2017 Volume 59 Issue 3 Pages 255-264
慢性膵炎は悪性新生物の合併率が高く,非可逆性,進行性の予後不良疾患とされるが,従来の慢性膵炎診断基準は「高度の完成された慢性膵炎しか診断できない」という問題点があり,早期診断,早期治療導入による予後改善を目指し,本邦から世界に先駆けて「早期」慢性膵炎の診断基準が作成された.その特徴の一つに画像項目において,早期で慢性膵炎を診断する手段として多くの報告がなされているEUSに重きが置かれていることがあげられる.その所見の多くは新しいEUSによる慢性膵炎の分類・診断基準である,Rosemont分類から進行慢性膵炎の所見を除いたものが引用されている.
本邦の慢性膵炎臨床診断基準2009において,世界に先駆けて「早期」慢性膵炎の診断基準が作成された 1).その背景には慢性膵炎の予後改善という目的が存在する.慢性膵炎は,持続・反復する膵炎によって膵組織が破壊され,徐々に機能障害(膵内外分泌障害)をきたす進行性かつ非可逆的な難治性慢性疾患疾患と考えられ,慢性膵炎からの膵癌発生率は一般人口に比べ13倍高いとされる 2).現行の慢性膵炎診断基準では,診断された時点で既に進行した非可逆性慢性膵炎であるという問題点がある.そこで,慢性膵炎の「早期」は可逆性病態がまだ存在し,治療介入によりその予後が改善する可能性がある,という仮説のもと,「慢性膵炎から可逆性の病態をひろいあげる」を目標に「早期」慢性膵炎の診断基準が作成された.
本稿においては,早期慢性膵炎に対するEUSの位置付けとその詳細について述べる.
1)早期慢性膵炎の診断基準におけるEUSの位置付け
2)早期慢性膵炎EUS画像所見
3)早期慢性膵炎EUS画像の臨床的意義
慢性膵炎の診断基準は1995年に日本膵臓学会により提唱,作成され,2001年に準確診項目にMRCP所見を加えて改訂された 3).その後,厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班内に組織したワーキング・グループにて,「慢性膵炎の早期像 4)」,「慢性膵炎におけるEUSの有用性の検討 5)」および「アルコール性膵障害に対する新たな診断基準案およびアルコール性膵症妥当性の検討 6)」,「EUSによる慢性膵炎の診断 7)」,「早期慢性膵炎診断の基準と治療指針の作成 8)」,「アルコール性膵傷害の初期像,アルコール性膵症 9)」が検討され,その研究成果を踏まえ上述のごとく「早期診断,早期治療導入」へ道を開くべく,「慢性膵炎から可逆性の病態をひろいあげる」理念のもと,まず自己免疫性膵炎を「可逆性の可能性がある」独立した疾患とし,2002年に診断基準が作成,2006年に改訂される経緯を経て,2009年に慢性膵炎をアルコール性,非アルコール性に分類し,「早期慢性膵炎」という概念を世界で初めて組み込んだ慢性膵炎臨床診断基準2009として改訂された 1)(Figure 1).
慢性膵炎臨床診断基準2009.
2001年度版との違いは,まず従来は臨床診断に重要とされた膵外分泌機能検査,すなわちセクレチン負荷試験,BT-PABA試験における尿中PABA排泄率と便中キモトリプシン活性測定が,現在では実施が困難であり,外来での検査が煩雑であるということから診断に必須ではなくなり,画像所見のみで診断可能になっている.さらに,その画像診断に膵実質の組織学的変化を評価できる超音波内視鏡検査(EUS)が初めて組み込まれていることが挙げられる.
また,臨床症状にも診断への重みをもたすべく,4項目の臨床徴候,すなわち「反復する上腹部痛発作」「血中または尿中膵酵素値の異常」「膵外分泌機能異常」「1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴」が追加されたことも改訂された点である.
慢性膵炎診療ガイドライン2015改訂第2版には,今回の慢性膵炎臨床診断基準2009がフローチャートで示され,視覚的に分かりやすくまとめられており,実際の臨床現場において有用性が期待される 10)(Figure 2).
慢性膵炎診断のフローチャート.
慢性膵炎の診断は,膵炎が疑われる症例,他の膵疾患(膵癌,IPMN,MCN等)との鑑別を要する症例,糖尿病症例,無症候性に健診などで画像検査,採血検査などで膵臓に異常を指摘された症例に,まず非侵襲的な画像検査(US,CT,MRCP)を施行することから始まるが,糖尿病症例や無症候性症例では,その背景に潜む慢性膵炎を疑わなければ検査は行われないため,実臨床の場でその可能性を考慮できるかが重要となる.
画像検査にて,明らかな膵管内の結石像,膵全体に分布する石灰化といった「特徴的な画像確診所見」があれば,その時点で慢性膵炎確診となる.
画像所見が主膵管の不規則な拡張や,膵の変形といった「準確診所見」であっても,慢性膵炎を疑う臨床症状,すなわち「反復する上腹部痛発作」,「血中または尿中膵酵素値の異常」,「膵外分泌障害」の3項目のうち2項目以上が認められれば,確診に格上げとなる.
臨床症状の項目には「1日80g以上の持続する飲酒歴」が記載されているが,取り扱いには注意を要し,「飲酒歴」は慢性膵炎の診断基準には含まれていない.
慢性膵炎の最も大きな原因であるアルコール因子が,慢性膵炎の診断基準に含まれていないことは,現行の診断基準では,準確診であっても病態のかなり進行した「非可逆性慢性膵炎」しか診断できない可能性があることを意味する.
一方,早期慢性膵炎の診断基準では,臨床症状の項目は「1日80g以上の持続する飲酒歴」を含む4項目となり,特徴的な画像所見が認められない症例の中で,4項目のうち2項目以上が認められる症例に,EUSまたはERCPによる早期慢性膵炎の画像所見を認めれば早期慢性膵炎と診断される.
さらに該当項目が2項目でなく1項目であっても,その項目が「反復する上腹部痛発作」か「血中または尿中膵酵素値の異常」のいずれかであれば,EUSまたはERCPによる早期慢性膵炎の画像所見を認めれば早期慢性膵炎の疑いがあるとされ,注意深い経過観察が必要とされる.
各臨床症状とEUS所見についての検討もなされており,入澤らの検討では,通常の上部消化管内視鏡検査,腹部超音波検査や血液・尿検査で原因が同定されなかった上腹部痛・背部痛のある患者に対してEUSを施行したところ,対象とした12例中8例に慢性膵炎のEUS診断基準にあてはまる所見(2個以上の所見数)が認められたとしている.またChangらも同様の検討を行っており,腹痛患者における膵実質のEUS異常所見は比較的高い頻度で認められ,腹痛を訴える患者への第一次検査としては上部消化管内視鏡検査及びEUSの施行を推奨している.
飲酒とEUS所見との関連についても報告はあり,Thulerらは,アルコール多飲者と非多飲者とで慢性膵炎のEUS所見の違いについて検討しており,アルコール多飲者に慢性膵炎EUS所見が有意に多く観察されたとしている 11).
また,Sahaiらは,1,157人の飲酒量とEUS所見を解析し,飲酒量が増加するほど,慢性膵炎のEUS所見数が多くなったとしている 12).
この臨床症状に重きを置く診断基準は,多くの患者に早期慢性膵炎の可能性を持たせることを意味し,外来で診断するにはやや煩雑な「膵外分機能異常」を除いても,「反復する上腹部痛発作」を訴える「血中または尿中膵酵素値異常」のある患者,「反復する上腹部痛発作」を訴える「1日80g以上の持続する飲酒歴」のある患者,「1日80g以上の持続する飲酒歴」のある「血中または尿中膵酵素値異常」を認める患者は早期慢性膵炎の可能性があることになり,飲酒歴がなくても「反復する上腹部痛発作」や,無症状の「血中または尿中膵酵素値異常」をしめす患者には早期慢性膵炎疑いの可能性が生じる.
このような患者は外来患者の中によく見受けられ,各症例が早期慢性膵炎である可能性をまず疑えるかどうか,その患者をEUS検査にまわすことができるか,が早期慢性膵炎の拾い上げに重要となる.
上述の如く,診断基準での慢性膵炎の特徴的画像所見は進行した慢性膵炎の所見を意味しており,CT,MRCP,ERCPが中心であるが,一方早期慢性膵炎の画像所見はEUSが中心となっている.
EUSは空間分解能に優れているため,近距離からの膵実質の観察が可能であり,膵管の形態的変化しか捉えられない内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)と比較すると,より早期での慢性膵炎変化の診断が可能である.これまでに早期で慢性膵炎を診断する手段としてEUSを用いた早期慢性膵炎診断が試みられ,多くの報告がなされている 13)~18).
しかし,それまでに報告されてきたEUSによる慢性膵炎診断はEUS所見の合計数による診断が多く,陽性因子数で,軽症(2~4個),中等症(5~6個),重症(7個以上)に分類・診断される報告が多く,この場合石灰化などの進行した慢性膵炎の典型的EUS所見があっても,数によって軽症になってしまうことがあり,臨床的進行度と,EUSによる重症度分類が合致しない可能性が生じるという問題があった 19)~21).
その問題に対し,2007年4月13日と14日に米国ChicagoのSofitel Hotel in Rosemontにて開催されたConsensus Conference on the EUS Evaluation of Chronic Pancreatitisにおいて協議が行われ,新しいEUSによる慢性膵炎の分類・診断基準作成が行われ,Rosemont分類が作成された 19).
Rosemont分類の特徴は,それまでに報告されてきた慢性膵炎のEUS所見を見直し,各所見の画像について明確に定義し,Major A/ Major B/Minorの格付けを行い,数だけではなくMajor因子の有無も評価項目とする,すなわちEUS所見に重みを持たせたことにあり,所見数と組み合わせで,「consistent with chronic pancreatitis(CP)」,「suggestive of CP」,「indeterminate for CP」,「normal」のいずれかに診断される.
早期慢性膵炎は「indeterminate for CP」にあたり,早期慢性膵炎診断基準で用いられるEUS所見は,「indeterminate for CP」の診断基準項目から採用されている.
具体的には早期の病態を診断する趣旨に則り,進行した慢性膵炎の所見であり,最も重みのあるMajor A因子である,明らかな膵石(Hyperechoic foci with shadowing)と主膵管内の石灰化,結石(MPD calculi)はいずれも除かれ,Minor因子からも,進行した膵萎縮を反映する主膵管の不整(Irregular MPD contour)と,主に膵石によるものが多いと考えられる主膵管拡張(MPD dilation)が除かれている.
その結果,
膵実質所見として,
① Lobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー)(Major B)
② Lobularity without honeycombing(不連続な分葉エコー)(Minor)
③ Hyperechoic foci without shadowing(影を伴わない点状高エコー)(Minor)
④ Stranding(索状高エコー)(Minor)
⑤ Cysts(嚢胞)(Minor)
膵管所見として,
⑥ Dilated side branches(分枝膵管拡張)(Minor)
⑦ Hyperechoic main pancreatic ductal margin(主膵管辺縁高エコー)(Minor)
が早期慢性膵炎のEUS所見として採用された.
Lobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー)を除いたすべての所見がRosemont分類のMinor因子であることが特徴である.
Rosemont分類と同じく,所見の数だけではなく,膵実質所見である①②③④に重きを置き,いずれかを含む2項目以上が認められるものが早期慢性膵炎のEUS画像所見と定義されている.
以下,各EUS所見について解説する(Figure 3) 20),21).
早期慢性膵炎のEUS画像.
a:Lobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー).
5mm以上の網状エコー域(Lobularity)が3つ以上認められる.
連続して蜂巣状を呈している.
b:Lobularity without honeycombing(蜂巣状分葉エコー).
5mm以上の網状エコー域(Lobularity)が3つ以上認められる.
連続していない.
c:Hyperechoic foci without shadowing(影を伴わない点状高エコー).
陰影を伴わない3mm以上の点状高エコー(→)が3つ以上認められる.
陰影を伴うHyperechoic foci with shadowingは膵石そのものを示し別所見である.
d:Stranding(索状高エコー).
膵体尾部に3mm以上の線状高エコー(→)であり,アーチファクトと鑑別するため,3つ以上認められ,かつ方向性にばらつきを持つと定義される.
e:Cysts(嚢胞).
短径が2mm以上の円形,もしくは長円形の無エコー構造物.
嚢胞病変との鑑別を要するがサイズが小さいものは難しい.
f:Hyperechoic main pancreatic duct margin(主膵管辺縁高エコー).
膵体尾部で観察される膵管壁が高エコーに観察されるもの(→).
定義上は主膵管の半分以上の範囲であることが必要となる.
g:Dilated side branches(分枝膵管拡張).
少なくとも3つ以上認められる主膵管と交通のある1mm以上の径を持つ分枝膵管拡張.
嚢胞病変との鑑別を要するがサイズが小さいものは難しい.
① Lobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー)
② Lobularity without honeycombing(不連続な分葉エコー)
Lobularity(分葉エコー)とは一層の高エコー層で囲まれる5mm以上の網状エコー域とされ膵実質の分葉状変化を示し,interlobular fibrosisを示すとされる.少なくとも3つ以上見られるものとされ,連続性に見られるものがwith honeycombing(蜂巣状),連続性のないものがwithout honeycombing(不連続な)と定義される 19).前述のごとくRosemont分類ではwith honeycombingがMajor因子で,without honeycombingはMinor因子とされ,with honeycombingはwithout honeycombingよりも強い慢性膵炎変化を反映していると考えられるが,早期慢性膵炎診断基準では同等の扱いとされている 1).
③ Hyperechoic foci without shadowing(影を伴わない点状高エコー)
Hyperechoic foci with shadowing(影を伴う点状高エコー)は前述の通りRosemont分類ではMajor A因子であり,実質内の石灰化を示すものとされ,膵石なども含まれるため早期慢性膵炎の診断基準からは外された 1).Hyperechoic foci without shadowing(影を伴わない点状高エコー)は,少なくとも3つ以上の,陰影を伴わない3mm以上の点状高エコーとされ,focal fibrosisを示すとされる 20)~22).
④ Stranding(索状高エコー)
膵体尾部に3mm以上の線状高エコーが3つ以上見られるものとされるが,アーチファクトを除外するためにそれぞれの方向性にばらつきがあることが必要とされた 19).bridging fibrosisを示すとされる 20)~22).
⑤ Cysts(嚢胞)
短径が2mm以上の円形,または長円形の無エコー構造物とされる 19).慢性膵炎変化による分枝膵管の貯留嚢胞の所見と考えられるが,サイズの小さいものは腫瘍性嚢胞との鑑別が難しく,周囲の実質変化なども合わせた総合的な判断を要する.
⑥ Dilated side branches(分枝膵管拡張)
主膵管と交通のある1mm以上の径を持つ分枝膵管拡張で,少なくとも3つ以上は見られるものとされた 19).分枝型IPMN,貯留嚢胞との鑑別が必要であるが,サイズの小さいものは鑑別が難しく,周囲の実質変化なども合わせて総合的に判断を要する.
⑦ Hyperechoic main pancreatic ductal margin(主膵管辺縁高エコー)
膵体尾部で観察される主膵管の半分以上の範囲で壁が高エコーに観察されるものとされ 19),肥厚した膵管壁を反映しているとされる 20)~22).
各所見がどのような病理組織学的変化を反映しているかについては,慢性膵炎の手術症例が少ないこと,EUS-FNAの検体では検討に耐えうる組織量を得ることが難しいこともあり,実際に各EUS所見と病理組織学的変化を比較検討し,その整合性を評価することは難しく,すべての所見でコンセンサスが得られているわけではない.
特に早期慢性膵炎における組織学的検討は,早期慢性膵炎と診断される症例自体が少なく,ほとんどの症例が手術は行われない症例と考えられ,さらに進行した慢性膵炎と比して病理組織学的変化も少ないと予想され,非常に困難であると想定される.上記7つの所見のうちRosemont分類にて“Histologic correlation”が得られているとされる所見は,Cysts(嚢胞)の嚢胞,Hyperechoic main pancreatic ductal margin(主膵管辺縁高エコー)の膵管の繊維化,の比較的進行した慢性膵炎に認められる2つの所見のみであり,その他はunknownとされている 19).
進行した慢性膵炎の膵石や嚢胞と異なり,早期慢性膵炎のどの病理組織学所見をどのEUS所見が反映しているかについては未だ不明な点が多いが,今後早期慢性膵炎の診断症例が増えていくことでそれらが明らかになる可能性が期待される.
2.EUS-エラストグラフィ上記の各EUS所見の問題として各所見が主観的であり,観察者間の診断の一致度(reproducibility)がやや低くなる可能性が存在する.
組織弾性を画像化もしくは数値化し,所見に客観性を持たせ,reproducibilityを高くすることが可能なエラストグラフィをEUSで行う,EUS-EG(EUS-elastography)の臨床応用がすすめられている 23)~28).
エラストグラフィにはいくつか種類があるが,EUSを用いて施行可能なものは,硬さと負の相関を示す歪み(Strain)を表示するStrain elastographyの1種類のみである(Figure 4).
EUSエラストグラフィ.
a:EUSにてlobirality with honeycombingの所見が認められる.
b:エラストグラフィにてlobirality with honeycombingの所見を認める部位は周囲膵実質よりも硬度が高いことが確認される.
Itohらは,術前に腫瘍尾側膵に対しEUS-EGを施行し,その術後標本の病理組織学的膵繊維化進行度を測定した結果,EUS-EGで得られたStrainのMean値(解析領域内の弾性の平均値)が膵線維化進行度と強い負の相関関係を示すことを報告し,他モダリティでは診断が困難な膵実質の線維化をEUS-EGで評価が可能であることを明らかにした 29).その後,早期慢性膵炎診断への有用性を明らかにすべく,早期慢性膵炎症例と,正常膵例の膵実質に対してEUS-EGを施行し,その結果を解析したところ,早期慢性膵炎例は,正常膵例に対し,膵実質の硬度が有意に上昇していることを示した 30).この結果は早期慢性膵炎を定量化された所見を用いることで,客観的に診断しうる可能性を示唆した.
さらに各所見別の検討では,Lobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー)のみ,所見の有無で膵硬度に有意差が認められ,その他の所見では差は認められなかった.この結果は,上記のごとく早期慢性膵炎のEUS所見において,唯一のRosemont分類におけるMajor因子であるLobularity with honeycombing(蜂巣状分葉エコー)が膵実質の線維化変化を表している可能性を示唆する結果である 31).
EUSは依然多くの施設では行われていない現状があるが,侵襲の低い腹部USで診断し得ることは早期慢性膵炎の拾い上げに重要な意味を持つことが期待される.
早期慢性膵炎は前述のごとく,「予後の悪い非可逆性,進行性疾患とされる慢性膵炎から可逆性の病態をひろいあげる」理念のもとに,「早期診断,早期治療導入」への導入を目標に提唱された疾患概念である.
2011年の厚生労働省の慢性膵炎全国調査では,慢性膵炎受療患者は推定66,980人(95%信頼区間59,743~74,222人)であり,人口10万人当たりの有病患者率は推定52.4人と,1994年度の28.5人の約2倍であり,一年間の慢性膵炎新規発症患者数は人口10万人当たり推定14人で,1994年度の5.4人より増加している 32).
予後については,2002年の厚生労働省による慢性膵炎予後調査によると,死亡率は一般人口の約2倍とされ,特に膵癌による死亡率は他部位の癌の7.8倍と報告された 33).1993年の世界的な疫学調査では,膵癌の発生率は約26倍と報告され 34),本邦においても,2012年の厚生労働省による慢性膵炎と膵癌の関連性についての調査研究にて,慢性膵炎と診断後2年以上経過観察された症例での解析で,膵癌の発生率は11.8倍と報告されている 35).
このように慢性膵炎は悪性新生物の合併率が高く,平均寿命が国民一般より短い難病であるが,非可逆性・進行性の病態と考えられており,現行のガイドラインにおいても上述のごとく,ほぼ進行した病態で診断される.
しかしながら,慢性膵炎動物モデルにおいては,早期治療によって炎症が可逆性に改善することが報告されており 36),37),慢性膵炎の「早期診断,早期治療導入」が,病態を可逆的に改善する,あるいは非可逆性慢性膵炎への進行を抑える可能性が期待される.すなわち,慢性膵炎にともなう内分泌機能障害,外分泌機能障害を予防あるいは改善させることが期待される.
早期慢性膵炎に対する治療介入の意義は明らかではなかったが,厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班内の「早期慢性膵炎の前向き予後調査」における検討では,症例登録時の臨床診断項目数の平均は2.50±0.58であったが,治療介入2年後では平均1.44±1.06と有意に改善を認めていたと報告しているが,一方,治療介入2年で臨床診断項目数の改善を認めたにも関わらず,EUS所見数は症例登録時の2.67±1.02から治療介入2年後で2.97±1.27に有意に増悪していたと報告してる 38).
同様に,早期慢性膵炎に対する早期治療介入が非可逆性慢性膵炎への進行を抑えることになるのかを検証すべく,入澤らは早期慢性膵炎診断例にメシル酸カモスタットを処方し,フォローのEUSを行い所見数の解析を行っているが,結果,禁酒の有無を問わずEUS所見は不変,もしくは改善していたと報告している 39).
この結果からは,治療介入後の臨床経過とEUS所見の経過は相関しない可能性が示唆されるが,早期慢性膵炎になった段階で早期治療介入によりある程度の臨床症状の改善は期待できるものの,膵実質の変化は改善せず非可逆性慢性膵炎への進行を抑えることができないのか,臨床症状の改善に遅れて膵実質の変化が正常化に向かうのかは現時点では明らかではない.
現在も引き続いて多施設での症例の蓄積,データ解析が進んでおり,ある程度の長期経過をした解析結果により早期慢性膵炎の病態,および治療介入の意義が明らかになることが期待される.
早期慢性膵炎のEUS像について概説したが,2011年の厚生労働省の慢性膵炎全国調査では早期慢性膵炎と診断された症例はわずか0.3%であった 32).
その背景には,EUSが一般病院ではまだ十分には普及していない現状が存在すると考えられる.上述のごとく「反復する上腹部痛発作」のみを訴える症例でも早期慢性膵炎である可能性があり,同主訴にて機能性胃腸症(Functional Dyspepsia:FD)として診断され,治療に難渋している症例の中に早期慢性膵炎が含まれている可能性も考えられる.
本稿が実臨床において早期慢性膵炎が隠れている可能性を啓発し,早期慢性膵炎を疑ったEUS検査数の増加につながることを期待する.さらに,症例の蓄積により,早期慢性膵炎の病態や,早期治療介入の意義の解明につながれば幸いである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし