断学に新しい時代が開くものと期待している.
本研究はMEXT科研費26461047の助成を受けたものである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:熊谷洋一(MEXT科研費26461047埼玉医科大学学内グラント24b105)