2017 Volume 59 Issue 2 Pages 226-233
【目的】従来のベンゾジアゼピン系薬剤を用いた鎮静と比較して,食道ESDにおけるプロポフォール(PF)とデクスメデトミジン(DEX)を併用した鎮静の有効性と安全性について検討する.
【方法】当施設で食道ESDが施行された連続40症例の臨床情報を遡及的に解析した.20例はベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静(従来群),20例はPF・DEX併用による鎮静(併用群)が行われた.鎮静の有効性と安全性に関する各パラメータを両群で比較した.
【結果】併用群は処置時間が有意に短く(61分 vs 89分,P=0.03),抑制を要する体動が見られた患者の割合も有意に少なかった(25% vs 65%,P=0.025).一方,併用群は低血圧(60% vs 15%,P=0.008)と徐脈(60% vs 15%,P=0.008)の発生率が有意に高かった.治療中断を要する重篤な有害事象は両群ともになかった.
【結論】PFとDEXを併用した鎮静は食道ESDにおいて患者体動を抑えた安定した鎮静となり得る可能性が示唆された.
近年,拡大内視鏡観察やnarrow-band imaging(NBI)などの技術進歩により食道癌は早期に診断される機会が増加している1).内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は早期胃癌に対して当初開発されたが,現在は早期食道癌や早期大腸癌に対しても広く行われている2).ESDにより病変径が大きくても一括切除が可能となり,切除後検体を用いた組織学的根治性の評価を正確に行う事が出来るようになった.本邦において,リンパ節転移の可能性が極めて低い早期食道癌に対してESDは標準治療となっている3).
しかし一方,食道ESDは胃ESDより技術的に難しく危険性が高い事が知られている.狭い食道内腔は内視鏡操作を制限し,解剖学的に食道壁は薄く,また呼吸性変動や心拍動による影響を常に受ける4).適切な鎮静は食道ESD成功の是非に重要な要素であるが,食道ESDにおいて最も有効で安全な鎮静薬や鎮静法は確立されていない.
われわれの施設では,消化器内科医によるベンゾジアゼピン系薬剤を用いた鎮静に替わり,麻酔科医の管理下でプロポフォール(PF)とデクスメデトミジン塩酸塩(DEX)を併用した新しい鎮静を食道ESDに対して導入している.従来法と比較して,本手法の有効性と安全性を遡及的に検討した.
本研究は,2013年8月にPF・DEX併用鎮静が導入された前後の期間に横浜市立大学附属病院でESDが施行された食道表在癌患者連続40症例を対象とした.すなわち,PF・DEX導入前の2012年7月から2013年7月の期間にベンゾジアゼピン系薬剤で鎮静が行われた連続20例(従来群)と,導入後の2013年8月から2014年8月にPF・DEX併用鎮静が行われた連続20例(併用群)を対象として,その臨床情報を遡及的に解析した.
(2)使用薬剤・投与法食道ESDの鎮静深度は米国麻酔学会(American Society of Anesthesiologists;ASA)の鎮静深度の分類に定義された深鎮静,すなわち容易に目を醒ませないが繰り返し,または痛み刺激により意図的な反応が出来る鎮静深度 5)を目標に鎮静薬投与量を調整した.鎮静薬投与前に8%キシロカインスプレーで咽頭麻酔を行い,ESD開始前に鎮痛薬としてペンタゾシン15mgを全例に投与した.鎮静中は経鼻カヌラを用いて酸素2L/minの持続投与を行った.
従来群は,導入にミダゾラム(MDZ)5mgまたはフルニトラゼパム(FNZ)1mgをボーラス静注投与し,睫毛反射が消失する鎮静レベルまでMDZ2mgまたはFNZ0.2mgを適宜追加投与した.内視鏡治療中に患者が体動や不快な様子を示した場合にMDZ2mgまたはFNZ0.2mgを追加ボーラス静注投与した.ベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静の管理は処置に関与しない消化器内科医が行った.MDZをベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静の基本薬剤としたが,事前の内視鏡検査やESD施行中にMDZ投与で制御不能な体動が現れた患者にFNZを使用した.
併用群は,導入時にDEXを6µg/kg per hで10分間投与し,続いて1.0µg/kg per hで持続投与した.DEXの投与開始と同時にPF20mgをボーラス静注投与し,睫毛反射が消失する鎮静レベルまでPF20mgを適宜追加投与した.PFは2mg/kg per hで持続投与し,内視鏡治療中に患者が体動や不快な様子を示した場合にPF20mgを追加ボーラス静注投与し,PFの投与速度を1mg/kg per h毎漸増した.一方,DEXの投与速度はESDが終了するまで変更せずに固定した.PF・DEX併用鎮静の管理は麻酔科医が行った.
(3)モニタリングすべての患者に心電図,自動血圧計,パルスオキシメーター,カプノメーターを用いて内視鏡鎮静中のモニタリングを行った.サンプリング用経鼻カヌラを用いて鼻腔から排出されたCO2を測定するカプノメーター(Capnoline H;Oridion Medical 1987 Ltd, Jerusalem, Israel)を使用した.併用群では上記に加え,患者頸部に装着したマイクロフォンにより気道音を増強させ患者呼吸音の連続聴取が可能な独自開発したデバイス(呼吸音モニター装置)を用いて呼吸状態をモニタリングした(Figure 1).蘇生用機器を内視鏡室に常備し緊急時の対応とした.

(左図)呼吸音モニター装置.本装置によりリアルタイムの患者呼吸音を連続的にモニタリングする事が可能である.(右図)頸部表面に装着したマイクロフォンにより患者呼吸音の検出が行える.
ESDは全例,本研究前に100例以上の胃ESD及び20例以上の食道ESD施術経験のある内視鏡専門医1名が送水機能を有するシングルチャンネルスコープ(GIFQ260J;Olympus Co., Tokyo, Japan)を用いて内視鏡室で実施した.高周波ナイフはDual knife(KD-650L;Olympus Co.)とIT knife nano(KD-612L;Olympus Co.)を用い,高周波手術装置にVIO300D(ERBE Elektromedizin GmbH, Tübingen, Germany)を使用した.ヨード染色で病変境界を認識した後,Dual knifeのチップ部分で病変より外側へ約2mm離して病変周囲をマーキングした.少量のエピネフリンとインジゴカルミンを添加させたグリセロール溶液(Glyceol;Chugai Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan)を用いて2倍に希釈した0.4% ヒアルロン酸ナトリウム局注剤(MucoUp;Johnson and Johnson K.K.,, Tokyo, Japan)を病変粘膜下層に注入して膨隆させ,マーキング外側を全周に粘膜切開し,続いて病変が完全に切除されるよう粘膜下層剥離を行った.
(5)評価項目・定義臨床学的特徴(年齢,性別,body mass index,Brinkman指数,アルコール摂取量,内視鏡的切除や放射線療法等の食道癌治療歴,基礎疾患,ASA physical status),食道癌の内視鏡像(局在,肉眼型),切除後病理組織学的特徴(深達度,切除標本径)を集積した.基礎疾患として高血圧,糖尿病,脂質異常症,肺疾患の有無を検索した.局在と深達度は食道癌取扱い規約 6)に従って分類した.肉眼型は隆起型,平坦型,陥凹型,混在型に分類した.
食道ESDにおける鎮静の有効性と安全性は従来群と併用群とを比較する事で評価した.鎮静の有効性はESD成績(一括切除率,完全切除率,処置時間),治療関連合併症(出血,穿孔),不穏状態の有無を有効性のパラメータとして評価した.一括切除は一切片で病変が切除されたものと定義し,完全切除は一括切除された検体で病理学的に側方断端,深部断端ともに陰性が確認されたものと定義した.処置時間は病変周囲のマーキングから切除完了までの時間とし,全例ビデオレコーダーで記録し計測した.治療関連合併症の出血は輸血を要する術中出血,または帰室後の黒色便や吐血等の出血症状,治療翌日の血液検査で2g/dL以上のヘモグロビン低下のいずれが見られた場合と定義した.穿孔は食道固有筋層の欠損または縦隔結合織が内視鏡で観察された場合と定義した.不穏状態は処置の中断または身体抑制を要する患者体動と定義した.
鎮静の安全性は鎮静中の低酸素血症(SpO2≦94%),低血圧(収縮期血圧≦80mmHg),徐脈(脈拍≦50b. p. m.),重篤な有害事象の発生の有無を安全性のパラメータとして評価した.重篤な有害事象は治療中断を要する循環呼吸機能低下と定義した.
ESD中の患者モニタリング情報,不穏状態の有無,使用薬剤,内視鏡操作は看護師により麻酔チャートに記録され,麻酔チャートを用いて鎮静中の患者状態を遡及的に検討した.
(6)統計解析統計学的検定は,連続変数はMann-WhitneyのU検定を用い,カテゴリ変数はFisherの正確確率検定を用いて解析した.P値<0.05を有意差ありとした.すべての統計解析はIBM SPSS Statics 22(IBM Co., Chicago, IL, USA)を用いて行った.
(7)倫理本研究はヘルシンキ宣言に則って実施された.研究プロトコールは横浜市立大学附属病院倫理委員会により承認を得ており,内視鏡治療および患者臨床情報の研究使用に関してすべての患者からインフォームドコンセントを得た.
両群における臨床病理学的背景をTable 1に示す.本研究では,治療を要する肺疾患の患者やASA physical statusがⅢ以上の患者は含まれていなかった.臨床学的特徴,食道癌の内視鏡像,切除後病理組織学的特徴に関して両群間に有意差は見られなかった.鎮静に使用した各々の鎮静薬の総投与量をTable 2に示す.

臨床病理学的背景.

鎮静薬と総投与量.
両群における鎮静の有効性に関するパラメータをTable 3に示す.興味深い事に,併用群の処置時間は従来群より有意に短かった(61[31-202]分 vs 89[43-185]分,P=0.03,中央値[幅]).また,不穏状態を呈した患者の割合は併用群で有意に低かった(25% vs 65%,P=0.025).

有効性パラメータ.
両群における鎮静の安全性のパラメータをTable 4に示す.SpO2最低値は併用群で有意に高かったが(98[94-100]% vs 95[84-99]%,P=0.003,中央値[幅]),SpO2 94%以下と定義した低酸素血症の発生に有意差は認めず,また挿管や人工換気を要する患者はいずれも見られなかった.一方,収縮期血圧80mmHg以下と定義した低血圧と,脈拍数50b. p. m.以下と定義した徐脈の発生率は併用群で有意に高かった(60% vs 15%,P=0.008,60% vs 15%,P=0.008,其々).低血圧や徐脈が発生した症例はいずれもエフェドリンやアトロピン投与により速やかに改善し,治療中断を要する重篤な有害事象の発生はいずれも見られなかった.

安全性パラメータ.
本研究はベンゾジアゼピン系薬剤を用いる従来の鎮静法と比較して,食道ESDにおいてPFとDEXを併用した鎮静が一括切除率や処置時間等のESD成績や呼吸循環動態へ及ぼす影響を遡及的に検討した.従来群と比べて併用群の処置時間が短縮された原因はいくつか考えられるが,患者体動による処置への干渉が併用群で少なかった事が主な要因と推察された.ベンゾジアゼピン系薬剤の有効な用量域は個体間で差が大きく,その間欠投与は長時間を要する内視鏡処置において適切な鎮静深度を維持し難い事がこれまでに報告されており 7)~9),このことが従来群で頻回に患者体動が現れた一因と考えられた.
また本研究において,不穏状態によりESDが一時中断されなければならなかった症例はベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静で多く観察された.ベンゾジアゼピン系薬剤は脱抑制やparadoxical responseと呼ばれる異常体動を時に引き起こし,アルコール依存の患者に多く見られる傾向が知られている 10).過剰なアルコール摂取は食道扁平上皮癌発生の確立した危険因子であることからも 11),12),特に食道扁平上皮癌の患者にはベンゾジアゼピン系薬剤は鎮静薬として好ましくないのかも知れない.実際,本研究で両群のアルコール摂取量に差は見られなかったが,不穏状態を呈した患者の割合はベンゾジアゼピン系薬剤を用いた従来群に多い結果であった.
近年,PFは多くの内視鏡処置で使用される機会が増えている 13).鎮静作用を有するフェノール誘導体であるPFは脂質への親和性を有し,血液脳関門を迅速に通過することが可能で,脳におけるGABAA受容体を賦活する事で速やかな意識鎮静を発現させる 14),15).またESDにおいても,覚醒の早さや安全性の点でPFによる鎮静の有用性が多く報告されている 16)~18).しかし,一括切除率や処置時間,治療関連合併症といったESD成績に関してはPFを用いた鎮静の有用性に一定の見解は得られていない 16)~20).
安全性に関して,他の鎮静薬と比較しPFは用量域が狭く,意識下鎮静から呼吸循環機能低下が現れる全身麻酔へ急速に移行し得る事が知られている 21).PF単剤で内視鏡治療の鎮静を行う場合,適切な鎮静を維持するために多量のPFを要する事も多く,用量依存性の合併症が時に発生する 22).鎮静薬に関連した合併症の発生は投与量と密接に関係しており,PFの投与量を減量する試みも報告されている 23).
更に近年,新しい鎮静薬としてDEXが登場し,内視鏡鎮静への使用に大きな注目を集めている 24).DEXは短時間作用型の選択的α2アドレナリン受容体作動薬であり,主に橋の青斑核へ作用する事で抗不安作用,催眠作用,そして鎮痛作用を発現させる 25).DEXによる鎮静はユニークな特徴を有し,患者は意識を維持した状態で鎮静され,PFやMDZといったGABA受容体作動薬に見られるような脱抑制や呼吸抑制を起こし難い.胃ESDにおいてDEX単剤による鎮静は,MDZやPFによる鎮静と比較して患者体動や呼吸抑制が少なく,処置時間も短縮したと報告されている 9).
本研究では食道ESDの鎮静法として,迅速な効果発現と投与中止後の速やかな覚醒が得られるが潜在的に呼吸抑制作用を有するPFに,単剤では深鎮静は得られないが呼吸抑制や不穏状態を生じ難いDEXを組み合わせる試みを麻酔科医の管理の元に行った.DEXの有害事象として一過性血圧上昇とその後の低下,また徐脈の発生が知られているが 26),内視鏡処置の鎮静にDEX単剤またはMDZ単剤を用いたランダム化比較試験のメタ解析では,低酸素血症や低血圧,徐脈といった有害事象の発生は両群で差を認めなかったと報告されている 24).
われわれはPFにDEXを併用する事で,深鎮静を得るために必要なPF量を減量でき,不穏状態や用量に依存した有害事象の発生が軽減されることを当初期待していた.しかし,PFとDEXを併用した鎮静は従来法と比較して低血圧と徐脈の発生率が高い結果となった.これら有害事象はエピネフリンやアトロピン投与により速やかに改善が得られ,また循環機能低下によるESDの中断や中止の症例は見られなかった.
本研究にはいくつかのlimitationが存在する.第一に単施設での遡及的解析である事が挙げられる.第2にベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静とPF・DEX併用による鎮静では,投与レジメの違いだけでなく,鎮静を担当した消化器内科医と麻酔科医との違いが存在する.加えて,食道ESDに関する技術的なバイアスも考慮しなければならない.すなわち,本研究はPF・DEX併用による鎮静と治療時期が異なる従来法とのヒストリカル・コントロール研究であり,処置時間をはじめとした治療成績の結果はラーニングカーブの影響を考慮する必要がある.PF・DEX併用による鎮静の真の有用性を確立するには適切な研究デザインによる更なる検討が必要である.
いくつかのlimitationはあるが,本研究により麻酔科医の管理下にPFとDEXを併用した鎮静は食道ESDにおいて患者体動が少なく安定した鎮静となり得る可能性が示唆された.
本研究の実施にあたり多大な御協力を頂いた横浜市立大学附属病院内視鏡センタースタッフの皆様に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし